
昨年秋の米国発金融危機は全世界規模に拡大、わが国にも直ちに波及した。銀行、証券、保険、メーカーでは、合併、経営統合、雇用調整が始まり、新卒採用にも影響が出始めている。すでに2009年採用は前半戦を終え、企業セミナーの最盛期を迎えたが、採用内定のピークが昨年同様とすれば、残された期間はあと6ヶ月。後半戦のスタートにあたって2008年夏から2009年1月までの企業の採用、学生の就活を振り返りながら、これからの採用活動の課題を探ってみよう。
昨年秋の米国発金融危機は全世界規模に拡大、わが国にも直ちに波及した。銀行、証券、保険、メーカーでは、合併、経営統合、雇用調整が始まり、新卒採用にも影響が出始めている。すでに2009年採用は前半戦を終え、企業セミナーの最盛期を迎えたが、採用内定のピークが昨年同様とすれば、残された期間はあと6ヶ月。後半戦のスタートにあたって2008年夏から2009年1月までの企業の採用、学生の就活を振り返りながら、これからの採用活動の課題を探ってみよう。
昨年6月にスタートした企業の採用活動は、相変わらずの採用ブームの雰囲気で、学生の就職意識にも売り手市場というムードが漂っていた。しかし、この就職環境が逆転した。きっかけは9月15日の米大手証券リーマンブラザーズの経営破たん。米金融危機の影響は一気に実体経済に及び、わが国でも業績悪化の懸念から雇用調整が始まった。
昨年11月に発表されたワークス研究所の予測では、2010年春入社予定者の採用見通しについては、16%減となった。大手企業は安定採用を継続するというものの、中堅・中小企業は、採用そのものが未定という企業が多い状況となった。まさに見通し不明のなかでの採用活動となったが、大手企業の採用計画をみると、実際には「昨年並み」という企業が過半数を占め、採用PRや採用活動も従来どおりという企業が多い。話題になっている内定取り消し企業を見ても、建設、不動産、サービス業界の中堅・中小企業に限定されている。
ただ、これらの企業が脱落しても、急成長産業や中堅・中小企業の採用難がけっして解消されたわけではない。むしろ学生が企業の選定に慎重になり、親の意見が強くなることを警戒したほうがよい。大手企業は、厳選採用の姿勢を一層強めるだけに、準大手企業や中堅企業にとって優秀人材の採用は、さらに難しくなる年といえよう。
採用活動がスタートした当時は、求人ブームの継続によって採用PRの早期化に走った企業が多かった。この早期化を担った企画がインターンシップ。実施時期は夏休みだが、その説明会が6月から全国各地で開催された。説明会の内容は、会社の事業活動であり、若手社員による仕事内容の説明である。対象となる学生は大学3年生であるだけに、目的は明白。そして夏休み。インターンシップが開催されたが、長期間で就業体験的なものは少なく、大半が半日か1日という1Dayインターンシップだった。特に学生の人気が高い総合商社や銀行、保険が数百人規模の1Dayインターンシップを実施したので、学生の就活への影響は大きかった。このように企業の採用活動は、従来に増して早い時期から開始され、就職関連イベントが進行していたのである。
採用活動の早い動き、過熱ぶりに水をさしたのが秋からの金融危機。そのなかで採用内定取り消しも相次いだ。
この時期は就職ナビがオープンし、学内セミナーや就職イベント、企業セミナーの最盛期でもあった。それだけに従来に増して多くの学生がナビに登録し、学内の就職イベントに参加し、企業にエントリーした。
不況到来のなかでの就職活動は、「安定性志向」に結びつく。不況に強い、財務体質が良い、財閥系、大企業といったキーワードにこだわる傾向も見え始めた。大学での就職セミナーでも「不況に強い企業の見分け方」が急増。そのうえ、今年の大学生は「ゆとり世代」。豊かな時代の子供であり、自己成長とかキャリアといったキーワードに魅力を持つといわれている。したがって安易に派遣切りや雇用調整をするメーカーを敬遠する。もちろん規模が小さく、経営不安定な中小企業には目もくれない。学生たちは、これまで以上に大手有名企業に殺到することが予想される。人事担当者にとっては、優秀人材の確保に熾烈な競争を強いられることになりそうだ。
では、これから半年、採用活動をどうするか。
1月の採用活動は、これまでのセミナー参加者やエントリー者など母集団を分析し、順次、面接を実施して選考するのが基本である。異色人材を見落とすことなく人物を見極めたいという場合は、まず面接から入るとよいが、リクルーターを派遣してじっくり人物観察をする方法もある。一般的な流れとしては、応募者にエントリーシートを提出させて、書類選考、筆記テスト実施、その後順次面接に入る。
エントリーシートの提出締切日は、2月の中旬というのが大手企業のスケジュールである。この締め切り時期の設定には、応募状況と大手企業の内定ピーク時期の予測が前提となる。今の時期の選考ということでいえば、面接や書類審査ではなく、より対面型で選考する若手社員との懇親会も学生には好評だ。リラックスしたなかでの懇親会や質問会は、お互いの波長が合えばベストの予備選考となる。
また、この時期に考えておきたいのが、最終選考の方法をどうするかということである。面接だけで採否を決めるという企業もあるが、やはりパーソナリティや教養、常識などのテストをするのが基本であろう。バブル期に、きちんとした能力テストをせず採用した苦い経験を思い返してほしい。
採用担当者には、面接だけでなく、時間と費用をかけてよい人材を発見する工夫がほしい。こうした不況期こそ優秀人材が採用できる。そのためにも、人材の採用にはより丁寧さが必要であろう。
(2009.1.9)
社会人基礎力という言葉をご存知だろうか。
言葉は知っていても、内容まで知っている人は少ないだろう。
これは、経済産業省が2006年に発表したものだ。企業にとっては、業界や企業規模にかかわりなく、人材の基礎的な能力要素が共通していることに着目し、求める社会人の基礎力として集約したものである。
たしかに企業の求める人材をみると、「自ら考え、行動できる、独創的で豊かな発想力」、「国際的に通用する専門能力、ネットワーク力、提案力、問題解決能力、課題発見力」、「目標を持ち、実行できる意思と行動力」などが挙げられる。求める人材は各社違っているように見えるが、根底では共通している。そこで、産業界、大学そして行政が共通の場で議論し、基礎的な人材の能力要件を決め、人材養成プログラムとして具体的に開発することになった。これが、経済産業省の「社会人基礎力に関する研究会」の成果だった(詳細はこちらを参照)。
その研究会では、社会人の基礎能力を3つの分野(前に踏み出す力、チームで働く力、考えぬく力)に区分、これを12の基礎能力(実行力、課題発見力、計画力など)に分解して発表している。企業にとっての基礎人材を定めるにあたって、性格や知識的なものでなく行動特性(コンピテンシー)に着目したことに特徴がある。
それから3年、社会人基礎力を人材評価基準として位置づけると宣言する企業も増え、大学における社会人基礎力プログラムに取り組む大学も増えた。その背後には学生の就職対策、大学のイメージアップ、教員・職員によるキャリア教育の具体化などの動機があり、特に中堅、新興大学では、積極的に取り組まれている。その結果、学生の人気も上昇し大学が活性化したという報告もある。
その成果は、今年も「社会人育成グランプリ」というイベントで公開される。すでに小樽商科大 、大阪工大、奈良佐保短大、日本文理大、愛知学泉大など9大学が、3月にグランプリをかけて競うことになったのも話題となっている。ここでは、学生たちが、大学の授業を通じて「どのような課題に取り組み、どのように解決し、成長したか」を発表する。この教育手法は、PBL(project based learning)という学習方式である。企業の課題などについて、解決策をチームで検討していくプロジェクト型の授業である。授業の中で学生は、課題の目的を明確にし、必要な調査やヒアリングを行い、お互いに議論し、発表することになる。そしてこの課題解決の中で前に踏み出す力、チームで働く力、考えぬく力を成長させるというわけだ。
ところで、このプログラムは若者、特に大学生の社会人基礎力の養成である。なぜ、経産省が大学教育に関わるのか。
本来、教育による人材育成は、文部科学省の仕事である。また人材というのは、産業界だけでなく社会のあらゆる分野に関わっているはずだ。しかし現在、その対象が社会人といっても特に経済界へシフトしている。文部科学省の高等教育政策への介入といえるかもしれない。ここには「産業界の将来を担う人材を、大学はしっかり育成しているのか」というような、教育に対する経産省や経済界の不信もあるようだ。
新卒の採用選考の場面では、大学生の学力不足、モチベーションの低さ、コミュニケーション能力の貧弱さが深刻になっている。しかも最近の報道では、大学の4割が無試験入学という。こうして入学してきた学生を、大学はどれだけ鍛えられるのだろうか。まさに大学自体が不安と焦りを抱くことになった。そこに経産省の実践的なプログラムが提案されたので、大学が飛びついたのだろう。
そんな動きに反発してか、中教審は、大学生の「学士力」を測定すると提言している。ただ、無試験入学者がますます増加する現状では、それも難しい。「学士力」のない大学生が続出しそうだからだ。
学生を鍛えることに自信のある大学は、社会人基礎力プログラムを無視して独自の人材育成を目指しているが、多くの大学は、経産省の教育プログラムに準拠して、産業界のための基礎的な人材を供給することになりそうだ。これも情けないが、いまや大学での人材養成目標は、「高度人材」でなく「基礎人材」なのである。
社会人基礎力の導入は、ある側面で大学と学生を活性化することになりそうだ。
(2009.3.9)
来春卒業予定者に対する採用活動は、いまがピークである。昨年秋以降、産業界では輸出関連メーカーを中心に雇用調整が行われ、非正規労働者の雇い止め、正社員の解雇、新卒採用の凍結が相次いでいる。
こうしたなかで、新卒採用は一体どうなるのかと心配されたが、予想外に活発な模様だ。特に大手企業では、採用活動が4月1日から一斉にスタート、昨年同様に選考試験、人事面接を連日実施。内定出しのテンポはハイペースで進行しており、4月末には採用の第一の波を超えたのである。
ところで、大手企業がヤマを超えたといっても、これは大手企業のなかでも金融機関のことである。特に就職人気の高いメガバンク、大手証券、保険の各社は、昨年以上に早くから、リクルーターによって囲い込んだ学生を4月1日より順次呼び込み、4月2週目までに内定をほぼ出し終えた。これに追随したのは、総合商社。4月1日から選考試験を実施、その後人事面接に入った。金融機関に1週間遅れることになったが、4月第3週には、内定が続出した。
意外な動きを見せたのは大手メーカーである。巨額の赤字を計上し、新卒採用激減を発表しているものの、早期から積極的な動きを見せた。4月1日から面接、試験と金融機関並みのスピードで選考を進めてきた。もっとも内定出しは4月の3週目だったが、積極的で敏捷な採用活動が意外だった。
大手金融機関の内定状況で気になることがある。準総合職の内定が少ないのである。
例えば某メガバンクでは、総合職に関しては4月末で8割の内定を出し終えたようだが、準総合職については依然として選考中なのである。採用数が少なくなったのに、内定ペースが遅い。その理由は、少数ゆえの厳選採用にあるのかもしれないが、採用人数が「未定」であるために、学生を泳がせているのではないか。
これは、メーカーの技術系採用でも見られている。研究開発レベルの採用は早期に確保したが、一般技術職は、学校推薦でも未だ選考中という例が多い。つまり、今年の採用は、早期に少数精鋭いわばコア人材だけを採用して、ほかの人材については、人材の質や景気動向をにらみながら採用していこうというところに特徴があるようだ。
大手企業が少数のコア人材のみを早期内定、準総合職の採用を未定とするようになると、多くの学生にとって事態は深刻になる。不況の長期化とともに、学生の大手企業志向は強くなっている。しかし大手企業の採用数は激減。こうなると、あぶれる学生が続出することになる。従来ならば大手企業の準総合職に就職できた学生や推薦枠を持っていた大学の学生が採用されない可能性があるからだ。
特に、都市部の準大手大学と女子学生に与える打撃は大きい。大企業の採用が半減したからといって、彼らが中堅企業や急成長企業に目を転じるとは思えない。その就職行動を見ると、4月の内定がだめなら、5月、6月へと先送りにする傾向がある。方向転換ができないのである。
理工系学生も同様である。今年は、大手の電機、自動車、機械、IT情報の企業で採用激減。従来であれば大手企業に楽に就職できた学生でも、どうしても準大手や中堅メーカーに目を向けざるを得ない。それが、採用シーズンのいま、できるかどうか。これは学生だけでなく、大学や親も同様である。
では、連休明けから大手企業の採用活動は再開されるのだろうか。
金融機関の様子は、一向に動きがみられない。総合職はほぼ終了し、準総合職や一般事務職の採用の動きは鈍く、5月以降の採用イベントや企業説明会が激減、採用活動全体が鈍い。
例えば、企業の大学訪問は、昨年の秋から目に見えて減ってきている。関西の中堅大学では、今年の3月までの訪問企業数は、昨年の半数にまで落ち込んでいる。特に大学側が期待する中堅メーカーの数が少ないと嘆く。企業は、景気回復の様子を見ながら採用数を増やしていこうというのが採用の基本のようだ。だが、景気回復の見通しが出ていない現状では、採用活動は当然消極的となる。結局、第二波の採用のピークはないようだ。
その結果、大手企業の就職に失敗した学生がキャンパスに溢れ、市場にも溢れる。もしかすると、フリーター続出という状況が生まれるかもしれない。
(2009.5.8)
すでに大学は夏休みを迎え、キャリアセンターの前に学生の姿はない。しかし、現4年生の就職が終了したのかといえば、未内定学生を抱えた大学は、実は多い。
6月末の就職内定率は6割といわれているが、中堅大学や地方の私大は特に不振で、4割程度というのが実情だ。例年では、夏から秋にかけて企業の2次募集や追加採用が見られ、これらの大学でも9月末にはなんとか7割ぐらいまで内定率が伸びていたが、今年はその気配がまったくない。大学に求人依頼する企業が激減、秋の就職イベント(合同説明会など)でも、参加企業が集まらないという。このまま9月下旬になれば、大学では現3年生を対象とする就職ガイダンスが一斉スタートする。そうなると、未内定の現4年生は情報を入手できない、面倒を見てもらえないということで、窮地に追い込まれる。さらに留年しても就職は期待できないから、未内定学生は結局、不本意な企業に就職するか、フリーター、契約型の就職をするということになりかねない。そんな危機が大学や学生に迫っている。これが09採用の暗の部分である。
明の部分としては、一部の学生にとって今年は早期化が是正され、4月上旬から選考が順次スタート、じっくり選考が行われ、短期間のうちに就職活動が終わった。優秀学生にとって、今年は良い年だったのである。これは企業も同様で、従来になく良い採用ができたと大満足の企業が多かった。
リーマン破綻による大不況がもたらした09採用は、このように明暗が分かれた。それでは、具体的にどのような特徴があったのかを総括しながら、来年への動きをコメントしてみよう。
ここ数年、新卒の採用計画は、生産や販売、事業展開に準じて策定され、バブル型採用が定着していた。来年度はこれが破綻、総合職・研究開発職中心の戦略型採用が模索され始めた。
激増する応募者をどのような方法で的確に評価するか、選ばれなかった応募者にも納得できる書類選考、面接、筆記試験の開発が来年の課題だ。
リーマン破綻以降、今年は採用計画の遅れと採用人数の減少で、企業の採用活動は2月からと遅く始まったが、採否を決める4月上旬の人事面接は、大手企業が足並みをそろえ、面接から内定までが短期化した。不況化においても、優秀人材早期確保への姿勢は熱心だった。
多様な人材を採用し、採用形態や採用時期を柔軟化するという採用のフレックス化は、停滞した。春の採用シーズンだけで新卒者を十分に採用できるという環境変化があったからだ。そのため、これまで増えつつあった秋採用、学歴不問、第二新卒という採用方式が後退、その一方、外国人採用やコース別採用が確実に増加、採用形態の柔軟化が進んだ。
学生が企業を選ぶ基準は、これまでは大手有名企業に就職、自分のキャリアを形成していこうという考え方が主流だったが、今年は、大手だけでは安心できないということで安定企業にこだわるようになった。それがインフラ(運輸、電力、ガス、通信)企業人気となった。また、社会に役立っていると思われる企業も好感された。逆に販売不振でリストラに走った輸出型の自動車、電機、精密機器メーカーの人気は凋落した。これらの企業は、当分新卒を採用できないのではないかと心配されている。
昨年は採用ブームの中で内定辞退が深刻な問題になっていたが、今年はそれが激減、学生に内定を伝えると、即決で受諾の返事が返ってきたという。採用担当者にとってはこれが不気味だという。実際に冒頭の内定率調査でも、6割の学生が内定を持っているが、注意したいのはそのうち3割ぐらいの学生は、就活を辞めていないということだ。より良い企業を求めて今でも動いているのである。不本意な内定、やむを得ず内定、スペア内定が相当数あると思われる。これが、10月1日までには明らかになるはずだが、入社しても早期離職の予備軍になりかねないのが、今年の内定者である。
新卒採用は縮小されたが、コアになる人材はしっかり採用するというのが企業の基本姿勢である。このコア人材は総合職や研究開発職だが、不況のメーカーやメガバンクでも相当数の採用枠が維持されている。こうした採用は、特定大学を対象にしたリクルーター制度の活用や高度なインターンシップ、またグループワークの導入など、一般には見えにくい採用となっている。これが学生の二極化となって進行するだろう。少数採用時代においては、優秀人材の争奪戦は、ますます熾烈化・アングラ化するのではないだろうか。
(2009.7.31)
