採用・昇格・人材・組織開発の日本経営協会総合研究所

第75回 就職活動の受験化について考える

掲載日:2022/08/17

24年卒生を主な対象とした夏インターンシップが始まりました。早い時期から就職活動(インターンシップ)に取り組む学生の動向を見ていると、なんだか就職活動の受験化が進んでいるように感じます。そう考える理由を説明する前に、この2~3年の調査データや学生コメントから感じる早期組の傾向をまとめてみました。

<早期から就職活動(インターンシップ)に動き出す大学生>
①インターンシップに向けて動き出すタイミングが早まっている
②早期選考につながるインターンシップを狙って参加する学生が増加(主に難関大学の学生)
③就活マナーや選考スキルの向上が期待できる対策プログラムの人気が高い
④早期から新卒エージェント(新卒専門の人材紹介)の利用が目立つ

「優秀な学生を採用したいので、早期から採用活動を開始した」─ 採用担当者からよく聞くコメントですが、個人的には懐疑的です。早期組はポテンシャルの高い優秀層というより、「就活意識が高い学生」という認識を持っています。就職意識ではなく“就活意識”です。つまり仕事への意識が高いというより、就職先を決める活動への関心が強いという意味です。これが受験化しやすくなる要因のように思います。詳しく説明しましょう。

親世代にとっての大学受験は、学力試験を経て入学する「一般選抜」が当たり前という感覚でしょう。しかし、今や一般選抜で入学する学生は49.5%と半数を割り、過半数の学生は「学校推薦型選抜」や「総合型選抜(旧、AO入試)」で進学(※)しています。

「学校推薦型選抜」には公募制と指定校制の2種類あり、この2つはシステムが大きく異なります。公募制は「スポーツ実績や文化活動、取得資格など」を条件とするケースが多く、倍率には幅があります。一方、指定校制は校内選考で選ばれることが肝で、選抜されればほぼ合格です。「総合型選抜(旧、AO入試)」は、大学が求める学生像に合った人物を面接で選抜する形式で増加傾向にあり、今後も増加が予想されています。

同じ大学に進学しても合格までのルートは様々で、偏差値などの学力以外の基準でも合格を手にすることができる。比較的楽なルートと苦労するルートが存在し、それを知らないと損をするかもしれない。推薦や総合型選抜にも意義はあるのですが、学生から見れば、ルートによるお得レベルに違いがあるように感じるでしょう。この体験が、彼らの選抜イメージを形づくっています。つまり、仕組みを理解して、自分が対応できる効率的なルートを見つけることで、就活を攻略できる。そんな感覚を持っているように思うのです。

実際、今の就職活動は似た環境と言えます。採用直結型インターンシップ、早期選考につながるインターンシップ、早期応募が案内されるキャリアイベント、3月以降の本選考、他にも逆求人サイト(企業からオファーが来るスカウト型就活サイト)や新卒エージェントなど、内定を得るためのルートは多種多様です。「自分にとって最もメリットがあるのはどれか?そのために何をすればよいのか?」─ そんな攻略的思考になるのも理解できます。

攻略的思考は仕事でも生かせるので、否定されるものではありません。ただ、就職活動を攻略しようとすると、「より早く、より大手の内定を得る」ことが勝ちという認識になりかねません。早いタイミングからターゲット(志望企業)を決めて選考情報を集める。早期選考につながるインターンシップ情報を、SNSなどを駆使して収集する。そうして内定までの最短ルートを探す。近年の就活動向①~③は、こうした思考が背景の1つにあるのではないでしょうか。

④においても受験の影響を感じます。塾や予備校では個人データを元に、入試アドバイスを個別指導でおこなうことが一般的です。自分に適した学習方法の指導、条件に合った大学のピックアップなど、個別に提供されるのが当然という感覚で言えば、個別カウンセリングで自分に合った(?)企業を紹介してくれ、求める人物像を反映した面接トークをアドバイスしてくれる新卒エージェントは、今の大学生にとって親和性が高いのでしょう。

支援サービスを上手く使いこなしているのであれば問題ありません。しかし、新卒エージェントを利用できている学生は少なく、ほとんどの学生は利用されているように見えます。採用担当者→営業→カウンセラー→学生という情報伝達の途中で、大切な企業情報が少しずつ抜け落ちていく構図を、一部の新卒エージェントからは感じます。該当する内定学生がいる企業は、ぜひ1on1で改めて丁寧な面談をおこなうことをお勧めします。

「ついこの前までは大学受験だったのに、もう就職を考えなければならない。でも、自分のためなのでがんばりたい」(大学1年生のコメント)
「大学受験」を「高校受験」、「就職」を「大学受験」と置き換えても違和感はありません。1年生から就職に役立つ資格、スキル、大学生活について教えてほしいという相談は、珍しいものではありません。選抜を攻略するための具体的な手法があると思っているし、求めてもいるのでしょう。

「内定を1つ持っていれば余裕も出るので、倍率が高くない早期選考につながるインターンシップを口コミサイトで探しまくって応募した」(大学4年生のコメント)
このコメントからは本人のキャリア観は、まったく見えてきません。最短で内定を得るためのテクニックを語っているように聞こえます。内定を1つ獲得した後、改めて自身のキャリア選択について考えてくれればよいのですが…。

「就活は受験じゃない」「スペックの優劣だけで選抜しているわけではない」口でいくら説明しても経験したことのない感覚なので、本当に腹落ちする学生は、まれです。物事を理解するには、適した発達段階があります。幼児期に思春期の心の機微が分からないのと同じです。就職活動を経て、社会人として仕事をするようになって、初めて分かる感覚があるのでしょう。焦らずに成長を見守っていきたいと思います。

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執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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