第100回記念【特集】コラムが映し出す16年間の学生像
~就業意識と働く価値観~

掲載日:2026/10/21

コラム100回記念

コラム100回目の節目にあたり、2010年以降の就職活動を大きく5つの期間に分けて、彼らを取り巻く環境の変化とともに、学生の考え方や行動がどう移り変わってきたのかを振り返ります。
第1期の外部の「正解」に合わせる心理から、第2期の自己決定のプレッシャー、第3期のコスパ重視、第4期のタイパ重視を経て、近年広がる「メンパ(メンタルパフォーマンス)」まで、 各期の特徴を整理してご紹介します。
※下表のから各期に飛べます。

時期 コラムから見える学生像 解説 社会的背景
第1期
2010~2013年
外部の「正解」に合わせる安心 就職難のため、学生は企業に選ばれる必要があった。企業が提示する規範を「正解」として受け入れることが求められたが、同時に社会的な安心を得ることができた。
大学時代にガラケーからスマホへの移行が大きく進んだ。
リーマン後の就職難
東日本大震災(2011年)
ガラケーからスマホへ
第2期
2014~2017年
自己選択と自己決定のプレッシャー 売り手市場により、就職先を選べる環境になったことで、キャリア選択における自己決定を求められるようになった。
スマホによるSNSの交流が主流になり、既読スルーや「いいね!」の数を気にする学生が目立つようになる。
新卒採用の売り手市場
就職活動日程の相次ぐ変更
「インスタ映え」が流行語大賞
(2017年)
第3期
2018~2020年初頭
「コスパ」重視のキャリア選択 売り手市場がさらに強まり、企業情報を比較して取捨選択する考え方が定着していく。
長時間労働の是正といった働き方改革により、キャリア選択において労力とリターンを重視する価値観(コスパ)が生じる。
働き方改革関連法
超売り手市場
経団連が就活ルール廃止を表明 (2018年)
第4期
2020~2022年
「タイパ」という価値観が加わる コロナ禍で選考のオンライン化が進み、WEB面接が定着。
距離の制約が少なくなり、時間価値が上昇したことで、移動時間に見合うリターンを求める価値観(タイパ)が広がる。
行動を厳しく制限される大学生活により、社会的な経験を得る機会が少なかった。
新型コロナ感染症の拡大
テレワーク(在宅勤務)の増加
大学生活のオンライン化
第5期
2023年~現在
心穏やかな日常を求める「メンパ(※)」の広がり 情報過多による選択のストレスなどを背景に、心の負荷を減らすという考え方が広がりを見せている。心のエネルギ一効率「メンパ」という価値観は、若者のキャリア形成にも影響を与えていくだろう。
生成AIが日常的な相談相手として、存在感を増している。
インターンシップの制度変更
(三省合意)
初任給の上昇
生成AIの急速な普及

※メンタルパフォーマンスの略

【第1期/2010〜2013年】<コラムから見える学生像>

外部の「正解」に合わせる安心

 リーマンショックの影響により、求人倍率は1.62倍(2010年卒)から1.28倍(2011年卒)、1.23倍(2012年卒)へと大きく数字を落としました。学生は売り手市場から一転、企業に選ばれるために苦心することになります。社会や企業といった外部の基準を「正解」として受け入れ、それに従うことが「社会人になることだ」と考えたのかもしれません。図表1の仕事優位の価値観とも重なります。そうした既存の社会規範を周囲と共有することが、安心感にもつながっていたようにも感じます。

 この時期のコラムでは、「どうすればよいのか」「何をすれば評価されるのか」と判断基準を求め、正解を探す姿が繰り返し描かれています。第8回「新米就活生の不安」、第19回「『教えすぎる』『待てなさすぎる』という弊害」、第22回「高大接続から考える学生気質」などでは、学校や周囲の大人が先回りして答えを与える環境と、学生が自ら判断する経験の少なさを伝えています。学生時代は教職員、就職活動では企業、入社後は職場や上司へと「正解を示す主体」は移り変わりますが、そのつど自身を適応させていく学生の様子が伺えます。

 第1期は、ガラケーからスマホへの移行が急速に進んだ時期でもあります。友人との連絡もキャリアメールやmixiから、台頭し始めたLINEへと移り変わり、新しいコミュニケーションスタイルが広がっていきました。

