採用現場ニュース2012(2012年の記事)

【2012年1月】はじまった’13卒採用は、一昨年並みの流れか

◇年明けとともに現3年生(2013年卒)を対象とする採用活動が本格スタートした。
今年の採用は、就職情報や就職イベントが例年より2ヶ月遅れの12月1日からということになったので、企業は12月上旬からの大学主催の学内説明会に活動を集中させ、連日のように大学に出かけて企業説明会を実施した。

更に12月中旬からは、就職情報会社が企画する合同説明会が学外で連日開催されたので、企業はこれにも参加したのである。なかでも有明ビッグサイト、幕張メッセ、有楽町国際フォーラムなどでの合同説明会は、数万人の学生を集めた。そのため12月中下旬、大学のキャンパスから学生が消えることもあった。


◇そして1月上旬からは、学生たちも学内から学外へと活動領域を広げ、採用活動はいよいよヒートアップした。
今年のように就職情報の解禁日が決まっていると、大学は、学内ガイダンス、就職情報の公開、学内企業説明会という順序で就活支援ができるので歓迎すべき流れとなった。

しかし、情報解禁日が設定され、一斉スタートとなったため学生の就職サイトへの集中ぶりも過熱そのものだった。大手就職サイトが12月1日に炎上したのがその象徴だが、学生は一日で数十社にエントリーしたという。
それでも大学側では、当面企業にプレエントリーするのは30社程度にしてじっくり企業研究せよと指導していた。本エントリーまでの時間がないからだ。その上、ここ数年企業側は、多すぎるエントリーに対して志望の本気度をはかるために設問を深くしたり、数々の関門を設けたりしていたからだ。その結果、学生のプレエントリーシート数は、昨年より大幅減となった(ある調査では、77社から51社程度に)。


◇これまでの学生たちの就活の動きをみてみよう。
今年は、秋から就職情報解禁日まで余裕があったので、学生は例年になく多くが就職ガイダンスに出席し、情報収集、大学の各種講座に参加した。9月から11月末まで大学主催の自己分析講座や試験対策などは満員だった。そのかわり、学外の合同企業セミナー、OB訪問、インターンシップなどへの参加数は減った。時間がなかったからだ。就職意識の高まりも出足は鈍かったものの、12月中旬から年末までの学外の説明会に奔走することで、急速に高まり、企業研究のポイントをつかみ、行動が日々的確になった。就職情報の解禁が遅くなることで不安に思っていた大学の担当者もこれで一安心となった。


◇では、2月からの展開はどうなるか。
大手企業と2割程度の優秀な学生は、一昨年並みの採用ペースで進みそうだ。大手の銀行、証券、保険などの人気業界は、すでに説明会を終え、グループワークや小規模の懇親会に入っている。これが、毎日のように繰り返され、3月中旬には、予備選考に移り、4月上旬からは人事面接が開始されるだろう。とくに金融機関の採用活動が先行するのも一昨年通りの模様で、志望度の確認と他社の進行状況を見ながらの内定出しは、連休前後になりそうだ。
昨年、不評だった大手金融機関の6、7、回に及ぶ面接も見直されることなく、相変わらずだろう。これに準じて素材メーカーが内定を出すのもやはり連休前後、これで第一波の採用活動が山を越す。


◇しかし、今年の採用は、全体として長引くのではないかとみられている。
その理由は、出遅れ学生が多かった、中堅企業の採用抑制、分散採用の拡大などだ。

就活に熱心な2割の学生を除けば、多くの学生は、情報解禁日にまで志望企業を絞りきれていなかった。これは、採用情報の提供方法が制限されていたことで学生には気の毒だったが、12月1日からは、事前の企業研究をしてないとついていけない就活が連日続いた。これによって学生はどんどん脱落しているのである。

そこで、2月から3月の間にランクを下げるとか、他の企業に転じて就活をしていけるかどうか、今年は、多くの企業が同じペースで採用活動をしているので学生にとっては、2月下旬からはじまる第二波の採用活動まで待っていなくてはならない。そうした、難しい就活になっている。それに今年は、中堅企業や地方企業を取り巻く経済環境の悪化が深刻化している。そのため採用計画がなかなか決まらず、採用数の抑制も必至だろう。

このほか、大量採用を期待できる頼みの流通、サービス業界も不振なので、全体の採用数はマイナスになることは確かだ。そうなれば、中堅企業や地方企業を志望する学生にとって就活は長期化することになる。さらに大手メーカーの分散型採用や夏採用の増加によって学生の採用活動は長期化し、不安な毎日が続くことになる。


◇こうして始まったばかりの2013年卒の採用を概観すると、昨年12月に一斉スタートし、一時の混乱はあったものの、一昨年なみのペースで進行、ソーシャルメディアの普及といわれながらもエントリー、会社説明会、社員との懇談会、面接そして筆記試験というオーソドックスな選考方法が例年通り行われる見通しだ。

注目点は、内定ピークがいつか、総合商社の6月選考開始が本当に実行できるか、通年採用がどれだけ増えるのか、といったことだろう。

まだまだ採用活動は始まったばかりだ。何が起こるかわからない。


【掲載:2012年1月19日】

【2012年3月】情報解禁日の見直しは必要か

昨年12月に求人情報が解禁されて4か月。採用活動は、ピークに差しかかってきた。金融大手や素材メーカー、商社などの総合職は、4月中旬までには内定を出すとみられているが、これはごく一部。大部分は、5月の連休後に内定が出される模様だ。そして学生たちは、早くも第一志望企業から「お祈りメール」(不合格)をもらい、第二志望企業に転進中だ。こうした動きのなかで今年は、企業側から学生たちの企業研究が貧弱だという声を多く聞く。エントリーシートの出来は良いが、実際に面接をしてみると、
「全然、当社を理解していない」
「入社したいという意欲が伝わらない」
「当社でなくてはならないという理由があいまい」
といった失望の声だ。この原因は何か、原因は3つある。

学生の企業研究不足、大学の就職支援プログラムの不十分さ、企業の情報提供の失敗である

まず、第一は、学生の企業研究不足だ。
今年の学生は、就職試験対策には熱心だが、志望先企業の研究がおろそかだった。その原因は、一昨年まで大学内外で開催されていた企業セミナーが11月末まで開催できず、企業がどのような人材を求め、どのような仕事をするのか、採用方針はどのようなものか、などを早期から具体的に知ることができなかった。
さらに学生の就職行動にも問題があった。情報解禁とともに学生が、知名度のある大手、人気企業に殺到、準大手や中堅企業にエントリーしなかったのである。
学生にとっては、就活期間が短かったため知らない企業にまで手が回らなかったのだろう。それに学生は、早期から企業にアプローチされることがなかったので、切迫感もなく、のんびりと11月末まで過ごしてしまった面もある。
それが解禁日以降に露呈した。就職ポータルサイトが一斉にオープン、同時に企業セミナーも大学内外で開催されたものだから学生は、朝から晩まで、土日もなく連日連夜の企業研究とエントリーシートの提出だった。だから、知られざる企業を発掘するという余裕はとてもなかったろう。

二番目は、大学の就職支援プログラムの問題である。
これまで企業にプログラム内容や講師派遣を全面依頼していた業界研究や企業研究講座については、大学として独自に取り組むことになった。だが、実際には、大学側の企画力不足、予算不足、講師不足で学生の企業選択の要望に十分に応えられなかったのである。

三番目は、企業側の問題。
学生に企業情報を継続的に提供することで、志望度を高めることや働く魅力やキャリア形成のイメージを早期から的確に学生に伝えられなかった。採用予算不足のためか、ホームページやイベントに魅力がなく、早期から学生を取り込む採用PRの工夫がなかったのである。インターンシップに変わる何かを創出できなかったのである。
これらの諸原因が、学生たちの企業研究不足の背景にあったといえよう。

