学生の出足が鈍かったものの、年末から1月にかけて14年卒の採用活動は順調に進行している。会社説明会も2月上旬にはピークを超えそうだ。
そして2月中旬、企業は、志望学生にエントリーシートの提出を求める予定だ。学生にとっては、企業情報解禁からエントリー締め切りまでの時間が短かったので、志望企業を絞り込むのが大変だろう。その上、この時期は期末試験と重なるので超多忙となる。
2月下旬になると、エントリーシート通過者には、各種能力検査や面談会、リクルーター面接が待っている。これは3月から開始される選考面接のためのスクリーニング(ふるい落し)である。このスケジュールは、例年同様だ。
その一方、新卒採用を全社的に取り組む会社では、若手、中堅社員が面接官として動員されるので、現在、面接官研修を実施中のところも多いだろう。
ところで、この面接について最近は、紋切り型の面接だけでなく、懇親会形式や面談会、質問会、カフェサロン形式など工夫をする企業が増えている。
とくに懇親会型が急増している。これは、大学周辺のホテルの小部屋に少人数を集めて行われるもので、内容は、若手社員による就活へのアドバイスや会社の面白エピソード、仕事の苦労話など雑談が中心。面接という堅苦しさを排除しているのがミソだ。この方式は、学生が参加しやすく、質問もしやすいということで学生には好評だ。企業にとっては、会場の確保、社員の手配などが大変だが、ミスマッチ防止とお互いの相性が見えて好都合という。
こうした面接法の中で「逆面接」というのがある。これは、総合商社や保険会社が好む面接法だが、その基本スタイルはこうだ。
学生が質問者になって企業の人間に様々な質問をする。どんな質問にも答えるというが、十分に企業研究をして、志望度が高い学生でないと上手に乗り切れないだろう。本気の学生は、聞きたいこと、確認したいこと、疑問な点がいくらでもあるからだ。企業は、その質問内容によって学生の関心分野や理解のレベル、対話力、志望度が判定できるので選考のスピードアップにもなる。
この面接法は、なんとなく応募した学生やマニュアル通りの回答しかできない学生への挑戦といえよう。
たしかに学生は、面接において、志望動機や学生生活、自己PRなど誰もが同じようなことを語る。市販の面接本どおりの回答ばかりといってもよい。面接官としては、疲れるだけだ。
こうした企業の悩みを回避するために思いついたのが逆面接という手法だ。だが、学生たちの受け止め方はよくない。
ある学生は、こう指摘する。
「企業研究より自分をよく知って欲しい」
「さあ、どうぞ質問してくれ、と企業にいわれても黙っていられては戸惑う」
「お互いが理解するために面接するのではないか」と反発する。
そのため、この面接方式は、学生の間では、圧迫面接と受け取られているし、企業が大人げなく学生を試すという驕った姿勢だと思われている。即刻、やめたほうが良いだろう。
よい面接とは、企業にとって学生に思うところを語らせ、その学生の魅力を発見し、採用候補者として選抜することであり、学生にとっては、自分が思っていることを語りつくしたと思えることである。これからの面接シーズンでは、こうした面接のやりかたは、学生にとって最も大きな関心事であり、企業イメージを左右するものだ。
それだけに採用活動の詰めともいうべき面接選考では、細やかな配慮が求められている。学生の企業志望度は、もともと薄弱なことが多い。第一志望といっても数社が第一志望なのである。だから、逆質問は逆効果で、応募のモチベーションを下げるだけだろう。
多くの学生は、面接の中で志望動機などを語ることによって志望度を高めていく。そのためには、学生のアピールが陳腐でもじっくり受け入れ、気持ちよく面接で語らせることが大事だ。根気と忍耐、それが、大人の配慮かもしれない。
【掲載日:2013年1月16日】
- 掲載日:2013/01/16
採用現場ニュース2013(2013年の記事)
【2013年1月】面接のシーズンがやってきた
【2013年3月】優秀人材を確保するターゲット採用
ターゲット採用というキーワードが広がっている。
特定の専門性や水準以上の能力を持った学生を採用しようという動きである。従来の指定校制度と似たところがあるが、学校名にこだわらずに人物本位、という点で違う。今年も大手企業の3割程度がターゲット採用を実施しているらしい。
かつて、大手企業は指定校制度を公然と掲げて採用活動をしていた。その対象は旧帝大や早慶という特定大学を指定するものだった。しかし、自由応募、ネット採用の時代の到来とともに影を潜めた。
新たに登場したターゲット採用は、実力や意欲などが基本だ。例えば、その対象は次のようなものだ。採用実績(化学大手)、入社者の活躍状況(薬品販売)、大学の学力水準(建設)、語学力(専門商社)地域性(食品サービス)、研究内容(精密化学)、定着率(流通)などだ。なかには、インターンシップ参加者、説明会2回以上参加者といったロイヤリテイの高い学生を対象とする企業もある。
◇ターゲット採用が増えてきた理由は3つある。
第一は、採用活動の短期化である。
経団連加盟企業によって申し合わされた新ルールにより、企業の採用活動は短期間の過密スケジュールとなった。12月からの会社説明会を皮切りにエントリーシート、選考試験、面接などを3か月間でやらなくてはならない。そして4月からは、人事面接、内定となる。そうなると、この間ターゲットとした優秀学生が多数応募すればよいが、不足した場合には来年まで待たなくてはならない。人気企業なら5月、6月でも再応募があるだろうが、その時期まで優秀学生が待っているだろうか。優秀学生ほど内定は早い。
大手企業といえども待っていては、優秀学生の応募は期待できない。そのため12月から2月の間は、企業側は説明会参加者だけでなく、ターゲットとした学生に直接アプローチする動きが必要だ。とりわけ旧帝大クラスの学生は、企業側から働きかけないと誰も来ない。それを認識している企業は攻めの姿勢だ。それがターゲット採用の動機であり、ここ数年の大手企業の傾向なのである。
2番目の理由は採用の効率性である。
有名企業の場合、エントリーする学生数は1万人以上だろう。こうした学生たちは、順次選考フローで選抜されるが、会社説明会から内定するまで企業には膨大なエネルギーとコストがかかる。効率が悪い。
これに対してターゲット採用では、学生の志望度、基礎学力、専門能力、特徴は、確認済みだ。選考フローを省略して一気に面接、内定を出してもよい。そこで、最初から採用対象とする学生層を想定して、早期から徹底アプローチする。この方針をとることで企業側も採用PRポイントや人員配置が鮮明になるし、参加するべき大学の学内セミナーも選別される。短期間に効率的な採用をするためにもこのターゲット採用は有効なのだ。
3番目はミスマッチ防止である。
企業側から学生の特性に合わせたアプローチをすることで、活躍の場があることを知ってもらう。それは懇親会方式でもリクルーター方式でもよい。こうしたマンツーマン方式での綿密なアプローチの中で、学生が社風に会う人材かどうか、能力、性格、志望動機などを観察する。ミスマッチなき採用がやりやすくなるのである。
そのためにはターゲット採用ではリクルーター制度との併用が効果的だ。ここでは、大学の卒業生という関係だけでなくサークルやゼミ、出身高校の関係も有力なチャネルになる。先輩後輩の人間関係が強い旧帝大や大手有名私大のゼミの学生がキャリアセンターを介さずに就職するのは、このチャネルがあるからだ。
◇すでに今年も銀行、保険、通信、エネルギーなどは、昨年末から2月上旬にかけて特定大学限定セミナーを開催し、同時にリクルーター制度を駆使してターゲット採用を活発に行っている。応募者は多いものの優秀人材が年々減少している現在、ターゲット採用はますます盛んになりそうだ。そしてターゲットの中心は、相変わらず有名大学がほとんどだ。採用担当者のアンケートでは、優秀学生はやはり有名大学に多いという認識だ。
