採用現場ニュース2018(2018年の記事)

【2018年1月】求人難はさらに深刻化、スケジュールは昨年並み

採用バブルの再来といわれた昨年の採用活動も幕を閉じ、すでに10月から19採用がスタートしている。新年にあたり、今年の採用環境がどのようなものか、今後、どのように展開していくのか概観してみよう。

▼まず、19年卒の採用環境である。少子高齢化の進展ばかりでなく若者の職業観の変化や新しい生活サービス産業や情報産業が発展する中で飲食サービスや運輸、建設産業においては人手不足が深刻化し、出店計画の見直しや営業時間の短縮、宅配便の遅れ、業務のロボット化などが社会問題化するなかで人材としての新卒採用は、中堅・中小企業だけでなく大手企業でも年々、困難になっている。

昨年の各種採用総括レポートでは、企業の採用担当者の8割が売り手市場であると認識し、優秀人材の採用は深刻だと回答している。とりわけ多くの若手人材を必要とする飲食サービス、運輸、流通・小売りの業界は採用難を理由に事業計画を見直し、アルバイトの正社員化を導入するところが相次いでいる。

▼こうした環境の中で今年の企業の新卒採用計画はどうだろうか。
すでに昨年末に発表された大手就職情報会社の19年卒採用計画調査では採用増とする企業が15.8%、採用減とする企業が5.1%だった。その増減差は、昨年の7.8%増を上回り10.7%増に拡大した。

日本経済は今後も海外市場の拡大が見込まれ、さらにEV、AI、ロボットなどの新産業の成長などが期待される現状では、新卒採用は、一段と積極的になり増加する見通しだ。
なかでも新卒採用に積極的なのは、多彩な成長を続けるネットビジネス企業や情報コンテンツ企業、金融システム企業、多様なゲーム・エンタメ業界だ。産業界全体をみると大手企業は昨年並みの採用計画であるのに対し、中堅企業の採用意欲が旺盛だ。
一部金融業界、とくにメガバンクのリストラの動きが報じられているが、これも業務の統合化や人手不足対策によるもので、当面は中高年層が対象。しばらく、新卒に影響が出ることはないだろう。 

▼最近の新卒採用の新傾向として注目したいのが採用の枠組みの変化である。
新卒と既卒、総合職と地域職、理工系と事務系といった採用区分が希薄化している。新卒といっても新卒にこだわらず、卒業3年以内としたり、職歴有りの応募者を容認したりすることが普通になった。また勤務地についても総合職と同等の地域総合職を設置して採用の対象者を地方の学生に広げたことも注目される。

理工系と事務系といった採用区分は、これまでメーカーがこだわっていたが、最近になってAIや新規事業に取り組む企業では、文系学生が多く成果を出していることから、総合職あるいは開発職に学部不問で採用している。

これらは、採用難からの対応策ということだけでなく、企業の事業構造の変化や働き方の見直しが背景にあるからであり、新しい時代の人材に求められる資質が変化してきたからと読むべきだろう。

▼では、今年の採用スケジュールは、どのように展開するのだろうか。
一部改訂されたものの、指針は昨年同様の「3月情報解禁、6月選考開始」で継続されたので基本は昨年と同様に推移するだろう。しかし、1dayインターンシップが容認されたことで昨年の夏、秋のインターンシップが激増、昨年末までに学生の75%がインターンシップに参加したという。
ここで注目したいのは、多くの企業が実施したインターンシップは、ほとんどが1dayであり、会社説明会程度の内容だった。そのため、従来のようにインターンシップ応募者を選考し、参加学生の人物観察、評価、内定示唆をすることが少なかった。いわゆる採用直結型ではなかった。そのため19採用の前哨戦としてインターンシップは活発だったものの早期内定続出という混乱はなかったのである。
だが、それだけに企業は、1月下旬からスタートする春のインターンシップや質問会への参加を呼び掛ける対象者を適切に絞り込めたはずだ。これは学生側にも言えることで相応の企業研究を経ているだけに志望動機などが明確になっているはずだ。2月からの企業の採用イベントは、どこも密度の濃いものになるはずだろう。

▼そこで、今年の採用活動の流れだが、2月より1dayインターンシップという名目の企業説明会が活発化し、若手社員との質問会や懇親会、そして3月事前面接がピークとなり、4月上旬、人事面接、4月中旬に内定出し開始、5月中旬内定ピークという流れは、ほぼ昨年並み。製造業の理工系採用や金融機関の準総合職採用は、5月末までだろうが、採用計画未達の企業が続出するので企業のエントリー受付が二次、三次と継続され、企業説明会も昨年以上に各地で開催されるため企業の採用活動は長く、6月末まで続きそうだ。

【掲載日:2018/01/11】

【2018年3月】採用担当者の質問力を確認する

3月1日、就職情報が解禁された。全国各地の大学やホテルでは会社説明会が連日、開催されている。どの会場も多くの学生が押しかけ企業に様々な質問をして企業研究を深めている。そして6月には選考活動も解禁され、企業と学生の人事面接が解禁される。最近は、WEBによる会社説明会やエントリーシート審査、能力・性格テストが増加しているが、最終的な人物審査となれば依然としてリアルな面接の役割が大きく決定的だ。そうした面接シーズンを迎えて採用スタッフの基本的な面接ノウハウや心構えは十分だろうか。4月以降の採用活動のためにもう一度、最終確認をしておこう。

▼面接が人物判定において最重要であることは説明するまでもない。面接者は相手にさまざまな質問をすることで相手を理解し、その人物の魅力を知る。これはエントリーシートや能力・性格テストでは見抜けないものだ。だが、その大事な面接を担当する企業の面接者は、専門家というわけではない。多くは、採用シーズンに動員された助っ人だ。そのため面接者は、あらかじめ用意された質問項目に沿って質問し、その回答ぶりを評価するだけ。その評価も標準化には苦労している。そして標準化を進めるほど、人材が画一化して面白い人材や異能の人材が採用できない。そのため最近の面接選考では、個々の観察項目を評価するのでなく就職の基本軸がしっかりしているか、伸びしろのある人材か、一緒に働きたいか、自分が育ててみたいか、という感触を大事にするようになった。曖昧な言葉だが、「波長が合うかどうか」あるいは「相性がよいかどうか」である。それだけに面接者は、相手の話を聞く力だけでなく、その背景や可能性を見抜く質問力を備えておかなくてはならなくなった。

▼面接は、相手の話を上手に聞くということが基本だ。どのように聞くか、黙って相手の主張や言葉にうなずいているだけではだめだ。面接準備としては、その人のプロフィールやエピソードを知ったうえで話を聞くのは当然だが、話の中では、相手が言いたいこと、迷っていること、触れて欲しくないことなどを感じ取りながら聞くことだ。この感じ取りながら聞くことによって相手の主張や考え方、性格、要望がよく理解できる。そのためには、相手が語っていることに対しては、時折、同意や確認それに適切な質問をすることだ。これによって、自分自身の理解が深まり、相手も話しやすくなる。相手に「この人は、自分を理解してくれている」という安心感を持たれれば、相手は、もっと話そうという気になる。話をじっくり聞く要領としては次のようなものがある。確認してみよう。

  1. 相手ときちんと向き合う
  2. 話を素直に受け止め、軽くうなずく
  3. 話をうながす短い質問をする
  4. 相手の自慢、経験、特技などをよく聞く
  5. 質問は、明確に分かりやすく、答えやすく
  6. うなずきながらメモを取る
  7. 時計を見ない

▼面接のやりかたとしてはこれが心構えだが、「波長が合うか」とか「相性がよいか」を感じるためには、さらに踏み込んだ質問力がなくてはならない。質問力は、手際よく質問したり、相手の嘘やあいまいな点を明らかにしたりすることではない。質問することで相手とのコミュニケーションを深め、その魅力を引き出すことである。そのために面接者は、面接で相手を落とそうとするのでなく、採用することを前提にして質問をすることが基本だ。入社後、活躍してもらうためにはこの分野への関心はどうか、どのように取り組むのか、過去の経験はどうか、などと具体的に聞くことだ。そして相手のセールスポイントに着目して話を促す。そうなれば相手は、自慢話や頑張ったこと、貴重な体験、楽しいエピソードなどを次々と話すだろう。「それからどうなったのか」とか「で、その時のあなたの気持ちは、どうだった」などと面接者が興味を示すことで、話は思いがけない方向に発展する。相性や波長はそんな話の中から見えてくる。つまり、相手の土俵で面接をすることがポイントだ。相手が語りたくない話や失敗談は、こちらから質問することはやめた方が良い。

▼ある教育学者は、良い質問について座標軸を使って説明している。縦軸に「自分が聞きたい」かどうか、横軸は「相手が話したい」かどうかを設定、これらのプラスマイナスによって4つのゾーン(領域)に区分、その中で「自分が聞きたい質問」と「相手も聞いてもらいたいと思っている質問」の組み合わせこそ良い質問、ストライクゾーンだと示した。

齋藤孝「質問力」筑摩書房をもとに筆者が作成

▼これからの3か月間、面接担当者は、連日のように学生と会って面談し、採用面接をすることになる。上記の要領だけでなく、学生の目を見て、笑顔を忘れずに、会った後にお互いにさわやかな印象の残る面接をしたいものだ。

【掲載日:2018/03/09】

【2018年5月】人気企業ランキングの読み方

大学生の就職人気企業ランキングが発表された。今年は、三井物産、ソニー、日本生命などが大学生たちの人気を集めた。この調査は、大手就職情報会社が2019年3月卒業予定の大学生を対象に行ったもので、来年の採用活動にも影響を与えるものとして企業や学生にとって気になる調査といわれている。しかも、これらの調査は、主要経済誌などで特集記事として大々的に掲載される。それだけに学生や採用担当者だけでなく経営トップや社会的にも注目されている。
主要な調査結果を発表順にみておこう。

まず、週刊ダイヤモンド4月7日号。
「就職人気企業ランキング 激しさ増す学生獲得競争」として特集、文系男子の上位10社をみると①三井物産②三菱商事③伊藤忠商事④東京海上日動⑤住友商事⑥三井住友海上⑦日本生命⑧大和証券グループ⑨豊田通商⑩森ビルとある。総合商社が上位を独占した。
同誌の解説によれば、世界を舞台に活躍できる商社マンに対する学生のあこがれが強いことと採用活動のきめ細かさが人気の背景にあると説明している。従来、上位を占めていたメガバンクは、マイナス金利政策による経営環境の厳しさやシステムの統合化による人材削減、採用減などが影響してか、ベスト10から姿を消したという。森ビルがベスト10に入っているのは2020年の東京五輪を控えていることや最近の大規模な都市再生プロジェクトが学生の人気を集めたからという。

これに対して、4月下旬に発表された日経新聞4月24日号の調査はバランスが良い。「文系は航空・旅行、理系は食品が人気」として、文系男子の上位10社は①ソニー②東京海上日動③伊藤忠商事④JR東日本⑤アサヒビール⑥全日本空輸⑦JTBグループ⑧損保ジャパン日本興亜⑨トヨタ自動車⑩バンダイナムコ。東京五輪を背景にインバウンド需要やコト(出来事、体験)消費を担う航空、旅行、レジャーの人気が高かった。ソニーのトップについては、業績の急回復だけでなく採用PRの工夫、採用方法の柔軟化、待遇改善などで人気が集中したと解説している。

これらの調査とはやや違う結果が東洋経済オンライン(4月20日号)。「ANAが2年連続首位、金融離れはまだ見られず」というのがタイトル。男子の上位10社をみると①日本生命②みずほFG③全日本空輸④バンダイナムコ⑤野村證券⑥SMBC日興証券⑦大和証券グループ⑧りそなグループ⑨三菱UFJ銀行⑩伊藤忠商事。トップとなった日本生命については、採用広報やグローバルビジネスへの積極姿勢が学生に評価されたと解説、上位企業10社のうち7社が銀行、保険、証券が占めていることから、従来から学生に根強い金融人気は依然として後退していないと指摘している。


▼今年の結果は以上のとおりだったが、採用担当者としての受けとめ方は、次の3つだろう。
最も多いのが、そこそこ気にしてランクアップを目指すという受けとめ方。上位にあるなら喜ぶが下位でも冷静。どの程度、学生に企業名が知られているかを知ったうえで少しでも上位に上がろうとして採用PRや採用活動を見直す。人気企業ランキングは一般学生の就職観や就職行動を知る手掛かりとして活用する姿勢だ。50位から100位ぐらいの採用人数が多い有名企業に多い反応だ。

次に多いのがランキングの順位を重視して一喜一憂する。これはランキング上位50位以内の企業に多い。学生からの人気が高いのは当然と受けとめているが同業他社やライバル企業には負けたくないと思っている。こうした企業は、採用担当者より経営トップの関心が高く、採用責任者も真剣だ。とにかく上位であることを重視する。そうなれば調査対象者や調査方法への関心はない。案外、こうした企業が少なくない。

これらと違って、ランキングを無視する企業もある。その一つは、上場しているものの、一般には知られていない地味な巨大メーカーである。これらの企業は、新卒採用を積極的に行っているが、BtoBあるいは素材メーカーで業界内では知られているのだが、世間一般、とりわけ学生には知られていない。だからランキング150位にも入らない。しかし、こうした企業は、採用PRや選考方法を工夫すれば100位前後には浮上するのだがそれをしない。そこまで学生に媚びる必要はないというプライドがあるからだ。そのため採用活動では毎年苦労している。

もう一つの無視派は、外資系の金融、コンサルティング、IT企業だ。これらの企業は、採用人数が少なく、採用対象も東大、京大、早慶のトップクラスの学生が中心だ。そのため全国各地の大学生を対象としている上記の人気ランキング調査には関心がない。多くが100位にも入らないが、人気がないわけではない。東大や京大の学生を対象とした人気企業ランキングでは、常にトップに入っている。P&G、ボストンコンサルティング、マッキンゼー、ゴールドマンサックスなどの企業だ。これらの企業は、実際には、意識の高い優秀層をしっかり採用している。上記の調査でも大学別に分析するとこの実態が見えてくる。

▼このように就職人気企業ランキングに対する企業の反応は様々だが、この調査そのものに対する批判も根強い。企業を知らない学生の人気投票だといって批判する意見だけでなく、調査方法や統計処理に対する批判もある。
例えば、これらの調査が就職情報会社の就職サイトの会員学生を対象にしていることや、特定企業の就職イベント時のアンケート結果などが指摘されている。

なかには記載企業を8社にまで水増しして投票させる調査もあるが、最も不信を招いているのは詳細データを発表しない調査があることだろう。どの企業にどのような学生が投票し、その選択動機がどのようなものだったかを明らかにしない。ランキングの順位だけの発表で分析はゼロというわけである。企業にとって何ら活用できない調査である。これでは、企業を知らない学生の人気投票にすぎないと批判されても仕方ない。

このように就職人気企業ランキングは、一部に調査対象や調査方法にあいまいな点があるものの今日、一般学生が抱いている企業への関心や人気企業のプラスイメージがどのようなものかを知ることができる。
また、人気順位変動は、昨年度の採用活動の評判をも反映する指標ともなっている。説明会や面接などの印象がストレートに学生に反映されているからだ。また人気企業だということで学生の応募が増えるということも無視できない。注目の企業、話題の企業ということで挑戦しようという学生が少なくないからだ。

人気ランキングに顔を出すことは悪いことではない。採用活動にはプラスだからだ。だからといって一喜一憂することはない。上手に活用したいものだ。

【掲載日:2018/05/09】

【2018年7月】増える内定辞退と対策

■19卒の採用活動はほぼ山を越え、最後の局面を迎えた。これから各社の採用担当者は、10月1日の正式内定日?までの間、さまざまな「内定者フォロー」を行って内定辞退を防ぐことになる。最近では、大手企業でも内定辞退が増加しているが、地味な製造業や大量採用の流通・サービス業では、採用計画未達の企業が続出し、深刻な問題となっている。それでは、内定を持つ学生の気持や企業への期待、これに対する企業の内定者フォローとは、どのようなものか、有効な対策はあるのか、検討してみよう。

▼大手就職情報会社の調査によれば、すでに内定率は7割以上には達しているという。そうなれば、未内定で就活中の学生は、3割程度ということになるが、実際には違う。内定を持ちながらも就活をやめない学生が多いのである。同調査によれば、内定保有者のうちで「就活は終了した」という学生は、25.1%にすぎなかった。まだ7割強の学生が、就職サイトに登録したままであり、関心を持った企業にエントリーしたり、採用面接に参加したりしているのである。その気持ちは、「現在の内定先に不満なので就活を続ける」という学生が12.6%、「現在の内定先に不満はないが就活を続ける」という学生が29.6%もいるのである。これでは企業の採用担当者は気を抜けない。誓約書を書かせるぐらいでは安心できないだろう。 

▼多くの学生が、就活をやめようとしない理由は3つある。
第一は、早期内定のためである。就職情報が解禁され、内定するまでが3か月程度。だから学生は、十分に企業研究をしている時間的な余裕がない。3年生の秋から準備をしておけばよいというものの実際には就職サイトを見たり、企業セミナーに参加したりするなかで企業を知って応募していく。それが数か月と短期間だから、じっくり企業研究や先輩社員の声を聞く時間がない。とにかく関心を持った企業にはすべてエントリーしてとりあえず内定を取りに行く。応募できるチャンスが集中しているので重複内定は仕方ないのである。

第二は、学生の職業観。就職先について第一志望とか第二志望というこだわりがない。どうしてもこの会社に就職したいという動機が希薄なのだ。だから学生は、銀行、商社、メーカー、マスコミとの併願にはなんら違和感もなく、どこの企業の志望動機も上手に書き、面接を突破、内定する。企業側は、第一志望かどうかにこだわるが、学生は、志望順位にこだわりがない。むしろ学生が第一志望企業を発見するのは重複内定をして企業研究をしてからというくらいだ。

第三は、採用活動の通年化である。これは、求人難と採用活動の短期集中によって採用計画未達企業が増加したことと、大手有名企業が既卒者の採用、留学生の採用、二次募集などによって6月以降にも採用活動を継続してきたためだ。このことは、内定者にとっては、チャンス到来となった。現在の内定先に不満はないが、もっと魅力的な企業がないかと模索している。その結果、最後の局面であっても応募、合格すれば先の内定企業は辞退となるわけだ。


▼では、企業の内定辞退防止のためのフォローはどうか。先の大手就職情報会社の調査を見ると、もっとも多いのは、内定者懇親会。これは、会社の人間や一緒に働く仲間を知ってもらい、内定者同士のコミュニケーションを促進し、同期生意識を持たせるものだ。会社のイベントへの参加や食事会、会社見学などだが、これによって学生に自社への入社意思を固めてもらう。企業は、内定者懇親会に参加してもらうことで他社への迷いを払拭してもらうことを期待している。これは採用に自信のある大手企業に多く、気休めに近いが、学生は拘束が少ないので歓迎している。

次に多いのは、内定者同士のワークやゲームなどに参加し、意見交換できるSNSを運営する内定者フォローだ。これも企業の負担が少なく、学生にとっても学生生活に支障なく、全国各地の学生が参加できるという利点がある。そのため急速に内定者フォロー策として普及している。ただし、内定者相互に一体感はなく、社内報の電子版レベルが多い。内定辞退防止という抑止力に乏しい。
このほか、内定者を海外事業所に派遣したり、研修所に拘束したりする荒業もあるが、少数派。昔からあるのが入社前教育。入社までに仕事に必要な社会人としてのマナーや業務に必要な資格や知識、語学力などの講座をeラーニングや通信教育で行う。企業側の真面目な思い入れの割には学生からの評判は悪い。学生の精神的な負担が多いからだ。

▼しかし、こうした内定者フォローは、学生の不安や期待からするとどうだろうか。多くの内定者は、自分の能力はどのように発揮できるのだろうか、自分はうまく人間関係を築けるのか、同期の内定者はどのような人間か、という点に不安を感じている。そのため最近では、SNSやeラーニングなどバーチャルでなくリアルでグループメンバーとのコミュニケーションを重視する次のような取り組みが注目されている。