社会的背景

リーマンショック後の就職難

2008年のリーマンショックの影響で、卒業直前の内定取り消しが社会問題となり、学生の危機感は著しく高まった。 その後も企業の採用抑制はしばらく続いたため、学生は厳しい市場環境下での就職活動を強いられた。

東日本大震災(2011年)

日常生活だけでなく、就職活動や企業の採用計画にも大きな影響があったことで、社会や将来の不確実性を強く意識させる出来事となった。 また、Twitter(現X)による誤情報の拡散などにより、情報リテラシーへの意識が高まった。

ガラケーからスマホへ

2010年代前半にスマートフォンの普及が急速に進んだ。2011年6月にはコミュニケーションアプリ『LINE』がサービスを開始し、 日常生活における情報収集や交流方法は大きく変化していった。

図表1/「仕事中心」か、「私生活中心」か
図表2/「人並みで十分」か、「人並み以上に働きたい」か 「若いうちは進んで苦労すべき」か、「好んで苦労することはない」か

【第2期/2014〜2017年】 <コラムから見える学生像>

自己選択と自己決定のプレッシャー

 第2期に入ると、求人倍率は一気に回復します。1.28倍(2014年卒)から1.61倍(2015年卒)へと跳ね上がり、1.73倍(2016年卒)、1.74倍(2017年卒)とさらに上昇し、学生優位の売り手市場が強まっていきました。

 第1期では厳しい就活を強いられましたが、選択する余地が少ない分、キャリア決定においては受け身でいられたとも考えられます。しかし、市場環境が好転し、学生はファーストキャリアを自ら選べるようになりました。それは自身で選択し、決定の責任を負うことを意味します。第25回「悩めない学生」、第45回「『自己分析』が好きになれない理由」などでは、自身のことを自らが判断し、決めることの困難さが伝わってきます。図表1を見ると、仕事より私生活を大切にする考え方が広がり、図表2では「人並みで十分」「好んで苦労することはない」といった思考の強まりを感じます。こうした価値観が、当時の学生の意思決定に影響を与えていたのではないでしょうか。

 大学生活では、スマホでのSNS交流が主流になったことで、既読スルーや「いいね!」の数を気にする学生が目立つようになりました。第42回「『承認』することの効果」では、SNSを通じて自己の存在価値をはかり、承認欲求を満たそうとする学生の様子が描かれています。

社会的背景

新卒採用の売り手市場

景気回復や人手不足を背景に企業の採用意欲が高まり、新卒採用は学生優位の売り手市場へ移行した。「就職できるか」だけでなく「どこを選ぶか」が課題になり、キャリアを自ら選択する心理的負荷が高まったと考えられる。

就職活動日程の相次ぐ変更

2016年卒では選考開始が8月へ後ろ倒しされ、その翌年(2017年卒)には6月へと再変更された。毎年のように「いつ、何をすればよいか」が変わり、日程ルールの形骸化が更に進んだ。

「インスタ映え」が流行語大賞(2017年)

LINEやInstagramといったSNSが日常に定着。2017年には「インスタ映え」が流行語大賞になり、自分をどう見せるか、周囲からどう評価されるかという見栄え・自己表現への意識が急速に強まった。

【第3期/2018〜2020年初頭】 <コラムから見える学生像>

「コスパ」重視のキャリア選択

 第3期に入ると、求人倍率はさらに上がり、2018年卒は1.78倍、2019年卒は1.88倍と、超売り手市場になっていきます。

 長時間労働やブラック企業への懸念が広がるなか、働き方改革も進み、仕事の負担や残業時間が少ないホワイト企業に注目が集まっていきました。そこには、投入する労力に対してどれだけリターンを得られるかという「コスパ」重視の思考が感じられます。「自分で決めることへの戸惑い」を経て、1つの判断基準を得た時期と言えそうです。第49回「受け身の合理性」では、周囲の指示に従うことで最適なリターンを得る学生の姿が描かれています。ムダを省き、効率的な判断をしていく姿勢は、コスパに通じる考え方と重なります。また、第57回「『がんばる』ことが分からない」からも、目に見えるリターンの有無を意識する姿勢がうかがえます。「努力を嫌う」のではなく、「割に合わない努力や苦労は引き受けない」といった姿勢を強く感じます。