人材は偏在しているのか、採用担当者が人材発掘を怠っているのか、今年もターゲット採用が威力を発揮しそうだ。
【掲載日:2013年3月8日】
【2013年5月】新ルール決定で大学も企業も混乱
採用活動たけなわの4月上旬、政府は新卒採用の正常化へと倫理憲章の見直しに動き、首相自ら経済3団体の長を呼び、新卒採用の新ルールとして「3月就活解禁、8月選考開始」案を提示した。日本経団連は当初、学生が困るのでは?と難色を示していたが、世論の動向を見て容認。そしていよいよ2016年卒からの実施が決定した。
◇その後、就職活動時期変更について大学側がどう受け止め、いかに対応しようとしているかを聞いた調査が4月下旬に発表された。これは有力就職情報会社の調査で、調査時期は4/16~4/22、回収数は国公立大学など78大学。回答者は日常的に学生の就職指導を行っている就職部、キャリアセンター責任者からの回答だ。(調査時点では「4月就活解禁、8月選考開始」という政府案で聞いている)。
調査の概要を紹介しよう。
まず、就職活動開始時期を遅らせることに関しては、過半数が賛成している。賛成理由としては、「学業に良い面が多い、留学に良い面が多い」、「3年生まで勉強に専念できる」など、政府のねらい通り、学業・留学へのメリットを挙げる声が多かった。
一方、反対理由としては、「2年でこれまでのルールを大幅変更するのは時期尚早」、「就活期間が短くなる結果、無職卒業生が増加する」などが挙げられた。「春季休暇中に活動が出来なくなる」との理由も多かったが、実際は3月解禁になるため、より賛成が増えると思われる。適正と思う就活解禁時期は「3年生の2月」が一番多かった。次点の「3年生の3月」とともに、長い春休みを就活に活用するのが学校への影響がもっとも少ない、との考えが多い。その点で、政府も4月から3月への急きょ変更は良い判断だったろう。
就活解禁時期と選考解禁時期の組み合わせでは、現行の「12月就活解禁、4月選考開始」がもっとも多く16.7%、続いて当初の政府案の「4月就活解禁、8月選考開始」が12.8%、2016年卒から決定となった「3月就活解禁、8月選考開始」が11.5%で続いたが、案外、現行案の支持が多いのが意外だった。
◇このように新ルールは、大方が歓迎しているが、従来とは違う懸念がいくつかある。
新たなルールが実施されたとしても「野放し状態の外資系企業が成果を上げているだけに同調する企業が増えそうだ」という警戒感と選考時期が遅くなることによって大企業の後から採用選考活動をする「中小企業の採用難が一段と深刻化する」という心配が指摘されている。これは、中小企業に多くの学生が就職する大学からの声だ。これについては、「4月就活解禁、8月選考開始」の影響ということでワークス研究所から出されたレポートが不気味だ。すなわち、就活を従来より4ヶ月遅らせると、未就職者は4万人増え、内定率は6%ダウンするというものだ。このほか、大学キャリアセンターの悩みとして、春休みの就活ということで学生をどのように登校させるかということも悩みという。
しかし、もっとも重要なのは、3月にキャリア支援、学内説明会が集中してしまうことと「1月から3月にかけて行う就職支援が難しい」という声だろう。だが、これは大学側が要望していた大学教育の尊重、学習時間の確保、8月以降の選考活動を勝ち取ったのだから大学側として工夫してほしいものだ。
◇今回の改定に当たり、大学側は、倫理憲章を確かなものにするために次のようなことを要望している。もっとも多かったのは、目に余る倫理憲章違反については、社名公表をするべきだという意見だ。ついで、選考活動が短期化するにつれて増加してきた企業の拘束の禁止、10月1日以前の入社誓約書の禁止という声だった。それにしても「見直しは時々は必要だが、3年以上は継続してほしい」という声もあったことが印象に残る。
◇では、こうした新ルールに企業はどう対応するのか。
対象となるのは、現2年生なのでまだ先のことで検討中というところがほとんどだが、次の3点を要検討としている。
1.インターンシップの拡大強化
これは、大学低学年からのインターンシップに取り組むことと、大学3年生を対象としたワークショップ型の冬のインターンシップだ。当然、採用を意識したものである。
2.企業広報の多彩化
従来の工場見学、ビジネスショー、公開セミナーへの勧誘だけでなく、大学への寄付講座、講師派遣の拡大、大学(学生)と連携した地域でのプロジェクトの提案である。
3.選考方法の見直し
採用PRにおいて求める人材要件(能力・経験・資格・成績の重視)を公開し、早期から応募者をターゲット化することで選考プロセスを短縮し、優秀人材の早期確保を図る。これによって一段と短期集中化する選考時期を乗り切ろうというものだ。
◇このように新たな採用活動のルールが改定されたが、今後も青田買いや優秀人材の拘束は続くことになろう。これは、一括採用がその原因だが、終身雇用、年功賃金とセットになっているものだ。グローバル時代における採用がさらに広がれば、採用対象者は留学生や外国人、既卒者に広がり、賃金や勤務形態、契約期間も多彩化、入社時期も通年化することになる。そうした動きが広がれば、採用時期を規制するルールそのものを不要とする時代がやってくる。いまは、まだその過渡期なのだろう。
【掲載日:2013年5月28日】
【2013年7月】14卒の採用活動を総括する
14卒の採用活動も山を越し、残るは大手企業の夏採用と中小企業、地方企業の採用活動だけとなった。多くの企業にとっては、15卒の採用活動の準備に取りかかる時期だが、今回は、これまでの採用総括(14卒)をしておこう。
1.企業の採用意欲は、横ばい
新卒採用全体を見ると、今年は一昨年から回復してきた採用増の流れがストップ、昨年並みとなった。これは、日経新聞社などの採用計画調査でも明らかで、採用増の企業は1割程度で、学生の就職人気の高い銀行、保険、商社、電機、食品、インフラの業界は、前年並みか減であり、増えたのは中堅企業であり、流通、小売りといった業界だった。リクルートの求人倍率調査では、全体の求人倍率は、1.27倍から1.28倍へと改善したが、金融業の求人倍率は、0.18倍であり、求人数は下げ止まったにすぎなかった。問題は、製造業で、昨年に引き続いての採用減は、採用数が多いだけに今年の採用市場を停滞させるものとなった。
2.学内説明会が限界に
現行の就活ルールが徹底されたことで、どの企業も採用活動のスタートとして学内説明会を重視するようになった。そのため大学も多くの企業を招へいし、学生に就職のチャンスを与えようとした。一方で大手企業は、平均して50社前後の大学に出かけている。だが、この動きにも変化が見えてきた。企業は、出向く大学を限定し、ときには招へいがあっても辞退する。大学を絞り込む傾向が出てきたのも変化だ。企業にとっては、採用効率や大学の評価だけでなく、物理的にも限界だからだ。その一方、大学も中堅企業や新産業よりは大手企業、人気企業、成長企業を重視、企業を選別するようになったのである。
3.合同セミナーは衰えず
大学を特定できる学内セミナーの普及によって就職情報会社などが企画、開催する合同セミナーは、衰退するのではないかという危惧があったが、実際には、違った。大学に招聘されなかった企業ばかりでなく、大企業も依然として参加している。無料で参加できる学内セミナーでは、大手企業も中堅企業も等しく説明時間が短い、プレゼンツールが貧弱、不本意な開催日時、学生との懇談会の制限など多くの問題点が明らかになった。そのため合同セミナーは、学内セミナー最盛期より2週間遅れの12月下旬からやや減とはいえ以前同様に開催されていた。
4.ターゲット採用は拡大中
対象を限定するターゲット採用が増えた。限定とは、インターンシップ参加者、特定大学、体育会系、女子理工系などの学生を対象とすることである。企業側のスタンスは、明確だ。採用対象者を早期から囲い込み、選考のプロセスを簡略化、対象とする人材を確実に早期に採用することがねらいである。従来のリクルーター採用も大学限定ということでこれに該当するが、人材を確実に採用する方式として金融、通信の大手企業では、今年も実施していた。
5.短期集中、早期終了
就活ルールがより一層遵守された結果、採用活動が短期集中、早期終了した。昨年12月1日の就職情報解禁から3月末までには、一部の外資系金融やIT企業を除き、早期内定は僅少で、大部分の企業は、我慢に我慢を続け、4月1日を迎えた。それだけに4月上旬から中旬にかけて企業の内定の出し方は、急激で、4月下旬、5月のゴールデンウイーク前にはすでに山を越えていたというのが今年の採用だった。
6.グローバル採用は、海外へ
今年は、企業のグローバル採用の熱気が冷めた年だった。一般にグローバル採用の対象となるのは、日本に留学している外国人学生が中心だが、4割の企業がグローバル人材を求める現状では、国内では限界ということで採用の重点を海外に移し、外国人を現地で採用する企業が増えている。採用基準や選考方法もいよいよグローバルスタンダードになるのだろう。
7.採用満足度の二極化が進行
今年の採用については、奇妙なことだが大企業、中堅企業それに大学のキャリアセンターのそれぞれが、成果ありと満足している。どの企業も採用活動が上手で期待する人材が採用できたのだろうか。学生の評判がよくなったのも今年の異変。大学教育の質が向上したとも思えないから学生が就職対策に一生懸命になったためだろう。だから、エントリー数が少ないと不満な企業でもエントリー者の質には満足している。その一方、エントリー者の人数、質の両方に不満の企業も少しずつだが増えている。採用の二極化が進行している。
8.一括採用は後退しない
採用形態については、変化がなかった。批判の多い春一括採用は、依然として継続、さらに増えている。地域別、職種・コース別採用、通年採用など新しい採用方式は、どれも伸びずに後退している。企業は従来通り、新卒で優秀な学生が春に一括採用できるという現状では、なかなか一括採用を止めるわけにはいかないだろう。
【掲載日:2013年7月19日】
【2013年9月】選別を強める学内説明会
大学の夏休みも終わり9月下旬からは、15卒の採用活動の準備が本格化する。懸念されていた16卒を対象とした「指針」も経団連によって署名なし、罰則なし、監視機関なし、という予想外の不徹底さで従来の憲章より後退、企業も一安心となった。
◆さて、15卒の採用活動準備だが、採用活動の出発点ともいうべきホームページや入社案内の制作は、すでに完成寸前だろうから、採用担当者にとって当面の課題は、12月1日からの学内説明会や年末の合同説明会への準備ということになる。ここ数年、倫理憲章が徹底されたことで企業は、12月まで企業説明会や合同説明会は、開催できなかった。そのため多くの企業は、12月上旬から開催される大学の学内企業説明会に殺到した。とりわけ、有名大学の学内説明会の集中ぶりはすさまじく、企業説明会が12月末まで連日開催され、大学のキャリアセンターのスタッフ、学生ともに疲労困憊となった。
◆12月上旬の大学主催の学内セミナーは、採用活動のスタートとなるだけに企業にとっては、重要な採用イベントである。しかも、この学内説明会は大学主催であることから参加費用不要で、大学が司会進行し、教室、講堂を無料で提供、学生への告知も大学が行う。そのため、どの企業も大学主催の学内企業セミナーに参加を希望する。
大学にとっては、できるだけ多くの企業に参加してもらいたいところだが、物理的に限界がある。そこで、大学側は、それぞれの基準で選別を行うことになる。それだけに企業としても、4月下旬から現在までキャリアセンター詣でをして大学対策を行っているところだ。
◆しかし、こうした学内説明会については、企業、大学それぞれに思惑がある。大学側は、学生の就職人気の高い企業や大学としてぜひ就職させたい企業、就職実績のある企業、将来性のある企業などを選別、学内説明会に招へいすることを目指している。それでも企業の申し込みが多すぎて、大学が設定した日程には収まらない。そのため選定に漏れた企業は、次回(2月、4月、6月)となるが、これでは企業にとっては、採用活動の前哨戦で負けたことになるから、採用に積極的な企業は、年末から2月にかけて就職情報会社主催の合同説明会に参画するか、自ら多額の費用をかけて単独の企業セミナーを開催することになる。
◆一方、企業側にも学内説明会には思惑がある。大学側から学内説明会への招へいがあった場合、大喜びかといえばそうともいえない。ある就職情報会社の調査では、企業が学内説明会に参加するスタンスは、「どこの大学でも招へいされれば、参加する」という企業は1割弱にすぎず、「当初から大学を決めて限定的に参加する」という企業が4割弱。「招へいされても検討した上で辞退することもある」という企業が3割弱もあった。
採用スタッフ不足だけでなく、採用の効率性、採用戦略という観点からの大学選別があるからだ。
つまり、採用に苦戦している企業の場合は、数多くの大学にアプローチ、チャンスをつかもうとするが、採用戦略が明確で求める人材要件にこだわる企業は、採用したい大学、学部、学科を限定して学内説明会を選別しているわけだ。そして企業にとっての大学選別基準は、採用実績がある大学、企業との関係が深い大学、卒業生が社内で活躍している大学、世間の評価が高い大学、これまで採用実績のない未知の注目大学などだ。
こうした動きは、昨年の採用で鮮明になり、ターゲット採用という言葉を生んだ。そして特定大学限定の説明会、女子理工系学生限定の説明会、グローバル人材限定説明会、大学学部別フォーラムの開催という一歩踏み込んだ説明会が目に付くようになった。
◆この傾向は、大企業、有名企業ほど、目に付く。
こうした企業は、学内説明会に参加するが、大きな期待はしない。応募人数の多さより学生の質にこだわる。採用活動の重点が少数でも優秀な人材を確実に採用することにあるからだ。
それに優秀人材ほど大手企業であっても待っていては応募しない。そのため今年は、学内説明会と並行して採用ターゲットを明確にした単独セミナー開催の動きが活発になるだろう。
志望度の高い優秀な学生に対して快適な会場で、時間をかけて、独自のプログラムを実施、以降の継続接触を可能とする単独セミナーである。これは、費用と手間を惜しまない大企業ならでの採用活動だが、それだけ優秀人材への意欲が旺盛だからだ。
その結果、今年の採用では、有名企業においては、早期から企業が求める人材についての要件を明確にした企業セミナーやテーマを明確にした合同説明会(例えば高度グローバル人材の要件とは、とかエンジニアリングビジネスのプロ人材といったテーマ)などのセミナーの開催が昨年より増える見通しだ。
多くの企業が大学内の説明会に画一的に参加している間に大手企業は、着々と優秀人材を年末までに囲い込む。今年は、そんな光景が出現しかねない動きだ。
【掲載日:2013年9月13日】
【2013年11月】前哨戦の動きは、穏やかだったけれど
15卒を対象とする採用活動が12月1日から動き出す。これまでの動きは昨年に比べて全体に穏やかで、話題の少ない年だった。それでも前哨戦として、いくつかの変化がみられた。11月までの学生や企業の動きを3つほどあげてみよう。
◇第一は、学生のノンビリムードである。
これは大学における就職ガイダンスや就職講座への参加状況から推定できる。
大手就職情報会社の学生モニター調査(10月下旬実施)によると、すでに学生が行った就職活動では、「就活対策の本を買った」という学生が昨年より9.4%減、「学外の就活講座・就活イベントへの参加」は5.6%減、「大学の就職ガイダンスへの参加」は1.7%減だった。
