採用現場ニュース2007(2007年の記事)

【2007年1月】 熱心になってきた新卒女性採用

毎年の新卒採用活動では、女子学生が優秀で男子学生は頼りない、という評価がすっかり定着したが、最近は、優秀な女性をもっと積極的に採用しようという企業が増加している。これは、銀行、証券、保険、サービスといった業界だけでなく、メーカーや中堅企業でも顕著な傾向として表面化してきた。

そのため、昨年の秋から現在にいたるまで女子学生を対象とした大学での学内セミナー、就職情報会社主催の合同セミナーが急増している。そこでは、従来から女子学生の採用枠であった一般職や契約型採用だけでなく、総合職や特定職など多様化した職種・コースでの採用を拡大する傾向が高まっている。

もっとも男女雇用機会均等法への配慮から、男女別のセミナーや選考会を公然と行う企業は少ないが、それでも女子学生向けを意識した採用PRやセミナーが目に付くようになった。

1. 女子学生をターゲットとしたPR内容

例えば有力地銀の横浜銀行は、「女性行員バリューアッププログラム」ということで、ホームページだけでなく、女子学生向けのパンフレットを作成して配布している。また大和證券、日興コーディアル証券、第一生命なども、女子学生用の入社案内を作成して、セミナー会場で大量に配布している。女子学生の採用に本気で経費をかけるようになったのである。

こうした女子学生向けのパンフの内容は、一般的な入社案内とは異なる。積極的に女性採用に取り組んでいるPRとして、次のような制度や支援策を強調しているのが特色だ。

  1. 管理職に女性を多く登用している
  2. コース転換制度(特定職から総合職へなど)がある
  3. 産休・育児休業制度が充実している
  4. ワークライフバランスを支援している
  5. 再雇用制度がきめ細かく準備されている

これが、女子学生の関心事とフィットしているのか。それを調べたのが、昨年末に就職情報研究所が実施した調査だ。274人の女子学生を対象に「就職先を絞り込む際、重視する項目は何か」というアンケートを行った。その結果下記のとおりとなった。

  1. 産休制度の充実(19.7%)
  2. 育児支援制度の充実(19.6%)
  3. 復職制度の充実(16.8%)
  4. 女性の勤続年数の長さ(13.7%)
  5. 女性管理職登用制度の充実(11.4%)

以下、女性社員比率の高さ、既婚者比率の高さ、セクハラ対策の充実、社内結婚の比率の高さ、となった。多くのセミナー内容は、ほぼ女子学生の関心と合致しているが、既婚者比率の高さ、社内結婚の比率ということまで説明している企業はあまりない。企業としては、結婚より働くこと、キャリアについてこだわってほしいということだろう。

2. 女性のライフプランに沿った説明会

各社の女子学生向けセミナーをのぞいてみると、どこの企業でも説明に立つのは、若手女子社員がほとんど。まずは女性社員の入社後のキャリア展開について、女性の視点に立った説明が多かった。配属、キャリア選択の方法、出産休暇、子育て支援、再雇用制度と、女性のライフプランに沿った仕事のスタイルの説明である。総合職については、あえて転勤や海外赴任の可能性にも言及している。その場合は実際の経験者に話をさせている。

気を遣っている点は、総合職と特定職、一般職の違いや転換制度である。興味深いのは、学生のほうからこうした職種の将来性や賃金の違い、キャリア形成の難しさについて質問がないことだ。学生は、現実を十分に承知しているからだろう。このほか、女子学生向けセミナーでは、おしゃれなホテルで開催するという演出も目に付く。

このように、女性が働くことを重視したセミナーや採用PRの展開によって、女子学生の人気企業にも変化が出てきた。かつては、華やかなイメージよりも女子採用の多い企業(旅行、航空、食品)が上位を占めていたが、最近では、働きやすさ、キャリア支援、チャレンジ重視ということで銀行、保険、証券、マスコミ、サービス業界が上位に進出してきている。頼もしい限りだ。

今年の採用戦線は、2月から本格化する。優秀な女子学生をどのように採用するか。性別、国籍にとらわれることなく優秀な人材を積極的に活用していくという人材の多様化は、これからの重要な経営課題としてとらえていくべきだろう。