 図表3を見ると、企業選択の首位が「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」から「安定している会社」に入れ替わりました。「働きがいのある会社」と「給与の良い会社」も逆転しています。また、図表4では「ノルマのきつそうな会社」と「転勤の多い会社」が行きたくない会社として大きく数字を伸ばしていることが分かります。さまざまな条件から費用対効果を意識した企業選択をしている様子が伺えます。

社会的背景

働き方改革関連法

2018年に働き方改革関連法が成立。時間外労働の上限規制などが順次施行され、長時間労働の是正が進んだ。多様で柔軟な働き方の選択肢が増えたことで、「会社に合わせて我慢する」以外の働き方が制度面でも整いはじめた。

超売り手市場

学生優位の採用環境がさらに強まり、複数内定の獲得も珍しくなくなった。「どこでもよいから内定を得る」状況から、「条件を比較して、自分にとってより良い企業を選ぶ」という行動が、より合理的になったと考えられる。

経団連が就活ルール廃止を表明(2018年)

就活ルールの形骸化、採用現場の実態との乖離を理由に、経団連が指針の策定取りやめを発表(以降は政府主導の枠組みへ移行)。学生は「公式ルールより、状況を見極めて動く」という判断が求められるようになった。

図表3/企業選択のポイント推移
図表4/行きたくない会社

【第4期/2020〜2022年】 <コラムから見える学生像>

「タイパ」という価値観が加わる

 この時期に大きな影響を与えたのは、新型コロナ感染症による生活様式の変化でしょう。就職活動もオンライン化が進み、学生は新しい選考スタイルへの対応を迫られました。第62回「対面で映える学生、Webで光る学生」や第63回「新しいコミュニケーションに適応していく若者」には、そうした学生の姿が描かれています。大学の授業もオンライン化し、毎日キャンパスに通学する必要がなくなりました。第69回「オンライン授業の出席率が高い理由」を読むと、時間と場所の制約が薄れたことで、これまでにない大学生活を送る学生の様子が伝わってきます。

 こうした環境変化のなかで、「タイパ」と呼ばれる時間効率を重視する感覚が、学生の行動にも反映されるようになったと感じます。話を聞くだけの説明会をわざわざ対面でおこなう企業には違和感を覚え、交通費をかけてまで面接に行く価値があるかを判断するようになっていきました。

 図表4の行きたくない会社では、「転勤の多い会社」が21年卒以降、6年連続で上昇を続けています。テレワークという選択肢ができたことで、転勤することへのハードルは一段と高くなり、仕事環境を重視する学生が増えたと考えられます。一方で求人倍率は1.5倍前後まで下がり、以前ほど自由に選べる環境ではなくなりました。図表3で「給与の良い会社」「働きがいのある会社」の動きが停滞したのは、この影響なのかもしれません。

社会的背景

新型コロナ感染症の拡大

2020年春からの感染拡大により、外出や対面活動が厳しく制限された。サークルや留学、課外活動といった大学生活も中止や縮小が相次ぎ、就職活動では「学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)」がつくれないという問題も生じた。

テレワーク(在宅勤務)の増加

コロナ禍を契機にテレワークが急速に拡大し、オフィスに出社しない働き方が広く認知されるようになった。学生の企業選択において、リモートワークの可否、出社や転勤の有無などが比較対象となり、大きな意味を持つようになった。

大学生活のオンライン化

感染拡大下での学修機会を確保するため、遠隔授業の弾力的運用を認め、オンライン授業が広がった。採用活動でも説明会や面接のWeb化が一気に進み、就職活動における「地理的な制約」が大幅に緩和された。

【第5期/2023年〜現在】 <コラムから見える学生像>

心穏やかな日常を求める「メンパ(メンタルパフォーマンス)」の広がり

 少子化による新卒人材の減少が、企業における経営課題になり始めました。求人倍率は1.6~1.7倍台と高い数字を維持し、長期的な売り手市場が続いています。早期接触が年々広がり、学生はキャリアをじっくり探索する暇もないまま選考へと進んでいく——そんな様子を、第95回「インターンシップがキャリア選択を阻害する可能性」、第96回「学生視点で考える『新卒採用の日程ルール見直し』」では伝えています。

