採用現場ニュース2010(2010年の記事)

【2010年1月】 学校歴で優秀人材は選べない

1. 学生の動きは活発

年明けの現在、大学の就職ガイダンスをはじめ企業の説明会や面接会場は、熱心な学生で大混雑である。採用担当者は、日々到着する膨大な数のエントリーシートの審査や面接の手配に大忙しだが、今年は、意外なことにセミナーや面接のキャンセルが多いという。しかし、これは、学生の立場からすると、当然だろう。就職環境の悪化ということで未就職になることへの不安から学生の就活が過熱、募集活動をしている企業には、軒並み応募、企業研究は、説明会参加の後に考えるというスタンスだからだ。ある調査によると学生の平均エントリー数は、すでに64社を超えているが、セミナー参加社数は、平均5社程度にとどまっている。この数字の低さは、開催会社が少ないことと開催日に学生が集中して「締めだされている」いるからといわれている。

2. 一部の大学に企業が集中

その動きと並行して特定大学周辺のホテルやレストラン、ホールでは、特定大学生対象の少人数説明会が急増している。この動きは、奇妙なことのように思えるが、前回指摘したように今年の採用キーワードが「厳選採用」であり「優秀学生の囲い込み」ということを思い起こしてもらえれば、納得できよう。ピンポイント型の採用ということなので、企業の採用活動は、特定大学の学生を徹底マークことになる。とくにメガバンクや大手通信会社は、今年初めて特定大学向けの少数説明会をキャンパス周辺で頻繁に開催している。だが、その途中経過は、芳しいものではない。どうも特定大学には、期待する優秀人材がいないようなのである。これまで特定大学には、一定の確率で優秀人材がいたのだが、その確率が年々低下しているという。学生の質が落ちてきている。その原因は、優秀大学の優秀人材が民間企業に就職しようとしなくなったことがあげられる。例えば、一橋大学では、3割が就職しないで大学院進学や海外留学、自由業を目指す傾向になっている。

3. 優秀大学でも問題はある

特定大学に期待する優秀人材がいないという理由のもうひとつは、学生の質が均一ではなくなったことである。同じ大学内での学生の格差が拡大している。どこの大学でも優秀な学生が2割、まあまあというのが6割、ダメなのが2割というのがこれまでの常識だったが、最近は、2割の優秀学生はいるものの残り6割は、どうしてこんな学生が、この大学にいるのかというぐらいにレベルが低い。その背景には、大学教育の内容に問題があるが、有名私立大学に見られるような入学経路の多様化がある。つまり付属高校の乱立や推薦入学、一芸入学など無試験組みが増加してきたからだ。これまでのような偏差値で担保された大学ブランドによるスクリーニング機能が失われてきたのである。そのため今年の採用では、本当に優秀かどうか、大学名だけでなく、企業が採用基準を設定し、実際に面接や試験をして人材を見極めなくてはならなくなったのである。昨年の採用試験では、知的能力や地頭力、就業能力を見る試験が急増したのもそのあらわれだ。本当に優秀な人材をリアルに見出す動きだろう。その意味では、有名大学から有名企業への就職という流れは、崩壊しつつある。

4. 企業が求める真に優秀な学生

これからの採用活動は、当面、優秀な総合職の早期確保が中心になる。そのため一般職に対しては、手間隙を惜しみ、エントリーで書類選考後、WEBの能力検査でふるい落とし、採用担当者は、選別された学生とだけ顔を合わせる。これは、大学名に関係なく、優秀でなければ、いくら熱心に会社訪問してもエントリーシートが通過しなければ、試験も受けられず、面接までたどり着かない。それが、3割の未就職者になるのだろう。その一方、優秀人材は、質問会、懇親会、グループワークを頻繁に実施することで順次、選別され、1月下旬に採用予定者数の3倍程度に絞り込まれる。その後は、社内の幹部クラスによる面接を経て、4月上旬に人事部門の最終面接を経て内定。採用活動を4月中旬に終えることになる。

よくいわれることに「不況期の人材は、優秀だ」という教訓がある。当然だろう。念入りに選ばれた人材であるうえ、入社後も数少ない若手社員であるだけにポストも多くあり、全社的に育てていこうというなかで大事にされるからだ。

そんな生き残りと企業再生という期待があるからこそ、優秀人材にかける今年の企業の意気込みは、従来に増して旺盛だ。

(2010.1.20)

【2010年3月】 中国の就職事情は、深刻だ

世界的な不況下においても成長を続ける中国だが、大学生の就職問題はどうか。最近になって大変に厳しい状況になっていることが度々報道されているが、日本とどこが違うのか、有効な雇用対策はあるのか、昨年秋、中国の労働問題を取材してきたので新卒関係の最新事情について報告しよう。

1. 大卒者は、年600万人

中国の大学生は、「高考」(センター試験)を突破して、重点大学(有名大学)に入学、優秀な学生は、さらにキャリアを磨くために海外に行き、数年~数十年後に帰国する(海亀族)。残留組は、一家の誇りと期待を担って、高賃金の外資系金融機関あるいは安定性と利権にありつける公務員、国営企業に就職することが目標だという(これらの就職先は、倒産しないので「鉄腕飯」という)。新規大卒労働市場の規模は、03年は、212万人だったが09年は、610万人に急膨張、教育部(文部省)は、就職率7割というが誰も信じていない。

2. 急速に進んだ高学歴化

では、就職できない学生は、どうしているか。意欲ある学生は、卒業後は、「求職宿」に起居して就職浪人、お互いに情報交換しながら就活一筋。チャンスをうかがう。ここが新卒一括採用の日本と違うところだ。その一方、卒業もせず、大学に頼りきり「頼校族」となって学校を卒業しない学生もいる。一人っ子政策で過保護に甘んじた学生が多いからだ。こうした未就職大卒者たちが生まれる背景には、急速な高学歴化が、職業構造の成熟テンポを追い越してしまったことがある。それに学生たちの職業観の変化も激しく、就職動機が「安定性」「賃金・賞与」「キャリア形成に有利」ということで地味な製造業や販売分野への就職が年々敬遠されるようになったこともあげられる。

3. 魅力のない雇用対策

こうした大学生の就職問題は、2千万人が失業中といわれる農民工の格差問題よりはるかに深刻のようだ。北京の日本大使館、中華全国総工会、大学、企業の誰に聞いても大学生の就職問題が当面の重要な政策課題だと指摘していた。この問題は、就職にとどまらず、天安門事件や少数民族問題に見るように治安問題に発展することがあるからだという。

現在、中国政府が進める大学生の就職対策とは、下記の3つだという。
(1)経済発展している沿岸部より人手不足の内陸部の企業に目をむけさせ就職を促進する
(2)大学生には、就職だけでなく、自ら起業して就職先を作ることを支援する
(3)就職だけでなく、農業従事や軍隊に入ることを推進する

こうした雇用政策はわが国と共通するものがあるが、今の中国の学生には、あまり受け入れられていない。実際、企業規模や地域による賃金格差は、大きく、キャリア形成や転職のチャンスが少ないとあっては、誰も内陸部や地味な企業、業界には就職しようとしないのである。このように就職難が深刻化する一方、企業による優秀人材の青田買いも進行していた。かつて鄧小平氏が提唱した先富論(先に豊かになれる人から豊かになろう)が定着しているのだろうか。この先富論こそ成長競争を激化させている。だから、学校教育に弊害を及ぼす青田買いを非難する声はまるで聞かれなかった。

4. 経済成長と高学歴化のバランスがとれるかどうかが鍵

人気の旅行会社、マスコミ、銀行などは、エントリーシートが5万通に達するところもあった。こうしたこうした動きの中で、今後、中国の大学生の就職問題は、どうなるのか。当面は、膨大な中高年層との世代交代で吸収できるというのが政府当局の見解だが、経済の発展とともに産業構造は高度化し、職種は多彩化、雇用形態も多様化するだろう。これらが高学歴化よりスピードをもって大規模に拡大することが要求されよう。しかし、ここ数年は、世界経済の状況や中国経済への危惧もあるから、その前途は多難であり、容易ではないだろう。

(2010.03.09)

【2010年5月】 大手企業の採用活動はヤマを越えた

1. 今年も例年どおりで進んでいる

史上最悪の経営環境の下でスタートした採用戦線2010だが、採用活動の早期化は相変わらずで、今年も4月になった途端、メガバンクは一斉に人事面接を開始、短期間に面接を5回以上実施して4月上旬から内定を出し始めた。メガバンクに負けじとばかりに、人気の大手証券、保険も4月上旬から中旬まで綿密な面接や選考試験を繰り返し、相当数の内定を出した模様だ。4月中旬となると内定を出す企業が急増、食品や繊維、総合化学などのトップメーカー、総合商社、大手金融機関、運輸の内定が集中した。さらに4月下旬には自動車、総合電機、通信など大手企業から多くの内定が出された。当初、経営環境が厳しいことから採用計画が3割減となったため、企業の採用活動が後退するのではないかとみられていたが、ふたを開けてみれば、例年のように4月1日から本格スタートし、主要企業の採用活動は1か月で山を越した。5月中旬からは準大手企業や中堅企業が、こちらも例年同様に採用活動のピークを迎え、5月末で今年の採用活動に決着がつく。

2. 技術系を中心に分散型採用が増化

このように、超就職氷河期といわれる今年でも、全体として採用活動のテンポは従来どおりのようにみえる。しかし仔細にみると、今年なりの変化はあった。

一つ目が、大手企業の総合職採用においても4月末で完全に終了したわけではないということ。メガバンク、保険、総合商社といった人気企業において1割程度の採用枠が残っているという。今後の景気動向への配慮か、もしくは内定辞退者の補充枠か、そのいずれかといわれているが、ライバル企業にとっては気がかりな動きである。

二つ目として、大手メーカーや金融機関は、コース・職種別に内定のスケジュールがそれぞれ異なってきたということだ。かつては、企業別に採用日が特定され、全職種がほぼ同時期に内定を出し、採用活動が一斉に終了した。それが、バラバラになったのである。とくに大手メーカーの半数近くは、大量採用する技術系の採用活動が4月以降になったが、一気に内定を出すのでなく、4月、5月、6月と数回に分けて分散採用することになった。そのため採用人数の少ない事務系が、早期である4月に決着することになる。これは、大手の金融機関にもみられる現象で、総合職は4月、準総合職は5月、一般職は6月に内定といったスケジュールが定着しつつある。これらの背景として、大手メーカーの場合は、選考(専門学力の判定)に時間をかけるようになったこと、大学側との申し合わせ(採用活動は4月以降という申し入れ)が存在していることがあげられ、大手金融機関の場合は、準総合職の採用人数の不安定性(景気動向次第で採用人数を決める)があげられる。

三つ目に採用計画の頻繁な修正があげられる。これは、企業の採用計画が入社する1年半前に決定されるという新卒採用の宿命とはいえ、安定した経営環境のときにはよいが、半年先が読めない時代では採用数が確定しない。まさに今年がそうである。採用活動をしている最中に合併や再編、事業売却などが行なわれ、その度に採用計画が見直されることになる。しかし、新卒採用は1年以上前からスタートしないと採用できないから、見切り発車となる。だから途中で事業が撤退となれば採用中止となるし、内定も取り消しとなる。逆に経営環境が上向けば採用も意欲的になる。そうした採用計画の上方修正が頻繁にみられたのが、今年の採用活動の特徴である。

3. これからは、内定辞退が増える

採用活動が山を越したといっても、実際には企業の採用活動や学生の就活が終わったわけではない。多くの企業は今年の採用は応募者が多く、例年よりも優秀な人材がたくさん採用できたと大いに満足しているところだろう。ところが昨年来、学生たちの内定は「とりあえず」「仕方なく」「ここしかなかった」というもので、ある調査では内定をもらった学生の25%が、5月末まで「就活を終了しない」という結果が報告されている。まだ大手企業の1割が採用を終了していないうえに、採用を復活する企業も増える見込みだ。そうなると、これまでになく優秀な学生を採用できたと安心している企業こそ要警戒だ。今後、そのような企業はライバル企業の動向に注目しながら、内定者をフォローすることが重要となる。

