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第6回 ルール重視、マニュアル重視の落とし穴

掲載日:2011/11/10

コンプライアンスは、組織(集団)での意思決定の積み重ねであるが、集団の意思決定の際、人はついつい同調してしまったり、責任感が薄まって適当な返事をしてしまうことがあるなど、『人間の弱さ』があることを知っておく必要がある。この『人間の弱さ』に対して、どのように向き合うべきだろうか。ルールやマニュアルを整備し、人を管理すべきなのか。

コンプライアンスを語る際、必ず議論になるのが、「性善説か性悪説」である。「性善説」(人は生まれつき善だが、成長すると悪行を学ぶ)と、これに対して唱えられた「性悪説」(人は生まれつき悪だが、成長すると善行を学ぶ)であり、いずれも善悪が人間には備わっているので努力して正しいことをしなさいという考えである。コンプライアンスを考える際は、性善説か性悪説であるという議論よりも、「人間は自尊心や体面を守るため、間違いを犯すことがある」、名付けて「性弱説」があると考えることを提案したい。「性弱説」な従業員に対し、ルールやマニュアルの整備は、不正防止に役立つのだろうか。

ルールやマニュアルを整備することの最大のメリットは、ルーティンワークを効率的に行うことができることである。しかし、そのデメリットは、以下の2点である。

  1. ルールやマニュアルの遵守が優先されればされるほど、そもそもそれが何のために作りだされたかという肝心な点が忘れられがちで、ルールのためのルールのようになってしまうこと
  2. マニュアルをあまりにも細部にわたって作りこもうとしすぎると、それは逆に現実離れしたものになってしまい、極めて使いにくいものになること

日々の仕事がルールやマニュアルにがんじがらめになっている現状はないだろうか。
人間には、自分で意思決定し、行動したいという「自己効力感」がある。(自己効力感については、こちらを参照)。会社から一方的に指示命令するだけだと、ルールやマニュアルに納得できず、「やらされ感」ばかりで一向に浸透が進まない。そこで、ルールやマニュアルを浸透させるためには、「自己効力感」を活用して、「わが部署でなぜそうしなければならないのか」が“腹に落ちる”ようにすると、人間は努力し、高い目標にもチャレンジをするようになる。

以上のとおり、「性弱説」な従業員に対し、ルールやマニュアルを整備し、遵守させることは、一定の不正防止に効果がある。しかし、ルールやマニュアルの整備の行き過ぎは、現場にとって「やらされ感」となり、浸透が進まない原因となることがある。人間の「自己効力感」を活用して、ルールやマニュアルと自部署の目標を結びつけ、“腹落ち感”を得ると、自発的に実践するようになるのである。

次回は、「なぜ犯人探しをしてしまうのか」を紹介する予定です。

第6回のまとめ

  • コンプライアンスを考える際は、「性弱説」を念頭におく。
  • ルール重視・マニュアル化のメリットを生かしつつ、「ルールのためのルール」「現実離れしたマニュアル」にならぬよう、ルール重視・マニュアル化の落とし穴に注意する。
  • 「従業員にルール・マニュアルを実践させる」のではなく、人間の「自己効力感」を活用し、「自部署の目標を実現するために自発的に実践する」ようにする。

執筆者紹介

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査、ダイバーシティ意識調査、パワハラ実態調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認不正検査士(CFE)。経営倫理士(第15期)。産業カウンセラー。

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