第99回 なぜ学生は「実績」を求めるのか

掲載日:2026/08/21

 先日、大学1年生を対象に「就職(もしくは就職活動)について、知りたいことがあれば教えてください」という自由記述式のアンケートを実施しました。集まったコメントを生成AIで定性分析したところ、もっとも多かったのは、就職活動への取り組み方を求める声でした。

「就職活動はいつから始めるべきか。何をどんな風に進めていけばよいのか」
「いまからできる準備はあるのか」
「インターンシップには、早めに参加したほうがよいのか」
実際の就職活動は2年も先なのに、1年生の段階から「正しい就活の進め方」を知りたがる学生が多いことに驚きました。

進路選択の「支援サービス」を経験してきた学生

 考えてみれば、大学受験という進路選択のとき、彼らは様々な支援サービスを経験しています。自分の学力レベルや通学条件に合った大学を提示してもらい、学校推薦型選抜・総合型選抜・一般選抜(学力試験)など、自分に向いている受験方法を早くからアドバイスしてもらえます。一般選抜(学力試験)であっても、得意科目に応じた最適な受験方法を提案してくれます。周囲のアドバイスによって、自分に最適化された受験方法を選択できる環境が整っていたわけです。

 また、大学受験に向けた支援サービスは高校受験時から始まっています。大学受験の総合型選抜や学校推薦型選抜で有利になりそうなプログラム、例えば「産学連携の探究教育が受けられる」「ビジネスアイデアコンテストへの出場経験ができる」といった取り組みを紹介し、大学受験の支援をPRする高校も少なくありません。

 これだけ手厚いサービスを受けてきたのです。大学1年から取り組める「就職」に向けた準備プログラム、例えば、「就職活動で困らない大学生活の過ごし方」「○○業界向けのガクチカ(『学生時代に力を入れたこと』の略)がつくれるお勧めの課外活動」といった支援がないことに不安を感じるのでしょう。

「実績」を欲しがる学生心理

 受験と比べると、就職活動はひどく曖昧です。選考期間は採用計画の充足状況次第なので、「選考回数」や「日程」を事前にアナウンスすることは不可能です。採用自体が複線化しているので、選考プロセスも人により異なります。決められた手順で進めていけば、一定の結果にたどり着けるわけではないという不明瞭さが、学生の漠然とした不安を募らせていきます。

 こうした心理が、履歴書やエントリーシートに書ける実績づくりへと学生を向かわせます。資格取得や専門スキルの習得などは、その代表例といえるでしょう。ポテンシャルを重視する新卒採用において、資格や専門スキルが直接評価につながることは少ないのですが、PRできる「何か」を欲しがる気持ちが強いのです。

 それを感じさせるデータがあります。パーソル総合研究所の『新卒就活の変化に関する定量調査』(※)では、企業の採用担当者に5年前と比較した学生の変化について尋ねています。

2020→2025|企業が感じる学生の変化

企業が感じる学生の変化/2025年調査

○5年前(2020年)と比べて上がったと感じる項目(上位3つ)

  • リモートワークのスキル・知識
  • デジタルスキル・知識
  • データリテラシー・データ分析

○5年前(2020年)と比べて下がったと感じる項目(上位3つ)

  • リーダーシップ経験の多さ
  • 積極的な態度
  • 起業家精神

 「上がったと感じる」項目には、スキル・知識系が多く並んでいます。一方、「下がったと感じる」項目では、態度や姿勢、本人の特性といったコンピテンシー系が目に付きます。スキルや知識は習得プロセスが明確で、履歴書にも書きやすく、損するリスクの少ない選択といえます。しかし、コンピテンシーなどは確実な習得プロセスがあるわけではありませんし、レベル感もはっきりしません。費やした労力に見合うリターンが約束されていないため、敬遠されてしまうのでしょう。

実績よりも大切なものに気づく経験

 生成AIの台頭によって、「人でなければできない仕事」への価値がますます高まると予想されます。そうなれば、資格・スキル系よりも、コンピテンシーといった人間ならではの要素に価値が出てくるはずです。にもかかわらず、多くの学生は名前の付いた分かりやすい実績にこだわってしまいます。

 夏休みは、インターンシップやオープン・カンパニーなど、学生が社会人と接する機会が増える時期です。企業が新卒人材をどんな視点で評価し、選考で何を知ろうとしているのかを、学生が体験的に理解できれば、今後の大学生活に変化をもたらすことができるでしょう。特に低学年(1年、2年)には、有意義な経験になるはずです。

 低学年向けのキャリア支援ニーズが高まっていますが、必要なのは、実績づくりの提供ではなく、その手前にある気づきの機会でしょう。まずは実社会と触れる体験を通して自身の大学生活を見つめ直し、その延長線上にあるキャリア形成とじっくりと向き合う。こうしたプログラム設計が、これまで以上に問われている気がします。

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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