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Vol.27 働き方改革=職場の「生産性改革」+「風土改革」

掲載日:2018/08/03

「働き方改革関連法」が6月29日に成立したことを受け、雇用対策法や労働基準法、労働時間等設定改善法などが改正されることとなる。これまでの労働慣行が大きな転換期を迎える中、人事担当者としても、労働時間に関する制度の見直しや勤務間インターバル制度の導入、同一労働同一賃金などへの対応が求められ、既に大手企業を中心に、手探りながらその対応が始まっている。「働き方改革」への関心が一層高まる中、今後の施策を進める際のポイントについて考えてみたい。

「個の生産性」と「職場の生産性」の双方を高める

業務量の多さが変わらない環境下において、限られた時間内で従来と同等もしくはそれ以上の成果を上げるためには、これまで以上に「個の生産性」を高めることが要求される。効率的に業務をこなすということは、すなわち仕事の質を高めることであり、そのためには本当に必要な業務とそうでないものとを整理し直さなければならない。さらに、業務に直結した知識をインプットする機会として、OJTや実務研修のあり方についても検討する必要があり、適性に応じた社員の配置や異動(適材適所)に取り組むことが会社には求められる。
ただし、いくら個々が高いパフォーマンスを発揮できたとしても、個人ができる業務には限界がある。テレワークや在宅勤務の導入が進んでいるのはまだまだごく一部であり、大半が職場内で業務を行っている状況を踏まえれば、「個」と「職場」の両面から「働き方改革」を考える必要がある。メンバー間のチームワークや遠慮なく言い合える関係づくり、部門を跨いだコミュニケーションなどがうまく機能しているかどうかは、労働生産性にも関わる問題であり、「職場の生産性」を高める上で重要な視点と言える。限られたメンバーで継続的に高い生産性を維持するためには、職場を構成する全ての社員の役割を改めて明確にし、各々がそれを認識した上で、行動していかなければならない。勿論、上司も例外ではなく、自ら率先してメンバーとコミュニケーションを図り、場面に応じて指導・助言を行うなど、主体的に職場づくりに関与していく姿勢を示すことが期待される。

働き方改革=社内の仕組みづくり+職場風土づくり

言うまでもなく、制度や規程などの社内の仕組みを見直すだけでは、「労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる」組織となることはできない。制度を気兼ねなく利用できる雰囲気や上司・同僚の理解などの風土が職場にあって初めて、仕組みは適切に運用がなされる。例えば、従業員意識調査『NEOS』では『人間尊重・個性尊重』という風土を測定しているが、ある企業では「経営施策への現場意見の反映」がなされていると感じられるかどうかが風土醸成のカギとの分析結果が示された。会社方針に対する現場社員の納得度と風土醸成との間に一定の関係が見られたこの事例をヒントとするなら、「働き方改革」の推進と現場意見の吸い上げを並行して進めることで、上述のような職場風土の醸成に繋がると考えることもできる。風土づくりは一朝一夕でできるものではなく、人事部や総務部などの所管部門と現場社員間の意見交換を繰り返すことで、少しずつ醸成されるものだ。自社に合った「働き方改革」の取り組みに近づけるためにも、実践してみる価値はあるのではないか。

多様性を受け入れる「柔軟性」

NEOS通信Vol.16『職場内の同質性と多様性』でもご紹介した通り、同質性が高い企業において、多様性を受け入れるのは容易なことではない。皆が同じ仕事観であるということが当たり前とされてきた従来から脱却し、異なる働き方に適応していくためには、変化を受け入れる「柔軟性」が組織とそこで働く全ての社員に求められる。各社の意識調査の結果を見ると、「柔軟性(フレキシビリティ)」が「ある」と回答する割合は低い企業がまだまだ多く、むしろ「現状どっぷり」や「タテマエ主義」を感じる者の方が多いのが実態となっている。「制度や決まり事だから」と強引に受け入れさせれば、社員の中に反感をもつ者も出てきかねない。硬直化した組織を柔軟な状態にしていくためには、部門間や上司⇔部下間において必要とされる議論を避けるのではなく、根気強く話し合いを重ねることしか方法はない。その延長線上に「職場の生産性」の向上もあると考える。

「働き方改革」は職場の「生産性改革」であり、「風土改革」でもある。労働慣行の大きな転換期である今、根拠がないままこれらの取り組みを進めることは、海図を持たず航海に出航するのと同じではないか。客観的な数値情報に置き換えられた社員の意識に関する情報は、人事部などの所管部門だけでなく、これまで以上に困難な舵取りを迫られる経営者や現場の部門長の方々にとっても、なくてはならない情報ではないだろうか。

執筆者紹介

(株)日本経営協会総合研究所 研究員 吉川 和宏

大学卒業後、金融機関勤務を経て、(株)日本経営協会総合研究所入社。現在は、主に従業員意識調査およびコンプライアンス意識調査を担当。調査から得られる数値情報を基に、各企業の組織改善のための指導・支援を行っている。
産業カウンセラー。

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