(2007.01.24)

【2007年3月】 採用活動の通年化と入社時期の通年化が進む

1. 2008年採用活動は「長期化」と「通年化」

2008年採用戦線も大詰めを迎えたが、採用難を反映してか、早期化と長期化が進行している。このうち早期化とは、内定時期のことだが、先に発表された日経新聞でも、企業の1割弱が4月以前に内定を出し、残りの8割強が4月末まで、5月以降の内定出しが1割強という回答だった。

現在までの採用活動進捗状況では、さらに昨年より前倒しに進んでいる。ところが、この進捗状況で採用戦線08が終わるのかというと、そうはならない。多くの企業が、採用計画数を達成できないと予想されるからだ。こうした企業は、追加募集、夏採用、秋採用さらには、通年採用という枠組みで採用活動を継続することが必至だ。いわゆる採用活動の通年化である。

2. 通年化する採用活動にある“ねらい”

注意してほしいのは、採用活動の最盛期に勝負をしないからといって、これを導入する企業の採用力が弱いとは限らないということだ。4月に一定数を採用しながらも「より優秀な学生を他社から奪う」というねらいがあるのである。大手メーカーは、4月採用だけでなく5月、6月、7月と数回に分けて採用活動を行い、それぞれに採用内定を出す。なかには、ソニーのように倫理憲章を遵守する採用をしたいから4月に採用活動をスタートし、学生にもチャンスを多く与えたい、という正論を掲げる企業もある。しかし内実は他社から優秀人材を獲得することもねらいには入っているはずだ。

また、メガバンクのように採用人数が膨大であるがゆえにコース別採用による採用時期のばらつきが生まれ、内定時期が長期化せざるをえなくなっている企業もある。今年、通年採用を宣言した三井住友銀行がそれである。こうした企業とは別に、夏採用や秋採用といって複数回の採用をする企業も増えた。ここにも2種類がある。一つは、マスコミ、銀行、保険の大手人気企業である。これは留学帰り、公務員落ち、マスコミ落ち、大学院落ちの学生がねらいだ。もう一種類が、不人気企業や中堅企業の夏・秋採用である。ここでは、「内定先企業に迷っている学生」「不運にも内定をもらっていない学生」がねらいとなる。

3. 内定者に配慮した入社時期の通年化

こうして採用内定時期が延びると、次に出てくるのが既卒者(第二新卒)との同時並行採用だが、さらに発展した結果が入社時期の通年化と「ギャップイヤー」入社である。

例えば、大手化学メーカーは、既卒者と新卒者を同時選考しているので、入社は新卒予定者が1年後、既卒者(第二新卒)は内定次第翌月入社ということをしている。通年採用・通年入社である。それとともに入社時期についての見直しも進行している。これは、ソニー、牛角が先駆的で、「ギャップイヤー」という採用制度だ。入社時期を猶予するという採用方式だ(最長2年)。これは、学生生活の充実と職業観の確立がねらいという。就職する企業に本気になって就職してほしいから、ともいう。実は、早期離職への対策でもある。

入社時期については、最近その中間型も現れた。3月下旬に楽天が発表したような、入社時期を4月と9月に自分の意志で選択できるという制度である。同社では、卒業後に資格試験や留学への挑戦やNGO(非政府組織)での活躍、ボランテイアなどの自己啓発、キャリア形成を支援することをねらいとしている。同社の今年の採用人数は、約200人程度だが、そのうち30人程度が9月入社になるという。採用活動の長期化・入社時期の柔軟化で、応募する学生の学生時代の充実と自己理解を深めることを期待しているという。企業都合ばかりでなく、学生への配慮をした採用として注目したい。

(2007.03.23)

【2007年5月】 内定辞退の現状と当面の課題

採用ブームということで話題を集めた来春大学卒業予定者に対する企業の採用活動は、6月にほぼピークを越えた。といっても、これは大手企業のみである。中堅企業や中小企業、大量採用企業は、採用計画人数にまだまだ達していないので、ホテルやイベント会場で就職フェアを活発に開催している。採用活動真っ盛りなのである。

1. 深刻化する内定辞退率

内定辞退が相次いでいると言われるが、最近の学生は、大手企業だからといって優先的に内定先を決めるというわけでもない。自分たちに与えられる仕事や自分の将来の姿もしっかりと考えている様子なのである。こうした内定先と辞退の実態の一部を知る機会があったので紹介しよう。

某中堅私大文系学部で実施された、内定者の就職先決定状況調査というものがある。5月中旬における企業別内定先と合格者総数、決定者数、保留者数、辞退者数を詳細に調査したものだ。

この調査によると、同大学は、歴史と伝統のある大学だけに今年もメガバンク4行に50人以上の内定をもらっている。そのなかで、内定辞退せずに就職先をメガバンクに決定したという学生は68%であり、メガバンクに就職することを保留した学生は7%、内定したにもかかわらずに辞退した学生は25%だった。すでに5月中旬となっているので、保留する学生は日々少なくなっているが、メガバンクの辞退率が4人に1人ということは、相当に多いといわざるを得ないだろう。これは、有名私大・国立大学でも同様の数字である。

2. メガバンクでも内定保留 その理由とは?

某中堅私大の場合をもう少し見てみよう。内定辞退は、メガバンクだけではない。地銀の内定者でも、入社決定率は43%、保留率は39%とさらに事態は深刻だ。ただ、辞退率は案外少なく、18%と健闘している。問題は、保留者が多いことである。これは、まだ地銀の内定者確認書の締め切りが到来していないことや、採用活動が継続中であることを示している。では、信金や信組という中小金融機関となるとどうだろうか。決定率42%、保留率30%、辞退率28%というのが現状だ。

このように金融機関といっても、メガバンクの決定率が高いのは当然だが、辞退率で見ると地銀クラスがもっとも少ない。学生の就職観が必ずしも大手企業優先でなく、仕事内容や企業の社風、処遇などを考慮した結果、メガバンクに合格しても結局は地銀で頑張りたいということになるからだろう。これは、大学の歴史や地域性によってもかなり違うので、このケースは某私立大学の傾向ということになる。しかし、最近のようにメガバンクが、特定職、地域色、契約型による大量採用傾向となると、仕事の発展性やライフプランを考えて、メガバンクより堅実な地元金融機関を選択する学生も増えてきているのである。

3. 内定者フォローの裏で続く就活

内定辞退ということでは、金融だけでなく、大量採用をしている流通、住宅販売、消費者金融、不動産などの企業では、内定辞退が相次いでおり、今年は深刻だ。

例えば、大手流通ではスーパーAの内定者中の決定者の率は30%弱、スーパーBで5%、不動産販売Aで28%、大手不動産販売Bで14%、大手消費者金融5%。大手住宅販売57%と、大苦戦のところが多い。

これら決定者が30%以下の企業には、内定保留者もかなりいる。彼らは、内定者フォローを受けながらも就活を継続中であり、依然として就職先未定ということで学校に内定届けを出していない。このため多くの大学では、届出ベースでの内定率は30%以下であり、推定内定率を60~70%としているのである。これら届けを出さない学生の理由は、公務員受験をするとかサボっているということではなく、もっと良い企業、有名企業、楽しそうな企業を狙って保留しているはずだ。大学によっては、先決優先で内定辞退を認めない大学もあるから、さらに学生は届けを出さない。

4. 内定保留から決定へ導くヒント

一方、内定者がそのままスンナリと決定、内定辞退者ゼロという、採用力の強い企業もある。某私大の調査によると、そのうらやましい会社は、堅実優良なメーカーや運輸大手、上位地銀、専門商社などである。いずれも10数名から50名という採用数だが、仕事内容が明確、社風に特色がある、採用活動が丁寧、内定者相互が一体化しているといった企業ばかりだ。

こうした企業は内定者フォローにも熱心で、魅力的な若手社員が内定者とチームを組み、内定者ワークショップを行ったり、人事から個別のキャリアプランを内定者に示したりと、きめが細かい。特に内定者相互の組織化や短期インターンシップに熱心に取り組んでいる。

いまの学生は、内定をもらってから就職先についての企業研究を本格化する。採用担当者にとっては、このプロセスのなかで、企業の魅力、仕事の楽しさ・厳しさ、賃金や労働時間の実際を示すという内定者フォローを継続的に掘り下げることで、内定者に迷いを与えずに内定保留を本決めにさせることが当面の課題だろう。

(2007.05.30)

【2007年8月】 しっかりと学生を集め、応募させることが課題に

就職情報会社の採用戦線2008の総括が出揃った。今年は、各社の総括に共通する指摘があった。学生の情報収集は活発だったが、実際にエントリーシートの提出や面接に応募する学生数が減ったということである。

就職環境が厳しい時代には、情報収集のために企業の採用サイトにエントリー登録をする学生が当然のことながら多かった。そして、エントリーシートを提出した学生が、面接に欠席するようなことはなかった。しかし今年は、情報収集については熱心だが、面接には足を運ばない学生が増えた。しかもこの現象が、大手企業と準大手企業や中堅企業の間で格差となって顕著になっていた。

1. 業界を問わず、“まずはトップ企業へ” の実態

ある調査では、業界トップ企業の応募者数、面接者数は例年以上だったと回答していた。しかし準大手各社では、応募者数、面接者数が大幅減少したという。

その原因は、最近の学生が志望先企業を選ぶとき、業界内で順次絞り込むのでなく、トップ企業あるいは人気企業なら業界を問わずに応募する、という行動に出ているからだという。学生は、どうせ応募するなら業界のトップ企業、憧れ企業を優先し、そのあとには自分の実力にあった(と思っている)企業に、時期ごとに応募するのである。だから、大手企業そして準大手に併願するという発想がないのである。業界での採用力の格差は、こうして拡大したのである。

2. 分かれる「大学の就職力」と「学生の就活意欲」

こうした学生の動きは、大学の就職力やレベル(入学難易度)を反映する。大学の就職力は、就職指導力や先輩、地域を背景にするもので、そこで就職に挑戦的な大学、行動的な大学が生まれる。そして、入学難易度の高い大学の学生は、自信があるためか、周囲に刺激されてか、早期から大手企業に果敢にアプローチする。その動きは、むしろ不況期より熱心だった。「秋のガイダンスが始まってから学生の動きが熱心になり、真剣でした。誰も楽勝とは思っていませんでした」(大手有名私大就職部長)。

この当時、入学難易度の低い大学は、学校がセミナーを開いていたものの学生のアクションは鈍く、ノンビリしたものだった。事実、こうした大学の学生は、資料収集にも行動力においても遅く、今年の2月くらいからエンジンがかかり、6月が内定のピークになるというテンポだった。最初から大手企業や人気企業を敬遠していたのである。しかし、だからといって彼らが就活に失敗したわけではない。無理をして大手企業に出向かなかっただけである。身丈に合った企業を選んで、それぞれ内定を取ったからである。

3. 母集団形成に注目されるインターンシップ

そこで、こうした学生の就活傾向を考慮した場合、来年度はどんな採用活動を展開したらよいのか。

まず、採用環境の読みだが、いまの求人ブームは当分続きそうだ。そして大手人気企業への集中がさらに進み、準大手企業では、関心のある学生数が減少し、応募者の減少は避けられないことになる。そこで、採用担当者の課題は、少しでも自社あるいは業界に関心のある学生の個人情報(基礎票)を早期に入手することである。そのためには、ネットだけの接触でなく、フェイストゥーフェイスの関係を築いておくことが大事になる。

その採用ツールとして、来年度は学内セミナーへの参加とインターンシップが注目されている。学内セミナーは、大学対策として取り組むものだが、実績や大学側の意向もあるので思うようにならない。そこで、当年はインターンシップに取り組みたい。

このインターンシップとは、2週間から4週間という本格的な就業体験でなく、1日から3日間程度の会社体験のインターンシップである。会社を実際に知ってもらい、社員と語る、社風の一端を感じ取ってもらうという体験がポイントになる。現在実施中のインターンシップや、秋に予定されているものは、そうしたねらいのものが数多く見られる。

4. インターンシップは選考の導入口

さらに注目したいのは、こうした短期のインターンシップを9月、11月、2月といったように、繰り返し実施しようとしていることだ。これらの実態は、会社説明会の前倒しであり、選考会といってもよい。

インターンシップの募集において、早くも学生はエントリー登録と同じ個人情報を要求され、エントリーシートも書かされる。すでに選考への導入口として機能しているのである。これが、企業にとっての基礎票となり、そのまま採用の母集団となるである。インターンシップとしては問題があるが、大手に伍して採用に取り組む準大手企業にとって、この短期インターンシップ型採用は、早期から学生を集め、志望動機を育てながら、しっかりと応募させる新しい採用手法して注目されよう。

(2007.08.07)

【2007年9月】 10月からの内定者フォロー —自律型コミュニティを支援するSNSの活用と効果

内定者フォローでSNS(Social Networking Service)が注目されている。

ここ数年の内定者フォローは、実務教育を内容とする入社前教育が後退し、企業と内定者のコミュニケーションに力を入れる傾向にある。特に内定が早期化した昨年からは、その傾向が顕著になっている。5月連休後の2か月間は内定者の入社意思確認に精力が注がれ、誓約書を提出する9月末で一段落。しかし、これで内定者対策が終わったわけではない。内定者フォローは、10月からが本番である。来年の4月1日には内定者が意欲を持って新人として入社するために、残り5か月間、採用担当者は何をするべきだろうか。

1. 内定時のモチベーションをいかに持続させるか

実務知識の習得、内定者の緊密な懇親会、企業見学、若手社員によるメンター ——いずれもNoだろう。あと半年間の内定者フォローの目的は、内定辞退防止や能力アップだけではない。第一の目的は、就職活動をして面接を乗り切り内定したときの、学生らしい輝きを持続させることだ。就職に対して内定者が語った職業観、面接者にアピールした志望動機、若者らしい言動力の持続である。つまり、内定時点に持っていた本来の能力、意欲、モチベーションの持続である。

そのため10月以降は、持続的な内定者コミュニティの設置、運営が大事になる。それも企業側からの一方的な伝達でなく、内定者が自律的に企業の人間とともに企画、運営する内定者コミュニティづくりの支援である。この取り組みは、今年の秋からの内定者フォローとして、いくつかの企業で見られる。すなわちインターネット上にメンバー限定の内定者コミュニティをつくり、企業と内定者だけでなく、内定者相互による情報交換、励まし、キャリアサポートを長期間にわたって自律運営するプログラムである。

2. 自律型のコミュニティ形成を支援

このプログラムは、企業の目的や管理能力、内定者数によって様々なツールを利用することで、多彩に展開されている。情報発信と簡単な双方向性を目的とすれば、従来どおりの「掲示板」でよいし、企業からの一方的な伝達や情報提供ならメールで十分だ。情報発信に加え内定者相互のコミュニケーションをより高めたければ、ブログなら費用もかからず運営も楽である。もちろん、内定者フォローの目的が入社意識の高揚だけならこれらでもよいだろう。しかし、内定者がお互いにやる気を高め、自律的なコミュニティを形成することを期待するなら、SNS型のコミュニケーションツールを導入することがベターだろう。

3. 親密感と機能性に優れるSNSの効果

すでにSNS型を導入している大手生命保険会社は、導入の理由を「内定者同士の同期の繋がりを早期から強化し、結束力向上をはかる」としている。また中堅コンサルティング会社では「会社が情報を発信するだけでなく、学生相互が盛り上がって、横のつながりを広げて成長してほしい」という。一方、このSNSに参加した学生の声は、「内定者がお互いに顔写真を見ながら本音のコミュニケーションをするので、数ヶ月も接触すれば、『内定同期生』という気分になれる」「ミクシィと違って若手社員も参加しているので、直接アドバイスを受けることができた」「入社することが前提ですから、仕事や自己啓発について具体的なアドバイスを受けることができる」と歓迎する。

