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第9回 荒れた職場を放置すると・・・『割れ窓現象』のメカニズム

掲載日:2012/05/29

企業で不正行為(コンプライアンス違反)が発覚すれば、社外における社会的制裁と社内環境の悪化が考えられる。今回は、社内環境の悪化とその対応策を考える。

社内でコンプライアンス違反が発覚後、厳正な調査と処分がなされず『放置』されると、社内でコンプライアンス軽視の風潮が高まり、コンプライアンス違反が跡を絶たないことがある。このメカニズムを、ケリングの『割れ窓理論』から考えてみよう。アメリカの犯罪学者ジョージ・ケリングは、大都市における落書きや割れた窓を放置しておくと、街が荒れ、無秩序となって凶悪犯罪などが多発するなど、悪の連鎖現象が発生することを、『割れ窓理論』として考案した。本来、集団には「自己浄化(カタルシス)作用」があり、集団心理として「善の方向」に向かうはずである。なぜ負の連鎖は止められないのであろうか。

考えられる理由として、以下の2点が挙げられる。

  1. 非社会的・非道徳的なことが『放置』されていると、モラル低下につながる。
  2. 「放置」に対して、声を上げることができない雰囲気=「傍観者効果」が働く。

まず1点目は、社内のコンプライアンス違反が『放置』されていると、社内規定や上司の指示・命令をタテマエ的であると認知し、信頼感が低下し、社内モラルの低下につながるということが考えられる。
次に、2点目として、コンプライアンス違反が『放置』されることにより、コンプライアンス違反が暗に容認される雰囲気となり、「誰かが注意するだろう」「私が注意するとかえって注目されて困る」などの『傍観者効果』が働き、職場メンバー同士で相互に注意し合わないばかりか、職場メンバー同士の関心が薄くなり、職場の信頼感が低下することが考えられる。

以上のことから、社内のコンプライアンス違反の発覚後に、『放置』しないことが重要である。具体的には、コンプライアンス違反に対して、厳正な調査と処分を行い、従業員へ「わが社はコンプライアンス違反を許さない」という会社の意思を継続的に発信し、コンプライアンス違反の抑止に努めることが重要である。
『コンプライアンスは組織風土の改善』とも言われる。貴社には、「臭いものにフタ」「事なかれ主義」という雰囲気はないだろうか。風通しのよい職場、信頼感が保たれた職場づくりができているだろうか。今一度確認しておきたいポイントである。

次回は、「パワー・ハラスメントの原因を考える」を紹介する予定です。

第9回のまとめ

  • コンプライアンス違反が『放置』されていると、「社内モラルの低下」『傍観者効果』が発生し、会社・上司・職場への信頼感が低下する。
  • コンプライアンス違反発覚後に『放置』しないことが重要。厳正な調査と処分を行い、従業員に対して、「コンプライアンス違反は許されない」という会社の意思を継続的に発信し、組織風土の改善がポイント。

執筆者紹介

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査、ダイバーシティ意識調査、パワハラ実態調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認不正検査士(CFE)。経営倫理士(第15期)。産業カウンセラー。

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