第97回 若者は変わったのか、時代が変わったのか
掲載日:2026/04/16
今年も多くの若者が、新社会人としてそれぞれのキャリアをスタートさせました。テレビのインタビューなどで受け答えしている新社会人を見ていると、30年以上前に同じ立場だった自分とは、異なる時代を生きているように感じます。一方で、緊張や不安を抱えながら新しい環境に向かう姿には、変わらないものがあるようにも思えます。
そんな感覚を、数字で示している興味深い調査データがあります。
博報堂生活総合研究所のホームページで公開されている『若者30年変化』(※)は、1994年当時に19~22歳だった若者と、2024年に19~22歳だった若者を比較し、人間関係や価値観の変化をまとめたものです。その中から私が着目したデータを、いくつか紹介したいと思います。
異性より同性を優先する関係性
まず目を引くのが、同性と異性との関係の変化です。「自分にとって居心地のいい組みあわせ」として、1994年では「同性同士の二人」が25.5%、「異性との二人」が38.1%でした。ところが2024年になると、「同性同士の二人」は64.8%まで大きく伸び、「異性との二人」は14.7%まで低下しています。
同じ傾向は、「落ち込んだときに一番そばにいてほしい相手」という設問にも表れています。「同性の一番の友達」は、1994年の36.0%から2024年には55.6%に増加し、逆に「異性の一番の友達」は55.9%から16.0%へと大きく減少しました。異性よりも同性との関係に、心地よさや安心感を抱く若者が増えているようです。
同性と異性の関係
この30年で同性同士の距離感は近くなり、より親しい関係を築くようになった一方で、異性との関係はやや遠いものになっているように見えます。安心を得やすい同性を優先する傾向が強くなっているのでしょう。
幼なじみとの関係が長期化
では、「同性で一番親しい友達と知り合った時期」はいつなのでしょうか。「小学校以前」(「小学校入学前」と「小学校時代」の合計)という回答は、1994年に19.6%でしたが、2024年には34.5%と、15ポイント近く上昇しています。そして、「大学時代以降」(「短大・大学時代」と「社会人になって」の合計)は、18.2%から9.3%へと半減していることが分かります。
同性で一番親しい友達と知り合った時期
幼いときからの友人であれば、お互いの未熟な時期を知っており、見栄やプライドが入り込みにくい関係を築けます。安心して本音を出しやすい相手と言えるでしょう。その反面、大人になってからは、自身の価値観や立場がある程度できあがるうえ、ハラスメントなどへの配慮も求められるようになります。お互いに慎重な交流になり、深い友人関係を築くことが難しくなっているのかもしれません。
こうした人間関係を、『若者30年変化』では「ローリスク仲間」と名付けています。なるほどと納得しつつも、これを「Z世代らしさ」とすることには少し違和感を抱きました。なぜなら、大人同士の交流に慎重になる気持ちは私自身にもあり、特定の世代における特徴というより、今という時代を反映した価値観のように思えたのです。
世代を超えて広がる価値観
別の設問を見てみましょう。「相手と意見が違っていても、反論はしない方だ」は、1994年の19~22歳で49.2%だったのに対し、2024年では64.8%に上昇しています。また、「自分の考えと合わない人と一緒にいることは避けている」も、57.2%から71.0%へと増加しました。意見や価値観が異なる相手とぶつからず、距離を取る傾向が強まっているわけです。
ここで興味深いのは、1994年当時に19~22歳だった人たち、つまり2024年時点で49~52歳になっているアラフィフ世代にも、同じ傾向が見られることです。「相手と意見が違っていても、反論はしない方だ」は63.0%、「自分の考えと合わない人と一緒にいることは避けている」は74.0%と、Z世代とほぼ同水準、あるいはそれ以上になっています。異質な他者との関わりを避ける傾向は、世代を超えて広がっていると見るべきでしょう。
世代を超えて共通する“時代の傾向”
「責任ある地位よりも気楽な地位にいる方がいい」の増加、「仕事は責任が重くても、すべてまかされる方がいいと思う」の減少も同様です。人間関係だけでなく、仕事においても責任ある立場を避け、リスクや負荷の少ない立場を望む傾向は、世代に関係なく強まっています。
メンパを重視する時代
最近は、コスパ、タイパに続いて、メンパという言葉も耳にするようになりました。メンパとはメンタルパフォーマンスの略で、心の負担を減らし、安心して過ごせる状態を重視する考え方です。今回の調査データを見る限り、世代を問わず、メンパを重視し、心理的ストレスや不安を避ける志向が強まっていると感じます。今という“時代の価値観”の1つなのでしょう。
Z世代とされる新社会人への評価として、失敗を怖がる、言われたことしかやらない、新しいことに慎重——といった見方をされることがあります。しかし、こうした評価は、特定の世代を表すものではなく、社会全体に広がる空気を反映しているように感じます。
新社会人は、時代を映す鏡でもあります。Z世代は理解しにくい他者ではなく、自分の中にも存在する価値観を分かりやすく体現した存在。そう考えると、自分自身の言動を振り返りつつ、彼らとの関わり方、育成や支援のあり方が見えてくるのではないでしょうか。
執筆者紹介
キャリアコンサルタント 平野 恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント