採用・昇格・人材・組織開発の日本経営協会総合研究所

第86回 AIとガクチカの今
~エントリーシートの課題と未来~

掲載日:2024/06/12

6月に入り、25年卒採用は後半戦に入っています。同時に、大学3年生を対象とした26年卒向けインターンシップが動き始めました。本選考に応募するには、エントリーシート(以下、ES)提出は避けられないステップですが、インターンシップ応募でも似たような状況になっています。学生アンケートによれば、インターンシップ応募時にESを提出した経験がある学生は約9割に達しています(文化放送キャリアパートナーズ・就職情報研究所『新卒採用戦線総括2024』より)。

大学3年生の6月と言えば、大学生活の折り返し地点を回ったところです。学生生活を最も謳歌する時間は始まったばかりと言えます。このタイミングでESを提出させるのであれば、設問には工夫が必要でしょう。例えば、定番質問のガクチカ(「学生時代に力を入れたこと」の略)は過去形ですが、「いま力を入れていること」など、現在進行形の設問であれば書きやすくなるように思います。インターンシップ用のES設問として、検討いただけると幸いです。

しかし、本選考に入れば、ガクチカ(「学生時代に力を入れたこと」の略)のように過去の経験からコンピテンシー(思考特性・行動特性)を判断するような設問が必ず出てきます。この「ガクチカ」タイプの設問が、学生にとってはストレスになります。その要因としては、次の3つが考えられます。

①就活で評価されやすい自分の特性が分からない

自分のどんな部分が社会人として評価されやすいのか、それが理解できている学生は多くありません。自分の長所だと認識していることが、親から(子どもとして)褒められたこと、先生から(生徒として)評価されたことばかりでは、「言われたことに逆らわない」「従順に勉強する」といった、就職活動では的外れなPRになりかねません。自分のどんな特性を書けばよいのか分からない、そもそも自分にPRできることがあるのか。そんな不安に襲われます。

②スゴい経験を書かないと評価されない!という誤解

評価されやすい自分の特性が分からないので、資格取得や留学経験、サークルのリーダー職や部活動の実績(優勝経験など)など、分かりやすい名前の付いた成果を欲しがります。選考という場で戦うための武器を得て、安心したい気持ちがあるのでしょう。志望企業から選ばれるには、人よりスゴい経験(武器)が必要だと考える学生は少なくありません。低学年から「就活のために○○をしようと考えている」といった声は、よく耳にします。

③文章スキルの低さ

社会人の目から見て「読みやすい」と感じる文章が書ける学生は、あまり多くありません。ESを添削するときは、内容のアドバイスより先に文章表現の修正から入ることがよくあります。企業に提出できるレベルのESが書けるようになるには、相応の時間が必要になります。

学生にとって、大学での経験を問われる「ガクチカ」タイプの設問はハードルが高く、書くのにかなりの時間を要します。できるだけ手間をかけずに、効率よく書き上げたいと思う学生は多いのでしょう。そのニーズを反映して、最近では生成AIを活用したES作成サービスが増えてきました。例えば「ESの達人」というサービスでは、いくつかの選択式の問いに答えるだけで、瞬時に指定文字数でガクチカを書き上げてくれます(※)。志望動機を作成・添削してくれるサービスもあります。

テクノロジーを上手く活用するスキルは重要です。しかし、Chat GPTのプロンプト(指示文)を考える必要もなく、複数の項目を選ぶだけでOK!といった便利すぎるサービスの利用には留意が必要でしょう。アッという間にガクチカが完成することと引き換えに、社会人として必要な思考力と書く力をトレーニングする機会を失います。節度ある生成AIとの付き合い方が求められます。

それは企業にも言えるでしょう。採用業務の効率化のため、ES評価にAIを活用する企業は少なくありません。ES作成サービスを使った書いたガクチカを、企業のESチェック用AIが評価する。こうした(人がほとんど介在しない)採用選考がすでに現実のものとなっています。今後、生成AIが作成したESなのか、自分で考えて書かれたESなのかを判別するサービスが出てくるかもしれません。しかし、それではイタチごっこになるだけです。根本的な解決とは言えないでしょう。

先日、アップデートしたChat GPT-4o(オムニ)が発表されました。このサービスを活用すれば、人間よりも人間らしく質問するAI面接官が現実のものになるでしょう。同時に、より便利で使いやすい学生向けの生成AIサービスも増えていくはずです。テクノロジーの使いどころが試されます。採用選考で学生の何をどのように評価したいのか。その本質的な問いについて考える必要性が高まっているように思います。


(補足)
この原稿タイトルはChat GPT-4oが考えたものです。また、文章の一部も書いてもらい、校正とアドバイスを参考にして仕上げました。

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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