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第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い

掲載日:2019/04/16

気遣いには、子どもの気遣いと大人の気遣いがあるように思います。そして、この2つの違いが、配属されたばかりの新入社員と先輩社員(もしくは上司)のあいだに軋轢や誤解を生じさせがちです。

一般的には、大人は面倒を見る側で、子どもが面倒を見てもらう側という関係になります。面倒を見てもらわなければならない立場だからこそ、子どもは「できるだけ迷惑をかけないように…」という気持ちになりがちです。相手の都合が良くなるタイミングまで(相手から声をかけてもらえるまで)我慢してじっと待ち、可能な限り相手の負担を軽減しようとします。これが子どもの気遣いです。また、自分から「見える相手」だけを対象とするのも特徴です。その場をコントロールしている人を見定め、様子や発言を観察して、できるだけ機嫌を損ねない言動を心掛けようとします。庇護がなければ、生きていくことが困難な“弱きもの”だからこその戦略と言えるでしょう。

この子どもの気遣いを職場に持ち込まれると、様々なコンフリクト(衝突)が生じます。職場のコミュニケーションは、お互いが大人同士であることが基本です。与えられた仕事を完遂するために、自分から相手にアプローチすることは当たり前で、手が空くのをずっと待っていたら、仕事になりません。職場のコミュニケーションは、自分からアプローチすることを前提に、その時の負担を少なくすることや配慮を示すことを重視します。それが大人の気遣いです。

例えば、結論から先に伝える、事実と意見は分けて報告する、いきなり話しかけずにクッション言葉(忙しいところスミマセン、など)を挟むなどは、大人の気遣いの一例でしょう。新入社員研修でよく教える内容ですが、彼ら自身が子どもの気遣いから抜け出していないと、せっかく得たスキルもなかなか活かすことができません。

子どもは自分の居心地の良さを重視するので、気遣いの対象が「見える相手」、なかでも自分と直接関係を持つ相手に限定されがちです。上司や仕事を教えてくれる先輩など、半径3メートル以内にいる人間というイメージでしょうか。社内のエレベーターであっても、気遣いの対象がいなければ、あまり配慮を示すことはありません。新入社員が開閉ボタンの操作をする素振りも見せずに、スマートフォンをいじりながら、エレベーターの一番奥に悠然と乗り込む様子を見て、苦笑したことが何度かあります。

一方、大人の気遣いは「見える相手」ばかりではありません。コミュニティー全体の居心地の良さを考える余裕があるので、自然と対象が広くなります。直接面識がなくても、仕事の前工程や後工程にかかわる人たち、施設を共有する他社の方々、ビルメンテナンス関係の方にも、自然な立ち振る舞いで配慮を示します。大人の気遣いができる人の周りには、おのずと人や情報が集まるでしょう。

子どもと大人という表現は比喩にすぎません。年齢を重ねた人でも、子どもの気遣いしかできない人はいますし、若くても大人の気遣いができる人はいます。一概に年齢で判断できるものではないでしょう。とはいえ、職場に配属されたばかりの新入社員は、周囲の助けをより一層必要とする立場のため、子どもの気遣いを優先しがちです。

仕事を依頼して、相談に来ることもないため、順調なんだろうと思っていたら、全く仕事が進んでいなかった。こんな場面に出くわしたら、「なぜ相談に来なかったのか」と詰問する前に、理由を聞いてみてください。気遣いの方向が間違っていたとしても、あなたへの配慮があったのであれば、それ自体は認めてあげてください。その上で、大人の気遣いを説明し、職場で求められる行動を示せば、次からは安心して相談に来るはずです。

新入社員は、思いもよらない言動をとることがあります。彼らなりの理屈や理由はありますが、子どもっぽいものが大半です。とはいえ、頭ごなしに否定するのではなく、意図を聞き、その上で好ましくない理由を説明していく必要があるでしょう。この時期、電話対応や商品知識を覚えることも大切ですが、まずは社会人としての有り様を伝え、スタートラインに立たせることが必要ではないでしょうか。

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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