このように今年の採用ルールは、遵守されたものの企業研究不足という問題が残った。
新しい採用ルールは、採用活動を遅らせ、学生生活を充実させたことは評価できるが、学生と企業のミスマッチを増大させ12月から2月までに見られたような超過密な採用スケジュールをもたらした。これでは、まともな企業選択は出来ない。誰もが異常と思う採用活動だった。
そこで来年度の採用を見据えた新ルールの反省と改善、さらに発展的な提案という模索がはじまった。

現在、関係者の間では、こんな改定案が出ている。

  1. 現在の倫理憲章は、改定することなくそのまま継続する。
  2. 大学内における企業研究セミナーは、時期を問わずに開催できる
  3. 企業研究セミナーは、企業の現況や戦略を理解してもらうことが目的
  4. 企業研究セミナーの対象者は、大学3年生だけでなく、希望者全員とする
  5. 情報解禁日まで企業セミナー参加者の個人情報を求めない

こうした採用活動の見直しに呼応するように経済同友会は、2月下旬、次のような意見書を発表した。

  1. 広報活動は大学3年生の3月から
  2. 選考活動は、大学4年の8月から
  3. 将来的には、通年採用への移行をめざす

この提案は、一見荒唐無稽のようだが、案外現実的で魅力的だ。
大学3年生の春休みの有効利用と連休後の採用活動、そして夏採用という流れは、企業の事情を考えれば現実的だ。企業にとって4月は超多忙で重要な時期だからそんなに短期間に面接・内定は出来ない。だからといって連休中には、労基法上からも社員に休日返上を強制できない。そうなれば、選考は連休明けとなり、内定は6月以降ということになる。なかなか考えた案である。


この意見書に大学団体の就職問題懇談会(座長は濵口道成名大学長)は、「就職・採用活動を改善し、学生が自己研鑽する環境を整える着実な一歩として高く評価します」と賛同している。すでに私大連盟でもこの問題が話し合われたというが、結論は持ち越された。まだ今年の採用が終わっていないことや産業界やほかの大学団体と協議する余地があるからだ。しかし、来年の採用のルールは、連休前までには決めなくてはならない。

これから採用活動がピークを迎えようとしているときに来年の採用ルールを決めなくてはならないという異常事態はまだまだ解決しそうにない。

【掲載日:2012年3月27日】

【2012年5月】早く終わった採用活動2013、企業も学生も満足?

5月の連休後、13年卒の採用活動は山を越えた。今年の採用活動は、就職情報解禁が2か月遅れの12月スタートだったが、内定出しとなる選考開始は、当初の予想通り、4月上旬から始まり、連休明けには一段落、5月中旬からは、中堅企業や地方企業の採用活動が活発になった。今年の採用を振り返ってみよう。

選考活動が4月上旬からスタートするという動きは、年明けから明確だった。大手企業の多くがエントリーシートの提出期限を3月上旬と設定していたからだ。それと同時に金融機関や大手メーカーの呼び出しが3月になって頻繁になったからだ。4月からの人事面接への準備だ。そして4月1日、最終面接を行う企業、研修施設に学生を連れていく企業、内定を伝達する企業と賑やかな1週間が始まった。

それからは連日、各企業は最終面接で学生の入社の意思確認をしたあと、続々と内定を出した。どのような業界がいつごろ内定を出したのか、学生が大学に提出した内定届によると、まず4月1週は生保だった。続いて銀行の総合職、グローバル職から内定出しがはじまった。2週目からは証券、損保、通信、総合電機、素材メーカーそして総合商社の順だった。そして4月下旬には銀行が準総合職のエントリーを受付、説明会、選考面接に入った。