この傾向は、理工系学生の場合さらに顕著で「学外の就活講座・就活イベントへの参加」は、14%減の19.1%、大学の就職ガイダンスへの参加は、86.2%から78.6%へと大きく下落した。逆に増えている活動もある。「自己分析」「リクルーターなどとの接触」「OB/OG訪問」だった。
なぜ、学生の出足が鈍いのか。これは企業側のアプローチが低調だったことが大きい。昨年末以来、景気回復といわれながらも新卒採用についてはどこも慎重で、採用数が伸びないことと昨年並みの活動でも十分に採用できるという読みがあるからだ。そのため企業による早期の就職イベントが激減、学生の動きを低調にさせたのである。
一方、学生側は、昨年来の景気回復ムードの中で企業が新卒採用に積極的になると予測していることや昨年の先輩たち(現4年生)の就職が案外、好成績だったことも影響している。とくに理工系学生は、昨年みられた求人ブームが、今年も続くと読んで安心している。
このように今年は、多くの企業と学生が、それぞれ安心感を持っていることで動きが停滞したのだろう。
◇第二は、ターゲット採用がさらに浸透していることである。
前述の調査にもあるように早期からのリクルーターとの接触やOB/OG訪問は増えている。これは、企業による特定層へのアプローチであり、学生側の就活というより企業の早期の採用活動である。それも限定された対象へのアングラ活動である。だから回答学生は、上位大学の学生ばかり。アプローチしているのも金融や大手メーカー。
ここでは、上位大学の学生に早期から企業情報を与え、関心を持たせ、出身大学の先輩社員を派遣し、確実に応募させようというターゲット採用の存在が読み取れる。
その動きと連動しているのが毎年増加している東大、京大、阪大、早大、慶大などに限定した企業説明会。開催時期は情報解禁前の9月から11月。主催するのは中小就職情報会社。もちろん就職情報会社懇話会にも加盟していないからやり放題だ。参加企業は外資系企業のほかにITベンチャー、コンサルテイング、大手通信、外務省、経産省である。さすがに大手金融は参加していない。
◇三番目は、来年からスタートする「指針」へのトライアルである。それがインターンシップである。
対象者、期間、内容ともに倫理憲章に準拠しているものの実施時期が、「後ろ倒し」となっている。例えば、大手金融Aは、秋のインターンシップということで10月下旬に全国6カ所で5日間、延べ300人を実施中であり、大手金融Bは、11月中旬に5日間、100人、IT情報大手は、12月下旬に100人、大手流通は、10月から12月にかけて5日間、300人を実施予定だ。
これらの企業は、夏のインターンシップを実施しているが、今年は秋冬にも実施するという。
参加するに当たって学生は、当然、エントリーシートを今月中に提出、面接、選考試験を経た上で順次、参加。内容も部門別に社員から業務紹介、業務体験、GDやグループワークそして結果が個々にフィードバックされる。
これらのインターンシップは、16卒を対象とする「指針」へのトライアルだろう。就職情報解禁前にどれだけ企業への関心や志望度を高めさせるか、早期の囲い込みや選考までどのフォローをどう展開していくかの試みである。このほかインターンシップでは、現行倫理憲章を無視するかのように某大手銀行は、8月から11月にかけて1Dayインターンシップを15回実施する。募集人員は、300人というから堂々たるものだ。
◇かくして、今年の採用活動の前哨戦は、外資系金融、コンサルテイング、ITベンチャーは相変わらず早期選考で大暴れだったが、全体としては静かで秩序だっていた。その水面下では、16卒から実施される「指針」へのさまざまな試行錯誤も見られたのである。
【掲載日:2013年11月14日】
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キャリアコンサルタント 夏目孝吉
早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。