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第84回 「就職活動」で生じる不安

掲載日:2024/02/21

先日、学生(2年生)と雑談をしているときに、就職活動への印象を尋ねてみました。返ってきたのは「不安しかない」という言葉です。市場環境は悪くないので、不安を感じる要因は少ないといえます。しかし、いずれ必ず向き合わなければならない、逃げられないという感覚がストレスだと答えていました。

学生調査でも不安な様子が見て取れます。全国大学生活協同組合連合会『第58回学生生活実態調査』(※1)では、就職に「不安を感じている」(「とても感じている」+「感じている」の合計)は74.8%で、4人中3人が該当します。また、これから就職活動をむかえる2年生が81.1%と高く、増加傾向にあることが気になります。

一方、企業調査を見れば、24年卒生の求人倍率は1.71倍で、従業員規模300人未満では6.19倍まで上昇します(リクルートワークス研究所『第40回 ワークス大卒求人倍率調査(2024年卒)』)(※2)。22歳人口が25年卒生(2002年生まれ)から大きく減少するので、この学生優位の売り手市場は当面続くでしょう。新卒採用は「学生を選ぶ活動」から、「学生に選んでもらう活動」に変わりつつあります。

これだけ恵まれた環境下で、何に不安を感じているのか。企業からすれば、疑問に思うかもしれません。学生が感じている不安を、私なりにまとめてみました。

○社会的に自立しなければならない不安
漠然とした不安を口にする学生の場合、大人の入口に立つ自分への自信のなさが要因になっているケースが少なくありません。大学を卒業すれば親のひごから外れ、自分の人生を自分の力で生きていかなければなりません。いまの快適な生活は時限的だと分かっている。でも、何をすればよいのか、どんな経験をすれば就活で評価されるのか分からない。どんな資格を取れば将来安泰なのかも分からない。自立への道筋が見えない自分自身に対する不安といえそうです。

○知らない世界に対する不安
就職活動をはじめる直前の3年生に多い不安でしょう。ほとんどの学生は、職場という場所に足を踏み入れたことがありません。そこで働く社会人と交流した経験もありません。しかし、ブラック企業、社畜、長時間労働、パワハラ、ノルマなど、怖い言葉がSNS上でたくさん拡散されています。そのイメージが先行して、「仕事のストレスに耐えられるのか」「職場の先輩たちと上手くやっていけるのか」など、想像上の不安が雪だるま式に膨れていくのです。ですが、この手の不安は、実際の社会人と触れ合うことで徐々に軽減してきます。

○自分らしくいられる企業に就職する方法が分からない不安
「大学で学んだことを活かせる職業は何か」「好きなことを仕事にするにはどうすればよいか」「自分にあった企業の見つけ方を知りたい」。就職活動をはじめると、こうした質問や相談が増えます。絶対解のある問いではないので、アドバイスをもとに手探りで進めながら、自分のやり方は合っているのか……という不安に駆られます。個性を尊重する教育を受けてきた世代です。内定が得られればどこでもよいと考える学生は多くありません。自分らしくいられる企業に就職したいという気持ちは当然のニーズであり、同時にそれが不安を強めています。

○自己否定される不安
就職活動では、ほぼ確実に“選考に落ちる”という経験をします。明確な基準と点数で判断する受験や資格と異なり、相性や運、タイミングがものをいう就職活動では、避けて通ることはできないでしょう。しかし、慣れていない学生が多いので、落ちることへの不安は大人が考える以上に大きいといえます。また、新卒採用では「人物重視」という言葉をよく見かけます。企業としてはスキルや能力より、人柄を大切にした採用をしているという意味で使っているわけですが、学生からすれば、人物重視の選考で落ちた自分は社会不適合者なのではないか……という不安にさいなまれます。落ちることを避けられない就職活動だからこそ、「相性重視」といった言葉も加えてみてはいかがでしょうか。

○多すぎる選択肢という不安
バリー・シュワルツの『選択のパラドックス』という心理作用があります。選択肢が多ければ、希望に合うものが選べて、満足度はアップするように思いますが、過剰になることで選ぶストレスが生じ、満足度は低下するという事象です。今50代の方が就職活動していた時代と比べて、新卒採用をおこなう企業の業種や仕事内容は格段に増えました。それらの情報を得る手段もハガキからネットに変わり、把握しきれないほどの選択肢が存在します。内定を得ても、「もっと良い就職先があるのではないか」という疑念が生じ、意思決定する不安を強めています。

学生は就職活動で、さまざまな不安と向き合うことになります。そうした不安とともに、自分の将来について悩み、乗り越えていく就職活動は、キャリア教育におけるフィールドワークの1つといえます。そして、そこで出会った社会人の言葉は、学生に大きな影響を与えます。発する言葉1つで成長が促されることもあれば、その目を摘み取ってしまうこともあるでしょう。25年卒採用が本格的に動き出しています。学生が前を向いて、大きく成長していけるような機会になることを願っています。

  1. 全国大学生活協同組合連合会『第58回学生生活実態調査』
  2. リクルートワークス研究所『第40回 ワークス大卒求人倍率調査(2024年卒)』

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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