第23回 単語化するコミュニケーション
掲載日:2013/12/12
学生相手の仕事をしていながら、あまりに遅いのかもしれませんが、半年ほど前にやっとLINEデビューを果たしました。学生同士のコミュニケーション手段として、圧倒的なシェアを誇るSNSです。当然、数年前から気にはなっていました。しかし、学生とのやりとりも、仕事と同様にメールで困ることがなかったので、はじめる理由がなかったのです。
きっかけは、複数の学生から、当たり前のようにLINEのIDを渡されたことです。ここまでインフラ化が進んでいるのなら、避けて通るわけにもいきません。「学生もすなるLINEといふものを、我もしてみむとてするなり」といった気分でしょうか。
利用してみて、流行る理由がよく分かりました。圧倒的にラクなのです。しかもスピーディです。これは、短い言葉とスタンプのみでコミュニケーションが成り立つからでしょう。もともとLINEは、長文によるコミュニケーションを想定していません。入力スペースで目視できる文字数は、iphoneで24文字のみ。ワンセンテンスすら入りきらないような文字数です。ここでのコミュニケーションは“ワンフレーズ”、いや“単語”が基本といってよいでしょう。
単語化した言葉の応酬で成り立っていくスピーディーなコミュニケーション。しかも、複雑な心理描写は、表情豊かなスタンプが補ってくれます。場合によっては、スタンプのみでもやりとりが成立する…。LINEは、多少の言語は使いつつも、表情や態度で気持ちを伝える非言語(ノンバーバル)コミュニケーションに近いものだと言えるでしょう。この点が、大きな魅力であり、受けている要因の1つだと感じます。
便利なコミュニケーション手段は、その便利さゆえにリスクが生じます。個人的な感覚として危惧している点が2つほどあります。1つは、コミュニケーション意欲の低下。そしてもう1つが、行動意欲の抑圧です。
LINEのメリットを十二分に発揮できるのは、単語化したフレーズとスタンプで成立するコミュニケーションに限られます。それで伝えきれない事象は、主語と述語のある構造化された文章の組み合わせで、話すか、書くか、しなければなりません。それは、単語化したコミュニケーションより圧倒的に面倒です。
そもそも、彼らの大学生活は、かなりの範囲がすでに単語のみで成立しています。大学の窓口に行けば、職員から「何か用ですか?」と声がかかります。学生は、用紙を差し出し、「これ…」と言いさえすれば良いのです。確認すべきことは、向こうがどんどん質問してくれます。学生は「はい」「いいえ」と返事をしていけば、問題なく用事はすんでしまいます。
リアルな大学生活だけでなく、言語が基本のネット上でも、非言語(ノンバーバル)と単語化したコミュニケーションが可能になってきました。それで満足した生活が送れるのであれば、複雑な現実や、内面にある思考をわざわざ言語化して説明しようとは思いません。避けて通れる面倒は、避けるものです。言語を駆使したコミュニケーションを厭うようになる。これが私の考える「コミュニケーション意欲の低下」です。
もう1つの「行動意欲の抑圧」というのは、単語化したコミュニケーションが、彼らの行動範囲を限定してしまうことを意味します。
英語が苦手な私は、おのずと行動範囲が制限されます。日本語が通じるエリアでしか、生活も仕事もできません。それと同じようなことが、彼らにおきていると感じるのです。単語化したコミュニケーションが通用するのは、親しい人間関係に限られます。その外に出るには、言語で自分の状況や意思を明確に伝える必要があります。これも彼らからすれば面倒なことでしょう。結果として、今の人間関係に留まる学生が増え、自分の行動範囲を広げようとしない。そんな気がします。
実際、就職活動では、その傾向が見られます。先日、ある学生が「OBOG訪問は怖くてムリ」と言っていました。理由は、言葉遣いに自信がないからだそうです。OBOG訪問が有益なのは分かっていても、実行する学生は年々減り続けています。社会人にメールを送る、電話をする、直接会話をする、という行為は、学生にとって相当に高いハードルです。単語化したコミュニケーションに慣れすぎた彼らは、実社会との接触を避けたがる。そう感じています。
就職活動が本格的に始まりました。これまで避けて通ってきた面倒なコミュニケーションと、否が応でも向き合わざるを得ません。言語は、耳で聞いて、その文脈のなかで意味や活用方法を身につけていくものです。就活生との交流では、できるだけ私から話しかけてみようと思います。しかし、そういう私自身も、コミュニケーションの単語化がすすんでいるのかもしれませんが…。
執筆者紹介
キャリアコンサルタント 平野 恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント