採用・昇格・人材・組織開発の日本経営協会総合研究所

第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い

掲載日:2015/04/13

学生のふとした行動を見ていて、「なるほど~」と彼らの特性に思い至ることがあります。今回は、グループワークを見ていて納得した思考・行動パターンをお伝えします。学生に実施してもらうキャリアワークの1つに、チームでレポート作成するといったものがあります(採用とは全く関係のないものです)。

チーム分けやスケジュールなど、一通りの説明が終わった後は、ほぼ学生にお任せでワークを進めていきます。すると、始まってそこそこに役割分担をし始めるチームが出てきます。厳密に言えば、役割分担ではありません。パート分担です。メンバーが6人なら、スペースに配慮して全体を6等分します。次に、おもむろに“ジャンケン”をして、勝った人から自分のパートを決めるのです。話し合いはこれで終了!ものの10分もかからずに終わるチームもあります。私が「まだ時間はあるよ。話し合い終了で大丈夫なの?」と聞くと、満面の笑みで「完璧です!」と返事をしてくれました。結局このチームは、各自の完璧な個人作業でチームレポートを完成させました…。

自分たちはレポートで何を伝えたいのか。それを踏まえて、どの項目に一番注力すべきなのか。どこに行けば必要な情報は得られそうか。調べる方法は他にないのか。データ集計やグラフ作成といった実作業が得意な人はいるのか…。話し合いを通じて、さまざまな意見を出しあい、考え、決断したうえで、メンバーの強みや個性を生かした役割分担…というのは、あまり見たことがありません。

少しグループワーク慣れしたチームだと、持ち寄った情報をもとに会話が成立します。喧々諤々とした話し合いではありません。それぞれの意見を発表しあい、感想を述べる程度です。その後、おもむろに“多数決”を行ない、支持が一番多かった人の意見が採用です。レポート制作は粛々と進んでいきます。A意見とB意見を比較したり、共通性を見いだしたりしながら、別案を考え、クリティカルな意見も加味して、新しいCという意見を生みだす…と言うような生産性の高い話し合いは、稀だと言えるでしょう。

蛇足ですが、前述の様子はイメージしやすいように少し単純化して伝えています。ちゃんとした話し合いになっているチームも存在します。それでもあえて言い切るとすれば、学生の話し合いは「ジャンケン」と「多数決」で進んでいくと言えます。この思考・行動パターンから感じるのは、「(半径3m以内の)過剰な気配り」と「個性尊重のルール」です。

「(半径3m以内の)過剰な気配り」は、スクールカーストのなかで、いじめに遭うことなく平穏無事に過ごすために、彼らが身につけてきた処世術です。以前“褒め言葉を書く”というワークをやったとき、「相手次第で、カワイイも褒め言葉にならないので書けない」と言ってきた学生がいました。それだけ相手の好みや状況を把握した上で、不快にさせない、慎重かつナーバスな対応をしているのです。コミュニケーションに相当な気力と体力を要するのも理解できます。できるだけ初対面の人との会話を避け、半径3m以内の関係性にとどまりたくなる気持ちも分かります。

「個性尊重のルール」という言葉は、それ自体にあまり問題は感じません。気に掛かるのは、個性が意味する範囲が幅広いということです。先天的に変わりにくい気質や価値観などを、個性として尊重することに何の異論もありません。ただ、グループワーク時の意見も個性であり、それを否定するのはアンタッチャブル!…では話し合いが成立しません。意見に対する反論は、個性の否定とは異なります。(言い方に配慮は必要ですが)反論によって話し合いはより深まっていきます。個々の意見まで個性と捉えていては、互いに触りにくくなってしまいます。

2つの思考・行動パターンを踏まえれば、「ジャンケン」と「多数決」は、初対面同士の話し合いにおいて最強の道具と言えます。互いの顔色を見ながら、気力と体力を酷使する必要がありません。自分の意見が採択されないことはあっても、否定されることもありません。合理的な決め方であり、彼らの理屈に合った方法と言えます。しかし、ビジネスの理屈には合いません。相手の満足を得ることでビジネスは成り立ちます。その“相手”は、自分と親和性が高い人ばかりではありません。自分の個性(≒意見)を尊重してくれる人ばかりでもありません。ビジネスでは、多様な相手を満足させる必要があります。半径3m以内の部分最適ではなく、ステークホルダー全体を踏まえた全体最適を考える視点が必要でしょう。

この春入社した新社会人も、そろそろ研修を終え、配属される頃でしょうか。学生の思考・行動パターンから脱却するには、日々のOJTが有効でしょう。もし思い当たる点があれば、OJTの育成ポイントの1つに入れていただければ幸いです。

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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