採用現場ニュース2017(2017年の記事)

【2017年1月】3つの不安

★これまで求人ブームに乗って新卒採用は、毎年、採用増を続けてきた。今年もその延長線上にあるとみられているが、昨年夏から顕在化した欧州、米国、中国という海外の動向や安倍内閣が掲げる「働き方改革」への本格的な取り組みが法改正となったことが企業にとって不安要因となっている。これに少なからず影響されるのが新卒採用。採用活動のスケジュールは、指針が二転三転してきたが、ようやく定着、それだけに今年の学生は安心して就活が出来るだろうとみられていたが、年明けとともに企業の採用環境の変化が予想されるようになった。そのため学生の就活にも新たな不安要因が出てきた。採用スケジュールの早期化、電通過労自殺事件、トランプショックの影響の3つである。これらは、企業側にとっても無視出来ない動きであり、これからの採用活動において企業が対応をしなくてはならない課題だろう。

▼18卒の採用活動は、昨年並みのスケジュールと見られていたが、昨年秋から年末の経過をみると予想以上に学生や企業の動きが早い。その一つが、昨年秋に行われた旧帝大などの企業研究会の開催だった。これは、卒業生による仕事や業界の研究会だが、これに金融、通信、製造業のトップ企業が数多く参加、合同説明会さながらだったため学生の就職意識は一気に高まった。この動きとともに今年は、就職サイトのオープンを待たずに大手企業が、それぞれホームページを早くから開設して年末には学生にエントリーの登録を呼びかけた。このエントリー登録の動きは、昨年より早く、学生に早期の就活スタートを意識させるものとなった。  
早期の就活を学生に促したもう一つの動きが、インターンシップの激増である。冬のインターンシップは、抽選などでなく、応募する学生にエントリーシート提出を課し、選考する。実施期間は、4日以内という超短期間が多い。誰が見ても採用選考と関連があると思わせるものだった。こうしたインターンシップは、参加することが応募への要件となる企業、採用と直結する企業、選考ステップをシードする企業など様々あるが、その目的は学生に明らかにされていない。そのため学生は、採用との関係を期待しながら数多くのインターンシップに参加せざるを得ない。この動きは、就活の前倒しであり、そのまま2月末まで活発に動くとみられる。このように今年の学生は、冬インターンシップを実施する企業の目的を模索しながら就活をしている。そのため学生は、3月1日からの学内説明会や学外での大規模合同説明会、個別企業の会社説明会に参加、その後、5月連休前に内定をもらうというスケジュールが成り立つのか、疑問に思っている。とくに大手企業は、3月末までに内定を出すのではないのかと思っている。これが、採用スケジュール早期化への不安となって学生たちの動きを加速させている。

▼2つ目の不安材料は、学生たちが、自分は知らずになんとなくブラック企業に就職してしまうのではないかという不安である。これは、電通の新入社員の過労自殺事件の影響が大きい。電通と言えば学生の間でも常に人気企業ランキングで上位にいる有名企業。仕事のやりがいは十分にありそうだし、処遇も抜群に良い企業と思われている。それだけに、そうした人気企業でもこのような事件が1件でも生じると大きな打撃を受ける。
こうした事件により、働くことへの不安を抱いている学生たちに対して、企業としては、手厚いフォローやみんな仲良く楽しい職場ということを伝えるだけでなく、時には、個人の責任の重さや仕事のきびしさ、人間関係の苦労もあえて伝えなくてはならない。その役割は、入社5年以上の若手社員になるだろう。またインターンシップでは、仕事のルールや人間関係を体感できる1週間以上の就業体験をしてもらわなくてはならない。これによって学生たちの不安を解消し、職業観を改めてもらうしかない。
このように学生は、ブラック企業に就職したくないという気持ちはありながらも本当のブラック企業を見破れず、何が問題なのか、どのように働きたいのか、自分の職業観が不明なままに不安な就活をしているのが実情だ。

▼トランプショック
3つめは、もっと大きな就職環境の変化だ。学生の多くは、イギリスのEU離脱とトランプが次期大統領に決定したことで、今後、何が起こるかわからないと不安に思っている。そして近々、大不況が起こり、企業は、新卒採用に慎重になるのではないか、と考えている。まだ先行きは見えないが、その時期がいつ来るのか、今年の採用は、世界経済が大きく変化する中でどう進んでいくのか、まったく予断を許さない。このことは、学生だけでなく企業の採用担当者にとっても同様で、18採用のスタートともに不安は高まることになりそうだ。

【掲載日:2017/01/24】

【2017年3月】合同説明会から面接へ、学生たちの不安と期待

3月1日から就職情報が解禁され合同説明会が一斉に始まった。全国各地のイベントホール、ホテル、大学などどの会場も学生であふれている。だが、今年の学生の出足は鈍いというのが採用担当者の共通した意見だ。企業や大学が早期から「仕事研究セミナー」やインターンシップを盛大に行ったためとみられる。そのためか学生たちの表情は、早くも疲れをみせながらも深刻さはない。就職環境が良く求人ブームが続くと見ているからだろう。こうした学生たちの就活の考えや行動を聞くために3月上旬、都内で開催された大規模な合同説明会に出かけてみた。

▼まず、今年の就職戦線の予想を会場にいた学生に聞いてみた。

「売り手市場と言われている分、良い就職環境なので何とか就職できる気がする」(早大)
「アベノミクスによる景気回復のおかげで今年は、企業の求人が多くなると思う」(千葉大)
「日頃のニュースを見る限り就職関係でマイナスな報道が少ないので、就職は大丈夫だと思う」(駒澤大)

といった楽観的な学生が多かった。
これに対して「就職環境はきびしい」と景気の現状や世界経済の先行きを懸念する学生もいた。

「日本をとりまく他国の政治的な情勢が不安定で就職に影響しそうに感じる」(西南学院大)
「トランプ氏の大統領就任やイギリスのEU脱退などの影響が採用にも出ると思う」(福岡大)
「景気が昨年よりも良くなっている気がしない」(近畿大)

といった声だ。だが、その数は少なかった。
なかには、景気動向でなく採用活動の早期化や人気企業への集中から就職が厳しくなるとみる学生もいた。

「ほぼ全ての学生がインターンシップに参加しており、企業は応募者の差別化が図りにくいことから案外、厳しい競争になりそうだ」(駒澤大)
「むしろ人気企業に人が集中するため、希望する企業の競争は想像以上に厳しくなりそうだ」(早大)
「日程が変わらなかったことから、企業・学生共に準備しやすかったので、就活を効率的にしないと失敗しかねない」(明治大)

求人ブームという今年の就職活動の特徴かもしれない。このように楽観派、悲観派それぞれだが、全体を見ると「まあまあ何とかなりそうだ」というのが今年の学生の就活ムードだった。

▼ではこれから4月末までの企業説明会、合同説明会で、学生はどのようなことを期待しているのか、更に学生の声から確認してみよう。
もっとも多かったのは、

「若手社員の方に直接話を聞いて、働いている職場の雰囲気を知りたい」(関西大)
「実際に仕事をしてみて、どのような大きな挫折や後悔をしたかをお聞きしたいです」(日本大)
「企業の方との他愛もない話で会社を感じ取りたい」(立命館大)
「会社説明会の会場での若手社員と上司との関係をよく見てみたい」(中大)

このように会社の事業内容や仕事だけでなく企業の社員と実際に話をして、働く現場の雰囲気やリアルな現実を聞いてみたいという声が多かった。なかでも注目したいのは、「若手社員と上司との関係を見てみたい」という視点である。仕事のコミュニケーション、パワハラ、社風を知る手がかりとして観察しようというのだ。
次に多かったのは、社員との個別の意見交換を希望する声だった。よく会社説明会の会場で見られるパネルディスカッションは、あまり評判は良くない。

「社員の話を聞くだけだと疲れてしまう」(高千穂大)
「企業に1対1で質問ができるブースを設けてもらえれば内容のある説明会になると思います」(神戸女子大)

つまり、今の時期は、直接、人事や若手社員と個別に話をしてみたいという。多くの学生は、自分の事情をじっくり会社に聞いてもらいたいという声だ。これは物理的には難しいが、会場に社員を配置してミニコーナーを作ることで対応するしかないだろう。

▼このように選考開始寸前となった現在では、もはや学生たちは、会社の事業内容や仕事理解の説明会ではなく、社員と話をして会社の雰囲気を知る、働く現場の人間関係や本音を知りたいということのようだ。これが現段階の学生たちの不安と期待である。そうなれば、採用担当者としてこれからは、次の点に留意して採用活動を進めていくことが大切だろう。まず、個別学生ごとに就活の相談員ともいえるリクルーターの配置、選考スケジュールの継続的な連絡と面接などのフィードバックの徹底、そして最も重要なことは、採用活動の全体の動きとライバル企業の選考プロセスの分析だ。全体のピークは、4月中旬になるとみられるが、もっと早期になることも予想される。学生たちの動きを見ながら、一斉でなく順次、内定を出せる複線的な選考フォローも必要だろう。

【掲載日:2017/03/10】

【2017年5月】人気ランキングの読み方と課題

■恒例となったランキング
大学生の就職人気企業ランキングが日経新聞4月26日号において発表された。

今年最も人気を集めた企業は、ANA、JTB、JALの3社だという。昨年は、JTB、ANA、HISだったから、航空、旅行業界の人気は変わることはなかった。
この人気企業ランキングは、毎年春、大手就職情報各社が調査、それをマスコミが採用活動の開始時期に合わせて取り上げることで話題となっている。ただ、識者の中には「企業の実態を知らない学生のイメージ調査」「宣伝や人気商品で社名を知っている企業のランキング」などの意見もある。それでも過去50年間変わらずに調査され、毎年話題を集めてきた。

それというのも過去の推移を見ると、1960年代は化学繊維や鉄鋼、自動車など重厚長大企業が上位を占め、2000年代前半は電気、通信、コンピュータ、そして近年は銀行、総合商社、食品とそれなりに時代の花形産業が人気を集め、産業構造の変化やトップ企業の推移を反映していたからだ。学生も案外、時代感覚は良いのではないか、とも思わせるからだ。

■今年の傾向
問題点はあるが、先の日経調査ではどんな特徴があったのか、いくつかあげてみよう。

文系学生の人気企業は、航空・旅行・アミューズメント。企業名でいうとANA、JAL、JTB、HIS、近ツー、オリエンタルランド、バンダイ、バンダイナムコ、タカラトミー。50位以内を業界人気としてみると、上記に続いて食品メーカー、住宅メーカー、印刷、医薬品業界などのトップ企業が学生の人気を集めている。もちろんメガバンクの三菱東京UFJ、三井住友、みずほ、損保の東京海上日動、損保ジャパン日本興亜などもしっかり10位以内に入っているが、これらは業界人気というのではなく日本のトップ企業として選ばれている。金融業界内では人気格差が拡大し、金融業界全体としての人気度は落ちてきている。数年前から人気業界としてクローズアップされてきた総合商社も、伊藤忠が22位から10位に躍進したものの業界全体では芳しくない。

さらに凋落と言わざるを得ないのがマスコミ人気。上位50社にテレビ、新聞は見当たらない。出版社の講談社、集英社が50位以内を維持しているだけである。マスコミは、文系学生にとってあこがれの職業ではなくなったようだ。

理系学生の就職人気上位50社の中で躍進したのは、業績の回復と採用活動を一新、攻めの採用に変身したソニーと総合食品メーカーのアサヒビールの2社だけとなった。注目したいのは、これらの製造業の人気度だ。資生堂、サントリー、アサヒビール、明治、味の素などは、製造業というものの大宣伝で知名度抜群の企業である。ソニーも同様だろう。「ものづくり」あるいはBtoBで日本経済を支えている素材産業や加工組み立て産業ではない。メーカーらしいメーカーでは、辛うじてトヨタ自動車が23位に食い込んでいるだけ。このように産業構造が変わったとはいえ、新日鐵住金や三菱重工、日立そして東芝の姿が見られないのは淋しい。

■ランキングの読み方と活用法
この就職人気企業ランキングは、現在、大手就職情報会社3社が発表している。だが、各社の企業ランキングは、かなり違っている。調査の対象者、調査時期、調査方法などが違うからである。それに回答の学生数が多くなるほど知名度とあこがれ度の高い企業が上位にくる。

今年の場合もこの日経調査と週刊東洋経済オンラインの「就職人気ランキング調査」(5月6日号)では、顔ぶれが大きく違っている。
東洋経済の調査では、1位が三菱東京UFJ銀行、2位みずほ、3位ANAに続き4位に野村證券、5位JTB、6位損保ジャパン日本興亜、7位日本生命、8位大和証券と上位は金融業界が独占する結果だった。この調査の対象学生の大学や地域などが前記の日経調査と違っているからだ。だが、これらの調査でも共通してランキングに登場する企業は存在する。それが、本当の就職人気企業といえるだろう。

では、こうした調査結果をどう活用するか。採用担当者がやるべき事は、調査データを取り寄せ自社への志望者の内訳だけでなく志望動機などを調べ、ライバル企業との違いを分析することだ。とくに採用PRとの関係や採用活動の評価を分析することが大事だろう。この人気ランキングは、これまでの企業活動の評価でもある。中堅企業でも100位以内にランクされていれば、社内外で話題になるだろう。とくにライバル企業より「やりがいがある」「経営理念に共感」などという理由でのランキングへの登場は、社員に自信を持たせ、優秀学生の応募者数増にも結びつくし、重複内定をしたときに優位に働くからだ。

それにしてもランキングを見るとおやっと思う企業がある。採用担当者としては、そうした企業を分析してなぜ評判が良いのかを学ぶこともこのランキング表の読み方である。企業の知名度がない、規模が小さい、地方企業などのハンディがあっても工夫次第でチャンスはある。これこそ採用担当者が今から取り組む次年度の課題である。

【掲載日:2017/05/11】

【2017年7月】18採用の経過と結果

求人ブームの中でスタートした18採用は、ほぼ予想通りの展開となり大手企業の採用は、6月中旬において内定出しのピークを越えたが、中堅・中小企業は、採用の目途がつかないまま夏を迎えることになった。今年の採用活動や学生の就活がどのように展開されたか、これまでの経過を振り返ってみよう。

■中堅・中小企業の採用は深刻化
18卒の採用計画は、3月の「日経新聞1300社調査」によって全容が明らかにされた。同調査によれば、18卒の求人数の伸び率は9.7%増(昨年は10.6%増)と1桁増にとどまったものの企業の求人意欲は、かつてなく旺盛だという。景気の拡大や、人口減、高齢化に伴う働く世代の減少などが新卒採用を強く下支えしているからだ。その採用意欲を業界別に見ると電機、自動車、化学といった製造業が8%前後の増加であるのに対して外食29.3%増、通信17.9%増、小売業16.5%増と生活サービス分野の採用意欲が他業界を圧倒していた。これを個別事業別にみると住宅販売、保育、介護、陸運、調剤薬局などの大手各社は軒並み数百人単位の大量採用計画を発表していた。それに比べて銀行は、0.7%増、保険は10.5%減と採用数は、すでに飽和状態となっていた。それだけに就職人気の高い銀行、保険は、学生にとって一段と厳しい就職先となった。

しかし、大量採用を目指す生活サービス分野の各社にとって、今年も採用は苦戦することになった。とくに外食、介護、陸運などの企業は、学生たちの企業研究不足や親の反対、企業競争の激しさが連日報道されることで7月になっても学生の応募が少ない、内定を出してもなかなか受諾しない、という現象が相次ぎ、多くの企業が未だに採用活動を継続している。これらの企業では、「事業を発展させるためには新卒採用が不可欠」というだけに深刻な事態になっている。今後は、各社とも採用広報の強化だけでなく、採用対象の見直し、新たな選考方法の模索、労働条件の大幅な改革、雇用形態の見直しなどが喫緊の課題になっている。

■指針改定でさらに短期集中
今年は、採用選考日が6月1日に前倒しされたことと1dayインターンシップの容認で昨年以上に採用活動が早期化し、短期集中となった。これも企業にとっては、昨年の反省から当然の行動だった。それでも年初からの企業の事前活動は、自粛する姿勢が見られた。そのため経団連加盟企業においては、乱暴な採用活動は見られなかった。むしろインターンシップを存分に活用し、インターンシップ参加者や特定大学の学生に対する特別選考が広く見られ、従来の「意見交換会」「社員への質問会」を発展させた「直前座談会」の開催や「面接予約」という新しい選考のキーワードを生み出した。とくに「面接予約」という選考日直前の面談会(最終面接)は、6月1日の拘束として予想以上の効果を上げたようだ。その結果、今年は、6月上旬において企業の内定率は一気に6割以上という成果になったのである。

■採用の多様化が拡大
採用の多様化が拡大したのも目に付いた。中堅企業だけでなく大手企業でも採用対象者を既卒者、女性、留学生だけでなく、アルバイトからの採用、インターンシップ直結採用を拡大した。さらに今年、顕著だったのが採用活動の複線化。インターンシップ参加者を早期選考したり、エントリー受付の時期の分散化をしたりして通年採用を目指したことだ。この制度によって企業は、様々なチャネルで年間を通じて優秀な学生を採用することになった。

採用の多様化ということでのエポックは、初任給の差別化もあげられよう。すでにITやコンサルテイングなどの業界では、導入されていたが、ようやく一般企業にも初任給の差別化が広がり始めた。優秀人材確保、ポテンシャル重視の採用ということなのだろう。こうした動きは、新卒一括採用の枠組みが崩れ始めた象徴と言って良い。

また採用手法では、早期採用とミスマッチ防止ということで目に付いたのが中堅・中小企業の採用活動におけるダイレクトリクルーテイングである。就職ナビを使わず、魅力的な就職イベントを開催し、参加者をその日そのまま面接、採用していくという手法だ。これは、就職ナビでは、学生に注目してもらえないと分析した中堅企業の採用手法だ。もっともこの手法は、すでに大手企業でも上位大学向けに行っている手法だが、これを中堅・中小企業が導入したということでますます採用スケジュールのスタート、ピークという節目がなくなってしまった。
結局、今年の流れは、求人難の深刻化によって「指針」がさらに形骸化するという結果になったようだ。

【2017年9月】今年の採用で苦労したこと

19採用に向けたインターンシップが昨年以上に活発だ。
ここ数年、採用活動においてインターンシップが重要な役割を果たしてきたことから各社は、さまざまなインターンシッププログラムを6月下旬に発表、ホームページや専門サイトで精力的に募集活動を行ってきた。そのほとんどは、現3年生を対象としたもので6月の就職ガイダンスに参加した学生たちは、大学側から企業研究や採用との関係において重要だと強調されたため関心は否応なく高まった。その結果、大手就職情報会社の8月下旬の調査では、学生の半数以上が今年の夏季インターンシップに参加したという(予定を含む)。とりわけ今年は、経団連がインターンシップの日数制約を撤廃したので企業は多彩なインターンシップを数多く企画できたし、学生も期間が短く、採用直結のイメージが希薄だったので参加しやすかった。

こうしたインターンシップの急拡大と、いわゆる1dayインターンシップの解禁こそ18採用の最大の特徴だったが、このほか「指針」のスケジュールの形骸化、求人ブームによる内定辞退激増、理工系採用の採用難など、これまでにない苦労が多くあった。
以下に18採用で苦労した3点をとりあげてみよう。

▼18採用では、多くの企業が「指針」が徹底されず、
3月には動き出し、5月連休前後には内定のピークが来るということを予想していた。そのため各社とも対策を講じていたが、意外だったのは大手の金融やメーカーが採用活動を時期集中型でなく、2月から6月まで順次エントリーを締め切ったり、面接を開始したり、サミダレ内定を出したことだった。これによって早期に内定を出した企業は、5月以降、優秀学生を相当数奪われることになった。大手企業による根こそぎ人材獲得作戦といえよう。その対策は難しく、従来のようなスケジュールが読むことができなかったことでライバル企業は苦労し、被害を被った年だった。

▼企業は、内定の時期を自社だけでなく、
同業他社や併願者の多い企業の採用スケジュールをにらみながら出している。だが、ここ数年、学生が平気で面接をドタキャンする、連絡がつかなくなる、「内定保留」を申し出るなどのケースが増えてきている。圧倒的に売り手市場の様相なのである。そこに前述の大手金融業界による内定者の引きはがしも増えた。先方は、「指針」どおりにやっているのだから非はないとなる。それに内定学生も内定を獲得すればすぐ就活を止めるわけではない。
ある調査では、5月下旬における内定保有者の6割が「まだ就活を続ける」と回答、その期限も6月下旬まで頑張るという学生が3割もいるという。誓約書では安心できないから内定者確保策を講じなくてはならなかった。そこでは、ひたすら説得と誠意を見せるだけだった。採用担当者が苦労を通り越して人間不信に陥る日々だったといえよう。

▼準大手や中堅企業にとって
理工系人材の採用は、年々苦労が続き深刻になっている。

理工系学生は、平成10年から毎年減少しているだけでなく、学生の就職傾向がメーカーでなく金融、商社、サービスといった文系の人気企業に目が向いているからだ。学生たちのモノ離れが顕著なのである。
それに理工系学生の高学歴化も大手メーカーの採用を優位にさせている。この大学院への進学率は、有名大学ほど高く、東工大では9割、千葉大や横浜国立大では7割以上だ。こうなると準大手や中堅メーカーにとって理工系の新卒採用は、学部卒も院卒もますます困難となり苦労することになる。

こうしたなかで準大手や中堅企業の理工系採用は、人気の機電系どころか化学、土木系さえも採用には苦労している。そのため工学系学生の1割強を占める女子学生に目が向けられてきたのである。

しかし、理工系人材の確保は大手メーカーも苦労していることから、最近では、研究開発の協力や創業開発で緊密になるだけでなく、学校推薦制度を復活させ、研究室との関係を強化する企業が増えてきた。
こうなると準大手や中堅メーカーにとってはますます不利だ。大学との関係が薄く、学生や教員の関心を引く先端技術もないからだ。いくら研究室訪問をしても話を聞いてもらえない。それでも人材確保のために学校推薦では質より量ということで、採用対象学科の拡大や選考水準を緩和したのである。

このように理工系人材の採用は、準大手や中堅メーカーにとっては、昨年も苦労し、一段と深刻なものになったのである。

【掲載日:2017/10/04】

【2017年11月】見直されてよい紹介採用

■今年も企業は、就職サイトへの出稿や就職イベントの開催、大学対策の強化などで膨大な費用をかけて採用活動に取り組んでいた。しかし、中小企業だけでなく大手企業までが採用難というなかでは、その成果は年々低下している。

こうしたなかで最近、リファラル採用(Referral recruitment)といわれる採用手段が注目されている。リファラル(referral )とは、紹介、推薦という意味だが、採用活動の中では、社員など個人的なつながりによる紹介あるいは推薦採用ということになる。その増加ぶりは、大手就職情報会社の調査によれば、「個人的なつながりによる紹介採用」を導入していると回答した企業は、42.3%に達していた(昨年は33.9%)。急増といってよい。

今後、リファラル採用が有力な採用手段になるのか、その背景やメリット、問題点を検討してみよう。

▼リファラル採用は、アメリカの有名IT企業の半数近くが導入していると聞けば、
よほどユニークで斬新なのかと思うかもしれないが、その実態は、社員による紹介採用のこと。これは、我が国においては、多くの企業がすでに中途採用において行っているはず。社員が、友人や後輩を会社に推薦して採用してもらう採用方式だ。それを今後は、新卒採用においても導入しようという動きだ。似たような採用手段としては、リクルーター採用や縁故採用があるが、どう違うのか。

