第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
掲載日:2017/10/13
就職活動を終えた学生が、内定者と呼ばれる時期になりました。入社は決まったけど、まだ社員ではない。期待と不安が入り交じった、不安定な時期でもあります。社会人になることで、これまで築いてきた“自分らしさ”を失ってしまうのかも…。学生と話をしていると、そんな揺れ動く気持ちを、感じることが多々あります。自分らしさへの喪失感が、内定者の不安の一因でもあるのでしょう。
20代の社会人調査(※)で、「仕事に求めること」をきいたところ、約4割の人が「自分らしい生活ができること」と答えています。社会人として、自分らしくあることは、望みつつも、難しいことでもあるようです。
先日、社会人1年目の元学生と、久しぶりに会いました。元気は元気なのですが、職場で自分らしさが発揮できないストレスを、元気いっぱいに語ってくれました(笑)。仕事経験も、社内ネットワークも乏しい新人が、仕事で自分らしさを発揮するには、もう少し時間がかかるでしょう。それより気になったのは、言葉の端々に感じる「言いたいことが言えない」ストレスです。職場で「自分の考えや意見を気兼ねなく言うことが難しい」そうです。「私の意見は違いますって、率直に言えばいいじゃん」とアドバイスしたら、「仲の良い先輩には言えても、上司には言えませんよ」と一蹴されてしまいました。
自分の意思を、相手に伝えることができない。これは“自分らしい”という感覚を保持する上で、大きな障害になります。結局、彼のストレスの要因も、ココにありました。相手の立場(役職)や年齢に関係なく、言いたいことが言えるか否かは、社会人の自分らしい生活に大きな影響を与えているようです。自分の言いたいことを、適切に相手に伝えることがでれば、内定者であっても、新人であっても、自分らしくいられる可能性は高くなる。まぁ、理屈ではそうなのですが、学生の普段の対応を見るかぎり、これは相当に高いハードルといえます。
気兼ねなく言いたいことが言える親しい友達以外、自分の意見を言いたがらない。そんな学生が増えていると感じます。自分の意見が否定されることを恐れ、言いたいことを飲み込み、その場を丸く収めようとします。もしくは、できるだけ空気を読んで、相手の望む答えを述べようとします。また、学校社会には、先輩後輩という学年主義が、意外と色濃く残っています。1つでも上なら、何も言わずに従うといった、中学・高校の部活動的ルールが、もの言う行為を必要以上に阻害します。
友達でもなく、他者でもない。年齢の異なる“知人”という距離感の相手に、自分の考えを理解してもらう行為を、彼らはほとんど経験したことがありません。大学生同士のグループワークでも、学年を確認してから、メンバーの顔色を伺いつつ、慎重に言葉を選んでいきます。相手と言葉を交わす前から、何かを察し、望むことや、失礼にならない発言を選別する。そんなことは不可能です。過剰な気遣いは、ストレスになります。彼らが、他者との関わりを避けたがる気持ちも理解できます。
職場の人間関係も、同様の難しさがあります。慣れない関係性に、適切なスタンスが分からず、妙に馴れ馴れしい発言をしてしまったり、逆にいつまでも他人行儀な対応だったり…。ほどよい距離感で、社員と話すことに苦慮している内定者もいるでしょう。親密でもなく、赤の他人でもない。そんな職場という人間関係のなかで、相手の立場(役職)や年齢に関係なく、自分の考えを適切に伝えることができるスキル(対話力)は、確かに高いハードルです。しかし、“自分らしさ”を失わない社会人でいるためには、乗り越えたいハードルでもあります。
内定者の中身は、まだ半分以上が学生です。社会人同士なら当たり前の感覚も、身に付いていません。不文律が成立しないからこそ、互いを言葉で理解し合う、対話の良いチャンスです。「私はこう思う、あなたはどう思うか」と、こちらから適切な対話を示してあげてください。少しずつ、言いたいことを伝える対話力が、彼らに身に付いていくでしょう。
自分の言いたいことを、適切かつ明確な言葉で伝え合う行為は、察することの多い日本文化には、馴染みが薄いものです。「実は、自分も得意ではない」と感じている社会人がいるかもしれません。もしそうであれば、内定者とのコミュニケーションは、社会人であるあなたにとっても、自分らしくいるための対話トレーニングになるかもしれません。職場のなかで、自分らしくいられる感覚は、組織にとっても良い影響があるのではないでしょうか。
執筆者紹介
キャリアコンサルタント 平野 恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント