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第5回 なぜ他者に対して寛容でいられないのか

掲載日:2018/06/11

第4回 で示したとおり、誰しもダイバーシティの当事者になり得る。子育てや介護、あるいは自分自身の病気などで会社や職場のサポートを受けることがあるかもしれない。海外赴任をすれば、自分を受け入れるために周囲の人たちがさまざまなサポートをしてくれるだろう。つまり、私たちが働く上で、サポートを受ける側になることもあれば、サポートをする側になることもある。
しかし、自分がいつかサポートを受ける可能性があるにも関わらず、サポートをする側が、サポートを受けている人に対し、「不公平感」や「不満」がたまっているのも事実である。具体例としては、

  • 産休育休中の従業員の代替要員の補充がなく、残りのメンバーで業務をカバーし、業務負荷が増えている。
  • 業務内容や業績は同じ程度なのに、年齢層が高いだけで、給料が倍近く開いている。
  • 「子どもの急な病気」で頻繁に休暇を取る。そのフォローや出張は独身者に回ってくる。
  • 「親の介護」が大変なのは理解できるが、いつまで仕事をセーブするのだろうか。

「お互いさま」の気持ちで、みんなでサポートしようと思っているはずなのに、一方で、サポートを受ける人に対して「不公平感」や「不満」を溜めたり、「嫌味を言う」「嫌がらせ」をしてしまう人がいるのはなぜだろうか。その理由として、サポートをする側の気持ちの「ソフト面」と、職場環境などの「ハード面」との両面で整理してみよう(表1)。

(表1)サポートを受ける人に対する「不公平感」を感じる理由と改善策

不公平感を感じる主な理由 改善策
ソフト面 ・自分で精一杯で、他者を思いやる余裕がない
・サポートを受ける人の困りごとが分からない
自分自身の状況を理解する
サポートを受ける人が「できること」
「できない(助けてほしい)こと」を聴く
ハード面 ・業務負荷が増える
・サポートしたことが評価されない
増員や多能工化を検討する
業務内容を優先順位で絞り込む
サポートしたことを上司が評価する

今回は、サポートを受ける人に対して「不公平感」を感じる理由として、サポートする側の気持ちのメカニズムを考えてみよう。
私たちには、「自尊感情」がある。「自尊感情」とは、この自分を好きという感情、自分を大切に思う感情、自分の存在を肯定する感情である。私たちは、「自尊感情」が傷つけられる危機が発生したとき、他者を攻撃することにより「自尊感情」を保持しようするメカニズムがある。「コントロール感」とは、自分であることを制御できていると思える感覚を指す。「自尊感情」と「コントロール感」「他者への対応」は密接な関係にある(表2)。 

  • 「自尊感情」が高いと、「コントロール感」が高く、他者に対して思いやりが持てる。
  • 「自尊感情」が低いと、「コントロール感」が低く、他者へ不満をぶつけたり、嫌がらせに発展することがある。

(表2)「自尊感情」と「コントロール感」「他者への対応」との関係

自尊感情 コントロール感 他者への対応
心に余裕があり、他者に対して思いやりが持てる
心に余裕がなく、自分のことで頭がいっぱいになる。
他者との違いや不公平感を許すことができず、他社にどう思われるかが気になる。

「仕事が忙しすぎて心身ともに休めない」「次から次へと仕事が回ってきて、何をしているのか分からない」などの状況では、私たちの自尊感情は低い。そんなとき、サポートを受けている人に対して不公平感を感じたり、嫌味のひとつも言いたくなる気持ちになることが推定される。では、 「自尊感情」を高めるためにはどうしたらよいだろうか。

  1. 自分の強みも弱みも認めたうえで、自分の強みを生かす。
  2. 他者に関心を持つ。他者の人となりを受け入れる。
  3. 他者からの評価・アドバイスを素直に受け取って、自分の強みに気づく。

これらは、まさに「自己受容と他者受容」である。

次回は、「自己受容と他者受容」を紹介する予定です。

第5回のまとめ

  • 私たちが働く上で、誰しもダイバーシティの当事者になり得る。サポートを受ける側になることもあれば、サポートをする側になることもある。
  • 「自尊感情」が低いとき、「コントロール感」を失い、他者に不満をぶつけたり、嫌がらせに発展することがある。「自尊感情」を高めるためには、「自己受容と他者受容」が必要である。

執筆者紹介

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査、ダイバーシティ意識調査、パワハラ実態調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認不正検査士(CFE) 経営倫理士(第15期) 産業カウンセラー

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