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就活ハラスメント─企業と学生のすれ違い

掲載日:2025/04/11

 採用・就職活動を見ていると、企業と学生の間に認識のギャップを感じることが多々あります。それは“就活ハラスメント”においても同様です。企業が「親身に接している」「熱意を伝えている」と思っていても、学生には「距離が近すぎる」「押しつけがましい」と映ることも少なくありません。

 昨年10月、厚生労働省は就職活動中の学生に対するハラスメント防止対策を、企業に義務づける検討に入りました。今年の通常国会で関連法改正案の提出を目指しているので、企業も具体的な対応をはじめるタイミングと言えそうです。

 就活ハラスメントのなかでも目立つのが、「セクハラ(セクシャルハラスメント)」と「オワハラ(就活終われハラスメント)」です。それぞれの認識のズレについて考えてみましょう。

セクハラの認識ギャップ

 就活セクハラにおける調査データ(※)によると、企業が「取り組んでいる」と回答した項目と、学生が「評価できる」と答えた項目の間に大きなズレが見られます。

就活セクハラ防止策

就活セクハラ防止策

 これらの数値は、学生がどれだけ「安心・安全」を求めているかを示すと同時に、企業が「これくらいは大丈夫だろう」と思っているラインのズレを感じさせます。
 逆に、企業は重視しているが、学生には評価されていない施策もあります。

就活セクハラ防止策

 セクハラリスクを避けるため、面会相手を制限する意図は理解できます。しかし、学生は自分の属性(大学、学部学科、地域など)と近い社会人の話を聞きたがるので、面会の制限は、キャリア探索を阻害することにもつながりかねません。これも両者のギャップの1つと言えそうです。

オワハラの認識ギャップ

 もう一つの「オワハラ」は、内定を出した学生に「他社はもう受けないで」「就活は終わりにして」など、就活終了を強く迫る行為を指します。

 評価の高い学生に「ぜひ自社に入社してほしい」と思うのは当然ですし、内定辞退が増えている現状では、入社の意思を明確に示してくれる学生を採りたいという気持ちも分かります。しかし、そのアプローチが学生の意思決定を阻害し、過剰なプレッシャーになれば、信頼関係にヒビが入ってしまうでしょう。

 だからといって、内定の連絡をする際に、承諾の期限を伝えるだけの事務的なものでは、「期待されていないのかも」「自分を必要としているわけではなさそう」と誤解されかねません。

 プッシュすればオワハラ、連絡だけでは冷たく感じられる──確かに難しい対応です。だからこそ、互いの考えを確認し合う大切なタイミングであり、企業アプローチの差別化にもつながるでしょう。

 学生がイメージする社会人としての未来を理解し、自社の未来と重なる部分があれば、それをキャリアパスとして伝えると良いのではないでしょうか。同時に、自社の課題など、ネガティブな部分を伝えることも忘れないでください。

 今の学生は優れた消費者として、甘言に惑わされない選択眼を持っています。ポジティブな情報ばかりでは、かえって不信感を抱かせます。ネガティブな情報も包み隠さずに伝えることが、学生からの信頼を得ることにつながります。

 ここまで説明したら、あとは学生本人に委ねてほしいと願います。企業が社員にキャリア自律を求めるなら、スタート地点となる新卒採用で、オワハラになるような過剰な干渉は避け、意思を尊重する姿勢が望ましいでしょう。

 ハラスメントを恐れるあまり、学生との本気のコミュニケーションが減っているようにも感じます。Z世代だ、デジタルネイティブだと、さまざまなラベリングによって、先入観を持たれがちですが、シンプルに「ファーストキャリアを模索する1人の若者」として接し、諭すのではなく理解する姿勢で対話をすれば、互いのギャップは少なくなっていくのではないでしょうか。

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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