大学生が勉強しなくなっていることは世間周知の事実だが、毎年採用試験をしている人事担当者からすれば、あまりの基礎学力レベルの低さに唖然とするという。
国語、数学、理科、歴史、英語などどれをとっても出来が悪い。なかでも記述式の論作文は、論点がつかめないことやテーマに関する基礎知識が不足しているため論文にはならず、ほとんどが感想文に終わっている。語彙や漢字力の貧困さも顕著で、熟語の多くがひらがなというものも少なくない。まるで小学生の作文を読んでいるようだ。その一方で、エントリーシートは見本があるせいか、なかなか立派で、これが論作文を書いた筆者と同じとは思えないほどの出来栄えを見せる。
大学生の学力低下については、学者や評論家が盛んに論じるところだが、採用の現場では、学生が本を読まなくなったことや大学でしっかりレポートや卒業論文を書かせなくなったことを指摘する声が多い。しかし、本当にそうなのだろうか。学生はひっきりなしに携帯電話でメールを読んだり送信したりしている。日常的に文(文章ではない)に触れ、“作文”しているのである。ところが実際に書くとなると、漢字は書けない、テーマをとらえられない。なぜか? 長文の論作文を書く機会がないことと、仲間内では誤字脱字をしても恥ずかしくないし、お互いが気にしないという風潮があるからだ。それが、採用試験で露呈してしまうのである。
学力不足をもたらしてきた原因は、大学や学生ばかりでもない。企業が行う採用試験の影響もある。この30年間、企業は人物本位ということで面接中心の採用をしてきた。成績不問、筆記試験なし、一芸歓迎ということを売りにする企業が多かった。求める人材像は、まじめ人間よりも面白い人間。将来の大物に期待していたからだ。いくら勉強しても就職試験で評価されないとあっては、学生が勉強しなくなるのは当然である。それに大学の授業も、試験の成績より出席日数やレポート(コピー&ペーストでも十分なもの)提出数で評価されるのだから、なおさらである。
ところがここ数年、企業の採用試験が変わってきた。学力低下を憂えたわけではないだろうが、問題解決型の選考の登場である。これは、不況期にふさわしいものといえる。与えられた課題についてお互いが議論しながら考え方のプロセスを競うというもので、正解はない。発想法や論理力が問われるのだ。
もう一つは、基礎学力重視の筆記試験の増加である。これは、厳選採用時代に入った今年の採用選考で、特に顕著であった。この筆記試験は総合型といわれるもので、国語、数学などの能力検査と性格検査の組み合わせである。多すぎる応募者の学校名を問うことなく、能力中心に振り分けることと、検査結果を面接の材料にするためだ。しかし、もう一つねらいがあった。学力不足の学生の急増に対して、基礎力を確認しておきたかったからだ。企業は、優秀な学生を見出すためではなく、基礎力という「糊代のある」学生を数多く、面接に呼び込むためだった。
このように来年の採用では、面接中心だけでなく、基礎学力や論作文を重視しようという動きが見える。筆者の提案では、さらに時事問題について、筆記試験や面接で聞いてほしい。政治的に微妙な問題については配慮が必要で、むしろこれは質問する社員のほうにも立派な常識がないとできないが、論点は何なのか、などについて深く聞いてほしい。
企業がこうした基礎力や時事問題を重視しているということを知れば、学生は大学に戻ってくるし、新聞も読む。当然常識も身につくことになる。面白い学生、何かを成し遂げた学生でも、この基礎力がなければ就職では通用しないということにするのだ。もはや「メキシコで2週間ボランティア活動をした」とか「じゃんけんをしながら日本を一周した」などという学生には、うんざりだ。ただし、心配なのは、就職に筆記試験があると聞くと応募しなくなる大学生が多いことだ。そうした大学生は、採用することをあきらめるしかない。
(2009.9.30)
リーマン・ショックから1年。日本経済はいまだに景気低迷から脱出できないのが現状だが、今年の採用活動(2011年卒)は、昨年の夏休みのインターンシップから始まり、秋からの合同説明会や学内セミナーなど、企業による母集団づくりが進められてきた。もちろん産業界全体を見ると採用計画は抑制気味だが、大手企業は、厳選採用という方針で従来とは違った早い動きを見せた。こうした前半戦の採用活動の傾向を振り返りながら、今年の採用活動を展望してみよう。