 就活の情報過多な環境も目立つようになってきました。第84回「『就職活動』で生じる不安」には、SNS上のネガティブ情報が不安を煽り、ネット時代の過剰な選択肢が『選ぶストレス』を生む様子が描かれています。こうした背景のなかで使われ始めているのが、心のエネルギー効率を意味する「メンパ(メンタルパフォーマンス)」という言葉です。コラムを通した仮説的な整理ですが、ストレスを減らし、穏やかな日常を大切にするメンパは、今の学生の特性をよく捉えていると感じます。図表4で「ノルマのきつそうな会社」が2020年卒以降、行きたくない会社の首位であり続けていることも、この価値観と地続きなのではないでしょうか。

 メンパは、生成AIの普及とも関係がありそうです。生成AIはユーザーに対して肯定的な応答をする傾向があるので、メンパの良いツールとなり得ます。外部に正解を求めて安心を得ようとする姿は、第1期の学生像とも重なり、「正解」の在り処が移り変わっていると解釈することもできます。

社会的背景

インターンシップの制度変更(三省合意)

2023年度から一定要件を満たすインターンシップでは、企業が取得した学生情報を採用選考に活用できる仕組みが導入された。「インターンシップ」と「採用選考」の距離が縮まり、学生は選考上のメリットを意識することが増えた。

初任給の上昇

新卒人材の確保を目的として、幅広い企業で初任給を引き上げる動きが広がった。学生は「企業に選ばれる」と同時に、給与や福利厚生などの条件を比較して「企業を選ぶ」意識が強まっている。

生成AIの急速な普及

2022年11月にChatGPTが発表され、2023年以降あらゆる場面に生成AIが浸透。レポート作成や情報収集などの学修ツールとしてだけでなく、就職活動においては企業分析から面接対策まで、様々な場面で活用が進んでいる。

コラム100回記念インタビュー

コラムを執筆いただいている先生に、16年間にわたる長い伴走の中で見えてきた学生や社会の変化を改めて振り返っていただきました。日々の研究・教育の現場と執筆を行き来しながら、学生たちが変化の節目に感じた迷いや戸惑い、そしてこれから社会へと歩み出す彼らへの思いを、いくつかの問いから丁寧に言葉にしていただきます。

16年間のコラムを振り返り、印象に残っている学生の変化はありますか。

 大きく二つあります。一つは、「消費者気質」がより強くなってきたことです。

 背景には、子どもの頃から様々なサービスの「受け手」として過ごしてきた経験があるのではないでしょうか。周囲の大人が先回りして「してあげる」ことが増え、その支援を受け入れる方が、結果的にうまくいく。こうした様子を、連載のほぼ折り返しにあたる第49回「受け身の合理性」でも書きました。

 学生は何も考えずに受け身になっているわけではありません。周囲の支援をうまく引き出し、合理的に受け身になっている面があります。言い換えれば、今の学生はとても「してもらい上手」です。ただ、このまま社会人になったら、当然、職場で問題になるでしょう(笑)。育成課題の1つですね。

 もう一つ印象的なのが、学生が求める「正解」の中身が変わってきたことです。

学生の「正解」は、どのように変化してきたのでしょうか。

 第1期では、学校や企業など、外部が提示する「正解」に自分を合わせる構図が強かったと思います。
ところが第2期になると、「VUCA」という言葉に象徴されるように、先行きが予測しにくく、従来の成功モデルをそのまま信じにくい時代になりました。「これを選べば大丈夫」という以前の正解が弱くなる一方で、「自分で決めましょう」と自己決定を求められる。そのプレッシャーが強くなっていったように感じます。

 そして第3期になると、「コスパ」という価値観が存在感を増してきます。「どれだけ頑張れば、何が得られるのか」「その努力は割に合うのか」という考え方を正解とし始めたのでしょう。さらに第4期では、コロナ禍によってオンラインが生活のなかに定着し、移動しなくてもできることが増えました。時間の価値が高まり、「タイパ」という価値観が加わっていきます。第5期では、「メンパ(メンタルパフォーマンス)」という、心理的な負担をできるだけ小さくしたいという価値観も見え始めています。

 学生は自分を守るための判断基準を増やしながら、自分にとっての正解を探すようになったのではないでしょうか。

学生の「正解」の変化

「正解を求める」ことは、「失敗を避ける」ことにもつながるように感じます。

 確かにそうですね。今はインターネットがあり、スマートフォンがあれば、分からないことをすぐに調べられます。絶対的な正解がないことでも、口コミや体験談を検索すれば、「大きく失敗しない選択肢」を事前に見つけることが可能です。これはとても便利ですが、自分で試して、失敗しながら意思決定する機会が減ってしまったように思います。

