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第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育

掲載日:2019/02/15

そろそろ大学の合格発表シーズンになってきました。推薦やAO入試などで、一足早く進学先が決まっている高校生も多いでしょう。読者の中には保護者として、入学手続きや新生活に向けた準備に忙しい方もいらっしゃるかもしれません。大学生のキャリア支援、就職支援にかかわっていると、家庭内におけるキャリア教育の大切さを実感します。就職活動に必要な情報は、大学で提供することができます。社会人基礎力などのスキル育成も可能でしょう。しかし、自律した市民生活をおくりながら、健全な心身を維持し、日々仕事に取りくむといった日常に根ざしたトレーニングは、家庭でなければできないことが多いのです。

最近は、大学1年次から社会的課題をテーマにした「PBL型授業(課題解決型学習)」が増えています。このとき、「子ども」という立場でしか社会と接触したことがなければ、課題を課題だと認識することすらできません。少しずつ、自律した市民として必要な情報や感覚を身につける必要があります。そんなことを、もうすぐ大学生の親となる私の同級生にペラペラとしゃべっていたら「簡単にできれば苦労はしない。具体的にどうすればいいかをアドバイスをしろ」と言われてしまいました(笑)。

以下の5つのアドバイスは、その同級生に伝えた内容です。大学入学年齢の社会的成熟度は個人差が大きいですし、各家庭における子どもへの接し方も異なります。家庭内キャリア教育の1つの事例として、参考程度にお読みください。また、低学年インターンシップが注目されつつあります。大学1年生(主に18才)という若者の日常を知る一助になれば幸いです。

1. 本人名義の銀行口座とクレジットカードをつくる
大学1年生にクレジットカードの有無を尋ねると、意外なほど多くの学生が「持っていない」と答えます。カードがなければ、モノを買うにしても、申し込み手続きをするにしても、親の管理下で行なうことが多くなります。自分で考え行動する自由を得るためには、本人名義の銀行口座とクレジットカードが必要でしょう。銀行手続きやカード選択も、できるだけ本人に任せることが大切です。

2. 個人専用のパソコンを与える
様々なことを調べて判断するには、ネット情報が欠かせません。家族と共有ではなく、自分専用のパソコンで自由に知りたいことを調べられる環境があるとよいでしょう。スマートフォンでもネット情報のチェックは可能ですが、操作に慣れるという意味でパソコンをお勧めします。キーボード操作が苦手という新入社員は意外と多いのです。

3. スマートフォンの機能制限を外す
高校生までは、課金制限などフィルタリング機能を使っているケースが多いでしょう。機能制限を外すのは、親からすれば不安かもしれません。しかし、いつまでも子供向けスマホにしておくわけにもいきません。大学入学というタイミングは良い機会になるはずです。また、携帯料金も個別に清算するなど、経済的な自律をうながすルールづくりも必要でしょう。

4. 家事を担う
性別に関係なく、1人で生活するのに必要なスキルを身につけることは重要です。下宿生なら必然的に家事をこなしますが、自宅生の場合、家庭内のルールが必要になります。些細なことに感じるかもしれませんが、快適な生活を支えるために必要な労働を担うことは、大人への自覚を促します。小さな「できる」の積み重ねは、自己効力感(※1)にもつながります。
「家事を担う」といっても、自分の手足をつかう以外の方法も認めたいものです。食事当番のとき、アルバイトで稼いだお金で家族全員分のお弁当を買うのも、1つの解決方法です。持っているリソース(資源)を活用して対処できたのなら、評価すべきでしょう。

5. 相談ごとには直接関与せず、解決方法を伝える
大学入学時は分からないことが多いので、相談ごとが増えがちです。このとき、直接関与することは避けて、解決方法を伝えるとよいでしょう。授業の履修方法(必修科目や選択科目など)が複雑で、親に相談したら、ほとんどやってくれたという学生が少なからずいます。親の方が経験値が高いので、やってあげた方が早いし、最善な選択ができます。しかしそれでは、本人の経験値は低いままです。回り道になったとしても、自分で調べて解決するトレーニング機会を奪わないことが大切です。

新入社員と接していると、「やってもらって当然」レベルが高いと感じることが多々あります。それだけ恵まれた環境で生活してきたのでしょう。このままの感覚で仕事現場に入れば、本人は無自覚のまま、受け身姿勢を指摘されることになります。親の関与を最小限にとどめて、自ら意思決定するトレーニングの必要性は高まっています。
大学入学というタイミングは、親子というスタンスから卒業するよい機会です。大人同士という関わり方を少しずつ意識することで、家庭内キャリア教育の実践につながるでしょう。

  1. 自己効力感(日本の人事部 人事キーワードより)

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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