その一つは、「内定者インターンシップ」あるいは「ワークショップ」である。内定者に1週間程度の就業体験をしてもらう。あらためて各職場の仕事を体験してもらい、担当社員と話し合うなかで仕事を具体的に理解し、面白さや課題を見つけさせる。実際に働く職場を体験するのだから内定者は、企業について理解を深めることができる。

二つ目は「内定者キャンプ」である。懇親会の延長線上にあるが、内定者と社員が寝食を共にすることで、より密接な関係をめざす。会社の将来展望や創業時のエピソードを社長が語る企業もある。もっと気楽に会社を離れて研修所、ホテル、保養所などでハイキングやバーベキューなどを楽しむ企業も多い。

三つ目は「会社オープンデー」の開催である。これは、内定者だけでなく親をも対象としている。会社の運動会やイベントに合わせて行い、社屋や工場の公開だけでなく製品や商品の展示、販売、さらにはコンサートや内定者の親に向けた社長や役員の会社紹介や懇親会などである。ITやバイオ、BtoB、生活情報サービスなどの業界では親に事業内容を理解してもらうことが重要だとして多くの企業が取り組んでいるのが注目される。

★内定辞退は、企業に問題がなくても防ぐことができないケースが多い。学生や親の偏見や誤解が少なくないからだ。そのため企業の採用担当者が、内定者フォローとしてやることは、内定者の不安を少しでも軽減しておくこと、自信を失わせないこと、会社の魅力を発見してもらうことである。これが最後の局面に入った現在、採用担当者が取り組む重要な仕事である。

【掲載日:2018/07/06】

【2018年9月】19採用を総括する

1.予想以上の採用増だった 
企業の新卒採用は2010年以来毎年増加、今年はさらに増加となった。リクルートワークス研究所の調査によれば、求人数81.4万人に対して就職希望学生数43.2万人で求人倍率は、1.88倍だった。この求人倍率は、昨年の1.78倍を上回り、7年連続の増加となった。これは、日経新聞や就職情報会社の採用計画調査でも同様で、すべて前年対比増加となった。つまり、求人ブームが一段と進行、学生にとっては、圧倒的な売り手市場となったのである。

2.採用計画未達企業が増加
企業の採用意欲が旺盛になったことで、当初の採用計画を達成できない企業が続出した。先の調査でも明らかなように産業界全体では、新卒者の約38万人が不足となる。長期にわたる求人ブームの影響で学生に知名度がない企業、地味な中堅製造業、人気のない大量採用企業などは、毎年採用計画数が充足できていない状態だ。そのため流通、外食、介護、陸運など労働集約型の企業のなかには、事業縮小、出店計画の見直し、新卒から中途採用への転換、勤務形態の変更など経営難に追い込まれる事態となった。

3.インターンシップが早期、多様化
指針の改定によって1dayインターンシップが容認された。このことによって本来の就業体験型だけでなく会社説明会型、採用選考型などのインターンシップが早期から開始され、学生の就活が前倒しとなった。とくに今年は、早期のインターンシップが多様化し、就業体験だけでなく面談、就職アドバイス、若手社員との交流などプログラムが多様化し、現行指針の下では、早期に学生と接触できる有力な採用手段として急増した。

4.選考スケジュールは遵守された
早期からの企業と学生の接触は活発だった。だが、3月1日以前の内定は少なく、採用情報の公開日も意外なほど遵守された。多くの大学や企業が、説明会を同日からスタートしたからだ。しかし、それからは面談会、懇親会、グループワークなどが大盛況だった。その流れは、4月下旬から5月中旬には、社員との面接会となって内々定の示唆をするところまで進んだ。だが、多くの企業は内定を出すことなく、6月1日の人事面接への出席を求めた。そして人事による採用面接は、6月1日から開始された。その結果、今年の内定ピークは形式的には6月以降がほとんどとなった。形式的だが、指針は遵守されたのである。

