採用・昇格・人材・組織開発の日本経営協会総合研究所

第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ

掲載日:2011/12/05

少し前の話になりますが、日本経済団体連合会が「新卒採用(2011年3月卒業者)に関するアンケート調査結果(※)」を発表しました。それによれば、選考時に重視した要素として、「コミュニケーション能力」が8年連続で第1位となったそうです。職場でも、さまざまな人間関係に悩まされる時代です。新入社員として迎え入れる学生に、コミュニケーション能力を強く求めるのも、当然といえば当然でしょう。同時に、不安がそれだけ強いとも言えそうです。

選考で重視されるコミュニケーション能力ですが、最近の学生を見ていると、評価する難しさを感じています。
その主な理由を、3つの視点からまとめてみました。

①ステレオタイプな「コミュニケーション能力」に捉われすぎる学生

学生がイメージするコミュニケーション能力は、初対面の人にも明るく話しかけられる、すぐに友達をつくれる、人前で発表することが得意、といったイメージに偏りがちです。
明朗快活という言葉で表現されるステレオタイプな人物像と言ってもいいでしょう。

しかし、人と信頼関係を築き、つながれる力には、さまざまあって良いはずです。自分のスタイルで他者とかかわり、信頼を得られれば、それがその人のコミュニケーション能力と言えるのではないでしょうか。
にもかかわらず、学生はステレオタイプなコミュニケーション能力に、無理やり自分を当てはめようとします。もしくは、自分にはそんな能力などない、と勝手に社会不適応の烙印を押して、就職から目をそむけようとします。

ステレオタイプに捉われがちのは、学生だけではないかもしれません。ネットの活用によって、膨大なエントリー学生を、一斉に選考する「マス採用」が主流になりました。「マス採用」では、効率が求められますから、安易なコミュニケーション能力に目がいきがちです。「マス採用」で留意したい点の1つでしょう。

②就活はゼロサムゲームだと考える学生

学校内での評価は、テストによる順位付けで決定します。自分の順位が10位上がれば、誰かの順位が(トータルで)10位下がるわけです。その理屈に慣れている彼らは、就職活動にも、このゼロサムゲームがあてはまると考えがちです。つまり「相手の損は、自分の得」というロジックで就活にのぞむのです。

しかし、実社会はもっと複雑です。互いにメリットを分け合うwin-winの関係も多く存在します。オープン&シェアが多くのメリットを自分に提供してくれる可能性を、学生はあまり理解していません。頭で理解していても、自分の就活に、それが適応されるとは思い至りません。

「これで、他学生を一歩出し抜けた」「このエピソードは他の学生と比べてどうか」。閉鎖的に、相対評価ばかりを気にする学生が、実社会で通用する「コミュニケーション能力」を身につけているとは思えません。誰よりも優れた「コミュニケーション能力」を見せ付けて、他の学生を圧倒させよう。その心情に、何か矛盾めいたものを感じてしまいます。

③誇張したアピールが常態化している学生

就職留年(浪人)の増加。グローバル人材への要望。メディアが報じる厳しい就職環境は、学生のプレッシャーをギリギリまで高めています。そして、そのプレッシャーを、前向きなエネルギーに変えられる学生ばかりではありません。

「盛らなきゃエントリーシートは通過しない」「就活キャラになりきって面接を受ける」。これらは、先輩から聞いた就活アドバイスだそうです。
アルバイトのエピソードを言うと落とされる。数字で表せる客観的な成果がないとダメ。何か資格がないと内定は無理。専門知識を持ってないので就職は難しい。就活中は、まことしやかに、さまざまな情報が流布されます。これらの情報に翻弄され、不安にさいなまれた学生は、先輩の甘言(就活アドバイス)に流されます。内定した学生のエントリーシートをほぼそのまま書き写す、面接で別キャラを演じきる、といった方法で就活を突破しようとするのです。

全ての学生ではありませんが、一部の学生におけるモラルハザードは深刻なレベルにあると感じます。この感覚のまま、社会人となり、経済活動を行えば、大きなトラブルを招きかねません。この現象において、正されるべきは学生です。一方で、そこまで歪んだプレッシャーを与えている世相にも疑問を感じます。

2013年卒の採用がスタートしました。2ヶ月繰り下げられたスケジュールによって、短期決戦が予想されています。そのため、例年以上に学生の不安は高まっているようです。
ステレオタイプなコミュニケーション能力に自分を当てはめ、ゼロサムゲーム感覚で、就活用キャラになりきって自分を誇示する。そんな空虚な選考が行なわれないよう、願わずにはいられません。

  • 同会企業会員対象の無記名式アンケート
    有効回答数545社、調査期間2011年7~8月(9月28日発表)

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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