システム的には、課題レポートの管理機能やSNS内交友関係の把握といった機能も卓越している。とにかく企業や内定者の間では、親密感と機能性に優れていると、SNS型内定者コミュニティを評価する声が多い。活用しない手はなかろう。

しかし、ネットによるコミュニケーションに過度に頼ることは危険だ。採用活動や内定者フォローにおいては、時には内定者に電話をかけたり、顔をあわせて会話をしたり歓談したりすることを忘れてはならない。

あと5ヶ月間、上手にSNSを使いながらもリアルコミュニケーションを展開できるかどうかが内定者フォローのポイントになる。そして、就職活動中に輝きを持っていた内定者が、より元気に4月1日を迎え、社員として胸を張って入社式に臨んでくれることを期待したい。

(2007.09.28)

【2007年12月】 若手社員は、採用活動の主役

採用活動も大学内の業界セミナーや就職情報会社による合同説明会を終え、いよいよミニセミナーや質問会といった、直接学生と接触する段階となった。この時期の主役は、若手社員である。

企業にとっては、入社5年前後の元気の良い社員を、どれだけ採用の前線に配置できるかが鍵になる。社員の登場のさせ方は、仕事内容の魅力や会社生活、社風などをそれぞれに熱っぽく語ってもらうというのが一般的だが、なかには若手社員でなく内定者に自分たちの就活を語らせ、いかにしてこの会社に就職したかを具体的にレポートするというのも今年の流行だ。

では、企業はどのように若手社員とのミニセミナー、先輩社員懇談会を運営しているのだろうか。いくつかの例を挙げてみよう。

1. 小規模セミナーできめ細かく対応

ミニセミナーは、その名称のとおり少数のセミナー、小規模の説明会である。従来からのセミナー運営では、若手社員がそれぞれ壇上に上がり、仕事内容やプロジェクトの体験、会社生活のエピソードなどを講演、その後に「質問があればどうぞ」という流れであった。しかしこれでは、学生が本当に知りたいことを解決することにはならない。知りたいこと、確認したいことは個々人で違うからだ。その点ミニセミナーでは、応募してきた学生を10人単位ぐらいにグループ化し、若手社員が全員の学生と個別に話をする。大勢の前で社員が話すのとは違い、学生の反応を見ながら情報を提供できるので、波長が合えば学生の共感も得やすい。

また、損保大手が実施しているのは、業界や企業理解というストレートな話題でなく、学生が悩んでいる自己理解や企業選択の基準などを、若手社員が学生と一緒の目線で考えて解決策を模索するというセミナーだ。こちらも学生には評判が良い。

このほか、学生の疑問、質問にすべて語ろうという趣旨でいえば、若手社員を会場に並べて学生からのあらゆる疑問、質問に答えようという「逆質問会方式」のミニセミナーも増えてきている。いずれも学生たちは、「とても緊張はしていましたが、全体的に和やかな雰囲気だったので色々気軽に聞くことができました」と好評だ。

2. 仕事を語れる若手の存在もまた採用力

このようにミニセミナーや質問会は、早期における母集団形成、面接候補者の選考に対して有効に機能している。しかも特徴的なことは、人気があって多くの学生を集める企業ほど、きめ細かい採用活動をするという事実だ。逆に不人気企業や中堅企業では、従来型のエントリーシート提出、会社説明会、面接選考という段階を踏むのが一般的だ。

人材採用に手間をかけ、多くの若手社員を投入できるかどうか。そこには、企業規模にかかわらず、全社的に採用に取り組むことができるかどうか、という姿勢があらわれていよう。中堅企業でも、このミニセミナー方式は十分に取り組み可能だ。重要なのは、若手社員が人材の重要性を認識して、自分から動くことである。特に、彼らが会社の将来を次世代の社員とやっていきたいと燃えているかどうかである。

企業規模やブランド力だけでなく、溌剌として会社や仕事の魅力を語れる若手社員の存在もまた採用力である。採用活動は、トップから若手社員に至るまでの人材重視の実践活動であり、会社の発展を願う社員による経営刷新活動といえよう。

(2007.12.04)

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。