(2010.5.11)

【2010年7月】 採用選考に異変、学力試験が増加

1. 応募者数は増加するが、学生の質に不満

今年の採用活動もほぼ終了した。超就職難ということで、企業は一段と買い手市場の採用活動となったが、その結果に大満足かといえば、否である。人気食品メーカーの採用担当者は、「応募者数はこれまでになく増加したが、採用ターゲットでない質の低い学生ばかりで、選考に多くのロスが出た」という。そのため同社では、誰でもエントリーできるシステムを見直し、面接の前に作文やミニテストを課して、応募者を早期に絞り込んだ。このように今年は「応募者の人数には満足だが、応募者の質には不満」というのが企業の共通した総括であり、多すぎる応募者への対策、能力・基礎学力検査の必要性、採用選考プロセスの見直しが新たな課題となった。

2. 採用PR(採用広報)の姿勢が問われる時代に

早期からのエントリー数が、今年は昨年以上に多く、かつてないほどだったという。学生の側からすれば超就職難の時代で、求人している企業に就職サイトを利用すれば、誰でもエントリーできるからエントリーする。そのため今年の学生のエントリー数は、女子学生で100社、男子学生で80社が平均となった。話題性のある商品や技術を持つ企業だと、どこでも3万人前後の応募者があったという。しかし、企業にとって誤算だったのは、採用ターゲットでない学生の応募が想像以上に多かったということだ。これは、企業の採用PR(採用広報)に対する姿勢が曖昧だったからである。企業が求める人材を一般的な表現、例えば「求む」「挑戦的な人材」「自分の夢を持っている人材」などと表現するだけは、誰もがその気になるし、エントリーする。

3. ハードな(断固たる)採用方針で、企業・学生ともに効率化

これに対して応募者の多さより、ターゲットとする学生像を明確にして、ハードな(断固たる)採用方針を明確にした企業は、効率よく採用することができた。応募しなかった学生の評判も良かった。このハードな採用方針とは、次の3つである。

(1)採用PRにおいて仕事の楽しさだけでなく厳しさも紹介していた。有名食品会社は、入社して5年間は、全員が営業に配属されることをホームページ、募集要項、会社説明会で強調していた。洗練された商品イメージだけで応募することを拒否、もっと泥臭い会社であることをアピールしていた。
(2)関心を持つ学生(イベントやインターンシップ参加者)を特定して、企業に対する思い入れを重視。こうして企業研究を重ねてきた学生に対して優先順位を与え、積極的にアプローチ、説明会を実施した。
(3)プレエントリーから本エントリーに切り替わるときに、エントリーシートを工夫した。短文をいくつか書かせたり、多くの設問を課したりと、エントリーシートのバーを高くしたのである。本気の応募者、一定水準以上のレベルの学生を早期に発見しようというアプローチである。

4. 面接前の筆記試験が急増

その結果、今年は、面接前の筆記試験(作文・小論文、教養試験)が急増した。これは、エントリー数が多かったからではない。大学生の学力低下への不安である。専門商社の人事課長は、「高偏差値大学でもゆとり教育や少子高齢化の影響なのか、基礎能力が不足している学生が多く存在する。大学の銘柄が通用しなくなったので、個々に学力や能力を見分けていくことが重要になってきた」。同様に金融サービスの採用担当者も「面接での受け答えはソツがなく、立派なのだが、作文を書かせると白紙状態で誤字脱字。とても社員として採用できない」と嘆く。

5. 来年度も筆記試験が増加する見込み

理工系学生についてはもっと深刻で、大手ゼネコンの採用担当者は「建築学科で、物理や構造についての基礎学力が貧弱なのが怖い」と指摘している。この基礎学力とは、文部科学省がいう学士力どころか、大学入試レベルの学力ということだった。どうも大卒にふさわしくない大学生が激増中で、エントリー段階でのセレクションが必要になったようである。企業は、新聞を読んでいるのか、まともな文章が書けるのか、大学生にふさわしい教養があるのかを学生に要求するだけである。大学生の学力への不信はおさまらず、現在、企業が立案中の来年の採用方針では、エントリーシート提出前に、一定水準以上の大学生をセレクションするための筆記試験が増加する見込みだ。常識不足、批判力脆弱、貧弱な国語力といった学生の増大に、企業は筆記試験の復活で、大学や大学生に基礎学力の必要性を警告するしかないようだ。

(2010.7.12)

【2010年9月】 企業に求められる採用姿勢とは?