例えば、リクルーター採用の場合は、企業が採用対象者を大学、学部、学科、ゼミ、サークルなどの枠を決めて社員にリクルーター係を命じて募集する。時には目標を課すこともある。一方、縁故採用の場合は、企業の取引先の子弟などを優先的に採用する手段だ。どちらも人物本位という選考基準ではない。それに採用担当者以外は知ることのできない非公開の採用活動である。そのため全社的に取り組む採用活動とは言えない。この点、リファラル採用は、全社的な社員のネットワーク活用であり、公開であり、選考基準も明確にされる。社員がこれはと思う学生がいれば推薦できる。当然、費用も多く掛からない。

▼こうしたリファラル採用は、従来の採用活動と比べてどのようなメリットがあるのだろうか、
具体的にあげてみると、第一は、企業にとって必要な人材を効率的に発見できるということだろう。新卒採用においては、多額の費用をかけて長期間にわたって就職サイトや就職イベントに参加して応募者を集め、その学生たちにエントリーシートを書かせ、面接をして絞り込んで採用をする。その費用と時間、マンパワーは、企業にとっては年々大きな負担となっている。これに対してリファラル採用では、推薦者である社員が、自分のさまざまなチャネルで人材を掘り起こし、企業にとって必要な人材を見つけることができる。効率的であることはいうまでもない。

第二にあげられるのは、ミスマッチ防止である。推薦できる学生を発見するまでのプロセスで社員は学生に企業のさまざまな情報を知らせることで納得してもらい、応募してもらうからだ。会社の経営方針、企業の将来、社長の人柄、仕事内容、人事制度、給料や賞与、仕事の面白さ、入社後のキャリアパスなど、学生にとっては聞きたい情報を社員から直接知ることができる。つまりネットやインターンシップなどではわかりにくい社風、労働条件、企業風土、働く社員の本音を知ることができる。そして学生は、社員と語り合うことで自分の関心事や能力を知ってもらえる。これは、ミスマッチを防ぐためにも効果は大きい。

第三は、社員が自信をもって学生に入社を進めるためには、社員は、常に会社の事業活動や会社の将来について関心を持ち、自分の仕事への取り組み姿勢も見直すことになる。このことによって社員は、会社と一緒になって「良い会社にしよう」という共通目標をもつことになる。それは、社員の会社に対する「思い入れ」や「やりがい」、あるいは「愛社精神」となってエンゲージメント(社員と会社との絆)を強めることにもなる。採用活動で会社が変わり社員が成長するのである。

▼このようにリファラル採用のメリットは多いが、課題も少なくない。
その最大の課題は、社員の会社に対する熱い思い入れがなくてはならない。実際のところ、熱心に採用活動を行い、魅力ある学生を探す能力を発揮するのは、自社の将来に期待している社員や自社に魅力を感じている社員だけかもしれない。こうした社員は、次世代の人材の採用が重要であることを十分に認識しているからだ。だから、リファラル採用では、採用人数の目標を立てたり、即戦力型の人材を採用したりするのはやめた方が良い。「この会社の将来を一緒につくろう」といったアプローチが基本だからだ。

もう一つの課題は、社員の人材ネットワーク力だが、これは社員の問題意識次第だ。日常的な活動の中で良い人材への関心を持っているかどうか、自分の友人や後輩に対して自社の魅力を伝えているか、そうした社員こそリファラル採用の担い手になる。
リファラル採用では、身近な社員というネットワークを使う、経費も掛からずに効率的だが、その大前提として社員が自分の友人や後輩に対して『自社の魅力を伝えられる』」会社であることが大前提になる。このことによってリファラル採用は、社員の活性化と社風の改革という大きな成果をもたらしてくれる。しかし、ここにあげた課題は、相当に重いかもしれない。

【掲載日:2017/11/06】

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。