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Vol.35 頭では理解していても実践できない訳

掲載日:2019/06/06

組織に属する者として、社内のルール・手順や業務に関連した法律を遵守することは当然であり、コンプライアンス教育などの啓発活動は主にこれらの周知を目的に行われる。本来であれば、これらの決まりを知ってさえいれば違反行為は行われないはずなのだが、実際はそうでないことは昨今のニュースを見れば明らかだろう。頭では規程やマニュアルなどの存在を認識しており、遵守しなければならないことを理解しているにもかかわらず、違反行為がなくならないという事実は、単に「知っている、わかっている」だけではコンプライアンス対策として不十分であることを意味している。

前回のコラムでも触れたが、性善説に立って考えるなら、初めから違反行為をしようと思う人間は少数派で、「これはまずいのではないか」と思ったにもかかわらず具体的な行動を取らなかった、もしくは取れなかった要因こそコンプライアンス風土の醸成を妨げるものであり、従来までの対策で見過ごされてきた部分ではないだろうか。

上位者の日々の言動から生まれる組織風土と「組織人」としての誤った認識

頭では理解しているにも関わらず具体的な行動につながらない理由はいくつか考えられるが、その一つが上位者の日々の言動とそこから生まれる組織風土だ。経営陣や管理職など上位者の日々の言動が下位者の行動に与える影響の大きさについてはこれまでも何度か触れてきた。上位者自身がそのことを認識し、率先垂範することが下位者にとっての行動基準となり、違反行為を踏みとどまらせるストッパーとしての役割も果たすが、当然ながらその逆もあり得る。問題に遭遇した部下が上司に相談した際、「その程度ならこれまでも大きな問題にはならなかったから大丈夫」といった対応をもし取れば、会社が定めたルールではなくその時の上司の発言がその後の行動基準となってしまう恐れもある。

上司の判断に盲目的に従うことが「組織人」としてあるべき姿との誤った認識がある場合はこれを正さなければならない。見て見ぬふりや臭いものには蓋といった風土をつくらないためには、「それは間違っているのではないか」と声をあげられる環境づくりが求められる。

従来の古い考え方を断ち切り、リセットするために

「その程度ならこれまでも大きな問題にはならなかったから大丈夫」との考えは、上司やシニア社員自身のこれまでの経験に基づくものであり、それ故にその認識を改めさせるのは容易なことではない。戒告や懲戒処分などに相当する具体的な事案はそのような考えを改めさせるきっかけになるものだが、当然そのようなことは起こらないに越したことはない。今の時代に即した行動が取れるよう、上位者の役割や評価の方法などは見直される必要がある。
また上述のような考えは、現任の管理職だけでなく前任者から脈々と受け継がれたものである可能性も考えられる。このような職場では「好き嫌い評価」が行われている疑いがあり、公平な人事考課や昇進・昇格ではなく、上司に気に入られたイエスマンが評価され登用されているという状況もあり得る。そうなれば、問題意識が高い人間ではなく、波風を立てず長いものに巻かれるタイプの者しか管理職にいないということにもなりかねない。管理職が育っていないことに危機感を持っている方は、育成面の課題だけでなく、「好き嫌い評価」の存在を疑ってみてはどうか。

今回は「ルールや法律などの決まりを知っている=コンプライアンス行動が取れる」との方程式は、必ずしも当てはまるわけではないことを紹介してきた。「コンプライアンス行動を実践するうえで妨げとなっているものは何か」を特定することが対策の第一歩であり、それがわからない状態でいくら教育や啓発活動を行ったとしても、期待された効果を望むことはできない。違反や不正が後を絶たない今こそ必要な取り組みではないだろうか。

執筆者紹介

(株)日本経営協会総合研究所 研究員 吉川 和宏

大学卒業後、金融機関勤務を経て、(株)日本経営協会総合研究所入社。現在は、主に従業員意識調査およびコンプライアンス意識調査を担当。調査から得られる数値情報を基に、各企業の組織改善のための指導・支援を行っている。
産業カウンセラー。

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