採用・昇格・人材・組織開発の日本経営協会総合研究所

第93回 チームで働く"協働スキル"の育成が必要と考える理由

掲載日:2025/08/19

 ここ数年で、新卒人材の育成の難しさを耳にすることが増えました。組織メンバーの一員として受け入れられ、職場で過ごす時間を共有しながら、仕事を一つひとつ覚えていく。こうした従来の育成プロセスでは対応できない状況が生じているのでしょう。そして、この傾向は今後さらに強まっていくと私は予想しています。

 飾らない普段どおりの学生を見ていると、独特な人間関係を感じることがあります。友達との強固な関係がある一方で、その人以外は無関係な「他人」という感覚が目立つのです。「友達」よりは遠いけど「他人」よりは近い「知人」という距離感の人間関係が希薄になっているのではないでしょうか。

 職場の人間関係は「友達」とは違うし、「他人」でもない。「知人」という距離感に近いと言えます。キャンパスで友達と一緒に過ごすことはあっても、知人と協働する経験が得にくくなったことで、自身の能力や知識を職場で発揮することが難しい新卒人材が増えているように感じます。

 この傾向は、データにも表れています(図表1)。新卒採用における「優秀さ」の要素を企業に尋ねたところ、トップになったのは「協調性・チームで働く力」で、その数値は年々上昇しています。従業員規模別で見ると、大手ほど協働スキルを高く評価していることが分かります。今後、職場で働く人の雇用形態、職域、国籍、文化などの多様化が進めば、企業規模に関係なく「協調性・チームで働く力」の重要性はさらに高まり、協働スキルを有した新卒人材が求められていくでしょう。

【図表1】新卒採用における学生の「優秀さ」の要素として
「協調性・チームで働く力」を選択した企業割合の推移

【図表1】新卒採用における学生の「優秀さ」の要素として「協調性・チームで働く力」を選択した企業割合の推移

マイナビ「企業新卒採用活動調査(6月)」

 一方で、気になるデータがあります(図表2)。文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、児童生徒1,000人あたりにおける不登校人数は年々増加しています。不登校になる背景には様々あり、その是非を論じるべきではないでしょう。注目したいのは、教室という限られた環境のなかで、人間関係を構築するトレーニング機会を得られなかった児童生徒が増えているという点です。

【図表2】児童生徒1,000人あたりにおける不登校人数

【図表2】児童生徒1,000人あたりにおける不登校人数

文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」

 また、通信制高校の在籍生徒数も注目に値します(図表3)。年々その数を増やし、2024年度には29万人を超え、約10人に1人が通信制の高校に通っている状況です。学びの自由度が高く、興味・関心の高い分野を自分のペースで学習できる、という通信制の良さはありますが、他者と折り合いをつけながら生活するトレーニングは得にくいように思います。

【図表3】通信制高校の在籍生徒数

【図表3】通信制高校の在籍生徒数

文部科学省「学校基本調査」

 小学校での暴力行為が7万件を超えたことを取り上げた記事(※)には、公立小の校長先生のコメントとして、「気持ちを言葉で上手く伝えられない傾向がある」「話す方法や必要な語彙力など対話のための準備が抜けている」といった指摘がされていました。初等教育段階から、他者と交流するためのトレーニングの必要性を感じさせます。

 チームで働く協働スキルは、先天的な資質などではなく、マナーや報連相といったトレーニングで育成可能なはずです。大学でもアクティブラーニングとしてグループワークの実施は増えていますが、友達同士でチームを組むことが多くなりがちです。大学と自宅の往復という単調な大学生活を送っている学生も少なくありません。日常生活のなかで獲得することが難しくなっているのであれば、意図的にトレーニングさせていくしかないでしょう。

 内定者や新入社員の研修では、できるだけ属性や価値観が異なるメンバー同士をチームにすると良いかもしれません。そこでのトレーニング経験を通して、チームのなかで自分が担える役割や強みを発見することができるでしょう。チームメンバーとは別に、人間関係の難しさを共有し、励まし合えるピアサポーターも効果的だと考えます。

 多様な他者との関係構築は、より良い社会人生活を送るために必要かつ重要な要素です。高度なスキルや専門知識を持っていても、チームのなかで発揮できなければ意味がありません。大学から社会への接続において“協働スキル”の育成は、今後ますます欠かせない要素となっていくでしょう。

  • 『窓ガラスをたたき割る小学生、増える暴力 校長が感じる改善の糸口は』
    朝日新聞デジタル 2025年4月2日

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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