採用現場ニュース2014(2014年の記事)

【2014年1月】学生の動きは活発だが、大手志向が強まる

 来春大卒予定者の採用活動が本格化している。今年の採用活動は、昨年同様、12月1日に就職情報が解禁されたので、民間企業の採用は、年末から1月下旬までが会社説明会、2月上旬がエントリーの締め切り、4月上旬から選考が開始されるという流れになる。そのため中堅企業や地方企業、公務員は5月中旬から6月中旬がピークとなる。この流れは昨年同様だが、学生の就活や企業の採用活動にはいくつかの変化が出ている。
情報解禁から1月末までの前半の動きのなかでの新たな変化を見てみよう。

1.学生の出足は、昨年より活発

 多くの大学では、12月上旬から一斉に学内説明会を開催、就職希望の学生は、学内だけにラフな姿で参加、資料を集めたり、質問をしたりしていた。採用活動のルールを徹底した倫理憲章の成果だろう。
 では、学生の参加ぶりはどうだったか。就職環境の好転ということもあってか深刻さはなく、イベントとして楽しんでいるが、確実に参加者が増えた。とくにMARCHといわれる大学では、招聘企業の拡大や会場の手当、運営方法の改善があってか、どこでも学生の参加者数は多かった。これは、参加した企業も同様の感想を語っていた。しかし、不人気、地味な企業の説明会には学生の参加が少なく、中堅や中小企業は、早くも採用難を予測、採用活動の長期化を覚悟している。

2.ターゲット採用は、拡大

 特定の大学や能力、資格を持つ学生を対象とするターゲット採用は、昨年以上に拡大している。外資系企業や一部のベンチャー企業のように夏ごろから露骨に特定大学生を対象にした説明会や選考会を実施する動きは例年通りだが、経団連傘下の大手金融、メーカー、通信などが、徐々に目立たぬように10月頃から中小就職情報会社を利用して東大、京大、一ツ橋、早慶といった大学の学生を対象に「大学限定会社説明会」を開催、一般学生とは違う選考のフローを案内している。昨年来、これらの大学の学生には、学内説明会よりこのコースの方が早期に内定できるとの情報が広がり、大学を特定しない合同説明会への参加が激減している。企業にとっては、効率性と確実さにおいて有効と評価され、捨てきれない採用手法として世間体を気にしながら、拡大してきている。 

3.大手企業志向が増加

 景気が回復、企業の採用意欲が活発になってきたことによって学生の就職意識が変わってきた。中堅企業や流通、サービス業界で徐々に就職者が増えたのは、不況下だったが、景気回復とともにこれらの業界への就職希望者が減ってきた。ここ数年、就職難というムードの中でも先輩たちが意外に大手企業や人気業界に就職できたことを見たのだろうか、大手企業志向が増えている。これは、大手企業の採用増や安定性という魅力もあるが、中堅・中小企業、サービス、IT業界に潜むブラック企業への恐れからかもしれない。現3年生の就職意識調査によると、就職先として大手企業志向が高まり、金融や公務員、旅行などの人気が高まっている。逆に人気が後退しているのは、エネルギー、機電メーカー、食品業界だ。

4.早くも人事が登場

 倫理憲章によれば、選考活動は4月1日以降ということだが、今年は1月下旬になると早くも人事担当者が登場して面接を行う大手企業が現れた。一般には、学内説明会、企業別説明会、エントリーシート、若手社員面接、懇談会、人事面接となるのだが、今年の採用選考は早期化するのではないかと読んだ企業は、早くも1月下旬から人事面接に入っている。このペースでは3月上旬には内定を示唆するかまえだ。この動きは準大手金融業界や準大手メーカーにみられる動きだ。この動きと並行して前述のターゲット採用の動きが活発になっていることから3月上旬は予断を許さない模様だ。

5.採用計画の上方修正

企業の採用計画は、2月頃に決まるというのが常識だが、今年は多くの企業が大幅に業績を伸ばしたところが多いだけに、採用計画も昨年より増の企業が多い。
 
 採用増という就活学生に好感される情報は、早期に発表したいというのは採用担当者の願いだろう。そうした思惑か、企業の採用計画の発表が1月から2月にかけては目に付くようになった。これによってますます採用活動は活発になり、早期化の恐れも出てきた。その一方で学生の大手企業志向は増加しているから、今年は、中堅企業、地方企業、不人気業界は、採用難に陥ることになりそうだ。

