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第3回 個人的不正を誘発する命令系統の不備

掲載日:2011/04/12

コンプライアンス違反には、「組織的不正」と「個人的不正」に分けられる。その対応方法は、異なっており、前回のコラムで、「組織的不正」には『職場風土』とその要因への改善が、根本的な解決策であることを紹介した。では、「個人的不正」には、どのように対応すればよいだろうか。

公認不正検査士協会が発行する「2010年度版 職業上の不正と乱用に関する国民への報告書(アジア・パシフィック版)※」では、アジアおよびオセアニア地域で発生した338件の事例を分析しており、その一部を以下に示す。

  1. 全体の76%は、営業、経理、オペレーション、経営上層部、仕入れの一部門に所属する個人による不正行為であった。
  2. 発覚までの期間の中央値は12カ月であった。
  3. 不正実行者の約85%は、過去に刑事告発も有罪判決も受けていなかった。

では、企業防衛策として、何が考えられるだろうか。不正行動の未然防止の取り組みを2点紹介する。まず、1点目は、不正の実行を抑止するための『規程・マニュアルの整備』であり、2点目は、不正・違反発覚後の再発防止に向けての行動面の兆候の監視である。

1点目の『規定・マニュアルの整備』は、ごく当たり前のことであるが、ポイントは実効的な運用である。規程・マニュアルが、実務に合わせて更新されているか、検索しやすいか、今一度確認してみよう。コンプライアンス違反や不正行動に対し、決められたルールのもと、公平に処分されることにより、『一罰百戒の効果』が見られる。しかし、逆に、処分がうやむやにされたり、不正実行者によって処分が異なる場合は、ルールそのものの信頼性が損なわれることとなるので、注意が必要である。

2点目は、同報告書※によれば、不正の実行者に、最も多かった行動の兆候として、「分不相応な生活をしている」(全体の38%)、「仕入れ業者や顧客と異常に親密な関係にある」(34%)、「経済的に困窮している」(23%)が挙げられた。上記の行動兆候が必ずしも不正を引き起こすわけではないが、該当者の行動や取引への監視を強化するポイントとなるものと思われる。

次回は、「『当たり前のことを当たり前に』の落とし穴」をご紹介する予定です。

第3回のまとめ

  • 不正事例の76%が「個人的不正」であった。
  • 「個人的不正」への対応方法として、『規定・マニュアルの整備』が重要。
  • 不正の実行者の行動の兆候が挙げられている。該当者の行動や取引への監視を強化するポイントになるものと思われる。

執筆者紹介

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査、ダイバーシティ意識調査、パワハラ実態調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認不正検査士(CFE)。経営倫理士(第15期)。産業カウンセラー。

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