第13回 ルールを厳しいと感じる人ほど、ルールを遵守する
掲載日:2016/05/19
コンプライアンス違反は、究極的には、決められたルールが守られないことにより発生する。「なぜルールが守られないか」について、これまで多くの研究がルールの不備不足を言及してきたが、従業員側の「ルールの受け止め方」について、検証した研究は数少ない。そこで、今回は、筆者が、“情報管理”のコンプライアンスを対象として、従業員のルールの受け止め方とルール遵守行動との関係を分析した研究結果を紹介する。
調査概要
2013年10月実施、企業・組織に勤務する従業員421名回答、Webパネル調査
調査結果
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消極的なルールの受け止め方は存在するが、「ルール遵守行動」に直接の影響は見られなかった。
(5件法、「当てはまる」「やや当てはまる」回答割合の合計)
・(情報管理の)ルールを守ることを面倒だと思う 47%
・(情報管理の)ルールを守ることをしかたがないことだと思う 63%
・(情報管理の)ルールに矛盾を感じる 34%
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ルール遵守行動の影響因は、『会社のルールマネジメント』が最も強く、次いで『ルール比較の厳しさ』が強かった。
『会社のルールマネジメント』とは、以下の項目から構成される。
・ルールが統一されている
・情報の重要性やリスクに合ったルールが制定されている
・ルールの理由や背景が説明される
・定期的に研修が実施される
・申請手続きが円滑である
・ルールが実務に合っている
『比較したルールの厳しさ』とは、情報管理のルールを個人の比較基準によって厳しい、あるいはゆるいと受け止めているのかを尋ねたものである。すわなち、自社のルールを、過去や前職、他社、他部署に比べ「厳しい」と感じている人ほど、ルール遵守行動は促進されることが明らかとなった。
結論
従業員にルールを遵守してもらうためには、まずルールを知ってもらい、ルールの理由や背景を理解してもらうことによって、ルールに対する納得感を高めることが必要である。また、ルールが実務内容に合っていることや、ルールを遵守することが過度の業務の妨げにならないことも、会社が配慮すべき点である。
次回は、「コンプライアンス不適切行動群に見られる不満足要因」を紹介する予定です。
第13回のまとめ
- ルールの受け止め方として、否定的な受け止め方もあるが、ルール遵守行動への直接の影響はない。
- ルールの理由や背景を伝え、ルールの必要性や厳しさを感じてもらうことが、「ルール遵守行動」を促進させる。
- ルールが業務内容と合っている、業務の妨げにならないなど、ルールへの納得性を高めることが、「ルール遵守行動」を促進させる。
執筆者紹介
(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子
奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査、ダイバーシティ意識調査、パワハラ実態調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認不正検査士(CFE)。経営倫理士(第15期)。産業カウンセラー。