Vol.24 組織における上司の影響力
掲載日:2018/05/09
各社の意識調査を分析していると、上司のマネジメントが与える影響の大きさに驚かされることが少なくない。以前調査を行ったあるメーカーでは、上司による「合理的な仕事の割当」や「明確な仕事の指示」がうまく機能している部署ほど、職場に魅力を感じる者が多い結果となり、これによって職場改善のための具体的なアクションへとつなげることができた。このように、上司の日々の言動は、職場に対する社員の意識のみならず、会社や経営陣に対するそれでも同様の影響を及ぼす場合がある。
中計や経営方針などの経営施策が職場に浸透するためには、経営陣の強いリーダーシップや継続的なメッセージの発信などの取り組みが求められるが、これだけではトップからの一方的な発信のみとなってしまい、施策に対する社員の納得感を得るには十分とは言えない。施策が浸透した状態を、「方針や目標などが社員に正しく理解され、職場内で共有された状態」と定義すると、その実現のためには、管理職が経営陣と一般社員の橋渡し役として、双方のコミュニケーション窓口を担う必要がある。このような取り組み無くして、施策に対する理解が進むことはありえないと思うが、ここで注意しなければならないのが、管理職が経営陣、もしくは施策に対して必要以上に批判的な考えを持っている場合だ。
本来、管理職には会社側の立場で考え、行動することが望まれるが、このような組織では、むしろ会社や経営陣を批判し、まるで自分たちの敵のような存在とすることで職場をまとめているケースが少なくない。この場合、管理職が一般社員に近い立場で発言することから、上司⇔部下間の一体感(同質性)は高まった状態となり、一見するとマネジメントがうまく機能しているように見えてしまうが、このような部分最適が進んだ状態では、施策を浸透させようにも、上司がその障壁となることは明らかである。上司の考えと日頃の立ち振る舞いが与えるマイナスの影響の好例と言える。
先日、NHKの『ブラタモリ』という番組で、湧水に関する解説を聞いて、経営施策の浸透と非常に構造が似ていると感じた。自然界においては、地層途中に硬い岩盤層があると、それより下に雨水が浸透することはない。組織においても同様で、中間層となる管理職がまるで岩盤のごとく立ちはだかれば、施策が一般社員にまで正しく伝わらないだけでなく、現場の声が経営陣にまで届かないという状態にもなりかねない。普段はいい上司なのかもしれないが、いざ困りごとがあった際、果たしてその状況を打開するような働きかけを、岩盤上司は本社や上位者に対して行ってくれるだろうか。
従業員意識調査『NEOS』では、マネジメントのどの部分がうまく機能していないかを明確にするだけでなく、それが会社や職場にどのような影響を与えるのかまで分析を行う。もし、今回紹介したようなケースが当てはまるようなら、リーダーシップやコーチングなどの管理職教育をいくら実施しても、その効果は限定的なものとなるだけでなく、誤った場面で活用されることにもなりかねない。
無論、硬い岩盤層をほぐすのは容易なことではないが、「上司の与える影響の大きさ」に、まずは管理職自身が気づき、認識することが第一歩となりそうだ。
執筆者紹介
(株)日本経営協会総合研究所 研究員 吉川 和宏
大学卒業後、金融機関勤務を経て、(株)日本経営協会総合研究所入社。現在は、主に従業員意識調査およびコンプライアンス意識調査を担当。調査から得られる数値情報を基に、各企業の組織改善のための指導・支援を行っている。
産業カウンセラー。