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第4回 ダイバーシティ制度が使いにくい本当の理由

掲載日:2018/05/10

ダイバーシティの時代を迎え、会社では社会や法令の要請だけでなく、従業員の生産性向上や福利厚生のために、ダイバーシティに関するさまざまな制度の整備が進められている。しかし、必要な人が「使いにくい」との意見が挙がっているのも事実である。
まずは、具体例として、育児休業取得率(表1)と育児休業取得希望者の割合(表2)を見てみよう。

育児休業取得率(表1)
厚生労働省(2017)『平成28年度雇用均等基本調査』p.14-15

男性 女性
3.16% 81.8%

育児休業取得希望者の割合(表2)
東京産業労働局(2011)『平成22年度東京都男女雇用平等参画状況調査』概要版p.3

男性 女性
53.8% 90.1%

上記の2つの調査は、調査対象者と調査時期が異なるため、単純な比較はできないが、男性で育児休業を取得したいと考えている人の多くが、取れない状況であることが推定される。ダイバーシティ制度は、「使いたい」のになぜ「使いにくい」のであろうか。その理由は、以下の2点が考えられる。

(1)自分が使う局面まで、制度に関して関心がない、知らないため。
(2)制度を「使いたい」が、「使うこと」に気が引けるため。

それぞれの背景は、以下のとおりである。

(1)自分が使う局面まで、制度に関して関心がない、知らない
第3回で紹介したとおり、従業員のダイバーシティの問題意識は、「自分に身近なこと」「今後自分が直面するであろう問題」が選択されやすい。そのため、ダイバーシティに関する制度について、自分がいざ問題に直面するまで知らないままである人が非常に多い。対応策は、結婚・出産・育児、介護、病気、定年など、自分が直面する前に、どんな制度が使えるのか調べておくことである。会社が、一定年齢の従業員を対象にして行う「キャリア研修」「介護研修」などもその例である。

(2)制度を「使いたい」が、「使うこと」に気が引けるため 
職場には『同調圧力』が存在する。人は集団になると、周囲との関係や場の雰囲気のようなものから心理的な圧力を受けて、自分の本意とは違う結論に同意してしまったりする傾向がある。これまでの職場に存在しなかった「ママ社員」「イクメン」は、上司・同僚から「みんなと同じ行動をすべし」とのプレッシャーを強く感じ、制度を「使うこと」に気が引ける人が多い状況である。対応策は、自分以外に誰かひとりでも賛同者を見つけることである。女性管理職を昇格させる際は、複数名で昇格させて孤立無援を避けるなどがその例である。ここ数年で、「ママ社員」「イクメン」が増え、職場の理解も高まってきた状況である。

しかし、最近「お妊婦さま」問題が、職場のダイバーシティへの理解を押し下げるケースも増えてきている。「お妊婦さま」とは、妊娠中の女性がその権利を利用して周り(仕事や人間関係)に迷惑をかけてしまう行為を指す。「お妊婦さま」が増えている背景として、『権利』にともなう『義務』はどこまで課せられているのか、制度利用者はどうあるべきかなど、当事者と職場の理解と経験が少ないためと考えられる。誰しもダイバーシティの当事者になり得る。ダイバーシティ制度を使う『権利』はあるが、『義務』を忘れていないだろうか。私たちの後に続く人が、気持ちよく制度を使えるために、経験者が留意すべきこともあるのではないだろうか。

次回は、「なぜ他者に対して寛容でいられないのか」を紹介する予定です。

第4回のまとめ

  • ダイバーシティの制度が「使いにくい」理由は、(1)自分が使う局面まで、制度に関して関心がない、知らないため。(2)制度を「使いたい」が、「使うこと」に気が引けるため。の2点が挙げられる。
  • 誰しもダイバーシティの当事者になり得る。『権利』にともなう『義務』はどこまで課せられているのか、制度利用者はどうあるべきかなど、当事者と職場の理解と経験を積む必要がある。

執筆者紹介

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査、ダイバーシティ意識調査、パワハラ実態調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認不正検査士(CFE) 経営倫理士(第15期) 産業カウンセラー

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