 だからでしょうか、失敗慣れしていない学生が目立ちます。実際、学生と話していると、中学・高校時代の小さな失敗を引きずったまま、「もう失敗したくない」と行動すること自体を避けてしまう。「失敗したとき、どうすれば立ち直れますか?」といった質問を受けることも珍しくありません。
彼らを見守る立場の大人は、失敗に対して「そんなこともあるよ」と笑って受け止められる寛容さが必要なのではないでしょうか。それが次の挑戦につながるはずです。

最近の学生のキャリア選択には、どのような特徴がありますか。

 学生は世の中の変化をかなり敏感に見ています。

 ここ数年はIT業界への人気が高まりました。成長分野であることに加え、テレワークなど柔軟な働き方をイメージしやすいことも魅力だったのでしょう。それが変化してきたように感じます。生成AIの急速な進化を見て、「この業界は、雇用が減るのではないか」「将来AIに置き換わるのではないか」といった不安が強くなってきたのでしょう。

 その一方で、公務員のように、雇用の安定性をイメージしやすい仕事への関心が高まっている気がします。学生なりに社会の変化を読み取り、自分にとっての“正解”を探しているように思います。

これから社会に出る学生が、自分らしいキャリア選択をするために大切なことは?

 身体的な経験を通じて、「自分は何が好きなのか」「何に興味を持つのか」を知ることが、これまで以上に重要になると感じています。

 第98回「生成AIで『自分に合う企業』は見つかるのか」では、「記号接地」という概念を紹介しました。知識を情報として知っているだけではなく、自分自身の経験と結びついて初めて、その言葉に実感が伴うという考え方です。例えば、リンゴについて様々な情報を得たとしても、自分がリンゴを好きかどうかは、実際に食べてみなければ分かりません。キャリア選択も同じです。生成AIを駆使すれば、勤務地、給与、残業時間、福利厚生などを比較して、企業を調べることはできるでしょう。ただ、どんな条件が「自分にとって大切なものなのか」は、自分自身が経験を通して得ていく必要があります。

 情報だけで最適解を探し続けると、「もっと自分に合う企業があるのではないか」と、青い鳥を探し続けることになりかねません。直接、キャリア選択につながらなくても、アルバイト、ゼミ、課外活動などの経験には大きな意味があることを、学生には伝えていきたいですね。

企業の採用担当者は、有能な学生を惹きつけるために何を提供していくべきでしょうか。

 「体験」から得られる情報の価値が高まると考えるので、そのための機会提供が重要でしょう。例えば、「どんな人と働くのか」「この人たちと一緒に働きたいと思えるのか」「職場はどんな雰囲気なのか」「この職場に馴染めそうか」といった判断材料は、体験しなければ得られません。実際の社員と話す、仕事を少し体験してみる、職場の雰囲気を体感する。そうした経験から得られる情報に、これまで以上の価値が生まれるはずです。

 単に場を設けるだけでは、学生を惹きつけるのは難しいでしょう。社員との交流では、学生個々の経歴をふまえて、対応する社員を選んだり、話題を用意したりするなどの準備をしたいものです。AI時代だからこそ、「リアル」が差別化の要因になります。感度の高い学生ほど、その価値に気づき始めているのではないでしょうか。

最後に、これから社会に出ていく学生への期待を教えてください。

 今の学生は、以前の世代よりもはるかに多くの情報に触れ、デジタルツールを使いながら育ってきました。情報を探し、比較し、必要なものを取り出す力は高まっています。問題は、それを職場でどう発揮してもらうかです。

 第76回「指示的に『主体性』を育成するジレンマ」では、「主体的に動くことを、最初は指示的にトレーニングする」必要性について書きました。いきなり「自分で考えて動いて」と任せるのではなく、まずは行動の仕方やタイミングを具体的に示し、うまくいく経験を積んでもらう。そうやって少しずつ自分で判断できる範囲を広げていく。こうした段階的な育成が、学生の可能性をより引き出していくと思います。

 コラムを書いてきて感じるのは、学生は置かれた環境に合わせて、彼らなりの合理性で適応しているということです。その変化を理解し、学生が持っている知識やスキルを職場で発揮できるような育成方法を考える。そこがうまく噛み合えば、今の若者だからこそ力を発揮できる場面が増えていくのではないでしょうか。

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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