採用・昇格・人材・組織開発の日本経営協会総合研究所

第60回 面接で「第1志望です」と答える理由

掲載日:2020/02/17

もうすぐ3月です。新卒採用の“就活ルール(※1)”に従えば、広報開始となるわけですが、現状を見るかぎり、選考が本格的にスタートするタイミングと言えそうです。

ここ数年、選考の早期化が進んでいます。今年は東京オリンピックがあるため、昨年より少し早い内定出しが予想されています。同時に、長期化への備えも必要になるかもしれません。6月には学生ボランティアの研修がスタートするため、状況しだいでは、一旦就活をお休みにして9月から再開・・・という動きもあり得るからです。例年とは異なる動向が生じるため、これまで以上に先読みしにくい、不透明な採用活動になりそうです。

確実に採用人数を確保するため、同評価の学生なら志望度の高い、内定承諾が見込める学生を優先したい。今年はそんな気持ちが強まるかもしれません。とは言え、面接で学生の志望度を確認するのは極めて困難です。「当社の志望度は?」と聞かれたら、「第1志望です」と答えるのがパターン化しています。リクナビ問題のように“内定辞退率の予想”がビジネスになるぐらいです。志望度の見極めは難しく、それゆえ企業ニーズが高いのでしょう。

学生が異口同音に「第1志望」と答える風潮に、苦言を呈する方も少なくありません。正直に答える学生の方が好感を持てる、互いに無駄をなくすためにも正直に答えた方が有益だ、第1志望でなくても納得できる説明があれば問題ない・・・etc。確かにそのとおりです。しかし、評価が下がる可能性が全くないとも言い切れません。

ある学生は、うそはつきたくないと考え、正直に「志望度はまだ分からない」「他社の選考も受けたい」と伝えたところ、面接官の反応が明らかに悪くなった、と言っていました。実際のところは分かりませんが、学生がそう感じてしまう反応だったことは事実です。その学生は前回の経験を生かして、別の選考では「第1志望“群”です」と答えたそうです。そして「第1志望ではないわけですね」と突っ込まれ、以後すべての選考で「第1志望です」と答えるようにしたと言っていました。

コミュニケーションにおける国際比較をまとめた書籍(※2)によれば、日本人は世界でもっとも「直接的なネガティブフィードバック」を嫌うそうです。もともと日本のコミュニケーションは、文脈を深読みするハイコンテクスト文化なので、ネガティブな発言は極力間接的な表現にしがちです。ビジネスでも「できない」よりも、「困難です」「できかねます」といった表現を好みます。この文化に慣れている私たちが、「志望度は低いです」「少なくとも第1志望ではありません」と直接的に言う学生に、マイナス印象を持たずにフェアな評価ができるでしょうか。私には自信がありません(笑)。

面接官の価値観はさまざまです。どんな評価をされるか分からない以上、もっともリスクの少ない対応をするのは当然でしょう。マイナス評価をされる可能性があるのに、正直に答えろというのはムリな話です。「他社の選考状況は?」という質問も同様ですが、他社との比較につながる質問に、学生が率直に返答することは少ないでしょう。それは評価する側にも要因の一端があるのです。多くの学生は、意に反して「第1志望です」と答えることに、胸の痛みを覚えています。

もし、本気で学生の志望度を知りたいのなら、安心やメリットを提供する必要があります。例えば、最終面接の通過連絡をしつつ、内定取り消しがないことを約束したうえで志望度を確認すれば、リアルな気持ちを聞くことができるかもしれません。「当社が第1志望になるために、できることがあるかを考えたい」とアプローチすれば、本音を言うメリットになるでしょう。やり方はさまざまですが、安心やメリットがなければ、学生が本心を言うことはないでしょう。

「子どもは親を映す鏡」と言ったりしますが、同様に「就活生は社会人を映す鏡」なのでしょう。相手の反応を見ながら、手探りで最適解を見つけつつ、就職活動を進めていきます。学生の対応に疑問を感じることがあれば、自社の採用課題を見つけるきっかけになるのかもしれません。

  1. 2020年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請
  2. 『異文化理解力』エリン・メイヤー (著)

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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