第10回 パワー・ハラスメントの原因を考える
掲載日:2012/07/27
暴言や仲間外しといった「職場のパワー・ハラスメント」は、近年、社会問題として顕在化しており、従業員のメンタルヘルスを悪化させ、職場全体の士気(モラール)や生産性を低下させるとも指摘されている。2012年3月には、厚生労働省から「職場のパワー・ハラスメントの予防・解決に向けた提言」が公表されており、企業・組織での予防・解決に向けての取り組みが求められている。
当社蓄積データ(4社約10,000名のデータ)から、「職場のパワー・ハラスメント」の実態を見てみる。
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パワー・ハラスメント行為10類型の行為の発生・・・「発生した」回答は平均約5%
- パワー・ハラスメント行為10類型・・・最頻値は「しばしば馬鹿にした態度」が約10%
- パワー・ハラスメントの起きた原因・・・第1位「上司・先輩の資質」が約70%、第2位「上司・先輩と部下・後輩の感情的対立」が約13%
上記のとおり、パワー・ハラスメントの起きた原因としては、「上司・先輩の資質」や、「部下・後輩との感情的対立」が挙げられており、さまざまな先行研究と同様の結果が示されている。では、どのような「資質」が、どのような「感情的対立」を生んでいるのかを、上司・部下のコミュニケーション場面に着目して考えてみる。
ウォルピは、人間関係におけるコミュニケーション・タイプとして、他者優先・自分後回しにする「言わない」「言い損なう」などの【非主張的自己表現】、自分優先・他者へ攻撃する「押しつける」「言い負かす」などの【攻撃的自己表現】、自分も他者も大切にし「歩み寄る」「意見を出し合う」などの【アサーティブな自己表現】の3つを示した。【非主張的自己表現】は、他者とのやり取りに自信がなく、相手に合わせて安全確保する心理状態にあり、また、【攻撃的自己表現】は、自分の言い分を通したい、自分は優れていると思い込む心理状態にあり、いずれも相手に依存し甘える心理状態であると考えられる。この【非主張的自己表現】の部下と【攻撃的自己表現】のうえ司が組み合わさると、非常にパワー・ハラスメントが起こりやすいことが指摘されている。
上司・部下といった関係はあくまでビジネス上の契約で、人間としての優劣にはならない。しかし、いつも命令している立場にある人は、これを忘れがちになり、部下の人間性を否定するような言動があったり、仕事上の権限を超えて命令したりしてしまうことがあるので、注意が必要である。自分のコミュニケーション・タイプを確認し、自分も他者も大切にする【アサーティブな自己表現】を身につけることが、パワー・ハラスメントを軽減する方策の1つである。上司の資質や、部下との感情的対立を解消するだけでなく、会社・組織での制度・啓発も必要である。前回(第9回)のコラムで紹介したとおり、コンプライアンス違反が『放置』されていると、「社内モラルの低下」『傍観者効果』が発生し、会社・上司・職場への信頼感が低下する。パワー・ハラスメントの『放置』も同様のことが考えられる。会社・組織として、「パワー・ハラスメントは許されない」とのメッセージを発信すると同時に、パワー・ハラスメントの予防・解決のための教育・研修を継続的に行う必要がある。
次回は、「セクシュアル・ハラスメントの原因を考える」を紹介する予定です。
第10回のまとめ
- 当社蓄積データでは、パワー・ハラスメントが「発生した」回答は約5%、最頻値は「しばしば馬鹿にした態度」。パワー・ハラスメントの起きた原因として、「上司・先輩の資質」「上司・先輩と部下・後輩の感情的対立」が挙げられている。
- 【非主張的自己表現】の部下と【攻撃的自己表現】のうえ司の組み合わせになると、非常にパワー・ハラスメントが起こりやすい。自分も他者も大切にする【アサーティブな自己表現】を身につけることが、パワー・ハラスメントを軽減する方策の1つである。
執筆者紹介
(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子
奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査、ダイバーシティ意識調査、パワハラ実態調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認不正検査士(CFE)。経営倫理士(第15期)。産業カウンセラー。