1. 問われる採用姿勢

超就職氷河期といわれた2010年採用もほぼ終わった。今年は、圧倒的な買い手市場(企業側優位)の就職戦線と受け止められ、粗っぽい採用活動の年だった。それだけに就活を終えた学生の側からは、企業の高圧的な採用活動や採用姿勢に対する批判の声が例年以上に聞かれることになった。首都圏の大学生から聞いた企業批判の声を紹介しよう。

◎学生の声1

「面接官が一切メモを取ろうとせず、こちらの返答に対しては、揚げ足を取る質問やネガティブな発言ばかりだった。面接中に携帯を見ている面接官もいた」


面接者のマナーが、お粗末という事例。これは、毎年、学生から多く聞かれる批判である。面接官も急遽、駆り出されたので不慣れだったのだろうが、それではすまされない。ここは、面接官の研修をして欲しい。評価方法だけでなく、応募者の目を見る、質問をする、メモを取る、携帯電話などをいじらない、など大学生並みの面接マナーをあらためて研修しなくてはならない。

◎学生の声2

「会社のことをよく知らないらしく、説明が抽象的で仕事の面白さが伝わらない。話を聞くほどに仕事ができそうにないタイプで、こんな会社では働きたくないと思ってしまった」


これは、採用担当者がミスキャストの例。やはり社員としても優秀な人材を採用担当者や面接官に起用しなくてはならない。

◎学生の声3

「もっと採用計画や選考プロセスに関する情報をオープンにして欲しい。面接になっても採用計画未定のままで、どうなるのかと心配でした。それまで説明会に参加したのですが、試験はいつごろで、最終面接はいつなのか、明らかにされず、最初から暗中模索でした」


不況の先行きが見えない今年の状況では仕方ない面もあるが、学生が採用中止になるのではとか、不安になるのも当然だろう。採用計画、選考スケジュール、面接回数、筆記試験の種類(教養とか性格検査、論文など)を随時、明示して選考を進めるのが望ましい。

◎学生の声4

「いろいろな人に会わせるといって8回も社員に会いましたが、いつも内定寸前だといいながら結論は持越しでした。人の気持ちをもてあそんでいる姿勢に腹が立ち、他の企業に就職しました」


金融機関に多い選考方法で、リクルーター面接、人事面接ということで8回以上面談する。時期も4月から5月末までとあって、学生にとっては、他社に応募できなくなる。しかも、不合格になれば就職浪人になるということで、多くの学生(特に女子学生)から悲鳴が上がっている。

◎学生の声5

「第一志望の会社の面接後、改めて連絡をするといわれたが、2週間放置されました。人事に問い合わせましたが、「メールします」とだけ言われ、届いたメールも「後日連絡します」とのこと。その後も対応が遅く、お風呂に入っていても携帯が手を放せない毎日でした(笑)」


多くの応募者を選考し、面接の段取りに手間取ると、このようなことも起こる。しかし、学生は必死なので動きが取れなくなる。ここは、おおまかな内定予定日をメールで示唆するしかない。とにかく「選考中」でもよいから定期的に連絡することだろう。

◎学生の声6

「DVDを見せるだけの説明会や面接のたびに何回も呼び出され、交通費も出ない。その間、食事もしなくてはならない。地方の学生は、応募するなということなのだろうか」


ささやかな問題のように見えるが学生にとっては、深刻。オープン型のセミナーや説明会では、交通費を払わないが、二次面接や懇談会は、どうだろうか。交通費を払うのは会社都合で呼び出したときという採用慣習が、どこまで徹底しているか。最近は、大学が郊外にあることで多くの学生は、郊外に住んでいる。そうなると都心に出てくる学生の交通費や外食費は、相当な負担だ。もちろん、地方の大学生にとっては、企業の地方説明会が少なくなっただけに負担はさらに大きい。就活中は、アルバイトもできないから、結局、親に出してもらうことになる。今後、企業は、学生の立場に立って交通費を考えるべきだろう。

