第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
掲載日:2021/12/17
新型コロナによって、大学生活は大きな制約をうけました。制約と言っても、デメリットばかりではありません。オンライン授業やオンライン就活にメリットを感じる場面も多々ありました。新たな“対面とオンラインの特性を活かした大学生活”への期待もあります。しかし同時に、未成熟さを残している二十歳前後の学生が、オンライン生活で受ける影響を危惧する気持ちもあります。特に、数多ある有象無象のネット情報と、どのように付き合っていくのか……難しさを感じるケースが増えてきました。
就職活動で言えば“情報収集の偏り”が目立ちます。以前から、SNSや動画で選考対策や口コミ情報をチェックする方法が広がっていましたが、好まない学生層も少なからずいたので、意外と限定的でした。多様な情報の入手経路(ex.大学の友人や先輩、ゼミの先生やメンバー、キャリアセンターなど)も、対面による偶発性で確保されていたので、それほど偏らず、バランスを保てていたように思います。
しかし、“おうち時間”が増えたことをきっかけに、オンライン情報への偏重傾向が強まったと感じます。オンラインOBOG訪問など、本人が能動的に動いて得る情報はよいのです。懸念しているのは、眺めるだけで分かった気になるTwitterやInstagramなどのSNS情報、YouTubeなどのインパクト重視の動画情報です。本人の閲覧履歴が反映されやすい情報ポータルサイトでは、どうしても偏りが生じます。また、情報収集のオンライン偏重をうけて、「元採用担当者」「キャリアアドバイザー」などが情報発信する就活アカウントが目立つようになりました。多くは有益な内容ですが、中には「ちが~う!」と画面に向かって叫びたくなるような内容もあります(笑)。
例えば、あるアカウントでは、録画選考の心得として「内容よりも印象!」と明言し、視覚的アプローチ(ユニフォームを着てパフォーマンス、模造紙に「伝えたいこと」を書くなど)を紹介していました。人が評価する録画選考なら、それも1つの戦略ですが、視覚より内容を重視する企業だってあるはずです。人だけでなくAIも評価する面接システムでは、マイナス評価されかねないアプローチになります。このアカウント運営者は、元採用担当者という経歴でしたが、「自分が関わった企業の選考アドバイス」という情報の限定性を示していないことが気になります。
別アカウントでは、就活マナーのアドバイスとして、逆質問に回答してもらったあと「参考になります」と返すのは間違い!面接官が嫌がる言葉遣いです……と書いていました。これが“間違い”なら、何が“正解”なのか? 「勉強になります」だそうです。私の頭の中は「?」マークでいっぱいになってしまいました。学生を不安にさせる内容が多いこのアカウントは、オンライン専門の就活塾のものでした。
ある学生に、就活で参考にしたYouTubeチャンネルを尋ねたところ、人気タレントの動画を紹介されました。オンラインで見栄えする話し方、インパクトある話の組み立て方が勉強になるそうです。自分と似たタイプのタレントであれば参考になるかもしれませんが、見栄えやインパクトだけで内定が出るわけではありません。「こんなふうになりたい」という憧れだけで真似をすれば、イタイ就活生になってしまいそうです。SNSや動画の就活アドバイスには、奇をてらった内容が一定数存在します。鵜呑みにせず、自分で判断することが大切ですが、実社会の経験が乏しい学生には、簡単なことではありません。不安ゆえ、正解を求める気持ちが強く、断言してくれるアドバイスに傾倒しがちです。それが、実社会や社会人に対する誤解につながっていることも少なくありません。
年明けからは、23年卒採用が本格的に動き出します。学生と話をする機会も増えてくるでしょう。もし、情報の偏りや誤解を感じたら、異なる考えがあることを示してあげてください。信じていた情報と違うアドバイスで、混乱する学生がいるかもしれません。そんなときは、「複数の社会人が同様のアドバイスをする場合、マナーや習慣に該当する社会人として意識すべき内容。人によって異なるアドバイスは、その人が経験した仕事や業界の流儀に影響されているので、自分の好みで取捨選択して大丈夫」と、私は伝えています。
複雑で多様化した世の中です。すべての学生に当てはまるアドバイスは少ないでしょう。それを理解しながら学生と向き合い、意見の限定性を伝えることを大切にしています。そのうえで、学生自身の意思で、ものごとを取捨選択してもらうことが、ネット社会で生きていく彼らの社会的成熟を促していくように考えます。
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執筆者紹介
キャリアコンサルタント 平野 恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント