採用・昇格・人材・組織開発の日本経営協会総合研究所

第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは

掲載日:2022/12/19

24年卒採用は、夏インターンシップを皮切りにして動き出しています。学生アンケートの数字を見るかぎり、前年(23年卒生)より参加時期は早まり、参加社数も増加傾向なので、よりアクティブなように感じます。しかし、学生の就活開始タイミングは分散しています。今秋は3年ぶりに対面の学園祭を実施した大学も多く、新型コロナでロスした分の大学生活を満喫している学生も少なくないでしょう。全体動向で見れば、年が明けたらギアが一段上がり、試験を終えた春季休暇から本腰を入れる……そんな感じで進みそうです。

就職活動の最初のステップは「企業選び」です。業種や仕事内容、給与や福利厚生など、様々なデータから企業選択していくわけですが、それ以外にも、自身の価値観や感覚を基準にした「心地よい働き方」を重視する傾向を感じます。では、どんな働き方に心地よさを感じるのでしょうか。アンケート結果から学生のキャリア観の一部を紹介したいと思います。

日本型雇用の代表的な働き方といえる「メンバーシップ型」とジョブ型人材マネジメントを導入した「日本的ジョブ型」。学生はどちらの働き方を支持するのでしょう。仕事経験のない学生が、雇用制度の違いをリアルに理解するのは難しいので、それぞれの特徴的内容を示して、どちらを望むのか尋ねてみました。

定期昇給と業績評価

A/異動や転勤の可能性はあるが、定期昇給していく働き方
B/職種は限定で異動や転勤もないが、評価によって給与が上下する働き方
(文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所『新卒採用戦線総括2023』より)

定期昇給と業績評価

A+どちらかといえばA(メンバーシップ型派)51.5% / B+どちらかといえばB(日本的ジョブ型派)48.5%
※最多は「どちらかといえばB」で34.5%

<解釈>
わずかにA(メンバーシップ型派)が上回りますが、両者は拮抗しています。最も多くの学生が支持したのは「どちらかといえばB(日本的ジョブ型派)」で、約3人に1人が選択しています。学生コメントには「人事評価が正しいとは限らないので、定期昇給の方が安全」「一定の給与保証があれば、給与を上げるよりも転勤がない働き方を望む」といった意見がありました。2つをミックスさせた「望まない異動や転勤を避けつつ、できるだけ金銭的な保証がある働き方」を望む気持ちが強いようです。

ジェネラリストとスペシャリスト

A:異動を含むジョブローテーションがある(総合的に広く浅く)
B:異動のないスペシャリスト(狭く深く)
(文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所『(24年卒)月例・学生アンケート10月』より)

ジェネラリストとスペシャリスト

A+どちらかといえばA(メンバーシップ型派)50.2% / B+どちらかといえばB(日本的ジョブ型派)49.8%
※最多は「どちらかといえばB」で39.5%

<解釈>
ほぼ1対1に分かれました。仕事経験のない学生が、自身の業務適性に確信を持てるはずはないので、「入社時の配属ガチャは不安だけど、自分に向いている仕事を見つけるためにジョブローテーションは必要」という気持ちは分かります。また「安定した生活を望むので、スペシャリストとして身を立てたい」という心理も理解できます。最多は「どちらかといえばB」で、約4割を占めました。

メンバーシップ型とジョブ型に関する設問は、キャリア観によって好みが分かれる内容ですが、ほぼ拮抗する結果となりました。一方で、圧倒的に支持が偏っている内容もあります。

切磋琢磨と協力

A:社内、チーム内で切磋琢磨していく働き方
B:チームで協力して1つの案件に取り組む働き方
(文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所『(24年卒)月例・学生アンケート10月』より)

切磋琢磨と協力

A+どちらかといえばA(切磋琢磨)29.2% / B+どちらかといえばB(協力)70.8%
※最多は「どちらかといえばB」で39.5%

<解釈>
この2つは対立概念とはいえないのですが、「競い合いながら仕事をする/助け合いながら仕事をする」という2つのイメージで質問してみました。

授業でグループディスカッションをおこなうと、だれか1人の意見に賛同が集まり、波風立たせずに短時間でワークが終わってしまうケースが増えています。異なる意見をたたかい合わせて、より深い議論が成立するケースは稀です。極力コンフリクト(衝突)を避ける気持ちが結果に表れているように感じます。

コミュニケーションの多い職場と少ない職場

A:職場内のコミュニケーションが多い
B:職場内のコミュニケーションが少ない
(文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所『(24年卒)月例・学生アンケート10月』より)

コミュニケーションの多い職場と少ない職場

A+どちらかといえばA(コミュニケーション多い)82.3% / B+どちらかといえばB(コミュニケーション少ない)17.7%
※最多は「A」で49.0%

<解釈>
若者の生活スタイルについて調べた「若者の生活と意識に関する全国調査」によれば、「友だちとの関係はあっさりしていて,お互いに深入りしない」が年々増加しています(2002年46.2%→2012年51.5%→2014年57.6%)。人間関係は淡泊になっているにもかかわらず、8割以上がコミュニケーションの多い職場を望むという結果になりました。

きっと理想的な人間関係を求める気持ちが反映されたのでしょう。コミュニケーションが多い≒良好な人間関係が築けている職場というわけです。人間関係に苦手意識があるからこそ、すでに心地よい関係性が築かれている職場を望む気持ちが強いといえます。

各アンケート結果からは、「経済的安全性」や「心理的安全性」を求める気持ちが感じられます。しかし、VUCA(ブーカ/Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の頭文字を取った言葉)と呼ばれる予測困難な時代において、簡単に得られることではありません。

新卒採用は売り手市場なので、学生は内定を得やすい環境ですが、自分の身の立て方を定めるまでのプロセスは難しくなっています。変化の早さだけでなく、働き方の選択肢も増え、若年層のキャリア探索期間はさらに伸びていくでしょう。企業からすれば、採用だけでなく育成・定着の難しさがさらに高まるといえそうです。

※掲載のグラフのなかには端数処理の関係で、内訳の和が100%とならないケースもあります。
※当コラムに記載されているシステム名・製品名などには、必ずしも商標表示(Ⓡ、TM)を付記していません。当コラムに記載されている会社名・製品名・ロゴマークは各社の商号、商標または登録商標です。

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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