採用・昇格・人材・組織開発の日本経営協会総合研究所

第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容

掲載日:2017/12/13

学生と話をしていると、「資格」という存在を意識させられることが多々あります。ここ数年は売り手市場で、強い不安を抱いている学生は少なくなりました。それでも就職を意識する時期になれば、「資格がなくても大丈夫ですか?」という質問を必ず受けます。ここで言う学生は、主に文系学生を指します。理系と異なり、文系の学問分野は、授業と仕事スキルを関連付けるのが難しいといえます。仕事イメージ自体が曖昧で、授業の“学び”とつながりをイメージしにくい…。ゆえに、それ自体が仕事スキルを保証している(と学生が考える)「資格」という存在に頼るのでしょう。気持ちは理解できます。

ちなみに、文系(主に人文社会系)の大学教育で、ビジネス社会で役立つ仕事スキルは獲得できます。東京大学・本田由紀氏の論文(※1)によれば、次のような授業が仕事スキルと相関があるそうです(一部抜粋)。

  • 議論やグループワークなど学生が参加する機会がある授業
  • 授業内容に関するコメントや意見を書く授業
  • 学んでいる内容と将来の関わりについて考えられる授業

参加型の授業によって仕事スキルの獲得が可能なら、資格に頼らず、学業ネタで自己PRすればよさそうなものですが、それはそれで簡単ではないのです。「面接でスゴイこと自慢は必要ない。日常的な出来事で大丈夫!」と言ってくれる採用担当者は多いのですが、1つ1つの変化が小さい日常のエピソードを説得力を持って伝えるには、高い言語能力が必要になります。イベント的な出来事の方が、よっぽど伝えやすいのです。

半期15回の授業で獲得できるのは、仕事スキルの種となる小さな気付きです。それを大学生活のなかでゆっくりと育み、やがて芽が出て、日々の人間関係の中で徐々に枝葉を伸ばしていきます。1つずつの成長ステップはごく僅かなので、本人も成長の要因に気づいていないことがよくあります。「大学生活で成長した実感はあるけど、これといって話せるエピソードがない」。結局、自己PRのエピソード作りのため、イベント的な活動をはじめたりするのです。

意外といっては何ですが、選考における学業の話題は、他の話題よりも高いことが分かっています。(※2)この調査結果によれば、「面接現場における話題の状況」として、学習(研究)3.1割、サークル体育会2.2割、アルバイト1.7割、趣味1.5割、その他1.5割と、学習(研究)が最も高くなっています。とはいえ、学習(研究)に関する質問は深掘りしにくいため、共通話題になりやすいサークルやアルバイトといったエピソードに頼ってしまう可能性も指摘されています。

大学の授業は、この10年でずいぶん変化しました。グループワークや双方向性のアクティブラーニングは、ほぼ全ての大学で実施されているので、ワークへの参加態度など、新しいアプローチで学業への質問をしてみてはいかがでしょうか。これなら深掘り質問もしやすいはずです。

想定質問をいくつか挙げてみます。

  • グループワークや双方向性の授業をどれぐらい履修したか、その理由
  • グループワーク時の自分なりのコツや心掛け
  • グループワークで担うことが多い役割(立場)と、メンバーからの評価
  • 気の合わないメンバーとの関わり合い方
  • 反論意見があるときの対応
  • 自分の意見にメンバーから反論があったときの対応
  • グループワークの好きな点、嫌いな点

授業時のグループワークを見ていると、チームで仕事をするのに支障がありそうな態度の学生もいます。一方で、小さな配慮の積み重ねで全メンバーから頼りにされている学生もいます。選考時のグループディスカッションは、すでに就活モードに入っているので、日常的な様子とはいえません。参加型授業における態度や行動を知ることができれば、普段着の彼らを垣間見ることができるでしょう。それは、職場に入ってからの日々の様子と重なるはずです。

  1. 『人文社会系大学教育の分野別教育内容・方法と仕事スキル形成』
  2. 濱中 淳子・大学入試センター 独立行政法人経済産業研究所
    『「大学教育無効説」をめぐる一考察』

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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