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第1回 不正の抑止は組織風土から

掲載日:2011/01/07

コンプライアンス経営において、一番恐れるべきは、企業不祥事の発生である。企業不祥事はどのような経緯で明らかになるのか、興味深いデータがある。公認不正検査士協会が発行する「2010年度版 職業上の不正と乱用に関する国民への報告書※」で、『通報制度』が不正発覚の経緯としてトップに挙げられている。その割合は40%を占め、次いで経営監査15%、内部監査14%である。

公益通報者保護法が2006年に施行され、全事業所での『通報制度』の設置が義務付けられている。通報の取り扱い方法については、各社の担当者から、「どのようにすればよいか」とお困りの声が寄せられる。通報の際の匿名性と機密性の保持、従業員が報復を恐れることなく不審な行動を通報できるよう促すことが、重要なポイントである。(具体的なノウハウは、次回以降の当コラムで紹介予定)

では、不正の抑止には、何が有効なのであろうか。

それは、「摘発されるかもしれない」という認識である。
上記の結果にもあるように、監査は不正防止の抑止力を有しているが、発見において万全ではない。また、内部統制を整備するだけでは、完全に不正を防止することはできない。

不正の抑止に効果的なのが、「組織風土の改善」と「コンプライアンス教育」である。
組織の風土を作るのはトップである。トップが従業員に対して健全な姿勢を示すことが第一の抑止力である。健全な職場は、トップの健全な姿勢のもとに宿るものである。

次に、「コンプライアンス教育」は不正を防止・摘発するための基礎となる。不正とは何か、組織に与える損害、不審な言動を報告する方法について教育を受ける必要がある。データによると、不正発覚は通報制度のみならずコンプライアンス教育を実施している組織が、比較的低い不正の損失額を示している。

次回は、「組織風土の現状把握」をご紹介する予定です。

第1回のまとめ

  1. 企業不祥事の発覚は『通報制度』がトップ
  2. 不正の抑止には、「摘発されるかもしれない」認識が重要
  3. 不正の抑止に効果的なのが、「組織風土の改善」と「コンプライアンス教育」

※2010年度版 職業上の不正と乱用に関する国民への報告書
2008年1月~2009年12月の調査対象期間中に世界各国において発生した事例をもとに集計されている。寄せられた1,843件の事例はすべて公認不正検査士(Certified Fraud Examiners)により提供されたデータである。事例を通じて職業上の不正に関する世界的な動向を考察したものである。

執筆者紹介

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査、ダイバーシティ意識調査、パワハラ実態調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認不正検査士(CFE)。経営倫理士(第15期)。産業カウンセラー。

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