第8回 新米就活生の不安
掲載日:2011/06/08
今年はずいぶん早い梅雨入りとなりました。ジメジメした天候が続くのは、気分が滅入るものです。しかし、梅雨が明けたら、節電対策に頭を悩ませる盛夏。今年は、何かと大変な夏になりそうです。
大学3年生の夏も同様に大変です。夏のインターンシップをきっかけに、自分の就職先を意識し始める時期だからです。インターンシップが、就職活動の早期化を扇動しないよう、今年の3月、日本経団連が倫理憲章を発表し、一定の基準を明示しました(※1)。そんな背景もあり、昨年のように、4割以上の学生が「1Dayインターンシップ」と呼ばれる企業イベントに参加(※2)といった状況にはならないでしょう。昨年は、インターンシップに参加しなかっただけで、就活に出遅れたと焦る学生が多くいました。それでも、各就職情報サイトがプレオープンする6月以降は、徐々に実社会との触れ合いを意識し始めます。同時に、就活に対する不安も色濃くなっていくのです。
そんな時期、学生からよく聞かれるのが、「どんな資格が就活に有利ですか?」「何をすれば就活で評価されますか?」「まず何から始めればいいですか?」といった質問です。「ハッキリした答えはない」と、いくら説明しても、学生はどこか腑に落ちない顔をします。
彼らの住む「学生」という世界は、年々不明確さが排除されています。自分の学力で無理なく入れる大学情報が提供され、AO(アドミッションズ・オフィス)入試の面接にまで対策が用意されています(中には、オープンキャンパスで自校のAO入試対策を実施する大学まであります)。大学のシラバスでは、全15回の授業内容が事細かに明示され、成績評価基準まで記載されています(レポート60%、出席30%、授業態度10%など)。転びやすいところには、常に注意書きがあり、転ばぬ先の杖が、周りを取り囲んでいる。それが彼らの日常です。そんな彼らにとって、答えのない就職活動というのは、俄かには信じられないのでしょう。そして、それが不安を煽ります。
「即戦力」という言葉も、不安を後押します。バブル崩壊以後の経済環境により、新卒採用市場は大きく縮小しました。就職氷河期と言う言葉が生まれ、自己責任という考え方が社会に蔓延しました。そして、新卒採用にも「即戦力」という視点が広がっていったのです。どんなに優秀な学生でも、就業経験もなく「即戦力」になれるはずがありません。ほとんどの企業は、「可能な限り早く即戦力になる学生」「少ない研修で現場に入れる学生」といった意味で、「即戦力」という言葉を使っていたと思います。それが、いつの間にか、言葉だけが独り歩きしてしまったようです。
「どのぐらいのPCスキルがあれば、即戦力レベルですか?」「このインターンシップ経験は、即戦力としてPRできますか?」「即戦力としたら、どっちのエピソードが魅力的ですか?」。そう質問してくる学生に、企業は「即戦力」を求めているのではない、ポテンシャル(潜在的な力)の方が重視されている、と言っても、やはりどこか腑に落ちない、不安げな顔をします。
今までの常識が通用しない、不安の多い就職活動。だから学生は、明確な何かを欲しがります。それが、資格であったり、インターンシップに参加した実績であったりするのでしょう。学生スタッフが非常に活躍している、あるNPOでは、参加学生から、「参加証明書のようなものはありませんか?」と聞かれたそうです。
最近では、親子三代会社員という家庭も珍しくありません。周囲で働く人といえば、会社員しかいないわけです。会社員は、家庭の中で、社会人としての顔を見せる機会はほとんどありません。つまり子供である学生は、就職活動を通じて、生まれて初めて社会人と触れ合うわけです。
この夏以降、新米就活生が、インターンシップなどを通じて、皆さんの周りに出現しはじめるでしょう。右も左も分からず、生まれたての雛鳥のように、オドオドしているはずです。「そんなことも知らないのか」と驚くこともあるでしょう。しかし、勇気を振り絞って社会の入り口に立った彼らです。どうか温かく、そしてカッコイイ社会人の姿を見せてあげて下さい。雛鳥の刷り込みではありませんが、生まれて初めて教わったことや、教えてくれた人は忘れないものです。そこに信頼関係が育まれれば、将来の上司部下という関係に発展するかもしれません。
-
「採用選考に関する企業の倫理憲章の理解を深めるための参考資料」より
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2011/015sanko.html -
インターンシップに参加しましたか?
はい 40.2% いいえ 59.8%
文化放送キャリアパートナーズ 就職情報研究所「新卒採用戦線 総括 2011」より
執筆者紹介
キャリアコンサルタント 平野 恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント