採用現場ニュース2019(2019年の記事)

【2019年1月】ことしの採用、4つの課題

■20卒の採用が始まる。新卒の求人ブームは相変わらずで来年も企業の採用意欲はますます旺盛だ。昨年末に発表された「ワークス採用見通し調査」(リクルートワークス研究所)(※1)によれば、大卒採用が前年より増えると回答した企業は13.8%と高水準が続いている。こうした採用環境の中で、2019年、企業の新卒採用にはどのような課題があるのか探ってみた。

課題1.採用スケジュールの確認
企業、学生ともに毎年、最も気になるのが採用活動の展開フロー。昨年秋、指針を廃止すると経団連が発表したが、それは2021年卒の話。今年は昨年同様、3月1日説明会解禁、6月1日選考開始が基本ルール。多くの企業は、今年も指針に沿って採用活動をするとみられているが、すでに指針はなくなったとばかりに公然と早期内定を出す企業が出なくもない。だが、その動きはごく一部にとどまるだろう。採用担当者としては、就職人気が高く採用人数が多い企業(金融や食品、航空など)の動きを注視しながら採用活動を柔軟あるいは臨機応変に展開していくことが課題だ。

課題2. SNSを活用した採用活動への対応
スマホ全盛時代。機器の機能向上だけでなくアプリも豊富で学生の就活にとっては必需品となった。会社説明会の案内・申込み・企業情報入手・地図表示・エントリー・Web面接など学生の就活にとってスマホは、企業との接点として重要性を増してきている。こうしたスマホ活用では、学生相互のSNSの活用が企業の課題だ。関心を持った学生だけでなく、その友人を誘わせるというアプローチだ。友人も一緒に企業セミナーや懇談会に参加させようという誘惑である。優秀な学生の仲間はやはり優秀だからだ。そして応募にあたっては、学生相互で企業分析が行われる。その媒介がLINEなどで、本音ベースで緊密に結びついている。これからの懇談会シーズンにあたって、関心を持った学生が友人を誘って応募するSNS活用の採用に取り組む、これが第二の課題である。

課題3.離職させない採用
いわゆるミスマッチなき採用ということだが、ここ数年、企業における若年者の離職率が高まっている。苦労して採用した優秀な学生ほど早期離職しているという。その原因は、職場の風土、人間関係、会社の将来に対する不安などが理由というが、本心は、違うだろう。「辛い思いをして働いた割に、給与があまり良くない」「思っていたより厳しい仕事だ」「先輩社員がていねいに指導してくれない」といった理由だ。
それというのも求人難を反映してインターンシップや会社説明会では、会社は花形部門や優秀な人材のいる部門を見せて、学生をチヤホヤする。そのお客さん気分のままで入社すると地味な部門や厳しい上司のもとに配属されたり、思っている以上にきつい仕事に就くことになって愕然となる新入社員も少なくない。頑張っても簡単には成果は出ない。そこでストレスを抱えることになる。そして手元のスマホには、大手企業や有名企業からの求人メールが毎日のように届く。多くの多彩な企業が勧誘している。若年者の転職が容易なのである。採用担当者の課題は、さまざまな角度からの面接でミスマッチをなくそうとしているが、時には、仕事の目標、社員の役割、求められる責任と能力、ライバル社員との競争などを学生に見せる採用活動も必要なのではないか。1月下旬から始まる若手社員と学生との懇談会や質問会では、そんな試みをしてはどうだろうか。

課題4.通年型採用への対応
新卒一括採用からの脱皮、ということで話題を集めている通年採用。終期のない採用である。先の経団連の指針撤廃の根拠にもなっているが、そのねらいは悪くない。建前は、採用窓口をいつでもオープンにして優秀な人材がいれば、随時、採用しようというのである。前掲の「ワークス採用見通し調査」でも19卒の採用活動では、10.7%の企業が通年採用を予定しているという。しかし、通年採用をする理由は、「多様な人材を確保するという企業は18.8%に過ぎず、「採用目標人数を確保するため」という企業が73.5%を占めている。経団連の期待とは異なり、求人ブームで新卒が予定通り採用できない、やむ得ず通年化しているというのが実態だ。この通年採用は、企業にとってはかなり負担だ。採用担当者は採用活動を終わらすことができず、通年で働き、選考体制も維持し続けなくてはならない。しかし、採用目標数を達成できていない企業は、夏以降でも窓口を閉めるわけにはいかない。そんな体制づくりも課題だが、多様な人材を随時採用するためには、従来とは違った採用広報や選考方法の抜本改革にも取り組む必要がある。経団連のねらいもそこにある。一括採用からグローバル採用である。議論はこれからだが、大きな課題である。

*このほか20採用に向けては春インターンシップの運営、データサイエンティスト時代を意識した新たな採用基準、AI採用の試みなどが課題としてあげられるが別の機会に取り上げよう。

※1、ワークス採用見通し調査 (リクルートワークス研究所) 2018年12月19日より引用

【掲載日:2019/01/09】

【2019年3月】志望先を決めないで就活する学生たち

■3月1日、就職情報が解禁されて20卒の採用活動が本格的にスタートした。すでに大学内では企業セミナー/業界パネルディスカッション、学外では大規模な合同説明会や各種就職イベント/1dayインターンシップが連日多数、開催されている。そうした中で学生の就活も一段と活発になってきたが、実際の学生の動きは緩慢で、1dayインターンシップ以外の就職イベントの参加者数は、どこも昨年対比減少の傾向がみられる。その原因は、数年来の求人ブームによる就職環境の好調さに加えてインターンシップ参加者に対する個別企業の囲い込み、学生による応募企業数のセレクションの強化があげられる。

▼昨年より速いテンポで展開している20採用だが、出遅れた企業にとって希望といえるのは、これから就活を本格化しようという学生が少なくないという情報だ。こうした学生には、3つのタイプがある。

その1は、就活に慎重な学生たちだ。何もしないで慎重だったのではない。主要な就職サイトには早期から登録し、興味のある業界や企業については、ホームページを見たり、就活学生相互のSNSなどから情報を得たり、1dayインターンシップに参加したりしてきた。そうした中で、興味ある企業の情報をできるかぎり多く集め、手元に引き寄せていたからだ。だが、こうした学生たちの多くが自己理解で戸惑い続けていたが、ようやく2月から周囲の動きに合わせるように動き始めたのである。

その2は、すでに内定を持っている学生たちだ。就職情報会社ディスコの学生モニター調査(※1)によれば、2月1日時点での学生の内定保有率は、8.1%と昨年より3ポイントも高いが、どの学生も就活をやめたわけではない。むしろ学生は、内定を持っていることを保険として、これから始まる人気企業や大手企業の就活に本格的に取り組むという。これは、内定を出した企業にとっては容認し難いが、新卒一括採用の現状では仕方あるまい。

その3は、一般の就活学生だ。昨年の夏からのインターンシップに参加し、学内外の企業研究会に参加し、自己理解を深め就職対策の準備をしてきた学生たちだ。すでに複数の企業の最終選考に残っている学生も多いが、もっと良い企業、自分に合う企業はないかと熱心に就活を続けている学生たちだ。   

▼では、これから就活を本格化するという学生たちの就職意識や活動は、どのようなものか。先のディスコの調査(※1)では、志望業界が「明確に決まっている」という学生は、34.4%いたが「決まっていない」という学生は21.3%だった。これから業界研究をする学生が2割超もいるということが注目される。興味深いのは、この「決まっていない」学生の数字が前年同期より6.6ポイントも高いということ。そして「決まっていない」という学生の今後の行動予定も面白い。これからの就活では、「志望業界を決めて就活したい」が54.3%、「このまま決めずに就活したい」が45.7%と半数近くが回答している。業界を絞らずに広く、個々の企業の説明会などに参加しながら就活するということらしい。

▼こうした学生たちの就活を見てみてもわかる通り、就職先の選び方は、業界でなく個別企業ごとに選定している。たしかに今日、業界を前提に企業研究をするという発想は古いし、産業界の実態とずれている。十数年前だったら業界の区分も企業の序列も明確だったが、現在では自動車・電機・化学・食品などの事業分野のように境界領域が重複するだけでなく別領域に展開している。そのため学生が就職先としてあげるのは業界より個々の企業であり、業界という枠組みを超えて企業を見るのも当然だろう。だから第一志望が異業種のトップ企業3社をあげても何ら違和感がなくなったのである。

▼このような学生の活発な就活の動きを読んで、大手企業は、3月上旬から学生にエントリーシートを提出させる動きを鮮明にした。これも先のディスコの企業調査(※2)だが、アンケート回答企業の54.6%(昨年は、47.1%)が受付を開始した。この時点でのエントリーシートとなれば、これまでの企業研究会やインターンシップ参加者が対象となるが、本気で志望しているかどうかを見極め、3月中旬からの本格的な面接に入るための選考とみて良い。そのためにエントリーシートを詳細に記入させたり、小論文形式にしたりして工夫を加えている。面接も人事だけでなく幹部社員との面接や面談会、そして少人数のグループディスカッションや5日間前後のインターンシップを予定する企業も目に付く。これは、学生の志望度を確認すると同時に念入りに面接をして内定辞退を防ぐためでもある。その背景には、4月から人事面接に入り、早期に内定を示唆したいというねらいもある。今年の場合は5月の10連休が深刻な問題で、大手企業の内定時期は形式的には6月上旬がピークだろうが、実態としては10連休の前の4月下旬に内定が示唆されることになって、20採用はヤマを越すことになると見られている。

※1.株式会社ディスコ「キャリタス就活 2020 学生モニター調査結果」より引用
※2.株式会社ディスコ「2020年卒・新卒採用に関する企業調査」<2019年2月調査>より引用

【掲載日:2019/03/07】

【2019年5月】一括採用から通年採用へ

■4月22日、経団連は、大学との産学協議会で議論した結果を中間報告書にまとめ、通年採用を進めていく方針を決めた。この報告書では、新卒一括採用を見直し「多様な採用形態に移行していく」として専門的なスキルをみることやジョブ型採用を取り入れる通年採用のニーズは高まっていると評価、経団連として通年採用を拡大していくと発表した。マスコミは、これによって終身雇用など日本的雇用慣行が見直され、グローバル時代の人事制度がスタートすると一斉に報じた。だが今後、通年採用が拡大普及することによって採用活動はどう変わるのか、採用現場の企業や大学には、それぞれ多くの課題がありそうだ。

▼通年採用の現状はどうか。リクルートの「就職白書2019」(※1)によれば採用の方法・形態ということでは、21.7%の企業が通年採用を導入していると指摘している。注目したいのは、従業員規模と業種による違い。従業員数5000人以上の大企業では、16.9%と少ないが従業員数300人未満の中小企業では、34.1%と目立って多い。業種別では、サービス・情報が30.8%、建設27.5%、流通21.9%、製造15.9 %、金融10.8%と差がある。この導入率は、中小企業や採用力の弱い業界ほど高いのが特徴だ。これら企業の導入目的は、提言にあるようなグローバル化やIT化を担う人材を獲得するためではない。採用活動をしてきたものの計画数を達成できないため春の一括採用の補完として不本意ながら通年採用を行っているのである。
これらの企業と反対の極にいるのが、外資系企業やIT大手企業、ベンチャーである。これらの企業は、他社に先駆けて「高度で専門性が高い人材」を早期に確保しようということで通年採用を掲げている。その採用活動は、夏にインターンシップやワークショップで学生を選考、年間で何回も内定出しを繰り返す。これらの企業は、学生にとっては、早期に内定を出してくれる企業であり、自分の力を評価してくれる企業とあって就職人気は高い。その注目点は、採用活動が通年であり、応募条件は、卓越した能力、国籍・年齢不問(ただし30歳以下)で既卒者や外国人だけでなく在学生にも内定(内定パス)を出すことにある。多彩な人材を求めて世界に開かれた採用というわけだ。これこそ本来的な通年採用の到達点だろう。

▼これに準じるのが経団連の目指す通年採用。当面は、グローバル化やIT化を担う人材を最優先で獲得するため年間を通じて採用・選考活動を行うことにある。従来の一括採用に比べると自社のペースで学生にアプローチし、自社にマッチした学生を採用することがねらいだ。そうなれば、外資系企業の早期採用活動に対抗できるし、外国人留学生や留学中の日本人学生などにも対応できる。多様性のある学生を随時、採用できることになる。従来の一括採用が、採用活動の集中によって企業も学生もワンチャンスだったものが分散化するのである。当然、企業の採用活動を規制してきた指針のようなルールも撤廃される。自由で多様な採用活動が実現できるのである。

▼このようなメリットがある一方、通年採用には、次のような課題もある。

  1. 能力重視の採用というが通年採用において企業が求めている能力とはどのようなものか、これまでの採用選考で評価していた能力とどこが違うのか、選考基準が大学や学生には不明だ。
  2. 通年で採用していることを通年で広報することも課題だ。応募者の質の確保のためには、企業側から要求する能力を明確にして学生などに企業から意図的にアプローチすることも必要だ。スカウト型採用も検討することになる。
  3. 通年採用では、要求する能力や経験が明確なジョブ型採用となる。今後、グローバル職やIT職から法務・会計・統計など専門職の開発が課題になるだろう。
  4. 能力主義の採用、ジョブ型採用が広がると採用戦略や採用の決定権は、即戦力的な能力を評価できる部門に徐々に移る。人事部から採用業務がなくなるのである。
  5. 通年採用の大きな課題は、効率的な採用である。採用広報・選考・面接・インターンシップなどどれも長期化するほど採用コストが増加する。

*このほか、通年採用の場合、新卒に限定されないので技術・知識・姿勢など能力主義賃金を入社時から適用していくことになる。研修も一律でなく個別になるか自己啓発が中心になる。配属や評価でのミスは早期離職、転職への契機にもなる。など年功序列からの離脱にかかわる課題は多い。

▼このように通年採用の現状と課題を確認したが、実際には、全面的に通年採用への移行に踏み切る企業は少ないだろう。これについては経団連も「一挙に通年採用に変わる話ではない。価値観や生活観と結びついていくので時間がかかる」と述べたように順次発進ということになりそうだ。だから当面は、一括採用と通年採用との二本立てになりそうだ。そうなると採用活動のスケジュールも継続されることになる。既に指針廃止となっても、何らかのルールは必要という声が強いので政府が経団連から指針を引き継ぎ、緩やかなルールを策定するとみられている。
あと数年、一括採用がどう見直され、通年採用がどのように発展するのか不透明なだけに、まだまだ混迷は続きそうだ。

※1.就職みらい研究所(株式会社リクルートキャリア)「就職白書2019」より引用

【掲載日:2019/05/09】

【2019年7月】AI採用は、21年卒から本格化か

■主要企業の20卒採用活動は、6月中旬でヤマを越したが、内々定の早期化と短期集中は、さらに進行した。企業にとって採用業務の軽減と採否のスピードアップが大きな課題になってきた。そうした課題を解決するものとして昨年からAI採用が、注目されている。

▼一般にAI採用というが、その対象は、新卒者だけでなく中途採用やアルバイトの採用など広範囲にわたって導入されているし、採用活動のそれぞれの場面で活用されている。例えば、会社説明会や質問会、エントリーシート、論作文の採点、面接や能力や性格を深く掘り下げるテストも普及し始めた。かつてはコンピュータを使って大量のデータを高速で機械的に整理していた時代から本格的なAIシステムを導入して応募者と対話しながら人物評価、採否の判断業務まで行うようになった。

▼では、こうしたAI採用は、現在、どれくらい普及しているのだろうか。株式会社ヒューマネージの昨年8月の調査(※1)によると、新卒採用でAIを導入している企業は、まだ5.4%と意外に少数だった。しかし、導入に向け準備中と検討中と回答した企業が20.9%もあったことに留意したい。まだ普及したとは言えないが、関心は高く、AI採用に前向きな企業が、4社に1社もあることがわかった。

▼こうしたAI採用にいち早く取り組んだ企業としては、ソフトバンクの事例が知られている。同社は、応募者のエントリーシート(ES)の自動判定を2017年から実施している。それまで同社は、1年で約3万件もあるエントリーシート(ES)を採用担当者が読んで選考していたが、AI導入により、第1次選考にかかる時間を約75%削減、これによって採用担当者の負担が大幅に軽減されたという。このエントリーシート(ES)の選考とともに昨年から急増したのが動画選考。これは大手の食品会社や総合商社や保険会社など大手企業だけでなく地方のスーパーや信用金庫も導入して話題となった。その仕組みは、シンプルで、応募者は、志望動機などの質問に答える姿を応募者自身がスマホで撮影、録画し、企業の専用サイトに送信。企業は、受信した動画をもとに応募者の表情やコミュニケーション力、ポテンシャルを判断する。これは、動画によるエントリーシート(ES)ともいえるだろう。この動画について採用担当者は、エントリーシート(ES)を読み込むよりも本人が自分を語るのでその人の人柄や魅力が書類以上にわかるという。この録画からさらに発展させたのがライブ型である。応募者と企業側がスマホを介して質疑応答するのだからこれは面接といってよい。こうした動画面接は、インターネット経由なので企業は、地方の学生や海外の学生との面接・選考が随時可能になり、採用活動の範囲を大きく広げることになった。このほか、動画面接をしながら質問に対する回答で応募者の志望度、辞退可能性、能力や性格、将来性まで分析するという総合型のAI採用ツールも登場してきた。 

▼こうしたAI採用にどのようなメリットがあるかは、上記の事例を見てもわかるように採用業務の軽減、スピード化、採用地域の拡大、人材評価の客観性の4点があげられるが、まだまだ企業のAI採用への疑問や不安、課題は多い。この点について先の株式会社ヒューマネージの調査(※1)によると、AI採用の課題として最も多いのは「活用のイメージがわからない」という回答である。これは、AI採用でどこまで期待する人材が採用できるのか、採用業務がどれだけ軽減されるのか、どのレベルまでAIに選考を任せられるのか、という疑問のようだ。この回答が4割を占めていた。たしかにAIが選考した人材が優秀かどうかは断定できない。だが、これは、AIに期待すぎかもしれない。最終選考は、人間であり、リアルな面接が欠かせないはずだ。次に多かった課題は「具体的な進め方がわからない」という課題。従来の選考方法にどう代替し、どうすれば効果的なのかわからないようだ。このほか、「導入コストが高い」というのも3割あった。これは、普及するにつれて導入コストが低下することと対象人数によって変わるだろう。見逃せないのは、「社内の理解が得られない」という課題である。変革期によくある問題ともいえるが、企業にとって採用姿勢にもかかわるのでAI任せで業務の軽減というメリットだけでは押し切れないのだろう。

▼AI採用は、上記のような課題はあるが、今後の採用業務において技術はさらに発展し、企業や学生たちのAI採用への理解も進むことで確実に普及していくだろう。すでにスタートした20卒の新卒採用では、総合商社など大手企業が夏インターンシップの応募者に動画の提出を要求している。今年はAI採用については、トライアルから実用へと一歩踏み出す企業が増えるのは確実で、21卒の新卒採用は、「AI採用元年」となりそうだ。

【掲載日:2019/07/04】

【2019年9月】20卒採用を振り返る

■20卒の採用活動は8月末で終了。9月からは、いよいよ指針なき環境の下での採用活動がスタートする。次年度の採用活動の準備にあたって、昨年度の採用環境、採用活動、内定テンポ、学生の就職人気、新しい採用選考の動きなど、どう展開されたのか、各就職情報会社などの調査を参照しながら振り返ってみよう。

1.求人ブームは継続した
20卒の採用環境は、米中の経済摩擦やアジア経済の停滞などで波乱含みだったが、日本経済が引き続き好調ということで新卒の求人ブームは継続した。日経新聞の採用計画調査(2019年3月25日)〈※1〉では、20卒の採用計画は、昨年度比7.9%増(昨年は8.5%増)、リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査(2019年4月24日)〈※2〉でも1.83倍(昨年は1.88倍)と発表された。いずれも伸び率が鈍化しているが、増加傾向に変わりはなかった。こうしたなかで金融業界の採用抑制が注目された。これは、メガバンクだけでなく証券、保険など業務の統合やAI化が進んでいる大手企業に顕著だったので学生のショックは大きかった。  

