採用・昇格・人材・組織開発の日本経営協会総合研究所

Vol.21 コンプライアンスと顧客志向

掲載日:2018/02/02

データ改ざんや品質偽装など、企業の不祥事に関するニュースを耳にする機会が多い。これらは、一度発覚するとその対応に追われるだけでなく、企業イメージやブランドの毀損にもつながりかねず、会社の存続にまで影響しかねない。また、昨今では子会社や関連会社で起こった不正でも、親会社の名前がニュースとして取り上げられるなど、グループ経営の難しさが窺える。不祥事の要因については、社内の隠ぺい体質や技術継承上の問題、非正規社員の増加など、さまざまに論じられているが、今回は顧客志向の観点から考えてみたい。

営利団体に属している以上、成果を求められることは当然だが、この傾向が強すぎると、上述のような不正の要因ともなりかねない。日々の業務では、「この行動は法令もしくは倫理上正しいのか」、迷う機会に遭遇することはよくある。行動指針などに見られる「コンプライアンス遵守行動」は、概念であるが故に、社員にとっては漠としており、具体的な行動の選択が迫られる場面においては、むしろ上司の行動を模範とすることの方が多い。実際、当社のコンプライアンス風土の要因分析を見ると、「上司の倫理的行動」や「問題が起こった際の上司による適切な対処」等が鍵となる企業は多い。「成果を出すこと⇔法令・倫理遵守」の双方が求められる葛藤場面において、正しい判断と行動ができるかどうかは、日頃より部下の行動基準(模範)となるようなマネジメントができているかに関わっていると言っても過言ではない。

葛藤場面での行動選択の基準として、『上司のマネジメント行動』と併せて重要となるのが、顧客や社会常識などの社外の基準に照らし合わせて考えることができるかどうかだ。例えば、製造過程で問題があった際、納入先であるクライアントの目線に立って改善などの対処を図ることができれば、品質偽装などの不正は起こりえない。組織とは元来閉鎖的な側面を有しており、自社の基準やこれまでの慣習が優先される傾向が強い。そのため、一度不正行為が慣習化されると、発見されることは難しく、なるべく早期の段階で対処することが求められる。特に技能員などの製造現場に関わる者は異動や転勤などが少ないケースが多く、そうなると同じ職場で長年働き続ける者が大半となるため、留意が必要となる。コンプライアンス遵守の観点においては、社内の論理ではなく、顧客(外部)志向で考え、行動することができるかどうかが問われることとなる。

表1には、当社コンプライアンス意識調査の項目の一つである「顧客へのサービス提供」ができているかどうかを測定した項目について、製造業8社(約10,500名)のデータを示した。これを見ると、肯定的回答者()が約55%いる一方で、否定派()も約10%存在することがわかる。1件でもあると会社にとって致命傷となりかねないのが不祥事であることを考えると、現場社員に顧客志向の徹底を図ることは、単に理想論ではなく、コンプライアンス違反を未然に防ぐ上でも重要な取組みと言える。

(表1)

『顧客へのサービス提供』
①十分提供できている
②わりと提供できている
③どちらともいえない ④あまり提供できていない
⑤ほとんどできていない
54.90% 33.50% 11.60%

執筆者紹介

(株)日本経営協会総合研究所 研究員 吉川 和宏

大学卒業後、金融機関勤務を経て、(株)日本経営協会総合研究所入社。現在は、主に従業員意識調査およびコンプライアンス意識調査を担当。調査から得られる数値情報を基に、各企業の組織改善のための指導・支援を行っている。
産業カウンセラー。

人事課題について
お聞かせください