採用・昇格・人材・組織開発の日本経営協会総合研究所

第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?

掲載日:2010/06/08

「面接で泣いちゃう男子学生をどう思いますか?」
5月下旬、知人の新聞記者から、こんな質問を受けました。

新卒採用の取材中、ある中堅企業の人事から、面接中に泣き出してしまった男子学生の話を聞いたらしいのです。特に圧迫面接をしたわけでもなく、これまでの就職活動について質問しただけ。それなのに、男子学生は急に涙ぐみ、それ以後、面接にならなくなってしまったそうです。(まぁ、男女関係なく、面接で泣いた時点で結論は出ていたと思いますが…。)

「男子学生が泣くって、そんなに驚きますか?」それが私の最初の感想です。確かに面接の場で泣くというのは、少し特殊かもしれません。ですが、男子学生が泣くこと自体に、私はあまり驚きを感じなくなっています。

記者の話はさらに続きます。
取材した人事担当者の多くは、男子学生の元気の無さが目立つと言い、ため息混じりに、採用活動中の出来事を話してくれたそうです。いわく、営業を避けたがる。どうしても営業と言うなら、ルート営業がイイと言われた。飛び込み営業はムリと断言された。経理や人事など、内勤の専門職種を希望する男子学生が多い。一般職に応募することは可能かと質問された。

面接で泣き出す、営業を嫌がる、一般職にあこがれる…。
確かにこれだけ聞くと、昨今の男子学生に対して、嘆きたくなる気持ちはよく分かります。

大手企業の採用がひと段落したこの時期、就活を継続している学生は、すでに多くの負け戦を経験しています。エントリーした会社からは立て続けにお祈りメールをもらい(※1)、持ち駒も少なくなり、企業選びの方向性すら見失っている、そんな状況でしょう。

『今の学生はストレスに弱い』というご意見もあるかと思います。確かにそういう一面を感じることが私にもあります。ですが、今は就職情報サイトによって、アプローチする企業数が飛躍的に多くなっています。しかも、今年は就職氷河期の再来といわれ、危機感から100社以上エントリーしている学生も大勢います。30社以上にエントリーシートを提出(※2)したり、人気アイドルのチケット並に激戦と言われる会社説明会の予約をとったり、みん就(※3)などで選考連絡の状況を確認しつつ今か今かと待ち続けるような生活が、5か月近く続いているのです。その結果、内定ゼロだとしたら、誰でも精神的にきついのではないでしょうか。(社会人でも、半年近く新規営業し続けて、受注ゼロって厳しくないですか?)

それでも、折れそうになる心を必死で支えながらなんとか内定を得なければと強いプレッシャーを感じながら就活を続けているのは、女子学生よりも男子学生に多い気がします。また、一生勤める企業を探すために、慎重に企業選びをしているのも男子学生に多いと感じています。

今の男子学生には、育ってきた背景に男女のタブーがあまりありません。シンクロナイズドスイミングや新体操にも男子部がある時代です。「男の子なんだから~」「女の子なんだから~」という表現で、行動に規制をされることも少なかったのではないでしょうか。そうした環境では、男が泣くのは恥ずかしいことだという価値観自体、もう古いのかもしれません。男が泣いたっていいじゃないという訳です。

しかし、そうしたジェンダーフリーの彼らも、職業観・就労観については古風な価値観を拭い去れてはいません。家族をちゃんと養える会社に入らなきゃ、一生勤め上げる会社を選ばなきゃといった根強い想いがあります。だからこそ、就活で失敗するわけには行かないし、新卒というブランドを活かせるこのタイミングでしっかりした会社に入らなきゃ、という強いプレッシャーを感じているのです。

育ってきた環境では、性別上の社会的役割を求められてこなかったにもかかわらず、就活という進路選択を前に、男性という役割を果たそうと、必死にがんばっている彼ら。でも、そのギャップが大きすぎて、背負いきれない男子学生も少なからずいるのでしょう。そんな男子学生から、先日就活の相談を受けました。一生懸命に感情をコントロールしながら、必死に涙をこらえ、これまでの就活について語る男子学生。相当へこたれているにも関わらず、夏までには決めたいと、これからの就活について相談する姿を間近で見ていると、心底応援したくなりました。

確かに社会経験が少なく、幼く未熟な学生も多いと思います。でも、そこから成長しようと手を伸ばしている学生がいたら、その手を掴み、引き上げていくのも私達大人の役目なのではないでしょうか。 

  1. 落選時のメールの結びに、必ず○○さんの今後のご活躍をお祈り申し上げますと書かれていることから、落選の連絡のことを「お祈りメール」「祈られた」などといった表現で表す学生言葉。
  2. 真っ白なスペースにあなたを自由に表現してくださいといったテーマが出されるような、かなり手間のかかるエントリーシートもあります。また、全て手書きで5枚に及ぶものを提出しなければならない企業もあります。
  3. 『みんなの就職活動日記』が正式名称。就職活動における情報交換を目的としたネットワークサイト。「○次選考の通過連絡がありました!」などの書き込みで、選考の連絡状況を確認し、自分に連絡がくるタイミングを予想している学生も多い。

執筆者紹介

キャリアコンサルタント 平野 恵子

キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。国家資格 キャリアコンサルタント

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