2.インターンシップが採用活動の軸になった
ここ数年、夏インターンシップが企業や学生にとって活動開始のトリガーとなっている。その傾向がより一段と明確になった。昨年の夏インターンシップは、1dayインターンシップが大多数を占め、その目的は、会社を知ってもらい、応募を促すというプレ採用広報活動がほとんどだった。こうした夏インターンシップに就活学生の7割が参加し、参加した学生の一部は、その後も企業から綿密にフォローされ、秋・冬・春と継続的に選考会型インターンシップや懇談会、早期面接などに招待され、企業の選考のフローに乗せられた。こうした早期のインターンシップは、母集団形成だけでなく、採用選考に大きな役割を果たすことになった。就職情報大手のマイナビの学生のモニター調査(2019年5月)〈※3〉によると、4月時点で内定を得ている学生の56.9%が内定先企業のインターンシップに参加していたと報告している。採用活動においてインターンシップの役割が、きわめて大きくなったのである。

3.早期内定が増えたが、混乱はなかった
求人ブームの継続拡大と夏インターンシップの増加によって、採用活動は早期化、内定も早期から乱発され大型連休前に終了すると見られていたが、どうだったか。前述のマイナビの調査によれば、学生の内定率は、3月末が12.7%(昨年9.5%)、4月末で39.3%(昨年33.2%)、5月末で61.8%(昨年60.3%)、6月末には76.3%(昨年73.3%)というテンポだった。たしかに昨年より早いペースで進行し、内定率も大幅にアップした。だが、内定出しの過熱化やトラブルはみられず、6月末で静かに終結した。多くの企業が早期から学生と接触をしていても内定は、6月上旬の人事面接を経てから出すという動きをしたからだろう。その背景には、最後の指針を形式的にも遵守しようというスタンスと内定辞退を見極めるのに慎重だったからだろう。

4.人気企業は、相変わらず身近なブランド企業
金融業界の採用抑制やAI化の波は、学生の就職人気企業ランキングや就職観にも影響を及ぼした。20卒学生の就職人気ランキングの結果は、どうだったか。東洋経済オンライン5月26日号〈※4〉をみるとトップ3は、全日空、明治グループ、日本航空。以下生保、証券、総合商社、メガバンクと続いた。いずれも生活に身近なブランド企業が上位を占めた。こうした中で人気後退が顕著だったのは、経団連の中核を担う大手製造業と採用抑制のメガバンクの人気後退という異変が目に付いた。

5.学生の就活が変化してきた 
売り手市場を反映して学生の就活が沈静化した。学内での企業説明会に参加する学生数が減ってきたのである。これは、先輩の内定状況や企業の旺盛な採用意欲から、学生たちの間に今年の就職は何とかなるという楽観論が広がったためだろう。その一方、学外で開催される企業主催の説明会の参加学生は増えた。この学外の説明会は、会場がホテルやイベント会場ということで企業の採用担当者とブースでじっくり話し合えることや、採用についての生情報が直接伝えられることが魅力だったとみられる。
またエントリーや選考への応募数についても変化が見られた。これは、ディスコの「新卒採用企業調査」(2019年7月)〈※5〉がその実態を明らかにしている。同調査によれば、大手企業の場合でもエントリー数が「増えた」が30.9%に対して「減った」が46.4%に、「選考への応募者数は、「増えた」が27.2%に対して「減った」が50.1%だったと報告している。この背景にはインターンシップやクチコミサイトというチャネルの急増という理由もあるが、学生たちが志望先を絞り込む傾向が強くなったからである。

6.AI採用時代がスタートした
AI採用に取り組む企業が増えたのも新傾向だ。膨大な応募者を公平に迅速に選考するのが目的ということで、当面はエントリーシートやスマホを使った動画エントリーの評価が中心で、導入した企業の多くはトライアルの段階だった。しかし、これを大手の情報通信・航空会社・総合商社・保険会社・食品会社などが導入したことで、俄然注目された。だが、企業にとっては、採用業務の負担軽減、選考のスピードアップというメリットだけでなく、AIの選考基準の透明性や評価の妥当性、情報の保護、学生の受け止め方への配慮などAI採用への疑問や課題はまだ多い。現在、このAI採用については、企業/学生ともに賛否は相反している。学生の賛成意見は、AIのほうが公平な判断が期待できるという評価や遠隔地学生の利便性、拘束時間の軽減というメリットが学生にとって歓迎するところとなっている。今後、企業は多くの課題を順次解決しながら、AI採用を徐々に拡大していくだろう。

