第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
掲載日:2020/08/18
この半年ほどで、少し奇異にも感じる生活スタイルが、私たちの当たり前となりました。不要不急な外出は避け、外出時はマスクをして、できるだけ人との距離を保ち、最小限の会話を心掛ける。対面コミュニケーションが著しく制限されてしまったため、自分には縁遠いと思っていたオンライン活用(オンライン講座など)が、否応なく身近なモノになりました。
多くの採用担当者も同様でしょう。新型コロナの拡大時期が、ちょうど採用活動のピーク時と重なったため、「オンライン採用」はニューノーマルの象徴のように、多くのメディアで取り上げられました。Web面接が急激に広まり、今夏のインターンシップもオンラインで実施予定の企業が目立っています。今後は、初期選考までのオンライン化がより強化され、人数を絞った段階から対面選考を実施するスタイルが広がりそうです。
新型コロナをきっかけに、採用の効率化が進み、新しいスタイルが定着しつつあります。
採用のオンライン化と比べると、職場のオンライン化、リモートワーク(在宅勤務)の定着は未知数と言えそうです。5月上旬に実施したリモートワーク実態調査の結果(※)を見ると、何らかの形でリモートワークを実施していた人は首都圏でも5割強、近畿が35%程度、中部が25%程度、他エリアでは約2割にとどまっています。外出自粛要請がなされていた緊急事態宣言下でも、約6割の人が毎日出勤していたという結果をふまえると、リモートワークの定着は大都市圏を中心に、限定的な範囲にとどまるように思います。職場という空間を共有しつつ、対面コミュニケーションを前提に築き上げてきた長年の仕事の仕組みは、そう簡単には変えられないし、変えたくないという心理が働いているのでしょう。コロナ禍をきっかけに、リモートワークという働き方が多くの人に認知され、一時的に変化のスピードを加速させましたが、今後はより穏やかに導入が進むと考えます。
一方で、大学のオンライン化は高止まりしています。大都市圏に限らず、ほぼ全国的にリモート授業がおこなわれ、緊急事態宣言の解除後も、対面授業は実習や実験など一部に限られています。教室内で90~120分間という時間を共有し、授業毎に不特定多数の異なる学生と接触する、対話を伴うゼミやアクティブラーニングも多い、障がいのある学生や留学生への学びの保証も必要…など、高校までの教育機関とは異なる状況にあるので、対面授業には慎重にならざるを得ません。
今後、オンライン授業がどの程度定着するかは、もう少し様子を見なければ分かりませんが、学生と一緒にこの環境を走り続けた一人として感想を述べれば、若者の方が変化への適応スピードが早い!ということです。また、オンラインコミュニケーションの場数は、一般的な社会人よりも学生の方がよっぽど上回っていると言えます。この経験値の差によって、オンライン採用で誤解が生じるケースが一部で見られます。あるビジネス雑誌の記事だったのですが、Web面接をおこなった人事の意見として以下のような内容が紹介されていました。
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多人数がアクセスするオンライン説明会でカメラをオフにしたり、
音声をミュートにしたりする学生には否定的な印象を受ける。 - チャットよりも発声して質問する学生にやる気や意欲を感じる。
Zoomなどを利用したリアルタイム授業では、学生の通信環境に配慮して、カメラOFFを標準としているケースが少なくありません。大人数の授業では、ランダムに発言されても対応できないため、チャットで質問することをルール化しているケースは多く、私自身も同様の対応をとっていました。オンラインなのに、対面マナーと同じ感覚でやる気や意欲を評価するのは、いささか可哀想…という気がします。また、パソコン画面に話す内容を表示する行為を、カンペ(カンニングペーパー)と批判的にとらえるコメントも紹介されていましたが、オンライン環境を活かした事前準備や工夫をポジティブに受けとめる視点があっても良いのではないでしょうか。
オンライン上のマナーは、まだ固まっていません。リアルな対面マナーの感覚をオンラインでも当てはめ、一方的に判断していては評価を見誤る可能性があります。学生のオンライン対応に違和感を覚えたときは、その意図を確認すれば誤解が生じないでしょう。オンラインと対面では、異なるコミュニケーションマナーがあることを前提に、丁寧な相互理解が必要と言えます。
執筆者紹介
キャリアコンサルタント 平野 恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント