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第12回 コンプライアンスとメンタルヘルスの関係

掲載日:2015/09/01

コンプライアンス違反が発生する組織では、従業員のメンタルヘルスが良好でない状況にあることを、感覚的に感じている人も多いであろう。第9回の『割れ窓理論』で示したように、社内のコンプライアンス違反の『放置』が、社内モラルを低下させメンバー同士の関心が薄くなり、職場の信頼感が低下することから、従業員のメンタルヘルスへの悪影響が推定される。当社「コンプライアンス調査」の蓄積データ(6社約50,000名のデータ)から『ストレス状態』とコンプライアンス項目との関連を見てみよう。

『ストレス状態』と関連の高い項目
 以下の項目について、不満に思う人ほど、『ストレス状態』を訴えている。

【議論や検討を行う風土】
 「※ツルの一声の存在」
 「※好き嫌いで人を判断する傾向」
 「※責任の所在があいまい」

【コンプライアンス違反を許容しない風土】
 「※売上や利益を重視する傾向」
 「※成果にプロセスは問わない傾向」

【会社要因】
 「公平な処分」

【上司・職場要因】
 「上司の情報伝達」「苦情の吸い上げ」「遠慮なく言い合う」

(※は反転項目)

以上の結果から、【議論や検討を行う風土】【コンプライアンス違反を許容しない風土】が良好な状態であるほど、従業員のメンタルヘルスも良好な状態であり、かつ【会社要因】【上司・職場要因】などの職務満足度が高いほど、従業員のメンタルヘルスも良好であることが推定される。

先行研究においても、以下の知見が示されている。

  1. 仕事上の制約や、職務上の対人的葛藤が多いこと、職務遂行上の自由裁量が少ないことが、非生産的職務行動(怠業など)を増加させる
  2. 仕事の量的負荷が多すぎる、役割があいまいであると感じる人ほど、職場の迫害(職場のいじめ)に遭遇した経験が多い。職場の迫害の経験は、メンタルヘルスに負の影響を及ぼす
  3. 組織内で生じるさまざまな方針や施策の変化は、暴力行為など従業員の攻撃性を増加させ、パワー・ハラスメント行動が増加する

コンプライアンスとメンタルヘルスの関係については、コンプライアンス風土だけでなく、職務行動の適正化、職務満足度の向上により、従業員のメンタルヘルスが良好に保たれるという関係が支持されたと言えよう。

次回は、「ルールを守ることは、集団規範に影響される」を紹介する予定です。

第12回のまとめ

  • 健全なコンプライアンス風土だけでなく、職務満足度そのものが、従業員のメンタルヘルスへの正の影響を及ぼしている。
  • 仕事上の制約や、職務上の対人的葛藤が多いこと、職務遂行上の自由裁量が少ないことが、コンプライアンス違反を増加させる。

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執筆者紹介

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査、ダイバーシティ意識調査、パワハラ実態調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認不正検査士(CFE)。経営倫理士(第15期)。産業カウンセラー。

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