【2014年3月】注目される「学業成績」重視の動き

 15卒の採用活動が本格化している。昨年12月からスタートした学内説明会、合同説明会もようやくピークを過ぎ、3月上旬にはどの企業もエントリーの提出締め切りとなった。今年は、学内説明会、合同説明会ともに学生の参加数が伸び悩んだと報告されている。多すぎる企業の説明会、開催時期の集中化、就職環境の好転などがあって学生たちもノンビリ構えていたからだろう。
 しかし、こうしたなかでも企業の採用は、早くも16卒から実施される「指針」への対応をにらんでいる。それが、今年の春季インターンシップの増加とターゲット採用の強化、それに「成績重視の採用」である。なかでも「成績重視の採用」は、企業や大学の関心を集めている。

◆昨年末、「成績重視の採用」を打ち出したのは、三井物産など20数社。そのねらいは、エントリーシートだけでなく、成績表を重視して応募者がどんな学生生活を送っていたのかをじっくり聞くことにあるという。早速、今年の採用でもいくつかの企業が成績表の提出を要求するところが現れた。
 例えば、三菱商事。エントリーシート提出にあたっては、WEBテスト受験とともに「学業成績の提出」を要求し、3月14日に締め切った。この成績データとは時期的にも「可能な限り最新の成績データ」としている。このほか、成績データを面接時や内定時に要求する企業など様々だが、「学生生活の履歴」として選考の判断材料にする企業が増えつつある。

◆成績重視の採用選考について学生はどう思っているのか、多くの学生は戸惑っている。学生は、企業が採用に当たっては、学業成績よりサークルやボランテイア、イベントなどの課外活動を重視していたことを知っていた。それだけにショックだったようだ。しかも選考開始直前に発表とあってはお手上げだ。

 これまで学生は、大学生活は好きなことをやる時期だと考えていた。だから授業は、成績より卒業できればよいと考え、楽に単位が取れる授業を選択してきた。そして就職シーズンになれば、就職試験対策をすれば乗り切れるものと考えていた。
 実は、これが学生の質を低下させる原因だが、これまではそうした流れで選考、採用されていた。それが、今後は見直されることになるわけだ。しかし、企業の本音は少し違うらしい。学業成績をもとに大学で何を学ぼうとしたのか、その成果はどうか、など学ぶ姿勢や行動力、達成力を観察しようというもの。「学生生活の履歴」というコンピテンシーといってもよい。

◆だが、成績表の提出ということになれば、学業成績優秀かどうか、評価が数値化されているので一目瞭然。可山優三(可が多くて優は3個の学生)では書類審査や面接で生き残るのは難しい。しかし、大学教育の成績とポテンシャルに相関関係があるのか、との疑問も根強く判断は難しい。それでも理工系については基礎学力だけでなく専門科目も水準以上を要求されるので理解できるが、文科系ではまだまだ疑問だ。
 結局、今年は成績表の提出という選考方法は、これまでのようにエントリーシートに成績データが加わり、面接が行われるようになるだろう。

◆なお、今回の成績表の提出には、もう一つねらいがある。3年次までの成績データ提出とすれば、就活は、4月以降ということになる。選考活動の繰り下げにもなる。これは、16卒採用が8月選考を要請していることにも整合する。これが学生生活の充実、大学教育の尊重という高邁な目標を担保する役割も持っていることは見落とせない。

 問題点はまだまだあるが、企業側の掲げた目標は悪くない。だから成績重視という選考方法は、「ある程度の成績は必要」という程度のものに落ち着きそうだが、これによって企業の多面的な採用選考と日本の大学、そして大学生にとってもプラスになるような改革に取り組むという大きな試みは注目してよい。

【2014年5月】15卒の採用計画を読む

 15卒の採用選考が本格化している。これに先立って3月下旬には、新卒の採用計画が新聞社などから相次いで発表された。このうち詳細だったのが日経新聞の調査。同調査によれば、15卒の大卒者に対する企業の採用計画は、全体で前年比18%増となった。すでに企業の新卒採用は、景気回復に伴って増加が予想されていたが、具体的な数字となって全貌が見えたのである。大学や学生にとっては、就職環境好転という嬉しいニュースといえようが、このなかに製造業の採用計画に気になる点があるので指摘しておこう。

◇まず、製造業全体の採用意欲だが、本格回復かどうか。同調査では、12.9%増える見込みだというが、その人数の増え方は、ここ数年の低水準からの微増にすぎない。例えば、トヨタ自動車は、昨年の実績が619人だったのが620人、同様に東芝460人→480人、新日鉄住金214人→260人、三菱重工284人→310人など、多くが微増である。だから円安と景気回復で業績回復、採用復活に転じたパナソニック0人→700人、シャープ95人→200人,日産自動車358人→400人とは、一緒にできない。
 そのため採用増の動きは、大手製造業の多くの採用増は、一時的で欠員補充、人材バランスの是正でしかなく、中堅の製造業では、人手不足対策での緊急的なものが多い。
前向きということで新規分野に積極的に配置する理工系学生の採用の動きもあるがごくわずか。この分野の増加こそが重要だが少数だった。

◇この製造業の採用計画にはもう一つの傾向がある。
それは、採用数が増加しても多くは理工系学生の採用であって、文科系学生の採用は確実に減少している。
 これまで製造業における文科系学生の採用は、人事、経理、営業などの管理人材が目的だったが、ここ数年は文科系学生の採用といえば大手も中堅もグローバル人材を期待する。だから採用対象者は、文科系学生といっても海外大学・大学院卒の外国 人や日本人、訪日留学生である。
 こうしたグローバル採用の拡大によって文科系学生には厳選採用が実施され、製造業への就職はますます困難になっている。

◇一方、理工系人材では大学院卒の採用の比率が高まっている。これは、旧帝大、早慶理科大などでは、理工系学生の7割以上が院に進学する現状では当然のことだろう。
 その職種は研究開発、設計、製造部門が多い。となれば、それ以外の大学の理工系学生の配属先は、生産部門や情報系ということになる。
 調査では、明確にされていないが、トヨタ自動車や三菱重工クラスの場合、院卒8に対して学部卒は2というのが実情だろう。大手製造業における高学歴化は一段と進行している。

◇こうした採用計画の構造を時系列で分析したのが、4月下旬に発表されたリクルートワークス研究所の求人倍率調査である。
 同調査では、大卒の採用計画数は前年対比で6年ぶりに増加に転じ、求人倍率は、前年の1.28倍から1.61倍へと大幅に上昇したと発表した。
 しかし、規模別の求人数をみると、5000人以上の大企業は、前年の4万4千人に対して4万6千人と若干の増加にとどまり、一方、300人未満の中小企業が、26万3千人から37万9千人と大幅増となった。

 注目したいのは、業種別の求人倍率。求人数に対する就職希望者の倍率だが、金融業は、0.22倍、サービス・情報は、0.54倍と相変わらずの買い手市場だったが、製造業は、1.59倍に後退、さらに流通業では、5.49倍、建設業となると5.61倍とそれぞれ求人難が深刻化する見通しだ。ここでも製造業の人気は低下している。

◇このように製造業の採用では、いわゆる厳選採用と高学歴化そして就職人気の低下が進んでいる。しかも採用は、理工系が大半で文科系の採用数が激減したままである。

 どこの製造業でも文科系の新卒の採用増に踏み切っている企業はない。むしろ新聞の求人広告を見ても分かる通り、文科系の専門職である人事、経理、営業などは、新卒にこだわらない既卒、外国人などを中心としたキャリア採用、グローバル職の採用が中心になっている。

 はたして製造業は、文科系学生を採用し、長期的に育てていこうとしているのか疑問だ。これが、今年の採用計画から見えてきた製造業の人材戦略である。

【掲載日:2014年5月15日】

【2014年7月】それでもインターンシップは拡大する

 15卒の採用活動が山を越したが、6月上旬からは、東京、大阪などでの大型イベント会場では、大規模なインターンシップの合同説明会が一斉に開催されている。どこの会場にも大手の金融機関やメーカー、IT企業が参加、大学3年生も大勢集まっている。もはや16卒の採用活動が始まったかのようだ。インターンシップの現状をレポートしよう。

◇新しい採用ルールである「指針」が発表されたのは昨年4月。それから1年の間、企業、大学それぞれが「指針」への対応策を模索していた。とりわけ企業の採用担当者の関心は、3月以前の採用準備活動では何ができるのか、ということだった。そこでは、次の3つが16卒採用の課題とされた。

  1. インターンシップの活用
  2. リクルーターの設置
  3. SNS(ソーシャルメデイア)の運用

どれも新味はないが、これまでの実績もあり取り組みやすい課題だ。なかでも多くの企業が、取り組んでいるのがインターンシップの活用である。 

◇インターンシップの目的は、いうまでもなく、学生に健全な職業観をもって社会に貢献してもらいたい、ということだが、最近では、人事部主導ということで採用選考との関連が強くなっている。そのため採用ルールが強化されると早期からの採用PRあるいは採用選考の予備選考としての役割が期待されるようになった。

◇こうしたインターンシップの役割拡大とともに実施企業が増えてきたことから就職情報会社では、インターンシップサイトの開設だけでなく、実施企業を一堂に集めた「インターンシップ合同説明会」を企画するようになった。この説明会では、数百社の人事担当者が、それぞれのブースに多くの学生を集め、直接インターンシップへの応募を学生に語りかける。しかし、その実態は、インターンシップを予定する企業の説明会でもある。それも広報活動解禁のはるか前の6月、7月である。

 たしかに企業や仕事のイメージを学生に持ってもらうことで夏のインターンシップに参加してもらうというのは理屈だが、どの企業もインターンシップの募集という名目で早期に堂々と事業内容や仕事内容、若手社員の活躍ぶりを熱心に語っている。就職先として魅力的かどうかを理解したうえでのインターンシップ応募というのが順序だ。


◇例えば、大手総合電機メーカーのインターンシップの場合、WORKSHOP 5日間のコースというが事業内容から仕事の魅力、要求される能力などのガイダンスをする。興味を持った応募者は、6月下旬までにエントリーシートを提出、書類選考され、面接の上合格となれば、9月から職場実習となる。

 有名食品メーカーの場合は、開発、マーケティングの仕事の説明がある。学生は、7月2日までに同社のHPよりWEBエントリー、 そしてWEBでの適性検査を受検。そして7月中旬、エントリーシートの合否連絡がある。合格者には、7月下旬にマーケティングセミナーとグループディスカッション。これが一次選考。さらに8月上旬には、集団面接で二次選考。
 これらを経てようやくインターンシップの参加合否が決定される。選考プロセスが念入りで採用選考並みだ。

 インターンシップは、本来ならば、大学に候補者を委託したり、抽選したり、先着順のはずだが、どうしてなのか。なかには、募集学生を3年生(16卒)に限定する企業も少なくない。このほか、大手のIT商社のように「1day 提案力向上インターンシップ」というものもある。人事担当者を相手に1日かけて「自分を提案」という。これがインターンシップなのだろうか。しかし、説明会に参加した学生は、就活のシーズンは来年だというのに真剣だった。

◇こうしてみると6月下旬から現在でも全国各地で開催されている大小の合同インターンシップ説明会は、実は合同企業説明会と何ら変わることはないのではないか。

 経団連の「指針の手引き」では、「(インターンシップの)告知・募集のための説明会は開催せず」、また、「(インターンシップの)合同説明会等のイベントにも参加しない」とある。にもかかわらず経団連の有力企業が、100社近くが勢ぞろいしている。企業側は、「指針」によって採用活動が遅くなり、採用活動期間が短くなるという見通しから、学生に早期からの就職意識の形成、企業研究の必要性、計画的な就活を要望しているのだろうが、このインターンシップ合同説明会は、いささか過激すぎるようだ。

そうしたなかで文科省が、インターンシップの推進に当たっての基本的考え方の見直し」を発表して「学生情報の早期入手に」警告を発しているが、ここまで進行しているのだから年内のインターンシップのストップは無理だろう。

【掲載日:2014年07月14日】

【2014年9月】16採用の準備活動がスタート

◇10月を迎えて、いよいよ16卒採用がスタートする。
 すでに大学では、就職ガイダンスや就職対策講座が一斉にスタートしている。これに対して企業側は、新たなルールである「指針」への対応に苦慮している。「指針」によれば、企業の採用活動は、来年3月までお預けということだ。
 そのため当面は、インターンシップや企業広報活動で様子を見るということになった。

 しかし、これから来年の3月まで何もしない企業はないだろう。とりあえず、大学訪問をしたりインターンシップを運営したりしながら他社の様子をみて、新しい試みを模索することになる。

「指針」への新しい試みのいくつかを紹介しよう。

1.インターンシップの通年化

 これは、本欄の7月号で指摘したように夏のインターンシップだけでなく秋、冬、春というように複数回、開催するという動きだ。

 とくに就職情報解禁直前の来年2月は、大学の後期試験が終了する時期だけに応募学生が多くなることが予想される。さらに時期が時期だけに企業は、学生に会社の事業内容や社風、若手社員を見せることで強く採用をアピールしたいと考えているはずだ。これが、本当のねらいでもある。そのため、1Dayインターンシップや5日間のインターンシップに取り組む企業が激増するだろう。

 しかし、前者では、会社説明会にとどまるだけだが、後者では、参加学生の資質を見極めることができる。どちらをとるか、4月以降の選考スケジュールとの関係もあるので、企業にとっては悩ましい。
 しかし、問題は時期の短期集中によって学生による企業の選別が行われるので不人気企業や中堅企業は、期待を裏切られることになろう。そうした企業は、再び、初夏のインターンシップを計画することになるかもしれない。

2.リクルーター制度の強化

 来年3月までは、企業と学生の採用に関する接触は制限されているが、さらに同じ大学のゼミやサークルの先輩と後輩の接触は、時期も含めて何ら制限されるものではない。これが、内定した4年生と後輩である3年生はどうか、これも同様だろう。

 そんな私的チャネルを通じたリクルーター制度が「指針」の導入とともに広がり始めている。それも特定大学や専攻分野を特定したターゲット採用の動きと重なっている。私的な関係であるだけに大学のキャリアセンターも黙認している。
 もっともこれは、特定大学などに実績のある金融機関や大手企業だけができる採用手法であるだけに学閥固定の批判も強いが、根強い手法として拡大中だ。

3.SNSを活用した広報活動

 年々、学生のパソコン離れ、スマホの普及とともに、この新しい試みをする企業が急増している。最近では、「LINE」のグループ機能を利用し、気軽に質疑応答できる「LINE交流会」を実施したりWebセミナー、facebook上での情報提供、イベント告知、iPad上での質問会、面接、モニターレポートの提出を要求したりなどと多彩だ。

 こうしたSNSは、ほとんどが本人の顔写真やプロフィールを正確に記入することが求められているので、替え玉はできない。それだけに採用シーズン前に企業と学生とのアングラ的な関係を形成するには絶好のツールとなっている。しかし、多くの学生を対象にするには、企業側のスタッフ数やシステムの運用、実効性が疑問とされているので研究中という企業がまだ多い。

4.大学との連携強化

 もっともオーソドックスな手法。
 今からは無理だが、昨年からの試みとしていくつかの企業が取り組んでいた。具体的には、大学の就職講座への協力である。経済動向、企業の見方、採用基準、面接などの講座における企画の共同立案や講師派遣である。
 
 とくにキャリアセンターから要望の多いのが模擬面接の講師派遣だ。有名企業に交じって魅力的な講師を派遣する企業は、学生の注目を集めることになろう。

5.産業研究セミナー

 「指針」下の採用広報の正攻法として試みられているのが「産業研究セミナー」。これは、数年前から商社、金融、メーカー、ベンチャーなどの採用担当者が共同企画して開催している本格的な産業・経済セミナー。
 
 その内容は、それぞれの企業が、アジア経済の展望や知財戦略、グローバル人材の課題、CSRへの取り組みなどについてパネル形式で議論するというもの。目的が、産業・経済研究だから大学生が対象でも開催時期など指針に縛られることもない。11月でも12月でも良い。ねらいは、問題意識を持つ学生をターゲット化して早期から企業への関心を高めてもらおうということ。これは、3月以前の「企業研究」として「指針」の趣旨にも合致しているので批判を受けることはない。課題は、どれだけの学生が、こうした企業の問題提起にこたえられるか、本当に学生が集まるのかということになる。

◇これが、16採用の準備活動であり「指針」への対応だが、そもそも「指針」が遵守されるかどうかが問題だろう。
現在のところ、3月の情報解禁は遵守されそうだが、8月の選考開始は不透明だと予測されている。そのため就職情報解禁前の採用準備活動、3月以降の採用・選考活動、5月から8月までの期間をどう設計するかに今から企業は頭を痛めている。

 これまであげた対応は、その一部である。それぞれ限界があるし、ダーテイな面もある。そのため「指針」に振り回されたくないという企業も少なくない。そうした企業は、抜本的に新卒中心の採用を転換すること以外に解決法はないだろう。

【掲載日:2014年9月26日】

【2014年11月】粛々と進む16卒採用

◇「指針」が適用される16採用もいよいよ微妙な時期に入った。

 昨年の今頃は、大学の就職対策講座も仕上げの時期となり、12月1日からは学内説明会がスタート、就活の最盛期を迎える時期だった。それが今年は、目に付く動きがみられないのだ。懸念された初夏のインターンシップ合同説明会も熱気が薄く、夏のインターンシップも減った。企業は、粛々と来年の3月1日に向かって準備中のように見える。

 たしかに企業の動きは、静かであり、指針がめざした大学教育の尊重は遵守されたようだ。それに奇妙なことだが、昨年まで早期の採用活動をして企業や大学からひんしゅくを買っていた外資系企業でさえおとなしい。本当に粛々としているのだろうか?

◇「指針」が公表されてから予想された企業の対応策の第一は、インターンシップの活用だった。
これについては本欄でも夏だけでなく、秋、冬そして来春つまり企業説明会開催中に時期を繰り下げて反復して開催すると指摘した。

 この動きは予想通りだったが、企業全体では、開催数は減る見通しだ。その理由は、企業にとって年末から新春は多忙な時期だけに現場での受け入れが難しいということと、2月では企業説明会直前だから採用を前提にしたインターンシップは有効でないということのようだ。むしろこれからのインターンシップは、3月から8月までの間に選考の手法とした方が効率的だと考えているからだ。

 しかし、これも選考のピークをいつと読むかで大きく変わる。連休後に内定ピークがあるとすれば、採用に関連したインターンシップは、開催されることはなくなる。きわめて流動的なのである。

 「指針」に対する企業の対応策の第二は、大学との連携である。
これは、就職講座への協力や講座のプログラム開発と思われていたが、これは、大学側の積極姿勢が状況を大きく変えた。大学が企業に依頼してなのか、大学の卒業生による仕事理解講座や業界研究会の早期開催が急増した。

 これらは、有名大学においてOB・OG交流会という名義で顕著な動きとなっている。例えば、東大は、10月から年末まで「卒業生による業界研究会」ということで商社、銀行、証券、保険、製造業など主要業界について企業の社員によるスピーチ、質問会を毎回、実施している。同様に一橋大学も11月下旬から1月下旬まで業界3社による「業界研究講座」を学内で開催する。これは、早大や慶大も同様でOB・OG交流会を開催している。どこも大学当局が主催で学内の施設において開催される。

 これらのOB・OG交流会は、人事が説明に出ない、採用募集の話はしない、コラボだというものの学内説明会と変わることはない。なるほど大学との連携である。それに企業の対応策の第三にあげていたリクルーター強化、ターゲット採用にも重なる効果的な採用アプローチだ。大学側も一昨年までの学事日程であった学内説明会を「OB・OG交流会」に振り返るだけだから混乱はない。

 だが、この「OB・OG交流会」は、当然のことながら大手有名企業や就職実績のある伝統大学だけが参加、開催できるイベントである。中小企業や新興大学においては参加の余地がないことを見落としてはならない。

 このほか、WEBによる適性検査の早期実施や就職相談会の開催など予想外の動きが今後も出てきそうだが、採用活動を制約するルールがしばしば変わることや、有効なペナルテイが課せられないことから、「指針」無視の企業や新卒中心の採用からの方向転換、既卒者採用拡大、通年採用の拡大などと新しい動きを模索する企業も出てきた。

 「指針」初年度の16採用はこれから来年3月まで企業、大学ともにさまざまな試行、模索を繰り返しながら粛々と進んでいるようだ。

【掲載日:2014年11月12日】

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。