このように学生からの批判や不満は具体的でもっともな点が多い。秋からの採用活動スタートにあたって、企業は、採用活動の留意点として上記の改善に取り組んでほしい。

(2010.9.8)

【2010年11月】 内定者を登場させるセミナーが増加中

1. 内定者を登場させるセミナーが増加中

景気の先行きが見えない中で来年の採用活動がスタートした。企業の採用意欲は、冷え込んだままで、来年1-3月期の業績を見たうえで判断しようという慎重な企業が多い。そうしたなかで採用計画を見切り発車した企業は、10月の合同説明会から個別の会社説明会に採用活動の重点を移しながら、採用活動を本格化させつつある。こうした会社説明会のなかで最近増えてきたのが「内定学生による就職活動支援セミナー」である。

例えば大手の保険会社は、9月下旬から11月までの長期間にわたって内定者主催という形式で就活セミナーを開催した。会場は、東京、大阪、名古屋、福岡など全国6会場で各回、学生を100人程度集めて連日開催していた。参加した内定者は20人前後、内容は就職ハウツーのスライド上映、内定者によるパネルデイスカッション、内定者とのフリートークなどだ。同様に別の保険会社では、全国6 都市で「内定者主催セミナー」を開催した。内容は、内定者が就活の体験を報告するだけでなく、保険の役割についてPR、内定者が親身になって採用のお手伝いをするというもの。このほか、総合商社の1dayインターンシップにも内定者が登場していた。こちらはグループワークで、内定者と学生が意見交換するものだった。ほかに銀行の「就活みちしるべ」というセミナーもあった。内容は、自己分析のワークショップ、内定者・人事と学生との小人数懇談会だった。

2. 内定者を活用する背景

このように「内定者主催セミナー」は大流行なのである。内定者を活用する背景には、次の3つの理由がある。

  1. 就活支援には、学生目線で就活や企業の魅力を語るほうが説得力がある
  2. 内定者対策として内定者のロイヤリテイを高める効果が大きい
  3. 自社企画なのでプログラムに柔軟性があり、費用が安く上がる

などが期待されるからだろう。

有名企業の就職に成功した学生に体験を語らせるという手法は、誰にも分かりやすく、苦労話にもリアリテイがあって学生の人気は高い。大学でも就職ガイダンスなどで有名企業に内定した学生に報告会への参加を求めているが、それとはまったく性格が異なる。大学内で4年生が後輩に年1回か2回、就活の体験談をすることは大いに結構だ。どのようにして内定先の企業を選んだのか、就活への不安や会社選びのプロセスなど、就活の体験が中心だからだ。内定した企業が第一志望でなかったことも語られよう。学生同士ということで同じ立場で不安や期待も率直に語れよう。気が進まなければ辞退することも許される。それに会場も毎日通学しているキャンパスだ。大学生活への支障はない。ところが、内定した企業主催の就活支援セミナーや体験談の報告会はどうだろう。上記の例にもあるとおり、日程、会場、内容のどの面をとっても問題ありだ。来年からは社員だが、まだ学生である。自己都合で参加を辞退することは容易ではない。それに内定した企業の本当の姿はまったく知らない。だから良い会社かどうか分からない。後輩に自信を持って薦められるだろうか。にもかかわらず、わが社の魅力を1年後輩の学生に語ることになる。

企業は採用活動の早期化で、大学3年生の生活や教育を相当侵食している。そして内定が出てホッとした学生がキャンパスに戻る時期がきたと思った途端、再び企業の内定者と学生の懇談会に呼び出される。どうやら企業は大学生に対して、3年生から卒業するまで学生生活を楽しませてくれそうにないようだ。

(2010.11.15)

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。