これらのペースは、一昨年以上に速いペースだった。その動きのなかでは、総合商社の選考が注目された。一昨年、総合商社は「大学教育を尊重するため選考を繰り下げる」と宣言、6月内定に踏み切ったが、今年は、産業界の賛同が得られなかったということで一転、3月の懇親会、4月の人事面接を経て4月2週に内定を出した。そのため、大手金融機関などは、従来から行われていた面接の回数を1、2回繰り上げ、早期内定で対抗した。これが、今回の早期化の一因ともいわれている。

では、採用活動は終わってしまったのか。たしかに大手企業の8割、上位大学の学生の半数は終了したとみてよいが、中堅企業の採用や中下位大学の就活はこれからだ。もともとが5月中旬スタートだが、今年は採用計画がダウンしている様子か、企業に元気がない。それだけに学生の動きも精彩がなく、就職内定率は伸び悩んでいる。

一方、上位大学の学生は、これからの大手企業の二次募集、追加募集に期待をかける向きもあるが、実態は帰国留学生、海外大学生、理工系人材、他社辞退など卓越人材に限られている。

こうした就職状況の実態は、学生の就職内定調査や企業の内定状況調査で推定するしかない。大手就職情報会社の調査では、4月上旬の就職内定率は1割程度だが4月下旬には4割前後と報告している(マイコミ、文化放送)。この数字からいえることは、3月末までは、早期内定が抑制されていたが、4月から5月にかけて内定が一斉に出されたということである。それだけ短期集中の採用活動であり、学生にとっては、効率的な就活と志望企業への就職への決断が短期間に求められた年でもあった。

ある調査では、今年の学生は内定を獲得した後にさらに他社に応募するという動きが大きく後退し、早々に就活を終了したという学生が多かったという。これは志望先を絞り込んで、早期に内定したということであるが、これ以上頑張らない、あきらめたという見方もできる学生は、終身雇用を願うものの自分と折り合いが悪ければ、転職すればよいと考えているのかもしれない。

今年は、就職情報の解禁が遅く、選考開始が早かったことで、学生の企業研究が不十分でミスマッチが激増するのではないかと危惧されたが、実際には、12月、1月段階ではそのような場面も見られたが3月には、そうした声は聞かれなくなった。学生がエントリーする企業を絞り込み、短期間で対応したからだ。それに企業側の選考方法も志望動機や企業理解を確かめる気休め的な質問などを廃止したからだ。志望意欲、ポテンシャル、コミュニケーション能力を重視したこともある。

それにしても現在のところ企業、学生ともに採用、就職の満足度が高く、大手企業だけでなく中堅企業もこれまでになく良い人材が採用できたと満足しているが、どうだろうか。学生が、中堅企業に心底満足しているのなら結構なことだが、本当にそうだろうか。まだ不安は残る。

【2012年7月】夏休みだが、来年の課題を確認しよう

採用担当者にとって今年の夏は、久しぶりにノンビリできそうだ。

倫理憲章の改定によって例年なら6月下旬から開催されていたインターンシップの合同説明会が中止され、採用目的の怪しいインターンシップも開催できなくなったからだ。もちろん就職情報会社主催の合同セミナーも11月末までは実施できなくなった。企業は、7月、8月は身動きが取れないのである。しかし、ずっとノンビリしてもいられない。来年の採用にあたって取り組むべき課題がいくつかあるからだ。この夏休みに課題を分析し、アクションプランを準備しておくことが必要だ。

どんな課題か、昨年の採用で多くの企業の採用担当者が苦労したことは何か。企業の声をいくつか上げてみると

●「採用広報期間の短縮でPR活動の場が実質的に減少したため早期の母集団形成に苦労した」(建設業)

●「学生側の会社研究が未熟で、入社意欲が不明。面接で志望意思を確認することが多かった」(事務機メーカ)

●「採用活動から選考までが短期間だったのでESの提出が激減、ESでの足切りが出来なかったので採用が非効率になった(専門商社)

●「12月以降にセミナーが集中し、活動期間が短縮されたことでスケジューリングに苦労した(電子機器販売)

●「採用のメイン時期が数ヶ月遅れて4月になったことで、今までなかった業種との日程重複や学生への連日の面接など負担が多く、調整に苦労した(マスコミ)

