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第9回 楽観的思考が業績を高める

 前回、セリグマンの提唱したポジティブ心理学に沿って、3つの良い出来事を毎日書き留めるというプログラムの効果を紹介した。どんな小さなことでも、その日に感じた3つの良い出来事を毎日想起し書き留めることが、楽観的な思考を促進し、悲観的な思考を抑制する働きを持つと考えられる。今回は、この楽観的思考が業績に及ぼす影響について、筆者らの行った調査の結果を紹介しよう。

説明スタイル

 セリグマンによれば、人は自分に起きた出来事をどのように説明づけるかという「説明スタイル」を持っている。この説明スタイルの基本となる概念が、楽観的思考(楽観主義)と悲観的思考(悲観主義)である。たとえば、コップに半分の水を、「まだ半分ある」と見るか、それとも「あと半分しかない」と見るか。端的にいえば、前者は楽観的思考であり、後者は悲観的思考である。

 楽観的思考の強い者は、自分に起こった悪い出来事に対して、その原因が自分以外のものにあり、その原因は一時的なものであり、その原因が他のことに及ぶことはないと考える傾向がある。これに対して、悲観的思考の強い者は、それが自分に原因があり、その原因が今後も続き、自分のなすこと全般にそうしたことが及ぶと考える傾向がある。

 このような説明スタイルの違いが業績に影響することが、セリグマンらの研究で明らかにされている。生命保険会社営業員を対象に行った彼らの研究によれば、楽観的思考の強い営業員の1年目の販売成績は、悲観的思考の強い営業員に比べて29 %高く、2年目になると130%と、実に2倍以上の差が生じた。また、入社2年まで在職した者とそれまでに脱落した者についてみると、2年間の継続者の67%は楽観的思考の強い営業員である一方、脱落者の59%は悲観的思考の強い営業員であった。

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説明スタイルと販売成績との関係

 筆者らも、ある生命保険会社女性営業員400名を対象に、質問紙を用いて楽観的思考と悲観的思考の強さを測定し、販売成績との関係を調べた。結果は、挙績件数(業績となった件数)、新規契約高ともに、楽観的思考群の方が悲観的思考群よりも高い値を示し、その差は統計的にも有意であった(図1)。つまり、楽観的思考が業績に好影響をもたらしていることが明らかになった。

図1

 また、在職3年未満の営業員のうち、調査実施後に離職した者と在職中の者の間で、説明スタイルの比較を行ってみた。すると、悪い出来事に対する楽観的思考は、離職者の方が在職者よりも弱く、その差は統計的にも有意だった。つまり、悪い出来事が生じた場合、それに楽観的に対処出来ない者の方が離職しやすい傾向が見られたのである(図2)。

図2

 営業一般に言えることであるが、本人の努力にもかかわらず勧誘を断られることは日常茶飯事であり、営業成績を維持していくことは容易ではない。こうした状況に対して楽観的に対処できないと、ストレスも高まり、仕事へのモチベーション低下にもつながる。実際、生命保険文化センターの調査によれば、生保営業員の5割が入社1年で辞め、2年で3割が辞めるという。入社2年間を過ぎて残っている営業員は2割ということになり、極めて定着率の低い現状がある。楽観的思考の習得は、こうした現状の改善にも効果があるものと期待できる。

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楽観・悲観は対立的特性か

 ところで、楽観的思考と悲観的思考については、2つのとらえ方ができる。一つは、楽観の反対が悲観であって、楽観的思考と悲観的思考は1本の軸上にある対立した特性とみるとらえ方である。もう一つは、楽観的思考と悲観的思考は独立した特性であり、それぞれを別の軸としてとらえるものである。前者は一次元的、後者は二次元的なとらえ方といえる。

 後者の立場では、楽観的思考も悲観的思考もともに強い、あるいはともに弱いということも考えられるが、これは決して不自然ではない。楽観的な人が全てを楽観的に考えるかといえば、時と場合によっては悲観に陥ることもある。筆者らも、この二次元的なとらえ方から、楽観・悲観の相互的な影響を探ってみた。結果は、楽観的思考が強く悲観的思考が弱い群では業績が最も高く、楽観的思考が弱く悲観的思考が強い群では業績が最も低かった。これに対して、両思考ともに強い群、両思考ともに弱い群の業績は中程度であり、かつこの2群間の業績に統計的な差は認められなかった。

 ここからは、この2つの特性を、1本の軸の両端としてではなく、それぞれ独立した特性として、両者の相互的な影響をみることが、業績の予測に役立つといえそうである。

【掲載:2011年10月3日】

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角山剛 モチベーション論

角山剛 モチベーション論
「モチベーション」をテーマに、その理論背景や研究内容を、東京未来大学の角山剛教授にやさしく解説いただきながら、実務に生かすためのコツをご紹介するコンテンツです。

東京未来大学教授・同モチベーション研究所所長 角山 剛

1951年生まれ。立教大学大学院修了。東京国際大学教授を経て2011年9月より現職。専門は産業・組織心理学。モチベーションの理論的研究をはじめとして、女性のキャリア形成、職場のセクハラ、ビジネス倫理意識などモチベーション・マネジメントの視点から研究に取り組んでいる。産業・組織心理学会前会長、日本社会心理学会理事、日本グループ・ダイナミックス学会理事、人材育成学会理事。近著に「産業・組織心理学」(共著 朝倉書店)、「産業・組織心理学ハンドブック」(編集委員長 丸善)など。

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