採用・昇格・人材・組織開発の日本経営協会総合研究所

第7回 学生から社会人への育て方

掲載日:2011/04/06

このたびの東日本大震災にて被災された地域の皆さま、関係の皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
震災以降メディアからは、不安や哀しみを伝えるニュースが、連日のように報じられています。しかし、明るさや希望を感じる日常も始まっています。

4月の新年度スタートとともに、全国で数多くの新社会人が誕生しました。新入社員研修などを経て、皆さんの身近にも新人が配属されていくでしょう。こんな時期だからこそ、将来を担う新人たちをしっかり育成しようと、感じられている方も多いのではないでしょうか。

学生が社会人になるということは、とても大きな変化です。その変化のなかで、彼らはさまざまなギャップに直面していきます。新人が感じやすいギャップを、3つほどまとめてみました。

1つは、消費者と提供者という立場のギャップです。今まで、モノやサービスを享受する「消費者(お客さま)」の立場しか経験してこなかった彼らが、「提供者」になるのです。簡単なことではありません。クレームで好条件を引き出すという消費者行動を、社内でやれば、「文句ばかり言う」「できない理由ばかり並べる」と言われかねません。これまで、自分を有利にしてきた行動パターンが、全く通用しない。それどころか、否定的に受け止められてしまう。「提供者」として求められる行動パターンとのギャップに驚くのです。

また、「分かる」と「できる」のギャップも大きな障害です。研修で分かったことが、できるようになるまでには、意外と時間がかかります。新しい習慣が完全に身に付くには、3~6ヶ月かかると言われています。しかし、周囲も本人も、理解したことはすぐにできる、もしくはできて当然、と思ってしまいがちです。そして「分かる」と「できる」のギャップに、周囲も本人もイライラして、ストレスを溜めていくのです。

最後は、「志望動機」と現実とのギャップです。面接で「志望動機」は、必ず聞かれる質問と言っていいでしょう。学生は、何度も答えるうちに入社意欲が高まり、その気になっていきます。そして、内定が出たということは、自分の「志望動機」に少しは見るべきものがあるのだろうと思うのです。しかし、仕事経験のない彼らが語る「志望動機」は、絵に描いたモチでしかありません。現実は、それほど単純ではありません。配属も仕事内容も、自分の「志望動機」とはかけ離れていた。そんな厳しい現実を、多くの新人が味わうことになります。

様々なギャップを、新人は数ヶ月かけて、もがきながら乗り越えていきます。与えられる仕事も、しばらくは基礎トレーニングのような、地味で目立たないものが続きます。そんなシンドイ毎日を乗り越えるには、モチベーションが重要です。新人によく効くモチベーションの1つに、「こんな人になりたい」と思える先輩や上司との出会いがあります。

もし身近に新人が配属されたら、ぜひ「こんな人になりたい」と思われる、かっこいい先輩(上司)になってあげてください。仕事のスキルを教えるのは、それからでも充分間に合います。彼らの「かっこいい先輩(上司)」になれれば、成長に必要な耳の痛いアドバイスでも、彼らはちゃんと受け入れるはずです。

「かっこいい先輩(上司)」と言われても、具体的にどんな先輩(上司)なのか?当然、答えは1つではありません。就活生と接している私の立場で感じるのは、仕事に対するプライドです。自分たちの仕事が、どんな風に社会の一端を担っているのか、どんな影響を与えているのかということを、誇りを持って語る姿に、強いあこがれを抱くと感じています。
仕事の合間や、ランチ後の雑談でいいのです。新人と話をする機会があれば、自分が考える、働くことへの想いを語ってみてはいかがでしょうか。

「かっこいい先輩(上司)」が身近にいることは、新たな「働く動機」を築くことにもつながります。あこがれる先輩(上司を)通じて、入社前の「志望動機」を、現実とすり合わせた「働く動機」に再構築していくのです。現実と折り合える「働く動機」が得られないと、入社数ヶ月で「自分のやりたいこととは違った」と言って、辞めてしまう場合もあります。先輩(上司)を通じて、新たな動機を再構築するというステップは、配属されてからしかできない、とても重要なステップではないでしょうか。

コピーライター糸井重里さんの言葉に「魚を飼うということは、水を飼うということ」というものがあります。新人を成長させるには、人を中心とした周囲の環境が最も重要なのかもしれません。

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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