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第2回 組織的不正を誘発する組織風土

掲載日:2011/01/08

『コンプライアンス違反は、組織風土の問題である』との見解は、不祥事が発生した会社の調査報告書をはじめ、多くの専門家により示されているが、具体的に「どんな組織風土がどのように問題なのか」「その問題をどのように改善していけばよいのか」が明らかにされていない。

コンプライアンス違反と一言で言っても、「(利益・効率のための)偽装・隠ぺい工作」「粉飾決算」から「横領」「知的財産の流出」まで様々である。これらを、実行者の主体で分類すると、「組織ぐるみの不正」と「個人の私利私欲のための不正」に分けられる。両者に対し、悪いことは悪いこととして、すべて画一的に対応してしまっていないだろうか。

「組織的不正」と「個人的不正」への対応方法は明らかに異なることを導出した、興味深いデータがある。組織事故を研究している岡本・鎌田※らは、有職者を対象にした調査で「組織的違反を容認する雰囲気」と「個人的違反を容認する雰囲気」が別のものであること、「組織的違反を容認する雰囲気」には『属人風土』が、「個人的違反を容認する雰囲気」には『規程・マニュアルの整備』が有効であることを導出した。

岡本・鎌田らが提唱する『属人風土』とは、“事柄”でなく“人”を基準として意思決定される組織の風土・不文律を示したものである。『属人風土』の一例を紹介すると、

  • 仕事ぶりよりも好き嫌いで人を評価する傾向がある
  • 問題やトラブルに対し、『原因が何か』よりも『誰の責任か』を問う雰囲気がある  などである。

コンプライアンス意識調査では、『属人風土』に加え、当社蓄積データによる分析結果を踏まえ、コンプライアンスを阻害する職場風土として、

  • 「ツルの一声」でこれまでの決定が変わってしまうことがある
  • 問題やトラブルに対し、「臭いものには蓋」という雰囲気がある

なども取り上げ、『議論や検討を行う風土』(全8項目)として調査項目に含めている。
これらの『議論や検討を行う風土』を従業員がどの程度認識しているか、また、なぜそのような『議論や検討を行う風土』が促進されるのかを、その他の項目(会社・職場・個人項目)との関連性により把握することが、根本的な解決に近付くことができる。皆さんはどのような組織風土が課題と考えられるでしょうか。

次回は、「個人的不正を誘発する命令系統の不備」をご紹介する予定です。

第2回のまとめ

  1. コンプライアンス違反には「組織的違反」「個人的違反」がある。
  2. 「組織的違反」と「個人的違反」への対応方法は異なる。
  3. 「組織的違反」には『議論や検討を行う風土』が影響している。

※参考文献
岡本浩一・鎌田晶子(2006)「属人志向の心理学」
岡本浩一・今野裕之(2006)「組織健全化のための社会心理学」

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執筆者紹介

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査、ダイバーシティ意識調査、パワハラ実態調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認不正検査士(CFE)。経営倫理士(第15期)。産業カウンセラー。

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