7.通年採用への移行が始まった
採用活動のルールを決めた経団連の指針が撤廃されると発表されたのが昨年秋。その時、経団連会長から提言されたのが一括採用の見直しと通年採用への取り組み。しかし、この一括採用は、多くの企業にとっては効率的でメリットの多い採用方式。そう簡単に通年採用に切り替えられるものではない。通年採用も提言にあるようにグローバル人材や高度人材の採用には有効だが、新卒採用では、その対象となる人材はごく少数だろう。この通年採用は、外資企業や急成長企業、採用力のある企業にとっては既に導入済み。だから提言は、目新しいものでなく、企業や大学を困惑させただけだった。今後は、新卒採用が既卒者も含んだ通年採用になるのは必至だが、当面はまだ一部の企業にとどまり移行は緩やかなものになるだろう。だが、この提言によって新卒採用は大きな転換期を迎えたことは確かだ。

※1. 日経新聞の採用計画調査(2019年3月25日版)より引用
※2.リクルートワークス研究所の求人倍率調査(2019年4月24日)より引用
※3.マイナビの学生のモニター調査(2019年5月)より引用
※4.東洋経済オンライン(2019年5月26日号)より引用
※5.株式会社デイスコの「新卒採用企業調査」(2019年7月)より引用

【掲載日:2019/09/11】

【2019年11月】文科省の採用活動調査を読む

■文科省(文部科学省)は、10月30日、「2019年度 就職・採用活動に関する調査結果」の速報版(※1)を発表した(以下、本調査)。これは、本年度の就職・採用活動の状況について大学と民間企業に対してアンケート調査したもので、企業の選考実態や学業成績の取り扱い、インターンシップなど産学連携について、教育行政の立場から調査、分析している。本調査は、大学編と企業編の二本立てだが、本稿では、企業編を中心に紹介しよう。
企業編の主な項目をあげてみよう。企業の採用計画、採用状況、広報活動、面接・選考開始時期、内々定時期、内定辞退、学業配慮、学業重視度、学校推薦、留学者採用、インターンシップ、採用活動ルールの評価、オワハラ(※2)、セクハラ等々調査項目は多岐にわたる。ここにあげられている項目は就職情報会社の調査と共通するものが多いが、その結果は、かなり違う。文科省という行政機関からのアンケート調査なので、企業としては建前どおりの回答が多いからである。だから実態とかい離した回答が目に付くのは仕方ないが、本調査ならではという調査項目も少なくない。以下に、興味深い調査結果をいくつかあげてみよう。

▼20卒の採用計画がどうだったかは、目新しくはないが、本調査であらためて確認してみよう。昨年より予定数を増やした企業が30.8%から26.2%に減。採用予定数を減らした企業が12.5%から15.6%に増加した。これまで毎年のように採用数を増やしてきた企業の求人意欲にストップがかかったのである。その採用環境の変化を反映したのが企業の採用市場観。学生優位の売り手市場にあるという回答が69.9%から52.5%へと後退している。この傾向は、各就職情報会社の調査でも共通して指摘されていた。この新卒に対する求人意欲後退の原因は本調査では明らかにしていないが、景気動向の冷え込みや業務のIT化だけでなく新卒の採用難が深刻化する中で大量採用企業や中堅企業が中途採用や派遣に転換しているからであろう。それが、新卒採用のトレンドをマイナス方向に向かわせているようだ。

▼広報活動とは、指針によれば「自社の採用サイトあるいは就職情報会社の運営するサイトで学生の登録を受け付けるプレエントリー」というものだが、本調査では、3月1日を開始とした企業が最も多く54.1%(昨年は63.1%)、だった。こんなに多くの企業が指針を遵守していたという回答に驚く。その一方で2018年12月までに開始していたという早期開始企業は、22.8(17.0%)だった。昨年より増えている。こちらに注目したい。広報活動開始がより早期化したということである。
同様に選考開始時期については6月開始が最も多く24.1%(29.8%)だった。これも指針通りの模範回答だが、この質問には、率直に回答した企業も多く、3月までに選考を開始したという企業が33.9%、4月が24.1%、5月が9.5%と早期が増えた。今年の場合は、選考開始イコール内々定出し開始と読み替えると納得がいく。それにしても今年の5月の数字が極端に低いのは、10連休が選考活動を大きく停滞させたためだろう。
最近では、採用計画より採用予定者数の確保状況(8月1日現在)が知りたいところだ。これは、大企業と中小企業では大きく違う。本調査では、大企業は、「確保できた」のが49.6%(昨年は49.2%)と昨年並みだったのに対して中小企業は35.0%(27.5%)だった。中小企業の新卒採用がやや好転したものの採用難は相変わらずのようだ。