来年の採用方針は、どの企業でも「厳選採用」という。不況であっても採用ゼロという企業は少ないが、次世代への人材を確保するということで、総合職を核とする「厳選採用」が基本方針である。特に金融や総合商社、通信などは、大幅削減された採用予算のほとんどを総合職の採用活動に投入している。この採用活動は、自社に関心のある優秀学生を早期に発掘し、囲い込むためのものだ。早期からインターンシップ、少人数のセミナー、社員・内定者との懇親会、就職相談会を採用活動として展開している。もうひとつの採用活動は、採用実績のある大学などにターゲットを絞り込んで、個人別に接触を重ねるというピンポイント型の採用活動である。これが、採用予算減、採用体制弱体化のなかで、企業が見出した採用手法であった。
「厳選採用」という採用戦略への転換は、これまでの不特定多数を対象とする合同説明会や企業セミナーの開催回数を激減させた。特に就職人気のある金融機関のセミナーやインターンシップの減少は、顕著だった。ある金融機関は、オープン型の会社説明会を縮小、大学主催の学内セミナーだけに参加するという方針をとった。また、地方大学などの人材を広範に集めようとして実施してきた大手メーカーの全国巡回型セミナーも中止となった。このほか、採用予算減ということで就職情報会社が主催する就職イベントへの参画や企業情報サイトへの掲載激減が相次いだ。このように、学生にとっては企業情報を収集するチャンスが大きく減った年でもあった。
採用広報の手法にも新しい傾向が見えた。内定者を企業セミナーに動員して、就職動機や就活の実際を内定者に語ってもらうという企画である。内定者である学生が、就職体験を語る。目の前にいる学生が内定したということだから、リアリティがある。ある金融機関は、11月上旬に内定者主催セミナーを開催した。学生80人に対して内定者20人という密度の濃さだった。さらに別の金融機関は、特定有名大学だけを対象に大学の近辺で「内定者との交流会」を開催した。参加者は、学生200人に対して内定者50人だった。このように内定者を動員して、自社と就活を語らせる採用PR活動が急増したのである。
採用活動の前半において、志望動機や第一志望かどうかを執拗に確認する傾向も強くなった。就活のなかで学生が第一志望を変更することはよくあることであるが、企業はこれを歓迎していない。選考途中での辞退や内定辞退を恐れてのことだが、企業への本気度、第一志望を早期から確認する手法が重視された。これは、具体的にはセミナー参加の義務付けの増加に見られた。つまり早期に開催されるセミナーや1dayインターンシップの参加者に限って、秋からのセカンドステージである説明会や面接に参加する権利を与えるというものである。さらに能力検査や筆記試験を受検しないとエントリーできない企業も増えた。こうした手法をとる企業は、案外人気企業であり、大企業である。多数の応募者を念入りに選考するという意味と、長期間繋ぎとめておこうという目的があるようだ。
今年は、大手企業による総合職にターゲットを絞った採用活動が早期化している。そのため昨年末には、特定大学限定の企業セミナーが目についた。その内容は、少数の学生を対象としたハードなインターンシップ(長期間・就業体験型)やGW(グループワーク)、GD(グループデイカッション)だった。
そして年明けからは個人面接が重ねられ、相当数に絞り込まれることとなった。その一方、準総合職や一般職の採用活動は、どうだったかといえば、毎年大量採用する大手企業では、大規模な合同セミナー、オープン型のセミナー、1dayインターンシップの開催が少なかった。今後も、学内セミナー中心の採用活動が隆盛の模様であり、4月か5月になってからようやく合同説明会による採用活動という流れになるだろう。
これらに共通しているのは、ネットよりリアルな面談型の採用活動への転換、4月以降の採用活動の重要性である。しかし、この採用スケジュールでいくと、大手企業は早期に優秀人材を確保し内定率を高めるのに対して、準大手企業や中堅・地方企業は、人材確保に苦戦し、選考が長引き、内定時期が遅れることになりかねないだろう。
総括すると、今年の採用活動の特徴は、一部企業に優秀人材が集中、4月に内定ピークを迎える。その一方、準大手企業は景気不透明の最中だけに採用姿勢では慎重になり、選考が長期化、そのため採用活動は今年並みになかなか終わらないということになりそうだ。採用スケジュールの二極化である。これは、企業も大変だが、就活学生にとっては、深刻なものになるに違いない。
(2009.11.22)
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早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。