採用・昇格・人材・組織開発の日本経営協会総合研究所

第72回 学生が望むキャリアの多様性

掲載日:2022/02/17

学生が望むキャリア(仕事を中心とした人生そのもの)はさまざまです。求める生き方は人によって異なり、心地よいと感じる環境も違います。就職先となる業種や仕事の種類も増えました。キャリア選択の幅は広がる一方です。同時に、多くの学生に通底した志向も感じています。それは、安心して生活していけるだけの基盤を得たい、という願いです。

これを「安定志向」という言葉で、消極的姿勢に帰結してしまうのは違うでしょう。経済が長期的に低迷する時代に育ってきた世代です。身を立てるだけの自信も実績もない学生が、安心できる生活を願うのは、ごく自然なことです。新型コロナの影響で、先行き不透明感が増し、この志向はより強まっていると感じます。学生らしい感性でいまの世の中を理解し、安心が得られそうなキャリアを探索していく。それは「〇〇志向」といった特定のトレンドに収斂することはなく、複数の価値観が組み合わさった形で表出し、個々のキャリア決定につながっていきます。ある種のとらえどころのなさが、今どきの学生っぽさなのかもしれません。彼らから感じるいくつかの価値観を、私なりにまとめてみました。

<制度で保証された“安心”への願望>
職種で言えば「公務員」でしょう。公務員志望者は長らく減少傾向にありましたが、一転して、前年比2.1ポイント増の23.3%となりました(※1)。福利厚生という制度を重視する姿勢は、数年前から目立っています。学生の「ジョブ型」人気も“安心”に関係していると言えます。どこに配属されるか分からない「配属ガチャ」を避け、少しでも安心できる未来を望んでいるわけです。不確実性を可能な限り少なくしたい気持ちが強いのでしょう。

<短期間で獲得できる汎用性の高い成長>
残業やストレスの少ないホワイトな労働環境の企業を「ゆるブラック」と呼び、避けるべき企業と考える学生を見かけるようになりました。仕事がハードでも、成長の実感が持てることを好み、労働市場で付加価値が高まる汎用性の高いスキルを求めます。難関大学の学生に多く、経営コンサル人気を支えている層と重なる印象があります。

<ネット余暇の親しみと将来性への評価>
学生のインターネット利用時間は、普段の日だけでなく、休みの日も増加傾向が顕著です(※2)。ゲームやアニメ、マンガなどの電子書籍…。おうち時間を楽しむネット余暇は、コロナ前より身近になっています。これらを提供する企業は、「好きなこと」を仕事にしたい層から支持されていましたが、さらに裾野を広げました。また、ビジネスとしての将来性にも注目が集まっています。IP(知的財産)ビジネスの人気は、さらに高まりを見せるでしょう。

<ほどほどの仕事でほどほどの生活>
ストレスが少なく、無理のない毎日を過ごしたい。生活できるだけの収入が得られれば、多くは望まない。そんな穏やかで平穏なキャリアを希望する学生は少なくありません。以前は、事務職を希望する女子学生に多いキャリア観でしたが、いまは性別に関係なく支持されているように感じます。仕事(オン)よりも、仕事以外(オフ)の時間に意味を見いだす人生。これも尊重されるべき1つの選択肢と言えます。

<思いやりとあたたかみのある職場>
「働くうえで重視したい社風」を尋ねた調査で、09年卒、15年卒、22年卒と増えつづけているのが「相互の思いやりとあたたかさ」です。「オープンなコミュニケーション」も15年卒からの増加が目立ちます(※3)。競争よりも調和。争いやぶつかり合いを避け、チームで協力し合いながら仕事を進めていくスタイルが好まれています。

<他者との交流(コミュニケーション)が少ない仕事>
前項目と矛盾するようですが、他者との交流が少なく、個人で完結する仕事を志望する学生も目立っています。メールやチャットで事前にアポイントをとってコミュニケーションすることが一般的になり、不特定の人から突然話しかけられ、交流することに戸惑いやストレスを感じる人が増えているのでしょう。電話対応を嫌う心理と似ているのかも知れません。デジタルテクノロジーの進化に伴い、該当する仕事は増えていきそうです。

思いつくまま学生のキャリア観を述べましたが、どれも強度のある価値観とは言えません。両親を中心とした身近な大人、ドラマで描かれるステレオタイプな仕事イメージ、メディアで報道される先進的かつ部分的な事象など、限られた情報で構築された、曖昧で未成熟な価値観です。これから就職活動はピーク時期を迎えます。学生は多くの社会人と交流しながら、今までにない生き方や考え方を知っていくでしょう。そして、キャリア観は大きく変わっていきます。ある時期のある発言だけで学生を類型化し、評価しては、ポテンシャルを見誤るかもしれません。まずは、お互いを理解する対話からスタートし、採用選考を通して、彼らの変化を楽しんでみてください。

  1. マイナビ『マイナビ2022年卒公務員イメージ調査』
  2. 野村総合研究所『新型コロナウィルス感染拡大以前と現在におけるインターネット利用状況の変化』
  3. リクルートマネジメントソリューションズ『大学生の就職活動調査2021

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執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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