5.内定辞退増加でミスマッチ急増
求人ブーム、採用活動の早期化、短期集中という就職環境では、重複内定が増加するのは当然だった。学生は、志望先を十分に絞り込まないうちにエントリーし、面接に臨み、誰もが「御社が第一志望です」と断言する。そして各社から一斉に内定が出され、最終決断が迫られる。もともとが、なんとなく興味があった、就活スケジュールにあっていた、滑り止め、といったような理由だったのだから、本命の企業から内定が出れば辞退となる。人気企業や大手企業より内定を出す時期が遅いため、滑り止めにされた企業の被害は甚大である。そんな内定辞退が今年も昨年以上に増えた。

6.採用時期が複線化 
新卒は、春に採用するという企業がほとんどだが、ここ数年は、年1回だけでなく、6月、夏、秋、通年と採用時期が複線化してきた。その背景には、ワンチャンスではよい人材が採用できないという理由のほかに留学生、秋卒業生、理工系学生、外国人、既卒者など採用対象者の多様化に対応しているからだ。こうした新卒 採用の多様化は、時期だけでなく、採用対象者をグローバル人材、理数系専門人材、IT人材などに人材を高度化する動きも増えた。このほか、最近、金融機関で増えてきた地域限定型も注目された。しかし、今年は、この地域限定型採用は、金融機関が採用を手控えたので後退したが、長期的には、製造業やサービス業で増えていくだろう。

7.AI採用本格化へ 
昨年からAIを活用した面接やエントリーシート審査が一部の企業で登場した。採用の効率化、評価の客観化、経費削減に有効ということで企業の関心は高く注目を集めた。大学や学生の側からは、多数の応募者に偏見なく評価がされる、遠隔地の学生にもチャンスが与えられる、就活がスピードアップできる、と歓迎の声もある。一方で、人に丁寧でないとか、人間味がない、学歴フィルターを隠ぺいする道具だ、などと警戒する声も少なくない。今後は、技術的な改良だけでなく、採用選考のどのプロセスでAIを使用し、選考基準は何かを公開することで徐々に普及するとみられている。

8.指針崩壊
今年は、夏まで指針が話題にならなかった。だからといって指針が遵守されているとは思えないが、議論がむなしくなったのだろう。大手就職情報会社の調査では、当面は現行ルールでよいとする意見が企業の大多数を占める。守れないルールでも、あるだけで抑止力になるからだ。ところが、今年の9月経団連の中西会長は、「21年春から指針を撤廃する」と爆弾発言。だが、この指針は政府が閣議決定したものであり、大学側もようやく賛同したものだ。これから企業や大学からの議論が活発になり、指針が廃止されるかどうか、見通しは不明だ。

【掲載日:2018/09/06】

【2018年11月】インターンシップ大盛況

■指針廃止という経団連の方針が発表されたが、当面は、「3月会社説明会、6月選考開始」という従来の指針が継続される見通しとなった。その結果、これからの採用活動は昨年同様に推移するとみられている。しかし、20卒の採用活動はすでにスタートしており、その前哨戦である夏・秋インターンシップは終わり、冬・春インターンシップ募集の時期に入っている。企業の新卒採用にとってインターンシップの役割は大きく、年々重視されているのは周知のとおり。そこで今回は、今年のインターンシップがどのように実施されたのか、新しい変化と今後の展開を見てみよう。

▼大手就職情報会社の学生モニター調査によれば、今年の6月から8月末までのいわゆる夏インターンシップに参加した大学3年生は、すでに74.6%に達している。同調査によれば、過去3年間、インターンシップは、漸増してきたが、今年は、3.5ポイントも増えた。これは、就職サイトに登録している学生の回答だから一般学生よりは積極的だが、この高い参加率は、学生の就職意識が年々、早期化していることを示している。そして、企業にとって夏のインターンシップは、採用活動の出発点となるだけに採用活動に熱心に取り組む企業ほど開催件数を増加させている。

▼昨年度の企業インターンシップ実施状況について大手就職情報会社の採用総括(18年7月調査)をみると、16年卒63.2%、17年卒79.7%、18年卒81.3%と増え続け、19年卒では95.9%と驚異的な実施率に達している。企業にとってインターンシップは、不可欠の採用活動となり、学生にとっては、誰もが参加する就活となって定着しているのである。これほどに企業がインターンシップを重視し、早期から増加させてきた背景は明確だ。求人難の深刻化とともに採用広報の強化、採用活動の早期化、ミスマッチ防止が重要になってきたからだ。