▼文科省らしい調査項目もある。企業が説明会や面接日、インターンシップの実施日程について学生に余裕をもって連絡したり授業に配慮したかである。このなかで「夕方や土日の説明会、面接」を行った企業が35.7%もあったのが目を引いた。文科省、大学の要望の成果といっていこう。文科省らしいといえば採用選考において学業成果の活用も調査している。「学業成果を表す書類やデータ」を求めている企業は76.9%だったが、採用選考において、どの程度重視しているかは、「大いに重視している」4.7%、「ある程度」47.6% 「重視していない」24.9%、「全く重視していない」5.7%という結果だった。しかし、重視企業にその中身を聞いてみると、成績81.5%、卒業見込み66.3%、履修科目46.7%だった。成績や履修内容より卒業できるかどうかが気になるようだ。
また学校推薦については、「学校推薦による採用は行っていない」と回答した企業は75.0%と圧倒的で、文系・理系ともに学校推薦を行っている企業は、8.6%に過ぎず、多くは理系で15.6%だった。

▼採用担当者が気になるインターンシップについては、どうだったろうか。調査結果のポイントを3つ挙げてみよう。 
1.インターンシップの目的は、「自社への理解促進」が34.7%、これに対して「潜在的応募者の確保(母集団の形成)」、「採用選考の一環」、「採用目的の説明会」などの合計が25.9%だった。インターンシップ本来の目的である「キャリア教育への貢献」という目的を挙げた企業が6.4%に過ぎなかったのは寂しい。「無回答」が23.1%もあったことも印象に残った。
2.インターンシップの目的を「潜在的応募者の確保」と回答した企業は、どの程度、その目的を達成できたのか。「目的が達成された」と「ある程度達成された」との回答を合わせると75.6%、これは、「あまり達成されなかった」と「母集団形成には効果がなかった」の回答合計の20.7%を大きく上回った。インターンシップが採用活動として効果があることが明確に示されたのである。
3.インターンシップで得た学生情報を採用選考で活用することについても聞いている。これは、原則不可なのだが、「活用したい」と「どちらかというと活用したい」との回答数を合わせると78.2%もあった。この調査項目は他では見かけないだけに注目される結果だ。企業には、文科省によくぞ回答したといいたい。 
このほか、指針や採用ルールについてあれこれ質問しているが、すでに日程については従来通りということで継続が決まっているだけに賛否を論じても採用担当者にとって興味を引くことはなさそうだ。

▼文科省らしい調査ということではオワハラの実態を企業に聞いていることは見逃せない。しかし、この問題を企業に聞いても実態は明らかにならないだろう。警告の意味なのだろうか。質問項目は、こうだ。「本年度の就職・採用活動において、学生に対し、他社への就職活動の終了を求めたことがありますか」。回答は、90.1%の企業は「ない」と回答したが、4.9%の企業は「ある」と回答したという。実際にはどうだろうか。 
またセクハラ行為防止のために対策をしたかという質問に対しては、「行っていない」という企業が68.5%、「行った」企業は28.1%だった。この結果はどうだろう。今後の企業の課題といえるだろう。このように本調査は、興味深い調査結果が随所にあり、来年度の採用活動計画を立案するにあたって参照する価値はありそうだ。

※1.引用データ:文部科学省「2019年度 就職・採用活動に関する調査」(企業)調査結果【速報版】
調査対象:全国の企業 2,500社
調査時期:2019年7月17日~2019年8月7日
回答率:39.2%(有効回答数 980件)(最終版は来年3月頃に公表予定)

※2.オワハラ 「就活終われハラスメント」の略、内定と引き換えに他社の選考辞退を迫ったり、就職活動の終了を強要したりする行為

【掲載日:2019/11/13】

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。