Vol.29 グループ経営とコンプライアンス
掲載日:2018/10/04
意識調査の導入メリットはいくつかあるが、その中の一つが社員の意識という曖昧なものを数値情報に置き換えられる点だろう。意識を可視化することで、これまで感覚的に認識していた自社の傾向が明確になるだけでなく、それを分析することで現状に至った要因や改善のためのヒントを掴むこともできる。勿論、得られた結果が望ましい回答ではなく、きちんと社員の本音が吸い上げられたものであるということが大前提となるが、中期経営計画や人事・コンプライアンス施策の策定から職場の改善まで、さまざまな場面で参考となる情報であることは言うまでもない。
特に、グループ会社や海外については、感覚的な認識すらなく、親会社としてその実態を把握できていないケースも多いように思う。企業不祥事に関するニュースの中にも、子会社で起こった事案がよくあるのはそれを裏付けているとも言えるが、仮に子会社で起こったものであったとしても、新聞などで取り上げられるのは親会社の名前であり、企業イメージや社会的信用の毀損は避けられない。このような背景もあり、『コンプライアンス意識調査』はグループ会社を含めて実施する場合が多いが、その際に見るべきポイントを「タテ」と「ヨコ」をキーワードに以下にまとめてみた。
【タテ】 親会社⇒子会社への立場の優劣を利用した圧力
親子間で立場の優劣を利用した圧力があると、子会社はその要求に応えるための行動をとる。例えば納期について親会社から無理な要請があれば、子会社ではこれを守ることを最優先とした行動がとられ、その結果として検査工程の一部を省くなど、不正が行われるリスクが高まることとなる。製造業を中心に権威主義的傾向が強いと言われる日本企業では、まだまだ上位者の指示・命令は絶対との価値観があり、従業員意識調査『NEOS』の結果を見ても、上意下達のコミュニケーションは機能している一方、ボトムアップの意見の吸い上げについては、スコアが低い会社が多い。親子という立場の違いがあるため、子会社側にある程度のプレッシャ-が生じるのは仕方ないが、過度に圧力や負担がかかっていないか、改めて考えてみる必要がある。仮に親会社側にとってはそのようなつもりはなかったとしても、受け手側がどう感じるかという視点に立つことがポイントとなりそうだ。
【ヨコ】 グループ会社間による意識の差
コンプライアンスの取り組みでは、「未然の防止」と「早期発見・迅速対応」がポイントとなる。グループ各社のコンプライアンス意識の現状を測定することは、親会社として単に組織や職場の実態がわかるだけでなく、どのようなリスクがそこにあるのかを把握することにも役立つ。また、各子会社にとっても、グループ内における自社の相対的なスコア水準を知ることで、目指すべき目標や検討すべき課題が明確になると考える。
さらに、グループ各社の結果をコンプライアンス意識の高い会社と低い会社に分類し、そこにどのような違いがあるかを明らかにすることができれば、その後の具体的な対策も立てやすくなる。当然、会社によって造っているものも違えば、取り扱う商品やサービスもさまざまだろう。グループの中には古参もいれば新人もいる。これらの背景も踏まえたうえで、会社間の結果の違いを知り、グループ全体としてコンプライアンス意識を一定水準に保つためにどのような取り組みをすべきか検討していく必要がある。
グループ経営は、シナジー効果や事業リスク分散などの効果が期待できる一方、各社によって風土や人事制度が異なるケースが多く、それ故、コンプライアンス意識のバラつきも生じやすい。グループ管理におけるコンプライアンスの重要性が増す中、定期的にモニタリングすることは、親会社やホールディングスの義務といっても過言ではない。CSRの具体的な取り組みの一つとして、導入が進むことを期待したい。
執筆者紹介
(株)日本経営協会総合研究所 研究員 吉川 和宏
大学卒業後、金融機関勤務を経て、(株)日本経営協会総合研究所入社。現在は、主に従業員意識調査およびコンプライアンス意識調査を担当。調査から得られる数値情報を基に、各企業の組織改善のための指導・支援を行っている。
産業カウンセラー。