▼インターンシップについては、実施日数の変化にも注目したい。先の採用総括によれば、18卒から19卒にかけての変化が興味深い。一昨年は、インターンシップ期間が「1週間」と回答した企業が64.2%あったが、昨年は、46.5%に大幅減、逆に「2~3日」は26.4%から46.5%へと大幅増、「半日~1日」が34.9%から62.0%と激増した。いわゆる1dayインターンシップが急増していることが明白だ。これには、経団連による1dayインターンシップの容認が大きく影響している。今年もその傾向は変わらず、参加した学生への調査によれば、夏のインターンシップに参加した学生の59.7%が1dayインターンシップだった。では、1dayインターンシップの内容とはどのようなものだったか。例えば今年の7月上旬から9月下旬まで実施した大手保険会社の場合、毎週、全国6会場でそれぞれ50人から100人の学生を集めて「業界+会社説明会」の講演会とグループワークを各1日で行った。参加学生数は、延べで1000人に及んでいる。参加した学生の感想はこうだった。「ふだん見られない金融機関の内部の見学をしたり社員と話ができたりしてよかった」「採用に関係なく気軽に会社を知るということではよかった」「実質、会社説明会で内容のあるインターンシップではなかった」「広く浅くしか会社を理解できないので時間の無駄だった」など。だが、同社の1dayインターンシップの目的は明確だ。会社説明会なのである。このような1dayインターンシップは、ここ数年、保険、銀行、証券など金融機関が早期から多数、大胆に実施するようになったのが最近の傾向だ。

▼企業がインターンシップで何を目的にしているかは、開催日数と応募書類、実施予定時期である程度わかる。1dayインターンシップなら会社説明会であり、5日間以上なら就業体験の提供か人物観察であり、1週間以上なら選考に関係があるジョブ採用かもしれない。そしてインターンシップの募集にあたって抽選あるいはエントリーシートのみという企業は、説明会型であり、WEBテスト、面接、適性検査を念入りに課すのは採用に関連あるインターンシップといってよい。だからインターンシップが選考に影響すると学生が思っているような不安(期待?)は、多くは見当外れだ。先の総括調査でも採用直結インターンシップは、企業の1割にも満たないと報告している。企業の多くは、選考段階の一部免除にとどまっている。企業にとってインターンシップは、採用広報活動であり採用候補者の掘り起こし、応募の動機付けというのが最近の基本スタンスだからだ。

▼インターンシップの変化として見逃せないのが実施予定時期である。先の総括調査によれば、今年の8月、9月に予定していたインターンシップは、それぞれ66.7%、68.2%と昨年並みだったが、10月は30.3%(昨年は、15.0%)11月は48.5%(21.5%)、12月には51.5%(31.8%)、そして来年の1月は47.0%(26.2%)とそれぞれ倍増の実施計画なのである。企業は、採用広報を昨年以上に早期化し、年末からは、5日間以上のインターンシップで学生の資質を観察しながら自社に囲い込み、2月から本格化する採用イベント(参加者限定インターンシップ、若手社員との意見交換会、早期特別選考会、海外支社見学ツアーなど)に誘導したり、リクルーターを配置したりするようだ。そのため来年2月のインターンシップ予定数は、82.2%から74.2%へと減少することになった。つまり採用活動を前倒しするということなのだろう。


▼このように今年も企業の採用活動は、インターンシップを軸に始まった。とくに金融機関、総合商社、大手メーカーの人気企業は、インターンシップを有力な採用広報活動ととらえて早期から多彩で魅力的なプログラムに取り組んでいる。だが、その多くは、採用直結型ではない。採用広報活動に過ぎないが、その囲い込む効果は大きい。しかし、勝負は、これからだ。インターンシップで見出した優秀学生をどのように第一志望者として取り込むか、年末から2月にかけての課題である。

※ブンナビ新卒採用戦線 総括2019レポート、20卒ブンナビ学生アンケート調査概要(2018年8月)より引用

【掲載日:2018/11/12】

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。