●「応募する学生がPCだけでなく、携帯電話やフェイスブックなどさまざまなチャネルを介して接触してくるので学生への連絡や情報公開に苦慮した」金融)

このように採用広報の準備不足、採用スケジュールの読み、新しいメデイアへの対応などが、従来とは違う悩みであり、来年の課題となった。
なかでも新倫理憲章の影響が大きいのが、インターンシップと採用情報の公開時期そして採用活動のスケジュールの3つだ。昨年改定された倫理憲章は、今年も継続となったので、準備は出来る。

特にインターンシップについては、基準が明らかにされているので、その基準に沿って実施するのか、中止するか、あいまいなインターンシップとしてこっそり実施するかの選択となる。後者の例としては、目的が採用であるものや実施期間が1dayや数日間のインターンシップがある。すでに一部の企業では、露骨な採用直結型インターンシップを掲げている企業もあるし、制裁がないことを見越して1dayインターンシップを復活させた企業もある。夏のインターンシップは、間に合わないが、秋、冬というのもある。特に大学が春休みになる2月下旬のインターンシップは、選考や他社からの勧誘を排除するために有効なので企画中の企業も少なくない。この夏の研究テーマだ。

採用情報の12月1日以前の提供方法も迷っている最中だろう。
これは、本来、大学や学生側でしっかり秋からでも業界研究や企業研究をすればよいのだが、どちらも期待は出来ない。そのため企業は、採用活動とみなされない?啓蒙的な業界セミナーを大学やその周辺で9月以降開催することが増えるはずだ。基本は、採用対象大学での講演チャンスの確保だが、数年前から登場したWEBを使ったeラーニング形式で業界知識やケーススタデイを情報提供することも少しずつ増えている。学生と直接、接触できるだけに魅力的だ。今年は、ユーチューブやユーストリームなどの動画や対話型の企業セミナーやグループワークも増える。優秀学生をしっかり絞り込めるだけに現在、製作中の企業も多い。

このほか、ブームとなっているグローバル採用は、いよいよ本格化時代を迎える。これまでは、即戦力となる外国人学生を採用して現地に投入することだったが、最近は、アジアを起点に世界のどこででも活躍できる人材ということで、性別、国籍を問わずに活躍できる人材ということになった。要求される人材要件は、語学力だけでなく、尖った能力、異文化理解力、高い志といったものを求めている。これは、総合職のグローバル化である。そして企業の動きを見ればわかるが、メーカーや金融業界だけでなく、中堅企業、流通業、コンビニ、サービスなど広範な業界がアジア市場目指して事業展開している。新卒採用のグローバル化も今年の大きな課題になるはずだ。

このように来年の採用の課題はいくつもあるが、採用活動の流れは今年と同様だろう。
倫理憲章どおりに採用活動をすすめる企業、少しでも母集団を早く、多く確保したい企業、通年型採用、夏採用中心という企業など採用方針を決めれば、この夏はゆっくりと休めるだろう。


【掲載日:2012年7月31日】

【2012年9月】内定者フォローは、SNS時代に

 13年卒の採用活動は10月1日の内定式をもって終息、いよいよ来年度の採用活動が本格的にスタートした。
 だが、採用担当者にとってはまだやることが残っている。内定者フォローである。

 今年は採用活動が短期集中で、学生も的を絞った就活をしたということで、これまでに比べて学生は志望度の高い就職をしたといわれている。それだけに内定辞退は少ないと見られているが、油断は出来ない。これから入社する4月1日までの半年間、内定者が全員無事に入社式に参加するかどうかは、採用担当者にとって大事な問題である。

◆内定した学生は、夏頃から次のような不安を持ち始める。内定者が抱く3つの赤信号である。

  1. 自分の能力への不安
  2. 会社が見えないという不安
  3. もっと違う選択という不安

 このうち、「自分の能力への不安」というのは、真面目な学生ほど感じているようで、こうした学生は、当初は自分の能力に自信があったが、同じ内定者と交流するうちに他人が優秀に見えて、自信を喪失するタイプだ。
 仲間といえども内定者は、ライバルなので学生たちは、何気なく張り合って、相手の様子を見ているのも事実だ。そうした不安を持つ学生にとっては、会社が内定後、とりたてて研修会も開催せず、月1回程度の懇親会やSNSでの近況報告ぐらいでは、我慢が出来ない。
 
 ここは会社としては、懇親会で内定者が深く交流をすることでさまざまな個性があるのだということを自覚してもらうしかない。
 それにしても、この程度のストレスに耐えられなくては困るが、競争は始まっているという認識は悪くはない。


 これに対して「会社が見えない」という学生は、意欲的で行動的な学生だ。
 内定した後に会社の人間に会い、職場を見てあらためて会社を見たときに想像以上に規模が大きかったり、やることが多いことに気づく。そして内定した会社の業績や社風、仕事の進め方、社内の人間関係など知りたいことがつきない。その上、自分がどの部門に配属されるかも分からないときには、まさに不安だらけといえるだろう。
 就職動機を語り、内定を取り付けたときから時間が経ちすぎたためだが、これは会社と内定者の交流を深め、職場を見てもらうしかない。だが、短い期間での見学では限界がある。
 ここはやはり、基本的な経営戦略を語るトップの発言や企業の動きを継続的に内定者に発信するしかない。


 三番目にあげた「もっと違う選択」というのも内定学生に入社直前までまとわりつく不安であり悩みだ。
 他社からの誘惑、公務員試験への転進、資格試験浪人、海外留学、大学院と魅力的な選択肢がいくつもある。だが、こうした選択肢は、時期と時間の経過によって選択の幅が急速に狭まり、年末には決着がつく。
 
 最近は、資格試験や海外留学も帰国後の就職難が知られてきたので、夢のような飛躍という対象ではなく、これからは就職後のキャリア形成として目標化する学生が増えてきた。これは、真面目で優秀な学生ほど未練を断ち切っていないので入社後も要注意だ。
 対策としては、仕事の魅力や社会貢献、キャリア形成のチャンスを広い視野から内定者に理解してもらうような先輩社員との懇親会が説得力があるだろう。


◆このような不安を持つ内定者に対して企業は、どのようにフォローしているのだろうか。ある就職情報会社の調査では、以下の順だった。

  1. 内定者中心の懇親会 
  2. 内定者コミュニテイ(SNSなど)
  3. 社員との懇親会
  4. 社内報など資料送付
  5. 電話・メールでの定期連絡
  6. eラーニング
  7. 近況報告の提出

 どこの企業も目を剥くようなプログラムはない。
 内定者とは、緩やかな関係を持続することが基本で、かつてのような入社前教育ということでマナーや手紙作成、業界知識を教育する企業は少なくなった。学生に学生生活を楽しめるように配慮しているようだ。
 語学やパソコン、会計の技能取得を目的とするEラーニングも思った以上に少ない。その多くが希望者に便宜を与える程度。意欲的な内定者は、TOEICなどは自分から学習し、スコアをあげているようだ。内定者の情報交換や懇親をはかる内定者コミュニテイは、8割の企業が導入しているが、いまでは、学生相互が人事部抜きで個人レベルでフェイスブックやツイッターを開設、緊密に自主的に活用している。
 
 先の3つの不安も実は、こうした内定者による自主的なコミュニテイでフランクに語られ、自主的に解決しているようだ。ネット時代の若者の良さはこんな面にも出ている。信頼してよいのかもしれない。
 それでも来年の3月末まで油断は禁物だ。

【掲載日:2012年9月28日】

【2012年11月】会社説明会スタート

 12月1日、2014年卒の採用活動がスタートした。

 大手の就職サイトが次々とオープンした現在、就職を希望する学生は、連日プレエントリーしている最中だ。今年の学生は出足が鈍いといわれていたが、さすがに10月になってからは、ガイダンスや就職対策講座への参加率は高まり、急速な盛り上がりを見せている。


