Vol.17 人材育成と管理職の理解
掲載日:2017/10/06
最近、とあるメーカーのご担当者から、社員教育に力を入れたいのだが、実施する研修に対して現場から「ただでさえ人手が足りなくて忙しいのに、研修なんかに部下を行かせられない」といった声が上がってくる、という話を聞く機会があった。これに近い話はこの他にも何度か聞いたことがあり、人材育成に対する現場の理解に頭を悩ます人事担当者は多いのではないだろうか。
まずは表1をご覧いただきたい。これは、従業員意識調査『NEOS』で設定された設問の一つである「研修に参加しやすい環境かどうか」を取り上げ、職位別にその回答割合を示したものだ。今回は、2008年から2015年に当社で調査を実施した従業員1,000名以上の企業64社分(管理職約5万名、一般社員約25万名)のデータを用いて分析を行った。これを見ると、管理職の57.8%が肯定的に回答している一方、一般社員では「どちらともいえない」が43.2%と最も高く、否定派を合わせると約60%が研修に参加しやすいとは感じていない状況が窺える。この場合、いくら管理職が肯定的に回答したとしても、一般社員にそのような環境として捉えられていない以上、双方の認識のギャップを埋める取り組みが必要となる。
(表1)「研修に参加しやすい環境かどうか(※5択式)」 職位別回答割合
回答割合(%) | |||
肯定派 ①非常にそうである ②わりとそうである | 否定派 ④あまりそうでない ⑤まったくそうでない |
中立回答 ③どちらともいえない |
|
管理職 | 57.8 | 13.6 | 28.6 |
一般社員 | 36.7 | 20.1 | 43.2 |
一般社員が研修に参加しづらいと感じる主な要因については、業務多忙や人手不足、地理的要因等が挙げられるだろうが、それ以外に上司の影響もかなり大きいのではないかと推定される。例えば、最初にご紹介したような発言を仮に上司が職場内でしていたとしたら、部下はどう感じるだろうか。
社員の育成において、研修等のOff-JTは点(スポット)でしかなく、そこで学んだスキルを職場で実践(OJT)することの方がはるかに重要で、困難でもある。そのため、いくら人事部が研修やオープン講座を用意したとしても、育成に対する上司の理解がなければ、それを活かす機会や役割が与えられることは少なく、部下に自身の成長を実感させるせっかくのチャンスを、上司自らがつぶしていることにもなりかねない。こうなると、研修の効果も一時的なもので終わってしまう可能性が高い。
人事部として、自社の育成課題や職場実態等を踏まえた上で、施策を考えることも重要だが、それと併せて、育成に対する管理職の理解を高めるための取組みも求められる。管理職へ教育目的を改めて伝え、人材育成における彼らの役割や関わり方をある程度明確にしておくことで、人が育つ職場づくりにも繋がるのではないだろうか。
執筆者紹介
(株)日本経営協会総合研究所 研究員 吉川 和宏
大学卒業後、金融機関勤務を経て、(株)日本経営協会総合研究所入社。現在は、主に従業員意識調査およびコンプライアンス意識調査を担当。調査から得られる数値情報を基に、各企業の組織改善のための指導・支援を行っている。
産業カウンセラー。