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第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性

掲載日:2023/08/25

先日、若手社員の育成をテーマにしたセミナーに参加して、担当者の意見を聞く機会がありました。「新入社員の考えていることが分からない」「驚くほどあっさりと辞めてしまう」など、戸惑いや困惑を感じていることが伝わる意見が多く、新卒採用だけでなく、新人育成にも苦慮する現状を理解することができました。

大学でキャリア教育に関わり、人を育てることに従事している立場で思うのですが、人を育てることは本当に難しいものです。それぞれに個性があり、望むキャリアは異なります。それを尊重したうえで、社会人として、組織の一員として成果を出すために必要なことは覚えてもらわなければなりません。現場で新人育成に関わる方のご苦労が、痛いほどに理解できます。

学生から社会人へと移行していく過渡期を近くで見ていて思うのですが、従来のOJT(On- the-Job Training )による育成が、時代に合わなくなっているのではないでしょうか。学生と社会人の思考・行動パターンやコミュニケーションスタイルは、年々乖離が大きくなっています。育てる側(上司・先輩社員)と育てられる側(新入社員)の距離が遠すぎて、現場主導のOJTが上手く機能しなくなっていると感じます。

例えば、新入社員は「言われたことを言われた通りに、間違いなく行うことが大切(やり方を変えたり、指示以外のことを行ったりするのはよくない)」「分からないことがあっても、先輩の仕事の邪魔をしないように、声をかけてくれるまで待つ(自分から声をかけたら迷惑になる)」といった感覚を持ちがちです。一方、上司や先輩社員は「気が付いたら、指示されたこと以外でも取り組んでほしい」「分からないことがあれば、自分から声をかけてほしい」と思うでしょう。また、面接のときに育成アドバイスのつもりで伝えた「今のままではダメだ、殻を破れ」といった言葉が人格否定に聞こえた、と話す学生もいました。こう言われてしまっては、踏み込んだアドバイスをすることが怖くなってしまいます。社会人である私たちには当たり前の価値観や許容範囲のアプローチが、新入社員には理解できず、誤解や軋轢が生じてしまう。そんなすれ違いが増えているようです。

理解しにくい相手の行動にも、何かしらの理由があります。それに耳を傾け、まずはじっくりと話を聞く必要があるでしょう。それを受けとめたうえで、社会人として適切な行動を教えることが求められるわけですが、言うは易く行うは難しです。時間と手間をかけ、言葉を尽くした育成を、数字に責任を持たなければならないプレイングマネジャーや先輩社員に求めるのは酷な話でしょう。そんなことを考えていたタイミングで、興味深いコラムを見つけました。

『若手との関係から考える、成功する育成』(リクルートワークス研究所 古屋 星斗氏)
https://www.works-i.com/project/youth/manager/detail004.html
(参考 2023-08-18)

注目した箇所を要約すると……
育成成功の実感をもたらすフィードバック要素を検証したところ、「フィードバックの目的を明確にして行う」「肯定的・ポジティブな表現を用いて行う」は高い効果が期待でき、「ハラスメントにならないように行う」ことも求められる要素であることが分かったそうです。一方で、「多くの人の目に触れない場で、個別に行う」「フィードバック用の資料をつくるなど、整理して行う」といった手法に関する項目は、育成成功への影響が見られませんでした。つまり、重要なのは“やり方”ではなく、個々の価値観を尊重しながら、適切な言葉を選び、必要なことを伝えていくスキルです。一朝一夕でできることではありません。

古屋氏の言葉を一部引用すれば、『若手を育成するというタスクは、上司や先輩が片手間にできるものではなくなりつつあるのかもしれない。「育成専門職」「フィードバック専門職」のような職務の必要性すら感じさせる結果が示唆されているのだ』とあります。新入社員は、現場の上司や先輩社員から手ほどきを受けて成長していく。こうした私たちの当たり前を見直す時期なのかもしれません。若年層人口はこれから減少の一途です。「辞めずに残る人材だけを育てれば良い」では、組織そのものが成立しなくなる可能性もあります。学生を社会人へと育てていく専門職の存在は、すでに現実味を帯びていると言えそうです。

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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