◆12月1日は、就職サイトの解禁日だが、同時に企業による会社説明会も解禁となる。企業と学生がリアルに接触し、企業は社員からトップまでが、事業内容や仕事の面白さ・やりがい・社風などをそれぞれ熱っぽく語って、応募を呼びかける。学生の心をつかむ採用活動として最も大事なものである。

 この会社説明会が数年前とは違ってきた。
 これまで学生は、まず就職サイトで企業研究をすることでエントリー、その上で学外の合同説明会に参加、時々学内の会社説明会に足を運ぶ、というのが普通だった。

 しかし、最近は、まず大学内で開催される会社説明会に参加して、その中から興味を持った会社に直接エントリーするというパターンになった。大学内での会社説明会が急増したことと早期から一斉に開催されるようになったからだ。これによって就活がインターネットやイベント会場から始まるのでなく、学内の会社説明会から始まることになったのである。


◆学内説明会の普及は、企業の採用行動にも変化をもたらした。
 採用ターゲットの明確化である。これまでの合同説明会やオープン型の説明会では、参加大学生の特定はできなかったが、学内説明会では、大学(学部)特定だから、重点大学や敬遠大学などを遠慮なく選別できる。しかも大学側が学生を集め、場所を提供、その上無料というのだから学内説明会は最も効率的な採用手法といえよう。
 いまや採用担当者の仕事は採用対象大学の説明会枠をとることになった。

◆一方、学内説明会は大学が企画し、学内で開催するので招聘する企業を選別できる。学生に就職させたい企業、卒業生のいる企業、無名だが将来性のある企業などという基準を設けて、企業を選別できる。だから大学にとっても好都合な就職イベントだ。今年も伝統と就職実績のある大手私大は、3月末まで200社前後の企業を招き、学内説明会を連日開催する。

 この動きの中で国立大学とくに旧帝大や一橋、神戸大学の動きは見逃せない。学内説明会が極めて活発で120社前後だが大手企業が勢ぞろいだ。とくに東大や京大は、大学当局だけでなく、学部団体主催・生協・外部団体などが、開催している。

◆これらの学内説明会と平行して12月中旬から開催されるのが、学外で開催される合同説明会である。
これは、就職情報会社が主催となるもので、数百社を幕張メッセなどの大会場に数万人の学生を集めるものだ。壮大なイベントだが、学内説明会の普及とともに参加企業数が減少傾向なのも仕方あるまい。

◆会社説明会について、今年は少し違った動きが出てきそうだ。
 学生が本気で志望しているのかどうかを会社説明会に継続的に参加しているかで見極めるという動きが鮮明になってきた。昨年の場合だが、多くの金融機関では、面接で説明会への参加状況を確認したり、感想を聞いたりしている。
 これを一歩進めたのが、電子機器メーカーで、今年は「説明会コース」というのを設置する予定だ。そのステップは、12月から1月までの説明会に3回出席すれば、本気で志望しているのだということで、一般応募の「オープンコース」とは別のエントリーシートを3月に提出させ、面接を経て内定を出すという。本気で就職したい学生にとっては、利用価値のあるものであるし、企業も効率的だろう。


◆最後に今後の展望をしておこう。
 これからの採用活動は、12月から1月中旬が学内の企業説明会、合同説明会が集中し、1月中旬からは、企業主催の個別企業説明会、2月にエントリーシートが締め切られ、リクルーター面接、3月から質問会、懇親会、インターンシップ、4月より内定出し、という流れになるだろう。金融や通信の大手は、昨年以上にリクルーター面接が活発に行われ、3月中旬までには、内定を出せるところまで進めているはずだ。

 全体に前倒しで、グローバル職や総合職の一部については、3月末の内定も予想される。


【掲載日:2012年11月30日】

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。